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社会的合意形成プロセスを進めるための三つの「E」のアプローチ

第三章 手続き的公正

3.3 社会的合意形成プロセスを進めるための三つの「E」のアプローチ

前節で述べたとおり、海外におけるHLW問題をめぐる社会的合意形成プロセスは、過 去の様々な反対運動や失敗を踏まえ、政府関係者と専門家や技術者のみで、純粋に科学的 観点から意思決定を行い、これを市民や住民等のステークホルダーに伝えるという手法か ら、予め意思決定プロセスを明確にし、HLW 処分事業に関するあらゆる情報をステーク ホルダーに提供し、彼らと意見を交わし、相互理解を深め、さらに、ステークホルダーに 事業に関する意思決定に参加してもらい、一緒になって事業を進めていく手法に大きく転 換している。そして、HLW 処分事業に関わるステークホルダーに対し、意思決定により 主体的に参加する機会を与えるよう制度的枠組みを整備するとともに、技術的、あるいは、

資金的な支援を与えている国もある。

換言すれば、海外のHLW問題をめぐる社会的合意形成においては、「中央政府の決定を 処分サイト近隣の住民に説明して受け入れてもらうというトップダウン的アプローチよ りも、放射性廃棄物の処分問題をどのように解決するのか、あるいは、どのようにすれば 解決したといえるのか、に関しての国民的な議論により、ボトムアップ的に枠組みを決め ていくアプローチ」106が採用されている。すなわち、「上意下達」のアプローチではなく、

「下意上達」のアプローチである。国民的な議論をどのような設定で行うのかについては、

各国の状況に応じて様々な形があり得るが、多くの場合、HLW 問題をめぐる社会的合意 形成プロセスに関する手続きが、法的に、あるいは、制度的に定められ、このことが広く 国民に対して周知され、公正に運用されている。

106 長崎・中山(2011)前掲書, p.167。

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海外においては、HLW問題をめぐる社会的合意形成プロセスの中での各々のアクター、

すなわち、HLW処分事業を進める政府や実施主体、規制当局、自治体、国民及びHLW処 分施設の立地候補地のコミュニティ、あるいは、立地候補地周辺の住民が、どのような役 割や責任を担うのか、どのようなタイミングで、どのような意思決定を、どのような形で 行うのかが明確化されており、これを各々のアクターが理解していることが示されている。

とりわけ、市民との関係では、HLW処分事業や HLW の処分地選定プロセスに係る情報 が適切な時期に、かつ明確で分かりやすい形で提供されることが不可欠であるが、加えて、

プロセスの中で市民が意見や要求を述べる機会がどのように与えられるか、また、自らの 意見や要求が政策策定や意思決定にどのような形で反映されるのか、ということも具体的 に示されることが重要である。

本研究では、HLW 問題をめぐる社会的合意形成プロセスを進めるためには、これまで 以上に市民の役割に着目すべきとの視点に立ち、HLW 問題をめぐる社会的合意形成に関 する取組を進めているスウェーデン、フィンランド、フランス、ドイツ、スイス及びイギ リスの事例を整理したうえで、市民の主体的参加と熟議による社会的合意形成プロセスを 進めるために必要な基本的アプローチを考察した。その結果、Education(双方向の対話 を通じて、市民との相互理解・相互信頼を深化)、Engagement(意見や要求を反映する手 続きを制度上明確化して、市民による主体的参加と熟議を通じた意思決定を促進)及び

Empowerment(市民の主体的参加と熟議が促進されるよう制度的、財政的、技術的な「力」

を付与)の3Eアプローチを提示する107

図3.3 社会的合意形成プロセスに必要な3Eアプローチの概念図

出典:筆者作成

107 出雲晃, 2020b, 「高レベル放射性廃棄物処分プロセスにおける社会的合意形成―社会的合 意形成に向けた基本的アプローチにおける手続き的公正―」, 『日本大学大学院総合社会情 報研究科紀要』, 第21号, pp.1-12。

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これまでの原子力発電やHLW処分に関する社会的受容を論ずる先行研究においても、

HLW 処分事業を進める政府や NUMO が行うリスク・コミュニケーションや処分地選定 プロセスにおけるステークホルダー・インボルブメントの在り方が論じられてきた。しか し、HLW 処分事業の影響を受ける市民の側に着目し、市民の主体的参加と熟議による社 会的合意形成プロセスを進めるためのアプローチを体系的に示したものは見当たらない。

本研究では、HLW 問題をめぐる社会的合意形成に関する海外の取組事例から、市民が主 体的に参加する形で社会的合意形成プロセスを進めるためには、各国に共通する何らかの 基本的アプローチが存在すると考え、これらを三つのカテゴリーに分類して、Education、

Engagement及びEmpowermentによる3Eアプローチとして提示したものである。

図3.3で示したとおり、3EアプローチのEducation、Engagement及びEmpowerment は、バラバラに機能するのではなく、これらの「3E」が有機的に機能することによって、

手続き的公正さを確保する社会的合意形成プロセスを形成すると考えられる。すなわち、

Engagementのアプローチを進めるためにはEducationのアプローチが不可欠であり、ま

た、EducationやEngagementのアプローチを適切に行うためには、Empowermentのア プローチが必要とされるのである。

3.3.1 Education = 双方向の対話、相互理解及び相互信頼

我が国に限らず、海外においても、HLW問題に関する市民の関心は低い。したがって、

最初に取組むべきは、市民に HLW 問題に対する関心を持ってもらい、HLW問題に関す る解決策を見つけることを社会的課題として認識してもらうことが必要である。そのうえ で、手続き的公正を確保した社会的合意形成プロセスを進めることが重要である。表3.3.1 に示すとおり、海外においては、HLW 問題をめぐる社会的合意形成プロセスを進めるに 当たり、市民に対し、単にHLW処分に関する情報提供や広報活動を行うだけでなく、ブ レーンストーミング(自由討論)の機会を設けたり、サイト地域に協議組織を設立したり しながら、市民を集め、市民と議論する取組を進めている。すなわち、市民に対し、市民 の関心や問題意識に関係なく一方的に情報を与えるのではなく、市民との双方向の対話を 通じて、市民の問題意識、疑問、意見等を聞き、これに応える形で市民の求める情報を提 供し、相互理解を深め、さらに相互信頼を高め、一緒になって解決策を探るアプローチを 採用しているのである。

本稿では、このような双方向の対話を通じた市民との相互理解・相互信頼の深化に向け たアプローチをEducationと呼ぶ。Educationと書くと、HLW処分事業を進める政府や 実施主体から市民への一方的な情報提供によって、市民を「教育」することと誤解される おそれがあるが、HLW 処分事業を進める政府や実施主体から市民への一方的な「教育」

を意味するものではない。本稿でのEducationは、市民とHLW処分事業を進める政府や 実施主体の間の双方向の対話や議論を通じて、HLW 処分事業を進める政府や実施主体も 市民の問題意識、疑問、意見等を理解するという意味で、政府や実施主体の側を「教育」

することにも寄与するものとして考える。すなわち、双方向の対話を通じて、互いに「教 育」し、あるいは、「教育」されながら、相互理解を深め、相互信頼を高めていくことが Educationである。

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表3.3.1 海外におけるEducationアプローチの例

スウェーデン 処分事業への理解を得るため、一方的な情報提供活動ではなく、住民 が情報を入手し、意見を表明できる場を様々な形で設け、双方向のコ ミュニケーションを実施。

フィンランド ①処分事業への理解を得るため、一方的な情報提供活動ではなく、住 民が情報を入手し、意見を表明できる場を様々な形で設定。

②展示会やワーキンググループ会合において、ブレーンストーミング

(自由討論)等を活用し、参加者の意見等を集める取組を実施。

フランス ①実施主体と住民との間の情報の仲介、地下研究所の建設・操業の監 視等を目的として、地域情報フォローアップ委員会(CLIS)を設置。

②処分事業の理解を得るため、地下研究所の見学会、ウェブサイト、

情報誌等による情報提供や、戸別訪問等により住民の意識を把握。

ドイツ 市民フォーラムやインターネット等を通じて、関連情報の発信や意見 の聴取を実施。

スイス 情報提供や関係する州、地域、自治体及び公衆の関与を確保するため、

サイト地域に属する自治体が地域参加のための協議組織を設置。

イギリス サイト選定プロセスの初期活動期間では、地域社会が、①地層処分に 関する技術的事項、②処分事業の実施主体との協働事項の両方に関し て、明確かつ証拠に基づいた情報を得ることにより、安心してサイト 選定プロセスに参加できるよう、地域社会に対し、地質、社会・経済 的影響、地域社会への投資等の地層処分施設に関連する情報を提供。

出典:経済産業省資源エネルギー庁(2019)をもとに作成

3.3.2 Engagement = 主体的参加、熟議及び意思決定

原子力発電から生じるHLWは、原子力発電を行ってきたすべての国が自国の責任で処 分する義務を負う。HLW 問題の解決に向けては、市民が自らの問題として考え、いたず らに「反対」だけを主張するのではなく、「将来世代に負担を先送りにしない」という自覚 を持つことが期待される。こうした市民が社会的合意形成プロセスに主体的に参加し、

HLW処分事業を進める政府や実施主体に対し、積極的に意見や要求を伝え、HLW処分事 業に関する政策策定や意思決定に貢献していくことが求められる。

表3.3.2に示すとおり、海外においては、HLWの処分地選定プロセスやEIAにおいて、

市民の意見や要求を聞き、これらをHLW処分事業やEIAに反映する手続きや枠組みが制 度上整備され、明確化されている。その結果、しかるべきタイミングで、決められた会合 で、あるいは、予め定められた手続きを通じて、熟議のうえで表出された市民の意見や要 求はHLW処分事業に関する政策策定や意思決定に取り入れられることとなる。自らの意 見や要求が政策策定や意思決定に反映されることが予め明確であれば、市民の主体的参加 によるHLW問題をめぐる社会的合意形成プロセスも促進されるという考え方である。

本稿では、意見や要求を反映する手続きを制度上明確化して、市民による主体的参加と 熟議を通じた意思決定を促進するアプローチを Engagement と呼ぶ。Engagement によ って、市民の主体的参加が確保されることにより、市民がより積極的に議論に参加し、よ

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