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さるくの後のランチ

第3章 住民同士の「ホスト-ゲスト」としての役割分担

3 まち歩きの楽しさの源泉

3.4 さるくの後のランチ

上述したように長崎さるくにおいては、ガイドと参加者間、参加者同士のさまざまな対 話の生成が生じていた。一方で、参加者たちは名前や肩書きについては話さず、数年間長 崎さるくに参加してきた常連の参加者たちも「○○を一緒に歩いた人」「○○さんのさるく で会った人」としてお互いを認識している。数年間一緒にまち歩きに参加しながらもゆる い関係性を保ちつつ、長崎さるくを通じて定期的に交流をし、最後は美味しいランチを食 べながら締めくくる。以下の事例では、学さるくの後に参加者同士がランチをすることを 取り上げ、学さるくのコースに含まれていないにもかかわらず、食事の満足が学さるくの 満足へつながっている様子を描いている。

【事例3-3-7】さるくに参加してよかった理由

ガイドは黒田さんと平山さん、参加者は12名で全員女性。

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本来の予定は、みぎわほーむ17から市民会館に行くことになっていたけど、1月に雪で 中止になった春徳寺に行くことにコース変更になった。さるくが終わってからいつも のように黒田さんと平山さんとお昼を食べに行った。お昼を食べながら今日参加した 参加者や次の計画について話し合ったりする。「町田さん?今日『参加してよかった~

生きとってよかったね~』ってずっと言ってましたよ。さくらじゃないけど」と平山 さんが常連の参加者がとても喜んでいたことについて話した。すると黒田さんは、「あ の人はね、何年もずっと来てるよ。65歳に退職して、それまでずっと結婚もしないで 働いて。もうあれこれやりたくて時間が足りませんって言ってたもん。」と私に彼女に ついて説明をしてくれた。

その話を聞きながら、以前黒田さんが言っていたように、一人じゃなくてチームでさ るくガイドをやることのいいところは、終わってから参加者について、今日のツアー についてお話ができることであるとふと思った。さるくにどんな人が来て、どんな話 をしたのか、お互い話し合うことができる。それで参加者についても理解していくこ とができる。しかし一人でやると、終わってからも話す同僚がいない。そう思いなが ら、いつもの500円定食の魚屋さんに入った。今日参加した3人(70代女性)がすでに 入っていた。入る時に目が合って、軽く挨拶をした。

黒田さんは「あの3人はいつも終わったらここでランチ。さるくが終わったらみんなご はんも食べて、この辺の商店街で買い物もして帰る。さるくでまちにお金が落ちるの さ。終わったら(そのメンバーのどなたかは)お母さんの介護。」と私に静かに説明を してくれた。食事が出て、食べていると、先に食事が終わった参加者の3人が私たちの テーブルの方にきて、飴をくれた。私にだけお菓子もくれた。「今日本当に良かった。

参加して。春徳寺も行ったことなかったし、ここ(500円魚定食屋)も初めて(他の参 加者に)連れててもらって!お得だった!」と一人の参加者が黒田さんに感謝を言い ながらお店を出て行った。私は参加者の挨拶を聞いて、「え、ここに来たのが楽しかっ た理由の半分ですね。」と言い、黒田さんは次のように答えた。「それでいいさ。それ

17 正式な名称は、社会福祉法人白之会地域密着型特別養護老人ホーム「みぎわほーむ」であ る。2017年度から黒田さん、大塚製薬と協力して学さるくを行っている。みぎわほーむのス タッフが最初の準備運動のインストラクターに努め、歩くことが不便な人でも参加できるよ うに、ゆっくり歩くことを試みている。

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であの人は今日一日『楽しかった~』っていい気分で過ごせるだろ?さるくってそれ でいいさ。人の満足って不思議だよね。人はね、だいたい高いところにいくと満足す る。高いところに上っていい景色を見ると気分がよくなるんだよな。韓国でもさ、観 光客行ったらかならず南山に行くでしょ?『ここが一番きれいに景色が見れます~』

とみんな満足するでしょ。韓国人でも日本人でも、人って基本的に同じところがある んだよね」。(2018年4月19日、「みぎわほーむさるく」調査日誌の中から)

みぎわほーむに参加した参加者は、参加してよかった理由について、春徳寺に行ったこ

とと、500円の魚屋定食に行けたことを挙げていた。春徳寺はガイドや他の参加者たちと一

緒に訪れた場所であるが、500円定食の魚屋は今回のみぎわほーむさるくと実は関係はな い。まち歩きの途中に訪れたり、その店を紹介したりする等、コースのネタとしてガイド が仕込んだわけではない。他の二人のさるくの参加者に連れていってもらい、初めてその お店のことを知ったわけである。要するに、彼女にとっては参加者たちとランチを食べる こともさるくの一部として捉えているのであり、食事の場でのおしゃべりの延長が充実感 を高めたのである。2時間まちを歩きながら、ガイドや他の参加者とおしゃべりをし、新し い話を聞き、体を動かし、最後は美味しいランチを食べて、買い物をして帰る。それらす べての過程が、参加者たちにとっては「さるくに参加すること」なのである。

4 小括

本章では、長崎の歴史や文化に馴染みのある地域住民が、なぜ同じ地域の住民ガイドが 案内するまち歩き観光に参加するか、またさるくガイドと住民参加者間の「案内する/案 内してもらう」関係は、なぜ、どのように成立しているのかという問題意識から、住民同 士がガイドと参加者両方の立場でまち歩き観光の場を形成しているあり方を検討した。そ して彼らは地域内で楽しめる「非日常的な体験」かつ「非日常的な会話」を目的に参加し ていることを明らかにした。

第1節では、長崎さるくにおいて「観光客向け」「平和学習向け」「住民向け」と参加者 の属性と目的が異なる3つのタイプのまち歩きが実施されていることを述べた。ガイドと 参加者、参加者間の会話の形式という観点から、平和学習向けの場合、ガイドと参加者の 関係性は「教える/教えてもらう」という関係性が設定されており、ガイドと参加者は質 疑応答をするようなコミュニケーションを行っていることがわかった。それに対し、住民

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向けのまち歩きツアーの場合、ガイドと参加者、参加者同士の関係性は比較的フラットで あり、まち歩きの途中で生じる偶然の出会いを題材に、さまざまな会話が生まれていた。

第2節では、まち歩き観光における参加者側の実践に焦点を当て、彼らの言葉や行動を 分析した。まず、参加者は物理的にアクセスできる場所に住んでいながらも、訪れること のなかった地域内のある場所を、学さるくを通じて訪れることができ、そこから観光にお いて重要とされる「非日常的な経験」を得ていた。すなわち、日常的あるいは非日常的場 所は、物理的な要因のみで決まるのではなく、社会的・心理的要因により大きく影響を受 けることを示唆した。また、参加者たちはガイドから一方的なサポートを受けるのではな く、ガイドに協力的でありつつ、主体的にまち歩きの楽しさを身につけ、実践していた。

そこで、まち歩きの楽しさを身につけるというのは、「会話する態勢を整える」ことであっ た。

第3節では、まち歩き観光の楽しさの源泉とは何かに焦点を当て、参加者間に対し「何 もない話をする」といった、さるくガイドのコミュニケーションの実践が重要であること を述べた。そのため、さるくガイドはその都度の状況を敏感に観察し、参加者とコミュニ ケーションをとるタイミングをつかむことが必要であった。また、歩くことは偶然の出会 いを容易にし、人々の会話の生成も容易にさせるだけでなく、そういった偶発的な要素が 旅の思い出になっていた。そこですでに偶然の出会いの重要性を認識しているガイドは【事 例3-3-6】の夜景さるくの事例で述べているように、学さるくを企画する段階でクル ーズ船の入港日や天気を調べておく等をしながら、偶然を装い、参加者たちの気分を高揚 させる努力もしていた。

まち歩きの途中で見られる参加者同士のやり取りを取り上げ、まち歩きのテーマと関係 のない会話をかけてくる人に恥をかかせたり否定したりすること、またそういった会話を ノイズのように扱うことは、暗黙的なルール違反とされる。そのため、ガイドの解説以外 にも様々なところで同時多発的に会話が生じ、容認される。このような会話のルールがう まく維持される理由の一つは、ツアーの中に複数のさるくガイドが存在するためである。

表面的には一人のガイドと複数の参加者で構成されているが、コミュニケーションの実態 を見ると状況に応じてホスト-ゲストを往復する場合が生じている。とくに実際にさるく ガイドとして活動している人、長年関わってきた常連の参加者は、ゲストとして参加した 場合でも、状況によってはホストとして振る舞うことがあり、一人の参加者の中で二つの 役割が混在しているのである。そこでゲストは、ホストの会話の実践に対して友好的な反

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