第一章 本研究の背景等
1.5 我が国における HLW 処分に関する取組が抱える課題
1.5.1 処分懇報告書によって指摘されている課題
鈴木(2013)が指摘するとおり、我が国のHLW最終処分の原点は、1998年(平成10 年)5 月に発表された処分懇報告書である。すでに述べたとおり、処分懇報告書では、我 が国のHLW処分に関する取組は、当時においても諸外国に比べて10年ないし20年余り 遅れていると指摘されている。処分懇報告書は、現世代が発生させたHLWについては、
現世代がその処分に関する制度を確立する必要があり、将来世代に負担を先送りしないこ とが現世代の責務であるとし、現世代がHLW処分について先送りするならば、そのツケ は将来世代に残されることとなり、これを避けるためにも現世代が早急に着手しなければ ならないと指摘している。処分懇報告書の指摘を受けて、我が国は、2000年(平成12年)
6月に最終処分法を制定し、HLWの最終処分に関する制度整備を行ったのである。
68 原子力発電環境整備機構(2018)『包括的技術報告:わが国における安全な地層処分の実現
―適切なサイトの選定に向けたセーフティケースの構築―(レビュー版)』, 2018 年(平成 30年)11月21日, p.3。
37
処分懇報告書は、人びとがHLW問題を社会的課題と認識していないことについて、そ の背景や理由を述べている。処分懇報告書では、一般の人びとはHLW処分への漠然とし た懸念を持ちながらも、自らが解決しなければならない問題であるという意識を持ってい ないため、HLW 問題に対して積極的に発言することも少ないと指摘している。また、こ のような状況の原因として、「従来、技術的な側面に議論が集中してきたため、専門家・技 術者の間だけで専門的な議論がなされてきたということ」(原子力委員会高レベル放射性 廃棄物処分懇談会, 1998, p.2)、また、「広く各層の人びとが議論するような場や議論する ための情報が提供されてこなかった」(同上)こと、加えて、「廃棄物処分場については操 業開始までに要する期間が長く、事業の終了までさらに長い期間がかかるため、一般の人 びとには身に迫った問題として意識されにくい」(同上)ことが指摘されている。
処分懇報告書は、世代間公平の問題や地域間公平の問題について言及している。まず、
HLW 処分によってHLW は人間環境から隔離され安全性が確保されることとなるが、放 射性物質そのものは世代を超えて長期間にわたって地中に存在することとなるため、HLW 処分について、現世代が可能な限り対応するとともに、将来世代が様々な情勢の変化に対 応できるような枠組みを設けておくこと、また、将来世代による意思決定によって発生す る負担について現世代がどこまで配慮しておくべきかを考慮しておくことを求めている。
他方、原子力発電によって電力供給を受けている電力消費地域の住民と処分場立地地域の 住民との間の公平を確保することが必要であること、処分場立地地域と電力消費地域との 間の住民の連携を図って、両者が共生していくという考え方が必要であることを指摘して いる。また、世代間公平の問題や地域間公平の問題については、国民各層の間で広汎に議 論が行われ、国民の間の合意形成が求められるべき重要な問題であると指摘している。
処分懇報告書は、HLW処分を進めるためには、社会的な理解を得ることが重要であり、
広く国民各層の間でこの問題について議論が行われ、認識が広がることが必要であると指 摘し、そのためには、制度や組織の透明性の確保、情報公開の徹底に加え、国民から求め られる情報の提供に誠実に対応するとともに、提供した情報が理解されるよう受け手にと って分かりやすい形で正確な情報を伝え、適切に説明することが重要であること、また、
疑問には迅速かつ丁寧に回答し、各層の人びとに応じて対応するなど、誠意のある姿勢を 継続することが情報及び情報発信者に対する信頼に繋がると指摘している。とりわけ、人 びとが求める情報を提供するという観点から、求められている情報は何であるかに留意し、
情報提供に反映することが重要であると指摘している。さらに、生活様式や居住地域が人 によって異なることから、情報へのアクセス手段を可能な限り多様化し、より多くの人び とが必要な情報を入手できるようにすること、実施主体及び関係機関と国民や住民とが双 方向に情報の交流を行えるような体制を整備することなどを求めている。
また、処分懇報告書は、HLW 処分の長期性に関連して、社会経済的な状況の変化に応 じて柔軟に対応できるよう、制度の整備に当たっては一定期間毎の見直しを設けること、
また、現世代がすべてを決定するのではなく、将来世代がその世代における様々な条件の 下で一定の意思決定をする余地を残しておくこと、将来世代の意思決定の方法やコスト負 担を現世代と将来世代の間でどのように分配すべきかなど、現世代のうちに意思決定を行 っておくべき事項について具体的に議論を進めておくことなどが求められると指摘して いる。さらに、HLW の埋設後も長期間にわたって放射能が残留することから、万一の事
38
故に対する損害賠償制度を整えておくこと、また、現世代がどこまで賠償の原資を負担す べきかを検討しておくことが必要であると指摘している。
処分懇報告書は、処分地選定プロセスを進めるに当たっては、「情報公開や透明性を確保 するとともに、処分地の選定を行っていくうえで、関係自治体や関係住民の意見の反映に 努め、立地地域の理解と信頼を得ることが重要であり、そのための仕組みを整えておくこ とが必要である」(同上, p.29)と指摘している。とりわけ、処分事業を行っていくうえで は、「地域の特性や住民の要望など広汎な情報を有するとともに、地域住民への情報の提供 や意見の聴取について様々な仕組みを有する」(同上)自治体との協力が不可欠であると し、処分事業の各段階について、住民の意見を十分に聞き反映させていくこと、地域レベ ルでは、実施主体と地域住民などステークホルダー間で生じる様々な課題について、当事 者が参加して検討する場を設けることなどが重要であると指摘している。
また、処分懇報告書は、立地地域との共生関係を考えるに当たり、立地地域の主体性を 尊重し、共生の方策を立地地域に押しつけたり、一方的に与えたりするのではなく、「地域 の特性を活かした方策を地域が主体となって企画・選択する仕組みをつくること」(同上,
p.25)、また、「地域にとって一時的に利益となるようなものではなく、自立的に地域の発
展に貢献することが重要であり、固定的ではない幅広い政策手段を考えること」(同上)が 必要であると指摘している。さらに、地域住民との共生のために事業の実施に当たり地域 住民の意見が反映されること、実施主体と地域の一体感を深めるために実施主体による地 域住民の雇用を進めること、地域産業との共生のために処分事業と連携した産業の育成を 図ること、処分事業の特性である長期性や広いスペースを活かし、地域の自然環境に合っ た持続可能な事業を考えることが重要であると指摘している。
処分懇報告書は、国民の理解と信頼の重要性について繰り返し強調している。処分懇報 告書は、HLW 処分を進めていくうえで必要なことは、「廃棄物処分の安全性が確保され、
透明性のある制度が作られて責任体制が明らかにされることにより、処分事業に対する国 民及び地域住民の理解を得ること」(同上, p.32)であるとし、そのためには、「国民各層の 間でこの問題についての議論が行われ、一人ひとりが自らの身に迫った問題であるという 意識を持つことが望まれる」(同上)と指摘している。さらに、政治の場においても現世代 の意思を立法の形で明らかにすることが必要あり、そのためにも、国民の各層における議 論が十分に行われ、国民の理解と信頼を得るための努力が不可欠であると指摘している。
このように、処分懇報告書では、HLW 問題への解決に向けて克服すべき課題や採用す べき基本的方針が明確に示されている。この問題について、国民各層の間で議論が行われ、
自らの身に迫った問題であるという意識を持つことの必要性が示され、そのために求めら れる情報へのアクセスの確保、人びとの疑問への迅速かつ丁寧な回答や誠意ある対応、実 施主体と市民との間の双方向による情報の交流、事業への自治体や市民の意見の反映、
様々な課題について当事者間で検討する場の設定などの重要性がすでに示されている。ま た、将来世代による意思決定やそれによって発生する新たな負担を現世代と将来世代との 間でどう分配すべきか、という世代間公平の問題や、原子力発電によって電力供給を受け ている電力消費地域と処分場立地地域の間の公平をどう確保すべきか、という地域間公平 の問題についても、国民各層の間で広汎に議論が行われ、国民の間の合意形成が求められ るべき重要な問題として示されている。