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社会的選択の理論からの 4 要素アプローチの考察

第四章 分配的公正

4.4 社会的選択の理論からの 4 要素アプローチの考察

伝統的な経済学は、市場メカニズムの機能を重視し、経済主体の経済合理性に基づく自 由な意思決定による市場競争に委ねていれば効率的な資源配分が可能となると考える。ま た、社会的選択とは実現可能な資源配分の中から社会的にとって最適な資源配分を選択す ることである。経済学では、ある資源配分が行われている場合、ほかの少なくとも1人の 効用を引き下げない限り、誰の効用も引き上げられないようになっているとき、その資源 は「パレート効率的」(Pareto efficient)であると言うが、効率的な資源配分、あるいは、

最適な資源配分とは、このパレート効率的な資源配分を意味する。他方、公共経済学では、

社会全体の満足度、あるいは、幸福度を「社会的厚生」(social welfare)と呼び、政府の 役割は様々な政策を採用することによって社会的厚生を最大化することとしている。政府 が採用する政策によって実現される社会を構成する各個人の効用の社会的総和を関数で 表現したものを「社会的厚生関数」と呼ぶ。社会的厚生関数が一定で経済主体が2人の場 合、社会的無差別曲線は傾きがマイナス45度の直線となる。

Gilboa(2010)は、ある社会において異なる二つの政策「x」と「y」があるときに、社 会の構成員の全員にとってxが少なくともyと同程度には望ましいと考えていて、少なく とも一人の個人はxをyより厳密に好むのであれば、社会的にもxをyよりも厳密に望ま しいと考えるのであれば、xとyを投票にかけたとき、ある者はxに投票し、また別の者 は無差別であるが、yでなくxを選ぶことに反対する者はいないという状況になると説明 する。この場合、「xはyをパレート支配する」と呼ぶ。さらに、政策「x」がすべての選 択可能な政策によってもパレート支配されない場合、その政策は「パレート最適」、あるい は、「パレート効率的」であると呼ぶ。ある社会において、選択可能な政策のうちパレート 最適なものを一つだけ決めることができるのであれば、その社会にとってはその政策を採 用することが最も効率的であり、合理的である。ただし、パレート効率的な政策では、必 ずしも公平性が確保されているとは限らないという点に留意が必要である。

こうした考え方を、HLW 問題をめぐる受益圏と受苦圏の間の地域間公平の問題と、現 世代と将来世代の間の世代間公平の問題に、それぞれ当てはめてみる。まず、受益圏と受 苦圏の間の地域間公平の問題について考えてみる。

図4.4-1 地域間公平とパレート最適

出典:筆者作成

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図4.4-1は、地域間公平とパレート最適を示した社会的無差別曲線である。ここでの「政

策x」は、「受苦圏にすべてのリスクと環境負荷を押し付けて、HLW処分施設を建設する こと」とする。「政策 y」は、「現在の状態」、あるいは、「現状維持の政策」とする。この 図の場合、「政策x」は、資源配分としては他の少なくとも一人の効用を引き下げない限り、

誰の効用も引き上げられない状態であることから、パレート効率的な選択と言える。しか し、受苦圏にとっては受け入れがたい不公平な選択である。すなわち、パレート効率的な 選択は、必ずしも公平な選択となるとは限らないのである。

他方、HLW問題について、「現状維持の政策」である「政策y」はパレート最適ではな く、すなわちパレート効率的な選択ではない。換言すれば、「政策y」は、資源配分におい て様々な選択肢が取り得る状態である。放置しておくと何も起こらないが、選択を完全に 政府に委ねてしまうと、「政策x」になる可能性があり、地域間公平の観点から不公平と捉 えられるおそれがある。鈴村(2012)によれば、社会としての合理的判断、あるいは、社 会的選好判断を促すためは、二つの社会状態について、そのいずれが社会的にベターであ るかをルールに基づいて判断するためには、社会構成員がこの二つの状態のいずれを他方 より好ましいと判断しているかという情報を知りさえすれば十分であるとされており、こ こでもこうしたルールを踏まえて考えてみる。人びとが「現状維持の政策」である「政策

y」を認識し、そこから「政策 x」を選択するのが社会にとって最適か、あるいは、「政策

z」が社会にとって最適かを考えるとき、他の人びとがどちらを好ましいと判断しているか を知ることによって、そのいずれかを選択することとなると考えられる。

この「他の人びとがどちらを好ましいと判断しているかを知る」ための仕組みが、手続 き的公正を確保した社会的合意形成プロセスであり、関係するすべてのステークホルダー の参加を促す「対話の場」である。また、「どちらを好ましいと判断」するためには分配的 公正に配慮する必要があり、そのためには、技術的観点、経済的観点、社会的観点及び心 理的観点からマイナスと捉えられる要素とプラスの要素を総合的に勘案し、地域間公平に おける分配的公正を確保しながら価値判断を行う 4 要素アプローチを採用するのである。

たとえば、「現状維持の政策」である「政策y」からスタートして、地域間公平に配慮した うえで社会として最適な資源配分を実現すべきと判断されるならば、その過程において、

技術的観点、経済的観点、社会的観点及び心理的観点からマイナスと捉えられる要素とプ ラスの要素を考慮し、「政策z」に可能な限り近いものを採用するのである。

また、「政策x」や「政策y」から「政策z」に到達するためには、関係者間の熟議、換

言すれば、交渉によって、様々な手法を採用し得ると考えることもできる。HLW 問題に 対する解決策、すなわちHLW処分施設を建設するという選択肢に対して、受苦圏にもた らされるリスクや環境負荷などの不利益が大きい場合には、より多くの投資を行い、最適 で信頼性の高い処分技術を適用すること、電源三法交付金の交付に加え、地域の発展に貢 献する地域共生の方策を提供すること、受苦圏の人びとがHLW処分事業に対する意見や 要求が出せるよう、自ら調査し、専門的な知識を得る機会を与え、財政的な支援を行うこ となどの対応策について、関係者間で交渉し、「政策 z」を実現するという考え方である。

同様に、現世代と将来世代の間の世代間公平の問題について考えてみたい。図4.4-2は、

世代間公平とパレート最適を示した社会的無差別曲線である。ここでの「政策x’」は、「将 来世代のことを考慮せず、現世代においてHLW処分施設を建設すること」とする。「政策

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y’」は、「現在の状態」、あるいは、「現状維持政策」とする。この図の場合、「政策x’」は、

資源配分としては「ほかの少なくとも一人の効用を引き下げない限り、誰の効用も引き上 げられないようになっている」状態であることから、パレート効率的な選択と言える。し かし、将来世代にとっては不公平な選択である。それに対し、「政策y’」はパレート最適で はなく、すなわちパレート効率的な選択ではない。

図4.4-2 世代間公平とパレート最適

出典:筆者作成

当然のことながら現時点において将来世代は存在していない。また、将来世代と言って も、とりわけ、HLW 問題においては超長期にわたって相当の数の将来世代が続くことと なる。鈴村(2006)は、将来世代において存在する人びとの規模と構成は、現世代の行動 によって発生する経路次第で全く異なるものとなり、したがって、現世代が意思決定を行 う時点での将来世代は不確定であり、将来世代の「人格の非同一性問題」を提起すると指 摘している。鈴村(2006)は、長期にわたる環境的外部性の論脈において、この人格の非 同一性問題のために、現世代の政策の選択にとってパレート原理は完全に無力となると指 摘している。これは、代替的な政策の結果によって、将来世代において存在する人びとの タイプや規模は異ってくるため、長期的な環境的外部性の影響を受ける関係者の選好に照 らして代替的な政策の是非を判断することは論理的に不可能となるためである。加えて、

ある政策によって損失を被る人と利益を得る人の間で補償の支払いを認めてパレート原 理の適用を拡大しようとする補償原理や、加害者となる現世代と被害者となる将来世代の 間で直接交渉して外部不経済の内部化を実現し、外部性を解消させることも、加害者とな る現世代と被害者となる将来世代が同時点には存在しないために無力である。

将来世代にもたらされるリスクや環境負荷などの不利益を全く考慮しなければ、現世代 にとって最適な選択である「政策x’」、あるいは、「現状維持」である「政策y’」が採用さ れる可能性が高い。しかし、HLW 問題を解決するに当たっては、現世代と将来世代との 間の世代間公平を考慮に入れる必要がある。したがって、現世代において、将来世代のこ とを考えながら、技術的観点、経済的観点、社会的観点及び心理的観点からマイナスと捉 えられる要素とプラスの要素を総合的に勘案し、世代間公平における分配的公正を確保し ながら価値判断を行う4要素アプローチを採用することが重要である。すなわち、将来世

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