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第四章 分配的公正

4.2 HLW 問題をめぐる分配的公正

4.2.2 世代間公平と分配的公正

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と、「リスクの受忍による負の影響を相殺して地域に処分施設立地前よりも高い生活水準 がもたらされるための措置」の両方を適用する必要性を指摘している。このうち、前者は、

処分技術の信頼性の向上を図る取組に加え、地域社会が自らHLW処分施設の安全確保に ついて意見や要求を述べること、さらには処分施設の建設や運転について評価や監視を行 うこと、また、それを可能とするための財政的、技術的措置を講ずることであり、後者は、

電源三法交付金の交付だけでなく、真に地域の発展に貢献する地域共生の方策を検討する ことである。

また、電源三法交付金を交付するとしても、受苦圏の市民のみならず、周辺地域の市民 や受益圏の市民も、HLW 処分施設の立地地域に対し、金銭的便益の供与が必要であるこ とを正しく理解することが重要である。電源三法交付金が交付されても、受苦圏にもたら される構造的不公平は容易に解消されない。したがって、HLW 処分施設を受け入れるこ とによってもたらされる構造的不公平について、受益圏を含む社会全体が理解を深めると ともに、HLW 処分事業の実現が社会全体の利益であるという認識に基づき、その実現に 貢献する地域に対し、敬意や感謝の念を持つことが重要である。野波ほか(2016)は、受 益圏の域外多数者が構造的不公平についての高い関心を持ちつつ熟慮する意図を示すこ とで、受苦圏の立地地域少数者による分配的公平に対する評価を高め、怒りと不満を抑制 するとともに、迷惑施設そのものの受容を促すことを示している。したがって、HLW 処 分をめぐる地域間公平の問題を解決するためにも、受益圏と受苦圏の市民の間で連携を図 り、両者は共生しているという意識が共有されることが重要である。

福島原発事故を受け、事故前のように「電源三法交付金を活用する」といった経済的便 益のみを活用して市民の支持を得ることは困難になりつつある。しかし、高知県東洋町の 事例においては、推進派である町長が、HLWの処分事業は、「国家プロジェクト」であり、

「国のエネルギー政策に貢献できる可能性」があること、また、国から交付される電源三 法交付金を活用し、「町民の皆様の生活支援や産業基盤の整備など、町の浮揚を積極的に図 って行く絶好の機会」であると説明していることは注目に値する。いたずらにHLW処分 のマイナスの面のみを強調するのではなく、「国のエネルギー政策に貢献する」、「町や町民 の生活を良くする」というプラスの面についても、町民一人ひとりが意識し、応募の是非 に関する議論に主体的に参加し、より建設的な議論や検討が進められることは重要である。

とりわけ、地域間公平の問題を考える場合、受苦圏とされる立地地域が、HLW 処分によ ってHLWによる潜在的な事故リスクから解放されるという公益を社会全体に対してもた らす意義を理解したうえで、HLW処分施設の建設に係る利害得失を考えて、HLW処分施 設の建設を受け入れる可能性があることは重要な示唆である。

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思決定の自由を奪わないように配慮し、たとえ現世代においてHLW処分に関する意思決 定を行ったとしても、必要であれば将来世代が過大な労力をかけることなく意思決定前の 状況に後戻りする、あるいは、意思決定を修正する可能性、すなわち可逆性を確保すると ともに、HLW 処分がある程度進んだ段階でも将来世代が廃棄物の回収を実施する、ある いは、回収する意思を持つことを想定し、現世代に対して将来世代の回収の実現可能性、

すなわち回収可能性を保証する取組を進めている。

我が国においては、処分懇報告書の中で、HLW 処分によって HLW は人間環境から隔 離され安全性が確保されることとなるが、放射性物質自体は世代を超えて長期間にわたっ て地中に存在することとなるため、現世代が可能な限り対応をしておかなければならない としつつ、現世代がすべてを決定してしまうのではなく、将来世代が一定の決定をする余 地を残しておく枠組みを設けておくこと、また、意思決定の方法やコスト負担を将来世代 との間でどう分担すべきかなど、現世代のうちに意思決定を行っておく必要がある事項に ついて議論を進めておくことなどを求めている。また、処分懇報告書では、我が国におい ても可逆性や回収可能性を求めている。すなわち、最終処分法を制定する以前から、世代 間公平の観点から議論が進められている。坂本・神田(2002c)は、将来世代にもたらされ る負担を最小限に抑える義務から、現世代が地層処分の実現に向けた取組みを着実に進め ることの必要性を指摘する一方で、処分実施の在り方については、将来世代の意思決定の 自由度に関して考慮することの重要性が認識されていると指摘し、将来世代の意思決定に 対して、重大な影響を及ぼしうる意思決定を現世代が行う場合、その正当性は現世代の有 する科学的知見、価値判断に照らして最善のオプションを採用することをもって確保され ると考えるべきであり、このような最善のオプションの追求が現世代にとって将来世代に 対する責任を果たす具体的な形であると指摘している。

世代間公平を分配的公正の問題から捉えた場合、時間的側面と経済的側面があると理解 される。HLW問題をめぐる分配的公正を時間的側面や経済的側面から考える場合、HLW 問題に対する解決策をめぐる便益、負担、リスク等についての現世代と将来世代との間の 分配が衡平、必要性などの基準を踏まえて公正かという点が議論となる。すなわち、HLW 処分によって、HLW は人間環境から隔離されるものの、我が国には活火山や活断層が多 いことから、十万年以上も先の未来までHLWをめぐるリスクや不確実性が存在する。し たがって、将来世代もHLWがもたらす環境負荷や事業リスクの影響を受ける可能性があ り、現世代と将来世代との間の環境負荷や事業リスクなどの負担の分配をめぐる世代間公 平の問題、すなわち時間的側面及び経済的側面の分配的公正が問題となる。

HLW 問題をめぐる時間的側面及び経済的側面からの分配的公正に関しては、まず、原 子力発電から得られる電力という便益を享受しているのは現世代であるとの自覚を持ち、

現世代の責任としてHLW処分を決めることが自らの責任に相応する負担やリスクの分配 を受け入れる衡平の基準から重要である。加えて、現世代が社会的合意形成プロセスを通 じて価値判断と意思決定を行い、HLW によって将来世代にもたらされる外部不経済、あ るいは、環境負荷、事業リスク及び費用を最小限に抑えること、現世代が選択した技術的 手法によって将来世代の価値判断や意思決定の余地を狭めないこと、将来世代の技術的選 択の自由度を確保するため必要な技術開発を怠らないこと、将来世代に対して現世代と可 能な限り均等の価値判断や意思決定の機会及び権利を付与すること、といった取組を総合

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的に実施することが分配的公正の確保の観点から必要である。また、将来世代がHLWを 回収したり、現世代と異なる処分技術を選択したりする場合、費用が発生する。さらに、

HLW が流出し、地下に浸透するなどの事故が発生した場合、損害に対する補償の問題が 発生する可能性がある。現世代がこのような費用や補償のための原資をどう手当てするの か、といった問題も考慮する必要がある。時間的側面及び経済的側面からの分配的公正を 確保すること、それ自体が現世代の責任である。

これらの論点を踏まえると、図4.2.2 に示すとおり、将来世代に対して責任や負担を先 送りするのではなく、また将来世代の自由度を奪うのでもなく、将来世代が背負うことと なるHLWをめぐる環境負荷や事業リスクなどの負担を低減すると同時に、将来世代の技 術的選択の自由度を確保する、また、そのために必要な技術開発を継続する、処分費用等 の積立や原子力事故等に備えた保険を整備する、将来世代に価値判断と意思決定の余地を 残すなど、現世代が様々な取組を総合的に実施し、分配的公正の問題を解決することが重 要である。

図4.2.2 世代間公平の確保の概念図

出典:出雲(2019c)をもとに修正し作成

具体的には、まず、現世代は、将来世代への負担を最小限に抑えるべく、現時点で最適 で信頼性の高いHLW処分技術することである。あるいは、現時点でいきなり最終処分に 進むのではなく、より適切な対処方策の確立のために「モラトリアム期間」(日本学術会議,

2012, p.10)を確保し、その間はHLWについて暫定保管を行うという判断もあり得る。

その場合、将来世代の技術的選択の自由度を確保するため、代替オプションも含めたHLW の管理及び処分に関する技術開発を継続するとともに、将来世代のためにHLWの管理及 び処分に必要な費用を積み立てるなどの対応が求められる。とりわけ、将来世代が、技術 の進歩や社会環境の変化などに柔軟かつ適切に対応する観点から、HLW 処分に関する政 策や処分事業に関する可逆性を担保するとともに、HLW 処分を進める場合でも安全な管 理が確保される範囲でHLW処分施設からHLWを搬出する回収可能性を確保することが 重要であり、そのための制度的枠組みを整備し、技術開発を行うことが求められる。また、

万一の事故に備えて原子力損害保険制度を整備するといった手当ても必要である。

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