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第二章 本研究の中心命題等

2.4 中心命題

本研究では、まず、HLW問題をめぐるNIMBYを克服するためには、「将来世代に負担 を先送りしない」という意識を持つ市民が、自らの役割を理解し、主体的に参加する社会 的合意形成が必要であるとの問題意識を踏まえ、手続き的公正を確保する社会的合意形成 プロセスの枠組みとステークホルダー・インボルブメントを促す仕組みを整備するために 必要なアプローチを提示する。また、HLW 問題をめぐっては、様々なリスクや環境負荷 などの不利益が存在し、社会的合意形成プロセスにおいて議論する際には、受益圏と受苦 圏との間の地域間公平や現世代と将来世代との間の世代間公平に配慮することが重要で あるとの問題意識を踏まえ、地域間公平と世代間公平のそれぞれの論点において、分配的 公正を確保しながら価値判断を行うために考慮すべき要素と価値判断に関するアプロー チを提示する。さらに、HLW をめぐる社会的ジレンマを克服し、市民による主体的な参 加、利他主義に基づく協調行動、経済的合理性に基づく価値判断、あるいは、経済的合理 性とは異なる次元の意思決定と社会的合意形成を実現するため、市民に対する強制や金銭 的誘導ではない形での動機づけについてのアプローチを提示する。

図2.4 中心命題の概念図

出典:筆者作成

なお、本研究では、図2.4で示すように、手続き的公正、分配的公正及び利他主義に基 づく協調行動は別々に扱われるものではなく、むしろ、相互に関連し、あるいは、相互に 影響を与え合い、全体として機能することにより、最終的に社会的合意形成プロセスを円 滑に進めるためのベースとなるものと位置付ける。

本節では、本研究を進めるうえでの基礎として、手続き的公正、分配的公正及び利他主 義に基づく協調行動について、その基本的な考え方を概説する。

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2.4.1 手続き的公正

HLW 問題の解決に向けて大きな障害となるのが、先に述べたように、人びとの持つ

NIMBYの意識である。現代社会においては、様々な社会的課題が存在し、また多様な利

害や価値観を有するステークホルダーが存在する。そして、HLW 処分事業のみならず、

様々な公共事業をめぐって NIMBY 問題が発生している。HLW 最終処分施設のような

NIMBY問題を内包する施設の立地選定プロセスにおける課題の解決に向けては、一定の

時間軸の中で、すべてのステークホルダーが参加し、様々な情報を熟慮し、価値判断と意 思決定を行う社会的合意形成プロセスとステークホルダー・インボルブメントを促す仕組 みが必要である。

馬場(2002)によれば、NIMBY問題を内包する施設の立地選定プロセスを円滑に進め るための対処として、社会心理学などの立場からの先行研究では、「手続きと結果の組み合 わせ」と「異なる資源の組み合わせ」が重要であると指摘されている。前者は手続き的公 正と言われ、後者は分配的公正と言われる。尾花・広瀬・藤井(2013)によれば、手続き 的公正さとは、公共事業などの「対象となる物事が決定に至るまでの手続きがどのくらい 公正に行われたかの個人の主観的評価」(尾花ほか, 2013, p.267)である。一方、西尾・大 澤(2016)によれば、分配的公正さとは、「事業により享受される便益や、受け入れざるを えない負担、リスクの配分に関する公正さ」(西尾・大澤, 2016, p.11)である。換言すれ ば、NIMBY 問題を内包する施設の立地選定などの公共事業に対する市民の賛成度、ある いは、社会的受容は、①公共事業を進めるうえでの手続きに関わる公正さ、すなわち手続 き的公正と、②公共事業によって与えられる便益や負担やリスク等の分配に関わる公正さ、

すなわち分配的公正によって、それぞれ規定される。手続き的公正さが確保された社会的 合意形成プロセスにおいて、熟議、熟慮を通じて、個人の価値判断や意思決定が影響し合 い、融合し合って、社会全体としての価値判断や意思決定が行われることが期待される。

また、社会全体としての価値判断や意思決定を行う際には、分配的公正を如何に確保する かという視点が基準の一つとなる。

HLW問題においても、NIMBYを克服し、HLW問題を解決するためには、「将来世代 に負担を先送りしない」という意識を持つ市民が、自らの役割を理解し、主体的に参加す る社会的合意形成プロセスを進めることが重要であり、そのためには手続き的公正を確保 した社会的合意形成プロセスの枠組みを整備することが必要である。また、HLW 処分事 業においては、様々な環境負荷や事業リスクなどの不利益が存在し、このような不利益や 負担の分配をめぐって、受益圏と受苦圏との間の地域間公平の問題や、現世代と将来世代 との間の世代間公平の問題に配慮することが重要であり、これらの公平性を確保しながら 価値判断を行うという分配的公正さの視点も必要である。

このうち、手続き的公正の条件、あるいは、手続き的公正の判断基準は、第三章で詳述 するが、実証的研究から様々な理論的仮説が示されている。具体的には、馬場(2002)に よれば、価値判断や意思決定に必要な情報が十分に与えられ、それを取捨択一することが 認められていること(「情報アクセス性」)や、議論に参加し、発言、討議する機会が与え られていること(「発言・討議性」)、意思決定を変更、修正する機会が与えられていること

(「修正可能性」)、意思決定者が発言を考慮し、誠実に行動すること(「考慮・誠実性」)、

議論に参加するステークホルダーのバランスが取れていること(「代表性」)である。

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HLW問題をめぐる社会的合意形成プロセスを考えた場合、手続き的公正の条件のうち、

たとえば、情報アクセス性については、政府やNUMOが行うリスク・コミュニケーショ ンの在り方とも関連する。市民がHLW問題をめぐるリスクやベネフィットを正しく理解 し、解決策をめぐる価値判断を適切に行うためには、政府やNUMOによる一方的な情報 提供ではなく、市民との間で双方向に情報を共有し、不安を解消し、相互理解を深め、相 互信頼を築く過程としてのリスク・コミュニケーションが重要になってくる。また、単に 情報提供の機会の増加、提供される情報の量や内容の充実だけではなく、市民の関心の程 度や興味の方向性を把握したうえで、これに即した情報提供が行われることも重要である。

手続き的公正の条件のうち発言・討論性については、参加の機会を確保するだけではな く、市民の意見や要求が適切に反映される仕組みが重要である。そのためには最終処分法 に定められた処分地選定プロセスについて、そこでの意思決定の過程、内容、それぞれの 意思決定の位置付け及び相互関係を明確化することが有効である。社会的合意形成プロセ スの目的は、最初から合意形成や意思決定を目指す必要はなく、多様なステークホルダー の参加を得て、課題について議論することでも構わない。重要なことは、社会的合意形成 プロセスの目的や参加するステークホルダーの役割を明確に示し、手続き的公正さを確保 し、プロセスそのものや意思決定者に対する信頼性が向上し、プロセスから導出される結 果としての意思決定がステークホルダーによって支持され、尊重されることである。

野波・土屋・桜井(2014)によれば、公共政策に関する先行研究では、市民の社会的受 容が高まる要因として、意思決定プロセスの法規性と意思決定者に対する信頼性を挙げて いるとされている。多様なアクターが関与する公共政策を、アクター間の共同的な合議に 基づいて円滑に決定、運用するためには、政策の決定権を持つのは誰かといった権利の所 在と根拠に関して、アクター間で合意形成を進めることが重要である。これを踏まえれば、

HLW 問題をめぐる政策の決定権は政府ではなく市民が持つという考え方に立ち、これを 法制化する必要がある。市民の意見や要求が政策に反映される過程が法的にも制度的にも 担保されることは、その過程に関する法規性と信頼性を高め、市民の参加の意識も促され る効果があると考える。また、市民が自ら意思決定を行うことは、意思決定への信頼性や 意思決定の受容を高める可能性もある。

道路建設やダム建設などの公共事業、地方の社会資本整備、地域のまちづくりなどにお ける社会的受容を扱った先行研究では、手続き的公正を論じたものが多数存在する。しか し、HLW 問題をめぐる社会的合意形成プロセスにおける手続き的公正を論じたものや、

手続き的公正を確保するためのアプローチを論じたものは少ない。そこで本研究では、手 続き的公正に関する先行研究の論点を踏まえながら、HLW 問題をめぐる社会的合意形成 に関する取組を進めているスウェーデン、フィンランド、フランス、ドイツ、スイス及び イギリスの事例を参照し、HLW問題をめぐるNIMBYを克服するために必要と考える手 続き的公正を確保する社会的合意形成プロセスの枠組みと手続き的公正を確保するため に必要な基本的アプローチとして、Education、Engagement及びEmpowermentの三つ の「E」を考慮するアプローチを提示し、そのうえで、この三つの「E」を考慮するアプロ ーチが有機的に機能することがHLW問題をめぐる社会的合意形成に対して不可欠である ことを示し、我が国におけるHLW処分に関する取組への示唆を導出する。

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