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長崎さるくを主催する側と実践する側の協力と葛藤

第 4 章 住民主体観光の裏面

1 考察

1.1 長崎さるくを主催する側と実践する側の協力と葛藤

ここでは第1章と第4章の内容を要約しながら、研究課題①について考察する。長崎さ

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るくは、日本のまち歩き観光の先駆的な事例として取り上げられてきた。長崎さるくに対 する先行研究の大半は、住民が主体的に観光の企画・実施に参加したことをその成功要因 として挙げ、観光における住民の役割の重要性を強調していた。しかし、そこで論じられ る「住民」とは、誰を指しているのだろうか。

長崎さるくに関して、長崎市がまち歩き観光の主催を決定して予算を投入し、総力を尽 くして住民のイベント参加を呼び掛けて行っていたことを正面から論じる研究はほとんど ない。このイベントで長崎市は多くのさるくガイドを養成し、住民のイベントへの参加を 促した。まちで暮らしている人々の日常的な営みを見せるというまち歩き観光のコンセプ トに合わせ、老舗を中心に商店街の店主には、まち歩き参加者を受け入れる「ホスト」と しての役割を要請した。長崎さるくは観光客に対する地域住民のおもてなしの提供を通じ た観光振興を目標に掲げ、行政は住民のホストとしての参加を促進し、そこに応じた住民 の活動を通じて成立した。

もちろん、そういった住民たちの参加は、行政によって強制されたものではない。1994 年から組織されていた長崎市民ボランティア観光ガイドを含め、年中様々な祭りやイベン トが開かれる長崎市においては、元々地域イベントに積極的な住民が多く、彼らはこれま で関わってきた地域活動の延長線として長崎さるくを捉え、市民プロデューサーやさるく ガイド、ガイドサポーターとして自主的に参加した。また、ホストとなった店主たちは、

長崎の文化や歴史、個々のお店の紹介をしながら、まち歩きツアーの参加者たちと交流が できることを楽しんでおり、さるくガイドたちはこれまで住んでいても知らなかった地域 のことについて、改めて学び、気づくことが多くあったと評価した。すなわち、住民にと っても観光の場を利用したい気持ちはあったため、行政側と住民側は協力的な関係を持ち ながら、まち歩きイベントを成し遂げることができた。長崎市が打ち出した「住民主体の 観光」という戦略において、住民は金銭的な報酬を求めず、人々との交流や活動の場を得 ることを通じて、精神的な報酬を獲得することに満足するのが理想的な参加のあり方であ り、この点では行政と一部の住民との利害が一致していた。

他方で、行政に長崎さるくへの協力を呼びかけられた住民の中には、長崎市が都合に合 わせて住民を巻き込み、住民主体という言葉を都合よく使っていることについて、反感や 違和感を持つ人もいた。従来から活動をしていた長崎ボランティア観光ガイドは、さるく ガイドの研修過程において、ガイドになるための時間や努力が少ないと判断し、その結果 ボランティア精神が薄れていったと批判的に捉えた。商店街の店主は観光客が主要な顧客

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ではないため、さらに業務が増える負担や、自分の善意で行ったおもてなしが、ホストと して当たり前に提供すべきものとして捉えられた時に長崎さるくの主催者への反感が生じ ていた。すなわち、「地域のために」という行政の呼びかけや社会的雰囲気に違和感を持ち、

それが経済的・数値的な成果を上げようとする行政側の都合に合ったものだと捉えたので ある。長崎さるくが長崎市の観光事業として企画・実施されたことで、住民の活動の場が 設けられ、ホストとして振る舞うことができたことも事実だが、行政が提示する「ホスト のあり方」について疑問を持ち、自分たちの善意や思いが都合よく使われてしまうと感じ る住民もいたのである。

しかし、2006年のまち歩きイベントが終了した後、まち歩き参加者の数が減少し続けて いった。さるくガイド以外の住民の関心が減り、観光商品としての新鮮さが薄れ、他地域 においてもまち歩き観光が行われ競争が生じる等が、その原因として挙げられる。集客や 収益性が減少していくにつれて、事業を継続することは難しいと判断した行政側と、ガイ ド活動を継続したいガイド間の葛藤が生じていた。行政側は市の補助金を主な税源に運営 される長崎さるくが収益のないまま持続するのは行政事業として負担となり、比較的収益 性のある「学さるく」に取り組むガイドが増えるように促進していた。一部のベテランガ イドは学さるくに力を入れている状況であったが、大半のガイドは自らコースを企画する ことに負担を感じていた。またさるくガイドたちはガイド活動を通してガイド仲間を作り、

ツアー参加者と交流する等、長崎さるくが出会いと地域参加の場として機能していたため、

通さるくが継続できることを望んでいた。ガイドを継続したいガイドたちと、参加者の数 からガイドの需要を考える行政側のずれが生じているのも、両者にとって長崎さるくの意 味合いが異なったためであった。

また、長崎さるくに対するガイドの振り分けや集客、広報を行う長崎国際観光コンベン ション協会は、長崎さるくにおいて参加者が増加しない様々な理由の一つは、ガイドの個 性や力量不足と考えており、ガイドが魅力的であれば、参加者は自然と集まるはずという スタンスを取っていた。それに対しさるくガイドは、行政側がすべてをさるくガイド任せ にしていると不満を表した。

さるくガイドは、ボランティア精神やおもてなしの気持ちを基に活動してきたわけだが、

そういったガイドの善意だけでは、観光客を呼ぶ力にはならず、行政の観光事業として成 立できないのが、現状である。ガイドにはそれ以上の「観光商品」としての魅力やタレン ト性が求められている。2006年に長崎さるく博’06が大勢の参加者を集め、行政とガイド

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両方が満足できる成果を得た際に、両者は協力関係にあった。しかし、観光事業の経済的 な成果が進める側の期待に満たさない場合、以前の協力的な関係性を維持できなくなって いる。

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