• 検索結果がありません。

地域間公平と 4 要素アプローチ

第四章 分配的公正

4.3 分配的公正を確保する 4 要素アプローチ

4.3.1 地域間公平と 4 要素アプローチ

HLW 処分をめぐる地域間公平の問題、すなわち空間的側面及び経済的側面からの分配 的公正の問題を議論する場合、社会的受容に影響を及ぼし得る要素を抽出し、各要素の論 点を総合的に勘案して価値判断を行うことが有効であると考える。

本稿では、表4.3.1 のとおり、技術的観点、経済的観点、社会的観点及び心理的観点の 四つに分類する。技術的観点とは、HLW に付随するリスクとその対処など技術的事項を 考慮することであり、経済的観点とは、HLW 問題に関する様々な費用や経済的便益など 経済的事項を考慮することである。また、社会的観点とは、HLW 処分施設の立地地域に 対する社会の理解や共感、あるいは、風評被害などHLW問題に関する社会的事項を考慮 することであり、心理的観点とは、HLW 問題をめぐるストレスやスティグマなど心理的 事項を考慮することである。

118

表4.3.1 空間的側面及び経済的側面からの分配的公正に影響を及ぼし得る4要素

要素 負担やリスク 対処や便益

技術的観点 ◼HLWのリスク

◼HLW処分施設のリスク

◼環境負荷

◼最適技術の適用

◼技術的事項に関する市民の意見や要求 の採用

経済的観点 ◼HLW処分施設の建設や運 営に係る費用

◼インフラ整備に係る費用

◼風評被害による不動産や 農産物価格の下落

◼地域活性化

◼雇用創出

◼共存共生

◼電源三法交付金の交付

社会的観点 ◼風評被害 ◼社会の理解

◼社会の共感

◼社会の敬意や感謝 心理的観点 ◼ストレス

◼スティグマ

◼公益への貢献に係る自尊

◼安全性や信頼性の向上に係る自負

◼社会の敬意や感謝の受止め

出典:出雲(2019c)をもとに修正し作成

HLW 処分をめぐる空間的側面及び経済的側面からの分配的公正の問題を議論する場合 に技術的観点から検討すべき要素には、HLW 処分施設の立地によって受苦圏にもたらさ れる技術的負担やリスク、すなわち、HLW そのものによる人体や環境に多大な悪影響を 及ぼすリスク、HLW 処分施設の建設や運営に付随するリスクや環境への悪影響など技術 的観点からマイナスと捉えられる要素と、こうしたマイナスの要素を低減する技術的対処、

すなわち、HLW処分施設の建設や運営に関して最適な技術を適用すること、HLW処分施 設の建設や運営に係る技術的事項に対して市民の意見や要求を反映し、安全性を向上する ことなど技術的観点からプラスと捉えられる要素が含まれる。

木下(2002)が指摘するとおり、世の中のあらゆる科学技術やその産物には、必ず一定 のリスクがあると考えることが重要であるが、我が国においては、ゼロリスクでない科学 技術は受け入れないという意識を持つ人びとが少なくない。こうした人びとのリスク認知 を変えることは容易ではない。他方、和田・田中・長崎(2009a)が指摘するとおり、こう したリスクを認知したうえでリスクを定量化して管理し、安全性に関する情報を継続して 提示することが必要であり、同時に、こうしたリスクの低減方法についても、具体的に示 すことが重要である。HLW の地層処分の場合、長期にわたり安定な地層である天然バリ アと人工的に設けられる対策である工学バリアを総合的に採用し、多重防護システム、あ るいは、マルチバリアシステムを実現することによって、処分事業全体のリスクを下げる という手法が採用される。そのため、HLW の処分地について、段階的なサイト調査を適 切に行い、すべての天然現象の長期的変動の影響を踏まえてもなお各々の好ましい地質環 境とその地質環境の長期安定性を確保できる場所を選定することが必要である。そのうえ で、HLW処分施設についても、安全性の確保を最優先に信頼性の高い処分技術を開発し、

これを適用することが求められる。

119

HLW 処分がもたらすリスクや環境負荷に対する直接的な技術的対処に加え、坂本・神 田(2002b)が指摘するように、HLW処分施設の立地地域に及ぼされるリスクに対する受 忍がもたらす負の影響を可能な限り低減する措置として、HLW 処分技術の信頼性の向上 を図る取組に加え、地域社会が自らHLW処分施設の安全確保について意見や要求を述べ ること、さらには、処分施設の建設や運転について評価や監視を行うことを認めることも 重要である。このことは、処分懇報告書において、処分事業の各段階について住民の意見 を十分に聞き、これらを反映させていくことや、地域レベルにおいて、実施主体と地域住 民などステークホルダー間で生じる様々な課題について、当事者が参加して検討する場を 設けることが求められていることとも合致する。

地域間公平、あるいは、空間的側面及び経済的側面からの分配的公正の問題を議論する 場合における技術的要素を考慮した価値判断とは、受苦圏にもたらされるリスクや環境負 荷など技術的にマイナスの要素に対し、これを補うためには、どのように最適で信頼性の 高い処分技術を開発し適用するのか、どの程度まで技術的事項に関して市民の意見や要求 を反映するのか、あるいは、どの程度まで処分施設の建設や運転について評価や監視を行 うことを認めるのか、といった技術的観点からプラスの要素を考慮して、合理的な判断を 行うことである。実際には、受苦圏にもたらされる技術的負担やリスクが大きい場合、こ れを軽減するためには、信頼性の高い最適な処分技術を適用するだけでは十分ではなく、

受苦圏の市民が技術的事項に対する提案を自ら行い、これをHLW処分施設の建設や運営 に反映することで、さらに安全性を向上するという柔軟な考えとアプローチが求められる。

次に、HLW 処分をめぐる空間的側面及び経済的側面からの分配的公正の問題を議論す る場合に経済的観点から検討すべき要素には、HLW 処分施設の立地によって受苦圏にも たらされる経済的負担、すなわち、HLW 処分施設の建設や運営に伴って直接発生する経 済的負担、道路や水道その他の関連するインフラを整備するために発生する経済的負担、

風評による不動産価格や農産物価格の下落など予め推計することが困難な経済的損失な ど経済的観点からマイナスと捉えられる要素と、こうしたマイナスの要素を低減する経済 的対処や便益、すなわち、HLW 処分施設だけでなく関連施設や研究開発施設なども立地 すること、あるいは、処分事業と地域産業の連携を通じて関連産業を創出することなどに よる地域活性化や雇用創出効果、地域住民の意見や要求を取り入れたまちづくりによる HLW 処分施設と立地地域の共存及び共生の実現、立地地域に交付される電源三法交付金 など経済的観点からプラスと捉えられる要素が含まれる。

HLWの最終処分に必要な費用は、電力会社などHLWを発生させている事業者が、「発 生者責任の原則」に従って負担することとされており、これらの事業者は最終処分法によ り NUMO に対する拠出金を納付するよう義務付けられている。したがって、HLW 処分 施設を受け入れる地域がHLW処分に必要な費用を負担することは想定されていない。ま た、道路や上下水道などの関連するインフラの整備に必要な資金も国や自治体が支援する ものと考えられる。しかし、分配的公正を議論する場合には、こうした費用も考慮に入れ る必要がある。また、風評による不動産価値や農産物等の価格の下落なども念頭に置くこ とが求められる。こうした負担や不利益に対する補償という観点からは、すぐに電源三法 交付金などの金銭的便益の供与が示されるが、分配的公正を確保する観点からは、電源三 法交付金に限定せず、より適切な手法を考える必要がある。

120

電源三法交付金については、その金額が大きいことから様々な批判や懸念が示されてい る。日本学術会議(2012)は、安全性、あるいは、危険性への関心を最優先で考えている 人びとにとって、異なる次元での利益提供で操作しようとすること自体が批判の対象にな らざるを得ないとして、電源三法交付金のような巨額の補償的受益を用意すればするほど、

危険性がそれだけ大きいのではないかという疑念を強めてしまう、また、施設の建設推進 側においても、施設の立地を受容する側においても、経済的受益への関心が優越した場合、

安全性の吟味が妥協的になるという可能性を伴うといった観点から、電源三法交付金など の金銭的便益の供与を廃止することも含めて、立地選定手続きを改めるよう勧告している。

また、坂本・神田(2002b)が指摘しているとおり、認知されるリスクの緩和のための方 法論が確立された後であれば、HLW 処分施設の立地に対する補償のための措置は善意や 環境への配慮の表現として受け取られるが、認知されるリスクの緩和のための措置が十分 でないままインセンティブ付与に乗り出した場合、それはよく分からないリスクを受け入 れさせるための「賄賂」と受け取られ、社会的信頼を損なうものとなってしまいかねない ことにも留意が必要である。

電源三法交付金などの金銭的便益を供与して、HLW 処分施設を立地地域に押し付ける のではなく、HLW 処分施設と立地地域が共存、共生するように配慮することが重要であ る。1998年(平成10年)に発表された処分懇報告書は、立地地域との共生関係を考える に当たって、立地地域の主体性を尊重し、地域の持っているビジョンやニーズに応じて、

地域の特性を活かした方策を地域が主体となって企画し、選択する仕組みを作ること、地 域にとって一時的に利益となるようなものではなく、自立的に地域の発展に貢献すること が重要であり、固定的ではない幅広い政策手段を考えること、事業の実施に当たっては地 域住民の意見が反映されること、さらに、地域の雇用創出、地域産業の育成、あるいは、

地域産業との共生が図られることが重要であると指摘している。同様の観点から、2015年

(平成27年)に出された基本方針では、HLW処分事業が長期にわたることから、関係住 民との共生関係を築き、合わせて地域の自立的な発展、関係住民の生活水準の向上や地域 の活性化に繋がるものであることが重要であるとし、処分地選定に向けた調査を受け入れ る地域に対し、国民共通の課題解決という社会全体の利益を持続的に還元していくことと の観点から、文献調査段階から電源三法交付金を交付するとともに、地域の関心や意向を 踏まえた上で、地域の持続的発展に資する総合的な支援措置を関係地方公共団体と協力し て検討し講じていくとしている。

こうした観点を踏まえれば、地域間公平、あるいは、空間的側面及び経済的側面からの 分配的公正の問題を議論する場合における経済的要素を考慮した価値判断とは、受苦圏に もたらされる費用負担や風評被害による経済的損失など経済的にマイナスの要素に対し、

これを適切に補うために、どのように地域活性化や雇用創出や産業育成を実現するのか、

どのような形でHLW処分施設と立地地域との共生、共存を図るのか、あるいは、どの程 度の金額の電源三法交付金を、どれぐらいの範囲に広がる地域まで交付するのか、といっ た経済的観点からのプラスの要素を考慮して、合理的な判断を行うことである。実際には、

受苦圏にもたらされる経済的負担が大きい場合、これを軽減するためには、電源三法交付 金を交付するだけでなく、HLW 処分に関連する施設や研究開発施設なども集積すること で、さらに地域活性化や雇用創出を実現するという柔軟な考えとアプローチが求められる。

Outline

関連したドキュメント