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第三章 手続き的公正

3.2 HLW 処分に関する各国の取組

3.2.5 スイス

スイス97においては、5基(3,333MW(e))原子力発電所が運転中98である。スイスでは 1990年の国民投票の結果、原子力発電所の新規建設が10年間凍結された。その後、2005 年に改正された原子力法によって、新規建設の凍結が解除されるとともに、原子炉の運転 期限の制限を撤廃していたが、福島原発事故後、スイスの行政府である連邦評議会は新し いエネルギー戦略を閣議決定し、現在稼働中の5基が運転を終了した以降は新規建設せず、

段階的に原子力発電から撤退する方針に転換した。2012年12月、スイスの連邦議会は原 子炉の新規建設を禁止する動議を可決している。

スイスでは、当初、原子力発電所から発生する使用済燃料についてイギリスとフランス で再処理を行ってきたが、原子力法により、2006年7月以降、再処理を目的とした使用済 燃料の輸出を禁止している。2005年に原子力法に合わせて施行された原子力令では、再利 用されない使用済燃料をHLW と規定している。スイスは、HLW を国内で処分する場合

97 脚注でとくに参考文献等を示さない限り、スイスについては、経済産業省資源エネルギー庁

(2019, pp.105-130)を参照。

98 IAEA(2019)前掲, p.9。

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には地層処分を行う方針である。また、スイスでは、放射性廃棄物の発生者が放射性廃棄 物を処分する責任を有することとなっており、この責任を果たすため、スイスの電力会社 と連邦政府は、1972年に放射性廃棄物管理協同組合(Nationale Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle、以下、NAGRA)を設立している。

スイスでは、2005年の原子力令により、放射性廃棄物の処分に関する拘束力のある目標 及び基準を「特別計画」で定めることとされている。スイスの特別計画は、エネルギーイ ンフラや交通インフラなどの地域と環境に重大な影響を及ぼす事業を確定する手続きと して都市計画法で定められているものであり、「方針部分」と「実施部分」から構成されて いる。地層処分場に関する特別計画の方針部分では、サイト選定の手順と目標スケジュー ルに加え、プロセスに関わる連邦政府や州と自治体、隣接諸国及び実施主体の役割につい ても事前に取り決めている。また、地層処分場に関する特別計画の実施部分では、方針部 分で定めたプロセスを実施し、その成果を取り込んでいくことによって完成させることと なっている。完成した特別計画全体は、選定されたサイトでの地層処分事業の許認可手続 きの第一段階となる「概要承認」の申請条件の一つとなる。

概要承認は、原子力法に基づく原子力施設の導入に際しての最初の許認可手続きであり、

スイス特有のものである。地層処分場に関する概要承認では、立地場所や処分事業の基本 事項などが定められる。なお、連邦評議会が概要承認を発給しなければ、実施主体は建設 許可申請を行うことができないこととされている。また、連邦評議会が行う概要承認が有 効になるためには、連邦議会による承認が必要とされている。さらに、連邦評議会が概要 承認を行う際には、関係する州が表明した懸念について、処分事業が極度に制限されない 範囲で考慮することとされている。

原子力法では、連邦政府が特別計画を策定することとされている。地層処分場に関する 特別計画の策定は、2006年3月から連邦エネルギー省(Bundesamt für Energie、以下、

BFE)を中心に進められ、州などからの意見聴取などを踏まえ、2008年4 月に地層処分

場に関する特別計画が策定された。この特別計画では、透明性の高いサイト選定の実現を 目標とし、三つの段階によるサイト選定手続きが定められている。2008年 10 月からは、

この特別計画に従って、NAGRAが複数の地質学的候補地域を提案し、サイト選定が開始 された。この第一段階のプロセスにおいては、候補地域について州などの協力を得ながら、

主として安全性と技術的実現可能性の観点から評価を行い、全国から絞り込みを行い、最 終的に、HLWの地層処分場の地質学的候補地域を3ヶ所、中レベル放射性廃棄物の地層 処分場の地質学的候補地域を6ヶ所、それぞれ選定した。なお、中レベル放射性廃棄物の 地層処分場として選出された6ヶ所の地質学的候補地域のうち3ヶ所はHLWについて選 出された地質学的候補地域の3ヶ所とほぼ重なっている。この第一段階のプロセスは2011 年11月に終了している。次に、2011年12月からスタートした第二段階のプロセスでは、

地元の州と地域が参加し、安全性及び技術面からの現実性、土地利用に関する適合性及び 環境との適合性、地域との調和を考慮して調査を行い、候補サイト地域を絞り込むことと なっている。2014年には、NAGRAが予備的な安全評価とサイトの比較作業を実施し、科 学的、技術的な基準に基づいて絞り込みを行ったうえで、2015 年 1 月に二つの候補サイ ト地域を提案している。NAGRAによる候補サイト地域の提案を受け、現在、連邦原子力 安全検査局が審査しているところである。今後進められる第三段階のプロセスでは、包括

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的な社会経済的調査や環境影響調査等を経て処分サイトが決定され、概要承認の手続きが 開始される見通しとなっており、サイトの特定と概要承認の手続きの完了により終了する こととなっている。

HLW 処分事業を進めていくためには住民の理解と協力を得ることが重要であり、スイ スの場合も同様である。スイスは、中低レベル放射性廃棄物の処分場の建設計画において、

住民との間で充分なコンセンサスが得られず、計画の中止を余儀なくされた経験がある。

こうした経験から、HLW 処分場に関するサイト選定手続きを定めた地層処分場に関する 特別計画の策定過程においては、草案策定及び公表の段階から、国内や隣国の当局、組織、

個人、スイス国内の各州などから出された意見を踏まえて進められた。また、この特別計 画は、サイト選定の担当官庁であるBFEに対し、コミュニケーションに係る方針の作成、

公衆への情報提供及び広報活動を行うよう求め、また、NAGRAに対し、ステークホルダ ーに対する専門的な知見の提供を求めている。

この特別計画によるサイト選定手続においては、情報提供や関係する州、地域、自治体 及び公衆の関与が重要とされており、地域参加はそのための主要な手段として位置付けら れている。特別計画ではサイト地域に属する自治体が地域参加のための組織を設置するよ う規定しており、2011年から六つのサイト地域で地域会議が活動を始めている。各地域会 議には、州やサイト地域を構成する自治体の代表者、経済団体、政党、教会等の代表者、

住民が参加しており、サイト地域にドイツの自治体が含まれる場合はドイツからも参加す ることが認められている。地域会議は土地利用や社会経済発展に関する調査を実施し、地 域の持続的発展に資する事業案を作成する役割を担っており、NAGRAの提案と別に施設 の配置と立地について独自に提案することもできる。なお、地域会議の運営管理に関する 費用や技術的な支援のための費用はNAGRAが負担することとされている。

さらに、特別計画では、州や自治体からの代表者が参加する各種委員会を設置するよう 規定している。たとえば、処分場諮問委員会は、地層処分場サイト選定手続の実施におい て環境・運輸・エネルギー・通信省を支援する機能を持つ。州に設立される委員会は、サ イト選定に関係する州や近隣州、近隣国の政府代表者間の協力を図り、選定手続の実施で 連邦政府を支援するとともに、連邦政府に勧告を提出する。また、州に設立される安全専 門家グループは、安全性に関する資料を評価する際に、州を支援したり、助言したりする。

さらに、安全技術フォーラムは、住民、自治体、団体、州、関係近隣国で影響を受ける自 治体の技術的な問い合わせに対応する。

スイスのHLW問題をめぐる社会的合意形成の特徴は、地域参加プロセスにみられる。

すなわち、地域参加を通じて、サイト選定手続きを定める特別計画の草案を策定する段階 から、国内外の市民やステークホルダーの意見を踏まえて進められている。多くのステー クホルダーが参加する地域会議では、NAGRAからの情報の提供を受けるだけでなく、地 域会議が独自の調査や検討を行い、NAGRAの提案とは別に独自の提案をすることもでき る。NAGRA とステークホルダーは、地域会議での議論や検討を通じて相互理解を深め、

事業の推進や地域の発展に向け、一緒に解決策を考える方向に進んでいる。また、地域参 加プロセスに係る費用や技術的な支援のための費用はNAGRAが提供しており、ステーク ホルダーによる主体的参加を促進するために必要な「力」が付与されている。

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