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市民による公益と不利益を踏まえた適切な価値判断の必要性

第一章 本研究の背景等

1.5 我が国における HLW 処分に関する取組が抱える課題

1.5.3 市民による公益と不利益を踏まえた適切な価値判断の必要性

福島原発事故を受けて、日本学術会議(2012)は、HLW処分に関して、超長期にわた る安全性と危険性の問題に対処するに当たり、現時点で入手可能な科学的知見には限界が あり、特定の専門的見解から演繹的に導かれた単一の方針や政策のみを提示し、これに対 する理解を求めることは、もはや国民に対する説得力を持たないと指摘している。また、

HLW処分問題は、千年、あるいは、万年の時間軸で考えなければならず、これに伴う大き な不確定性の存在を免れない問題であり、したがって、中長期にわたり段階的な意思決定 を重ねながら問題への対処を進めることが有効な対応であり、様々な選択肢に対して開か れた討論の場における十分な話し合いを通して、丁寧に合意形成を目指すことが求められ ると指摘している。さらに、これまでのような限られたステークホルダーの間だけで得ら れた合意をベースに社会的合意形成を進め、電源三法交付金の交付のような地域への経済 的な支援と組み合わせるといった手法は、かえって問題を紛糾させ、行き詰まりを生むと 指摘している。このことは、様々な方針や政策、技術的解決策の選択肢について、勝手に 決めて押し付けるのではなく、十分に熟議、熟慮し、適切な価値判断を行ったうえで合意 することが必要であることを示唆している。

また、日本原子力学会「放射性廃棄物地層処分の学際的評価」研究専門委員会(2014)

は、HLWの地層処分の概念は、技術的に様々な課題を含むものであると同時に、政治・社

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会・経済・倫理的な各側面で解決が容易でない様々な課題を内包していると指摘し、同時 に、HLW の処分方法について社会的な合意を得るには、安全確保の考え方についても社 会が納得し、合意する必要があり、このためには、技術的観点のみで議論が完結するもの ではなく、社会が「不確実な科学的知見の利用」についてどう考えるか、あるいは、「持続 可能性」や「将来世代の権利」をどう考えるか、といった、社会の価値判断と切り離せな い問題であることを考慮すべきであると指摘している。こうした「社会の価値判断と切り 離せない問題」を議論するためには、HLW 問題に関する判断を単純に行政や専門家に一 任するのではなく、むしろ、幅広いステークホルダーの参加を経た形での熟議、熟慮を通 じた意思決定、すなわち社会的合意形成を進めることが重要になってくる。

処分懇報告書が述べているとおり、一般の人びとは、HLW 処分への漠然とした懸念を 持ちながらも、この問題は自分たちが解決しておかなければならない差し迫った問題であ るという意識を持つような状況になっていないのが実態であり、これは、従来、技術的な 側面に議論が集中してきたため、専門家や技術者の間だけで専門的な議論がなされてきた ということ、また、広く各層の人びとが議論するような場や議論するための情報が提供さ れてこなかったこと、加えて、HLW処分場については操業開始までに要する期間が長く、

事業の終了までさらに長い期間がかかるため、一般の人びとには身に迫った問題として意 識されにくいことが要因であると考えられる。こうした状況を克服するためにも、HLW問 題を市民とともに議論し、市民にHLW問題を解決しなければならない社会的課題として 認識してもらい、市民とともに公益と不利益を踏まえた適切な価値判断を行い、その解決 策を探るという社会的合意形成プロセスが求められる。

社会的合意形成プロセスにおいては、HLW 問題を現世代が解決すること、たとえば、

HLW の地層処分を進めることによって社会全体にもたらされる利益、すなわち公益と、

HLW の地層処分を進めることによってHLW 最終処分施設の立地地域にもたらされる不 利益をどのように考えれば良いのか、という観点や、HLW の地層処分を進めることによ って、HLW は人間環境から隔離され安全性が確保されることとなるが、放射性物質自体 は世代を超えて長期間にわたって地中に存在することとなるため、将来世代にもたらされ るリスクや環境負荷などの不利益をどう考えれば良いか、という観点を踏まえた価値判断 が重要になってくる。さらに、HLW 問題を現世代で解決せず、将来世代に先送りした場 合には、将来世代にもたらされるリスクや環境負荷などの不利益がどうなるのか、という ことも考えて価値判断を行う必要も出てくる。すなわち、将来世代における様々な条件の 下での意思決定やそれによって発生する新たな負担について、現世代がどこまで配慮して おくべきかという世代間公平の問題や、原子力発電によって電力供給を受けている電力消 費地域の住民と処分場立地地域の住民との間の地域間公平の問題を考慮する必要があり、

しかも、こうした世代間公平、地域間公平の問題については、幅広く国民を集めて、国民 とともに熟議し、国民の間で一定の価値判断と合意形成が図られることが重要である。

処分懇報告書は、世代間公平の問題に関連して、社会経済的状況の変化に応じて柔軟に 対応できるようにしておくこと、そのため、制度の整備に当たっては、一定期間毎の見直 しを規定しておくこと、現世代がすべて決定してしまうのではなく、将来世代が、その世 代における様々な条件の下で一定の決定をする余地を残しておくこと、その際に、意思決 定の方法やコストの負担、あるいは、分配の在り方について、現世代のうちに意思決定を

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行っておく必要があること、また、万一の事故に対する損害賠償について制度を整備して おくことや現世代による賠償の原資の負担の在り方についても検討しておくことなどの 重要性を指摘している。他方、処分懇報告書は、地域間公平の問題に関連して、情報公開 や透明性を確保するとともに、処分地の選定を行っていくうえで、関係自治体や関係住民 の意見の反映に努め、立地地域の理解と信頼を得ること、立地地域との共生関係を考える に当たっては、立地地域の主体性を尊重し、地域の持っているビジョンやニーズに応じて、

地域の特性を活かした方策を地域が主体となって企画・選択する仕組みを作ること、地域 にとって一時的に利益となるようなものではなく、自立的に地域の発展に貢献することが 重要であり、固定的ではない幅広い政策手段を考えること、事業実施に当たって地域住民 の意見が反映されること、さらに、実施主体による地域住民の雇用や、処分事業と連携し た産業の育成の重要性を指摘している。

他方、世代間公平の問題については、現世代はすでにHLWを大量に発生させており、

「世代間の公平原理が成り立たない状況にある」71との指摘もある。こうした中で暫定保 管を採用し、その期間が長期化することにより、HLW を生み出した現世代の責任の所在 が曖昧になるおそれや、関心が低下したり、暫定保管を開始した当初の原則を忘却したり するおそれがあることから、こうした無責任に陥らないような手立てが求められる。した がって、「人間社会が存続しているか否かも定かでないそうした超長期にわたる課題につ いて社会的合意を形成し、かつこれを長期にわたって受け継いでいくことを将来世代に託 すためには、世代を超えて誰もが合意できる内容及び手続に基づく対処がなされるべきで ある」72と指摘されている。「世代を超えて誰もが合意できる内容」という点では、HLWに よって現世代から将来世代にもたらされる外部不経済について、これをどのようにして現 世代の責任として内部化するのかという観点も合わせて考慮することが求められる。

なお、現存するHLWをどうするのかという問題に加え、今後発生するHLWをどうす るのかという問題への明確な方針を示さないままでの「既存の原子力発電所の再稼働や新 規原子力発電所の建設は、将来世代に対する責任倫理を欠くと同時に、世代間の公平原理 を満たさない」73と指摘されている。したがって、「世代を超えて誰もが合意できる内容及 び手続」を確保するためにも、原子力発電を維持して原子力発電から得られる安定した電 力という便益を享受し続けるのか、あるいは、脱原発を選択して原子力発電を廃止するの か、使用済燃料の再処理を含む核燃料サイクルを維持するのか、あるいは、使用済燃料を 再処理せず直接処分することが適当なのか、といった課題について、市民による公益と不 利益を踏まえた適切な価値判断が不可欠である。換言すれば、市民に対し公益と不利益を 踏まえた適切な価値判断を求めるためには、HLW 問題のみを議論するのではなく、原子 力発電や核燃料サイクルの是非、さらにはエネルギー政策をめぐる大局的な方針について も合わせて議論することが求められるのである。

71 日本学術会議高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会(2015)前掲, p.10。

72 同上。

73 同上, p.11。

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