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社会的合意形成プロセスの正当性、法規性及び信頼性

第三章 手続き的公正

3.1 手続き的公正の論点

3.1.1 社会的合意形成プロセスの正当性、法規性及び信頼性

社会的合意形成プロセスを進めるためには、まず、市民が直面する課題を社会的課題と して認識し、解決を要するものとして意識することが不可欠である。社会的課題として認 識すれば、その解決に向けて行動を起こすこととなる。社会的課題は、通常、一人で解決 することは困難であるため、他の市民と問題意識、情報、アイデアなどを共有して、社会 としての最適な解決策を探ることが求められる。この社会的課題の認識から社会的に最適 な解決策を見出すまでの過程が社会的合意形成プロセスである。参加する市民の数が増え ると、各々の考えや意見が対立し、容易に解決策を見つけることが困難となる。対立ばか りで解決策を見出すことができなければ、やがて市民は問題解決に向けた関心や意欲を失 ってしまうであろう。また、たとえ解決策が示されたとしても、それが不透明な手続きに よるものであったり、意思決定者から一方的に押し付けられるものであったり、特定の市 民やグループの意見に偏っているものであったりした場合、市民は不満を持って反発し、

提案された解決策に反対することとなり、結局、合意に至らないであろう。

したがって、社会的合意形成プロセスを円滑に進めるためには、参加するステークホル ダーが納得する形でプロセスの手続き的公正さが確保され、公正な手続きによってプロセ スが運用されることを通じて、プロセスそのものや意思決定者に対する信頼性が向上し、

プロセスから導出される結果としての意思決定をステークホルダーが支持し、尊重するこ とが求められる。換言すれば、最終的な意思決定への支持は、社会としての意思決定を行 う社会的合意形成プロセスそのものやプロセスの運用の公正さに依存するのである。また、

社会的合意形成プロセスの目的や個々の段階でのプロセスが全体の中で果たす目的や機

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能が明確化され、これらが妥当かつ有効なものとして社会的合意形成プロセスに参加する ステークホルダーに了解されていることも重要である。

手続き的公正とは、藤井(2005)によれば、意思決定プロセスの公正さ、すなわち「決 め方」に関する公正さを意味するものである。すなわち、ある結果や決定に至る過程、あ るいは、手続きに対する公正である。ここでの公正さとは、法律や規則に基づいて判断さ れる正しさ、あるいは、公正さではなく、人びとの認知や感情によって行われる公正さに ついての判断であり、手続き的公正も手続きに対する人びとが感じる公正さである。これ までの様々な手続き的公正に関する研究から、人びとは手続きそのものを手続きの結果か ら分離して評価すること、手続き的公正さが確保されることによって結果に対する満足度 が高まること、最終的な決定や結果によって影響を受ける立場にある人びとは公正な手続 きを求める傾向にあることなどが明らかにされている82。このことは、一般的に、自分に 何らかの影響を及ぼすような決定が、自分が関与していない場所で、あるいは、関与でき ない状況で行われると、たとえその結果が自分にとって有利なものであったとしても、人 びとは何らかの疑問や不満を持つことからも明らかである。

換言すれば、手続き的公正は、意思決定の結果として発生する便益や費用の分配に関す る公正さを意味する分配的公正とは明確に区別されるものであるが、意思決定の結果とし ての分配的公正とは密接不可分であり、手続きの在り方が結果の内容に拘らず決定の受容 に影響を及ぼすのである。この「意思決定の結果」を政府などによる政策決定に置き換え た場合、坂本・野波・アラムス・大友・田代(2016)は、人びとは手続き的公正さを政策 決定過程における望ましさと認識し、こうした政策決定過程の望ましさは導入される政策 の受容の規定因となること、また、手続きに対する望ましさの判断には人びとの立場の違 いなどの影響を受けにくく、複数の人びとの間でも判断が一致しやすいことを指摘してい る。さらに、坂本・野波・蘇米雅・哈斯額尓敦・大友・田代(2017)による資源の共同管 理などの研究においては、手続きが望ましいと評価された管理に対しては、幅広い立場の 人びとが協力的な態度を形成することが示されている。こうしたことから、手続き的公正 を確保することは公共事業やまちづくりなどの行政行為に対する住民参加を進める拠り 所とされている。

野波・大友・坂本・田代(2015)によれば、NIMBY問題を内包する施設の立地の是非 に係る社会的合意形成プロセスを円滑に進めるためには、施設の立地によって何らかの影 響を受ける多様なステークホルダー間で、予めその立地に係る社会的決定を行う権利を誰 に、そして、どのような根拠から承認するかについての判断を一致させなければならない とされている。そのうえで、野波ほか(2015)は、この「社会的決定を行う権利を誰にど のような根拠から承認するか」、あるいは、「自他の行動を統制する権利が何者にあるのか、

その権利の根拠は何か」についての人びとの判断基準、すなわち、人びとが「何らかの理 由・価値をもとに評価する主観的な承認可能性」のことを「正当性」(legitimacy)と定義 し、人びとは正当性を評価することによって、自分に影響を及ぼし得る社会的決定に従う か、あるいは、反対するかを判断すると指摘している。また、正当性の規定因として、「人 びとが自他の正当性を判断するに際しての法規的、政治的な規範、ないし多数の判断に対

82 田中堅一郎編著(1998)『社会的公正の心理学―心理学の視点から見た「フェア」と「アン フェア」』, ナカニシヤ出版, p.69。

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する予測といった社会的な規範に依拠した準拠枠」(野波ほか, 2015, p.154)である「制度 的基盤」と、「自他の好ましさや望ましさに対する主観的評価による準拠枠」(同上)であ る「認知的基盤」を示している。さらに、野波ほか(2015)によれば、制度的基盤に基づ く正当性の判断は、法律や条例といった法規上の取り決めから根拠づけられるという人び との予測と定義される「法規制」(legality)によるとされている。すなわち、人びとは法 律や条例といった法規に基づく手続き、あるいは、社会として伝統的、あるいは、慣習的 に採用されている規範に基づく手続きについては、これを公正なものとして判断する傾向 にある。また、認知的基盤に基づく正当性の判断は、人びとの好ましさや望ましさに向け られた個々人の主観的な評価に基づくものであり、人びとが意思決定者や意思決定プロセ スに対して有する「信頼性」(trustworthiness)も認知的基盤の一つとされる。

信頼性に関しては、尾花・広瀬(2008)によれば、事業主体への信頼と手続き的公正さ の要因は相互に関連し、手続き的公正さが事業主体への信頼に影響を及ぼすことを示す研 究と、事業主体への信頼が手続き的公正さに影響を及ぼすことを示す研究がそれぞれ存在 するとされる。たとえば、青木(2005)によれば、行政機関など意思決定を行う権威者に よる公正な手続きの実施により、公共事業などの提案の賛成度や権威者の信頼感が向上す ることが報告されている。これはTyler et al(1992)が指摘するように、公正な手続きを 通じて人びとの発言が意思決定を行う権威者に受け止められ、考慮されたと感じる考慮感 や、権威者が誠実に対応していると感じる誠実さによって、人びとが権威者を信頼するよ うになるためであると考えられる。尾花・広瀬(2008)は、行政機関など意思決定を行う 権威者や事業主体への信頼に関する情報が存在しない場合、手続き的公正さが事業主体へ の信頼に影響を及ぼすと指摘している。高尾(2002)は、公共事業などを進める行政機関 の手続きが公正かどうか評価する際に、行政機関に対する人びとの信頼度や行政機関によ る人びとへの態度で判断することもあり得ることを指摘している。すなわち、事業主体へ の信頼、不信によって、事業主体の手続きの公正さを認識する際にバイアスがかかるので ある。人びとが意思決定を行う権威者を信頼し、同時に権威者に尊重されていると知覚す る場合、人びとは権威者が勝手に意思決定を行うことはないだろうと信じ、権威者の決定 手続きを公正なものとして評価する。青木・鈴木(2008)は、手続き的公正さが知覚され ることにより、まちづくりなどの公共事業への関心が向上することを指摘している。

また、「権威に対する手続き的公正知覚が権威の正当性や集団帰属感等の親集団的態度 を強め、それが個人の協力行動を促す」83との指摘もある。さらに、分配的公正と手続き 的公正はいずれも社会的決定に関する価値判断であること、すなわち、分配的公正も手続 き的公正もともに、「人間にとって欲望を満たす価値物を対象とした判断である」として捉 え、「分配的公正は経済的報酬を、手続き的公正は社会的報酬の分配を評価する基準であ る」84との指摘もある。そのうえで、「社会的報酬も明らかに個人的利益の一部であるから、

手続き的公正がこれらの獲得という点から評価されるもの」であるならば、人びとの「集 団に対する態度や行動の規定因として経済的報酬よりも社会的報酬の方が強力な要因で あること」85が指摘されており、手続き的公正を確保することの重要性が示されている。

83 同上, p.97。

84 同上, p.99。

85 同上, p.100。

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