第3章 住民同士の「ホスト-ゲスト」としての役割分担
2 ゲストをつくるさるくガイドの実践
2.2 常連の誕生
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諸事情で参加ができない人々が存在していることを意識しており、「市民に2000円、3000 円も高いお金を取ることはできない」ということは、金額が上がることによって、さらに 参加したくても参加費に負担を感じて参加できなくなる人が生じるということを語ってい る。それは、身体的かつ経済的条件で「参加者を限定しない」という意味である。また、
学さるくは「商売」ではなく、「まちづくり」であると捉えられているようである。端的な 例として、黒田さんを含め長崎の風のガイドたちは、学さるくのコースを企画・実施する ために、自分の時間や金を使っている。下見をする時にたち寄りたい店に行って商品を買 ってみたり、食事をしてみたり、またガイド仲間と歩いた後、食事やお茶をしながら打ち 合わせをする。このように新しいコースの企画に取り組んでいるガイドたちは、基本的に 自腹で活動をしている。参加者数を倍増させ、ある程度の金額の参加料を取らない限り、
ビジネスとして成り立たせるには収支が合わない活動なのである。
学さるくには常連の参加者が多く存在しているが、長崎の風においてはガイドする日程 は被らないように設定し、コースごとに意識的に月1回の企画で、定期的に実施するように している。当日は、ガイド以外にも長崎の風のメンバーが1名以上は必ずサポーターとして 参加する。実質的に、ガイドが複数人いるまち歩きツアーになるのである。
黒田さんは2008年頃からいち早く新たなコースの企画に取り組んできた。しかし、最初 は参加者がほとんど集まらなかったと言う。それが何年間辞めずに継続していくと、現在 のように常連ができ、多くの住民が参加するようになったと言う。そのなかで、何年間も 黒田さんのさるくに参加を継続している常連の存在は、黒田さんやガイドたちにとって、
活動を継続できる理由にもなっている。常連たちの熱心な参加に、むしろ案内をするガイ ドが支えられてきた側面もあるのである。長崎市内の様々なところを歩き、もはや案内し 尽くしたとしても、ガイドをすることを辞めることは簡単にできないと考えるのは、ガイ ドと常連の参加者たちがお互いを支え合いながらまちを歩いているからである。その常連 について、次の節で詳しく論じていく。
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を目的にした学さるくに力を入れている。コースは商店街や平坦地等歩きやすい場所で、
1時間30分から2時間程度行われる。60後半から70代の女性が参加者の大半を占めている。
山口さんの「ヒロスケさるく」の場合は、地形を追いながら長崎の歴史の解説をするこ とが主であり、黒田さんのさるくとは異なって、40代から60代、また男性の参加が目立つ。
ヒロスケさるくでは、山に登ったり、3時間以上長距離を歩くこともあり、歩くことに自信 がある人や歴史好きの人が常連になっている。ガイドが学さるくを企画し参加者を募集す る際には、どこをどれくらいの時間とスピードで歩くのかが、参加者を限定する方法にな っている。
二人のさるくの常連参加者の行動において共通した特徴は、ガイドが案内をする道端で、
自らの面白いポイントを発見しながらまち歩きに関わることである。つまり、ガイドから の一方的な案内やサポートを受けるのではなく、自らまち歩きの楽しみ方を身につけ、他 の参加者と言葉を交わし、協力しながら主体的に関わっているのである。
まれに学さるくのファンになり、さるくに参加するためにわざわざ他県から訪れる参加 者もいるが、極めて少数である。例えば、NPO長崎の風のメンバーが案内する「ワンコイ ンさるく」で出会った参加者(60代男性)は、さるくに参加するために宮崎県からバスで 6時間をかけて移動して金曜日の夕方に到着し、土日にさるくに参加して帰ると話した。彼 は歩くことが好きで、宮崎にも素敵な場所は多くあるが、さるくのようにガイドと参加者 が一緒に歩くプログラムはないため、年に数回はさるくに参加するために、わざわざ長崎 に訪れると語った12。このようなタイプの参加者は、長崎について関心や愛情が高く、長崎 についても詳しいため、一般的な観光客とは異なる行動をとる。要するに学さるくは、あ る意味「長崎通」が参加しており、参加を継続することにより、さらに通になっていく。
そういう意味では、長崎に住んでいても、地域について関心が薄い住民よりも、長崎の地 理や歴史について詳しいかもしれない。
12 フィールドワークの過程において、長崎さるくに参加するために、わざわざ他県から訪れ た人に会ったのは、たった2回のみである。宮崎県からの参加者の他、年4回行われる「猫さ るく」に参加するために、千葉県から電車やバス等を利用して参加した参加者(40代男性)
に出会ったことがある。彼を含めて猫さるくに参加した人々は、猫愛好家が多く、参加者の 半分くらいは何年も参加を繰り返してきた様子であった。千葉から参加した男性は、長崎に 慣れている様子であったし、ほかの参加者とも知り合いのようで、猫さるくを中心にネット ワークをもっていた。
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常連の特徴に関しては、必ずしも参加者がツアーのテーマそのものに興味があるから参 加しているとは限らない。長崎の住民、あるいは長崎が好きな人という風に説明する以外 に、参加者の特徴、また参加した目的やモチベーションを特徴づけることが難しいのであ る。以下の事例では、長崎の教会を訪れる学さるくの様子を描いたものであり、どのよう な参加者が参加し、参加者同士はいかなる会話を行っているのかが伺える。
【事例3-2-2】観光客でもクリスチャンでもない参加者たち
今日のガイドさんは長崎の風の高島さん(70代男性)、山下さん(70代女性)はサポー ター。新大工町の八番神社集合。参加者8名全員女性。集合場所でガイドとガイドサポ ーターが領収書とシールを配る。常連のおばあちゃんは、さるくクルー13の名刺を首 からぶら下げて、「領収書いらない。シールもいらない」と言う。
新大工町から長崎街道を歩いてコルベ神父記念館に行った。天気は晴れで、とても暑 かった。途中歩く長崎街道は何度も歩いたので、ガイドの話が予想できるようになり、
その通りだった。資料館に入って、神父の説明や写真、絵、実際使ったという机を見 たら、その生涯が理解でき、感動することになった。そこで「ガイドさんの話を何度 も聞くより、資料館で一回見た方がいいんじゃないか」と思うようになり、さるくガ イドの意味はどこにあるのだろうかとふと思った。コルベ神父記念館は高台にあり、
ルルドまで行く道は傾斜がかなり急だった。「塩飴も水も飲んだから頑張ろう!」と常 連のおばあちゃんが話した。記念館でいったん休憩をとったので、ルルドまで頑張っ て行こうと言う。「どういうふうにお祈りしたらいいの?」3人の参加者(60代女性3 人組)の中、誰かがルルドの前でそう言った。
もう一人の参加者(40代女性)は、フランスで実際にルルドに行ったことがあるらし く、カトリック幼稚園も出たと話した。しかし他の参加者たちはカトリック信者でも なく、ルルドに興味があるのかどうかもよくわからない。参加者たちは帰りの道の足 下が軽くなって、ともかく「頑張って歩いた」「今日も充実した」「美味しいランチを
13 2018年度から長崎国際観光コンベンション協会が学さるくの参加者誘致を目的に作った制
度である。学さるくの参加者にはスタンプカードを配っており、10回以上参加した人には
「長崎さるくクルー」と書いてある名刺がもらえる。この常連の参加者は2018年8月時点で、
すでに学さるくに10回以上参加している。
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食べよう」という達成感を味わっている様子であった。それは、私も同じだった。
帰り新大工町のうどん屋でガイドさん二人と一人の参加者とランチ。50代くらいに見 える女性は、福岡に住んでいたけど、旦那さんの都合で今年長崎に移住したという。
それで長崎について知らないことが多く、知り合いや友達もあまりいないようだ。最 近さるくについて知って色々と勉強になるからいいと話す。彼女はどこのちゃんぽん 屋さんが美味しいのかと我々に聞いた。私と高島さんと富久美さんは色んなちゃんぽ ん屋を上げた。やはり人の好みは色々様々なので、色々試してみてくださいという結 論になった。(2018年7月14日、「本河内ルルドさるく」調査日誌の中から)(写真3-
2-1)
【写真3-2-1】本河内ルルドさるくで訪れた坂の上の教会
長崎のカトリック教会やルルドに訪れる一見「聖地巡礼」のようにみえるコースである
が、1名の参加者を除き、ガイドも参加者もカトリック信者ではない。教会に行き、カトリ
ック教についてもっと知り、信仰を深めるといった目的のために集まったわけではないの である。筆者に「塩飴も水も飲んだから頑張ろう!」と言った常連の参加者にとって、こ のコースは長崎の教会やキリスト教を知るためというよりは、暑い夏の日に他の参加者た ちと頑張って歩き、交流することがより重要であるようにみえる。
常連の参加者たちにとって、まち歩きのテーマや訪れる場所そのものも重要であるが、
ガイドの話を聞きながら、他の参加者たちと共に行くことが重要である。長崎さるくで訪 れる場所はすべて長崎市内であり、自分でも行こうとする意志があれば、行けないところ