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第一章 本研究の背景等

1.4 我が国における HLW 処分に関する取組

1.4.3 福島原発事故後の取組

NUMO が行った文献調査に関する公募に対し、高知県東洋町の事例を除き、これに応 募する自治体が出てこない状態が続いていたことから、2010年(平成22年)9月、HLW 処分に関する取組を進めるため、原子力委員会は日本学術会議に対し、『高レベル放射性廃 棄物の処分に関する取組みについて(依頼)』を発出し、HLW処分に関する国民への説明 や情報提供の在り方について提言を求めた。これに対し、日本学術会議は、社会科学や地 震学等の広範な分野の専門家を委員とする「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討会」

を設置して検討を進めた。

2011年(平成23年)3月、東日本大震災が発生し、福島原発事故が起きた。それまで 原子力発電は「絶対安全」とされてきたが、この事故によって、現在入手可能な科学的知 見には限界があり、「想定外」の事故が起こり得ることが示された。福島原発事故の後、

2012年(平成24年)9月、日本学術会議は、『高レベル放射性廃棄物の処分に関する取組 みについて(回答)』を原子力委員会に提出した。日本学術会議(2012)によれば、日本学 術会議の検討会は、原子力委員会から依頼を受けた課題を検討するに当たり、①HLW 処 分の在り方に関する合意形成が何故困難なのかを分析し、そのうえで合意形成への道を探 る、②科学的知見の自律性の保障と尊重とその限界を自覚する、③国際的視点を持つと同 時に日本固有の条件を勘案する、という三つの視点を採用し、検討の結果、HLW の最終 処分をめぐって社会的合意形成が極度に困難な理由として、原子力政策、エネルギー政策 における社会的合意が欠如したまま、HLW の最終処分地選定への合意形成を求めること が「手続き的に逆転した形」(日本学術会議, 2012, p.7)であるためと指摘した。

日本学術会議(2012)は、我が国には活火山や活断層が多く、従来どおりHLWの地層 処分を進めることは問題であり、HLW 処分に関する政策についても抜本的な見直しが必 要であるとの認識を示した。また、HLW 処分に関するプロセスを進めるためには、その 前に広範な国民が納得する原子力政策、エネルギー政策の大局的な方針を示すことが不可

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欠であり、多様なステークホルダーが討論と交渉のテーブルに付くためは、HLW に関す る「暫定保管」59(temporal safe storage)と「総量管理」60の二つを柱に、政策枠組みを 再構築することが条件であると指摘した。

日本学術会議(2012)に述べられているとおり、暫定保管は、いきなり最終処分に進む のではなく、HLW 問題の適切な対処方策の確立のために、数十年から数百年程度の「モ ラトリアム期間」(日本学術会議, 2012, p.10)を確保し、「この期間を利用して、技術開発 や科学的知見を洗練し、より長期間を対象にした対処方策を創出する可能性を担保する」

(同上)ものである。また、総量管理は、HLWの総量が適切なレベルになるよう管理する ものであり、総量管理には、「総量の上限の確定」と「総量の増分の抑制」という意義があ るとされる。今田(2014)によれば、総量管理における「総量の上限の確定」とは、文字 どおり、発生するHLWの総量に上限を設定することであり、社会が脱原発を選択する場 合に有効な方法であるとされている。また、「総量の増分の抑制」とは、総量の増加を厳格 に抑制するために、単位発電量当たりの放射性廃棄物の分量を可能な限り少なくすること であり、社会が脱原発に向けて進む際のスピードを管理するために、あるいは、社会が一 定比率の原子力発電を維持するために必要な規制であるとされている。

また、日本学術会議(2012)は、受益圏と受苦圏の間の地域間公平についての問題点を 指摘している。すなわち、従来のHLW処分の進め方では、「受益圏と受苦圏が分離すると いう不公平な状況をもたらす」(日本学術会議, 2012, p.20)と指摘し、このような不公平 な状況に対し、これまでは電源三法交付金などの金銭的便益の供与を中心的な政策手段と して対処してきたが、こうした方法は不適切であり、これまでの政策枠組みが行き詰まり を示している理由の一つであると批判している。そのうえで、「金銭的手段による誘導を主 要な手段にしない形での立地選定手続きの改善が必要であり、負担の公平/不公平問題へ の説得力ある対処と、科学的な知見の反映を優先させる検討とを可能にする政策決定手続 きが必要である」(同上)と提言している。

さらに、日本学術会議(2012)は、立地選定の後の補償措置を妨げるものではないとし ながらも、立地選定プロセスにおいて、電源三法交付金の交付などによる利益供与を通じ てHLW処分施設の立地の受容を求めることは問題であると指摘し、電源三法交付金など の金銭的便益の供与を廃止することも含めて、立地選定手続きを改めるよう勧告している。

その理由として、日本学術会議(2012)は、「安全性/危険性への関心を最優先で考えて いる人びとにとって、異なる次元での利益提供で操作しようとすること自体が批判の対象 にならざるを得ない」(同上, p.8)、「巨額の補償的受益を用意すればするほど、危険性がそ れだけ大きいのではないかという疑念を強めてしまう」(同上, pp.8-9)、「施設の建設推進 側においても、施設の立地を受容する側においても、経済的受益への関心が優越した場合、

安全性の吟味が妥協的になるという可能性を伴う」(同上, p.9)といった点を挙げている。

59 「暫定保管」とは、「高レベル放射性廃棄物を、一定の暫定的期間に限って、その後のより長

期的期間における責任ある対処方法を検討し決定する時間を確保するために、回収可能性を 備えた形で、安全性に厳重な配慮をしつつ保管すること」である(日本学術会議, 2012, p10)。

60 「総量管理」とは、「高レベル放射性廃棄物の総量に関心を向け、それを望ましい水準に保 つように操作すること」であり、その含意としては、「総量の上限の確定」と「総量の増分の 抑制」がある(日本学術会議, 2012, p.12)。

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さらに、日本学術会議(2012)は、「政策論争の一方の陣営が、同時に討論過程の管理者 となっているような場合には議論の公正な管理はできず、社会的信頼と合意形成を得るこ とが困難である」(同上, p.13)と指摘し、政策決定手続きの改善のためには、広範な国民 の間での問題認識の共有が必要であり、多段階の合意形成の手続きを工夫する必要がある と指摘している。具体的には、国民的関心を喚起して国民的議論を展開していくためには、

諸外国の経験にみられるように多様な「公論形成の場」を設けるべきであるとし、多様な 立場のステークホルダーが議論に参加することを保障するとともに、討論過程を公正に管 理すべきであると指摘している。また、「公論形成の場」については、多様な立場のステー クホルダーが集まる「中心的な政策討論の場」と、これと連動する形で様々な課題を議論 する多数の「個別的な討論の場」が形成されることが望ましいと指摘している。

これらの日本学術会議の提言に対し、原子力委員会は、HLW 処分に関する取組の進め 方についての議論、評価及び批判に関与してきた有識者を集め、日本学術会議の提言内容 を検討し、2012年(平成24年)12月、『今後の高レベル放射性廃棄物の処分に係る取組 について(原子力委員会見解)』をまとめた。まず、日本学術会議(2012)が、原子力政 策、エネルギー政策をめぐる大局的な方針についての合意形成に十分に取り組まないまま、

HLW の最終処分地選定という個別課題について合意形成を進めるのは手続き上逆転して おり適当ではないと指摘していることに対し、原子力委員会(2012)は、「個別問題につ いての合意形成活動を推進する際に、その取組の前提であるこの経緯を国民と共有するこ とに継続して取り組まなければならなかったのに、それが不十分であった」(原子力委員会,

2012, p.3)とし、HLW処分に関する議論と原子力政策及び核燃料サイクル政策の議論は

不可分であることから、今後は、原子力政策、核燃料サイクル政策とHLW処分計画を一 体として議論していく必要性を示した。

次に、日本学術会議(2012)が、現時点で入手可能な科学的知見には限界があることを 認識すべきと指摘していることに対し、原子力委員会(2012)は、これまでも研究開発を 通じて得られた最新の科学的知見とその限界を認識したうえで地層処分の実施可能性に ついての検討を重ねてきたと回答しつつ、地層処分に関する取組については、「定期的に最 新の知見でこの選択とそれに続く取組を評価し、その時々の国民とその判断を共有する取 組を行うこと」(同上, p.6)を提言した。また、日本学術会議(2012)が暫定保管について 提言していることに対し、原子力委員会(2012)は、暫定保管ではないものの、これまで の地層処分に関する取組においても「可逆性」61や「回収可能性」62を盛り込むなどの「慎 重な段階的アプローチ」を採用してきたと回答しつつ、今後は、不測の事態が起きること も考慮し、リスクマネジメントの観点からこれまでの取組を見直すことも含めて、また、

暫定保管の必要性と意義の議論も踏まえて、取組の改良や改善を図ることを提言した。

さらに、原子力委員会(2012)は、HLW処分に関する取組の進め方に関しては、国民 の間に多様な意見があることから、意思決定を行うに際しては、国民の関与を得て進める こと、国民からの意見を踏まえること、そのための仕組みを整備することを提案し、同時

61 「可逆性」(Reversibility)とは、原則として、処分システムを実現していく間に行われる決

定を元に戻す、あるいは検討し直す能力を意味する。

62 「回収可能性」(Retrievability)とは、原則として、処分場に定置された廃棄物あるいは廃 棄物パッケージ全体を取り出す能力を意味する。

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