第三章 手続き的公正
3.6 社会的合意形成プロセスのその他の論点
3.6.3 市民とその他のステークホルダーの役割
HLW 処分事業を成功させるための要素と、事業推進主体、規制当局及び市民等ステー クホルダーの役割を概念的に示したのが図3.6.3である。
図3.6.3 HLW処分事業の成功要素の概念図
出典:マイク・ウエイトマン(2016)の図から着想を得て筆者作成
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まず、この事業全体を「家」と表現するアイデアは、2016年(平成28年)4月10日、
11 日に福島県いわき市で開催された第 1 回福島第一廃炉国際フォーラムにおいて行われ た、イギリスの原子力規制機関(Office for Nuclear Regulation)の元長官であるマイク・
ウエイトマン(Mike W. Weightman)氏の講演から着想を得たものである。ウエイトマン 氏は、「廃止措置規制と関連廃棄物管理」というタイトルで講演を行った。ウエイトマン氏 は、原子力発電所の廃止措置に係る主要責任を負う「産業界」、原子力安全規制を担う「規 制当局」、原子力発電所の廃止措置に関与し、情報へのアクセスを求め、事業者や規制当局 の責任を問う「利害関係者」を、「堅牢な原子力安全体制における独立した主要な3本柱」
として表現した。また、これらの3本柱の下には、関係者間で「価値観や安全文化」が共 有されることで「強固な礎石」となった「基礎」、あるいは、「土台」が置かれ、3 本柱の 上には、規制当局が示す「協力かつ謙虚なリーダーシップ」が「屋根」として乗ることで、
全体として原子力安全体制が確保されるといった趣旨の説明を行った110。本稿の筆者は、
この講演を傍聴し、着想を得たものである。
図3.6.3では、ウエイトマン氏の図から着想を得て、HLW処分事業を一つの「家」とし
て表現する。この図の中では、先の図 3.6.2で示した相互信頼等の基本的前提、共同体意 識、問題意識、倫理・価値観の共有、将来像・目的の共有といった社会的合意形成に必要 な要素が「土台」、あるいは、「基礎」である。まず、これらの「土台」、あるいは、「基礎」
が強固なものでなければならない。この中でも特に、相互理解・相互信頼や問題意識や倫 理・価値観の共有、目的の共有などが関係者の間でしっかりとなされていなければ、事業 は成立しないと考える必要がある。このような基礎の上に「柱」として立つのが、事業主 体、市民等ステークホルダー及び規制当局の三つの主要なアクターである。これらのアク ターが「鼎」のように、あるいは「大黒柱」のようにしっかりと事業を支えるという構図 である。事業主体には政府やNUMOが含まれるが、事業はこれらの事業主体のみでは決 して成立しない。ここに市民等のステークホルダーが参加して初めて成立するのである。
また、規制当局は、政府の一部であるが、政府から独立してHLW処分事業に関する安全 性やHLW処分事業による環境への影響などをチェックするという立場から、政府とは別 の「柱」を形成し、事業を支えるうえで不可欠な存在として位置付けられる。
さらに、これらの「柱」の上に乗るのが、安全や環境保護に必要なHLW処分事業に関 連する科学・技術である。換言すれば、事業という「家」を支える「大梁」である。「大梁」
は3本の「柱」に連結され、支えられている構造である。事業推進主体である政府やNUMO がHLW処分事業に関する科学・技術を駆使してHLW処分事業の安全性を確保し、また、
研究開発等を通じて関連する技術のレベルを高めていくことは当然であるが、規制当局が HLW 処分事業に関する安全性や HLW 処分事業による環境への影響などをしっかりとチ ェックすることが必要である。さらに、市民を含むステークホルダーという「柱」も「大 梁」と連結され、「大梁」、すなわち、HLW処分事業に関連する技術的な事項に関与し、こ れを支えているという視点が重要である。事業主体や規制当局とともに、市民等ステーク ホルダーも一緒になって事業に関与し、事業の安全性をチェックし、これを高めることに 貢献することが求められている。
110 マイク・ウエイトマン(2016)「廃止措置規制と関連廃棄物管理」(第1回福島第一国際廃 炉フォーラム講演資料), 2016年(平成28年)4月11日, p.5。
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市民等ステークホルダーが一つの「柱」となって事業を支えるためには、これまで述べ てきたとおり、Education、Engagement及びEmpowermentの三つのアプローチが不可 欠であることは言うまでもない。すなわち、Educationアプローチを通じて、市民と対話 を行い、市民の問題意識、疑問、意見等を聞き、これに応える形で市民の求める情報を提 供し、相互理解と相互信頼を高め、一緒になって解決策を探るのである。また、Engagement アプローチによって、社会的合意形成プロセスに関する明確な手続きや枠組みを確保する ことで、市民の主体的参加を実現し、市民が積極的に意見や要求を出し、また、これらの 意見や要求を適切に反映することで、HLW 処分事業に係る政策や意思決定の質が向上す ることとなる。さらに、Empowermentアプローチによって、市民に意見や要求を述べる 権利や役割、HLW処分事業を監視する機能を与えることで、市民は、HLW処分事業の実 施主体と対等に議論し、一緒になって方針を決め、また、HLW 処分事業の安全性を確認 し、これを向上することにも貢献できるのである。まさに、市民が一本の「柱」となる「力」
を得て、事業の円滑な実施に貢献することが可能となるのである。
市民等ステークホルダーは、事業主体が実施することを黙って見ているのではなく、ス ウェーデンなどの例でみられたように、自ら独自に専門家を呼び、専門家の意見も聞きな がら、事業主体に対して意見や要求を述べることが期待されている。また、事業主体も市 民等ステークホルダーから出された意見や要求に真摯に耳を傾け、可能な限り、これらを 取り入れるのである。その結果、事業はもはや事業主体だけのものではなく、市民等ステ ークホルダーも一体となって、オーナーシップ(ownership)を感じて、進めるものとな っていく。また、市民等ステークホルダーが事業を監視することによって、事業のガバナ ンス(governance)が高まることも期待される。
我が国のHLW処分事業において欠けているのは、こうした視点である。とくに、我が 国では、HLW 処分事業に係る課題を、市民等ステークホルダーと一緒に考え、一緒に解 決策を探るというプロセスが欠けており、また、政府やNUMOにおいても、こうしたプ ロセスは時間の無駄と考える傾向があり、時間をかけて市民等ステークホルダーと議論す ることが最終的には事業をより良いものとすると考える柔軟な意識に欠けている。政府や NUMO は全国レベルのシンポジウムや地方レベルの説明会や意見交換会などを開催して きたが、これまでのところ、HLW処分に向けたプロセスは全く進んでいない。
この大きな理由の一つは、これらの会議や会合が単なる情報提供の場でしかなく、市民 等ステークホルダーから意見や要求を聞く場になっていないからである。市民が会議や会 合の場で意見や要求を出しても、政府やNUMOの担当者はその場で必死になって応答し、
市民の意見や要求を封じようとするのがこれまでの対応である。もちろん、市民の意見や 要求の中には無知や誤解から出ているものもあろう。しかし、このような場合にも丁寧に 説明し、対応する必要がある。他方、いたずらに反対ばかりを叫び続けたり、ヤジや暴言 を吐いて、発言者や説明者を威嚇したり、発言を妨害したりして、会議や会合の冷静な進 行を妨げる場合には、退場を願うこともやむを得ないであろう。このような会議や会合を 開催する場合には、予め規則やルールを決めて、関係者に示しておくことが重要である。
そして、こうした会議や会合が、HLW 処分に関するプロセスの中で、どのような位置付 けとなっているのかが明確化され、その中で国民や市民から出された意見や要求がどのよ うな形で意思決定に反映されるのかがはっきりしていることが必要である。
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