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平和学習としてのさるく――「ピースバトンの平和さるく」を事例に

第3章 住民同士の「ホスト-ゲスト」としての役割分担

1 まち歩き観光の種類

1.2 平和学習としてのさるく――「ピースバトンの平和さるく」を事例に

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以上「龍馬が見上げた長崎の空」のコースの概要について述べたが、観光客向けのさ るくの特徴としてみられるのは、ガイドの道案内人としての役割の重要性である。バス乗 り場から解散するまで時間配分を顧慮しながら道案内をし、解散をした後も観光客の要望 に応じて案内をする。また、どこでどのように写真を撮ることがおすすめなのかを伝える など、参加者の写真撮影をサポートすることも重要な役割である。ガイドの解説において も、もちろん歴史的な事実に基づいた解説も行われるが、同時にゴシップ的な話や事実関 係が確認されていない観光客の関心を引くような解説も行われる。一方でこのコースの場 合は、さるくガイドたちの証言によると、特に2010年から2011年の間は全国からの「龍 馬通」や福山雅治のファンが多く参加していたと言う。そのため、道案内はもちろんだ が、参加者に解説について指摘されることや、予想外の質問をされることも多く、坂本龍 馬と関わる歴史について真剣に勉強をし、かつ福山雅治に関する情報(通った幼稚園や学 校の位置など)も集めていたという。

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いて重要な名所でありながら、歴史的な事実に基づいた解説と学習を目的に行われるもの である。例えば「アンゼラスの鐘の丘を訪ねて」等、平和公園を中心とした原爆遺構を巡 るツアーであり、そこには日本国内の修学旅行生や原爆の歴史について知りたいという目 的を持った国内・海外からの観光客が主に参加している。そこでは歴史的事実やガイドの 調査に基づいた正確な歴史の解説が求められるが、個人的な意見かつ政治的な価値観は投 影できず、あくまでも中立的とみわれる教科書的事実のみ語られるようになっている。

ここでは、平和学習や被爆体験の継承活動に取り組んでいるNPO法人「ピースバトン・

ナガサキ」(以下ピースバトン)10による学さるくの事例を紹介する。ピースバトンの平和 さるくを事例として挙げた理由は、専門的に平和ガイド・平和学習に取り組んでいる組織 として、ガイドを務めるにあたり専門性や当事者性、妥当性が認められており、原爆をめ ぐる正確な事実を伝えるという目的が明確だからである。長崎さるくとの関係性について は、ピースバトンのメンバーはその専門性からさるくガイドの講師も務めており、学さる くの枠で、年に4回ほど平和さるくを企画している。以下の事例では、ピースバトンによる 平和さるくの様子について述べる。

【事例3-1-2】原爆写真専門家による平和さるく

ガイドはピースバトン・原爆写真部会のメンバーで松田さん(50代男性)であり、サ ポーターは調さん。松田さんは原爆写真の発掘と分析を行っており、その膨大な資料 を基に、調査研究や継承活動を行っている。原爆写真部会の中でも若い世代のリーダ ーとして、「ホープ」と言われる程先輩から期待される人物であった。調さんとともに、

さるくの講師としても長崎さるくに関わっている。

今回の平和さるくの参加者は11名で、全員長崎市民であった。そのうち2名は取材の ために参加した記者であった。全員一人参加のように見え、集合場所ではそわそわし た雰囲気であった。原爆写真の専門家である松田さんは、自ら行った調査を基に、公

10 「ピースバトン・ナガサキ」は代表者である調仁美(60代女性)が2007年に設立した原爆 遺構の継承活動を行う組織である。現在は9名のメンバーが活動しており、平和さるくだけで なく、イベントの開催や毎年6-8月には県内の29か所の学校に訪問し出前授業を行っている。

調さんは、国内外の原爆関連写真を収集・研究する原爆写真部会の会員として、研究活動に も取り組んでいる。

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開されていない写真を題材にしてコースを作っていた。実際にその写真が撮られた場 所に行き、原爆投下前後の写真を比較しながら説明を行った。今回は長崎大学病院の 周辺で行われた。

ガイドと参加者の間の間隔は2メートルほどでかなり離れており、参加者は駆け足で 前を歩いていくガイドの後ろについて歩いた。そしてガイドが止まると、ここで説明 がなされると思い、参加者は聞く姿勢をとった。ガイドが見せてくれた写真から、当 時のことがより生々しく伝わった。ガイドの話を聞きながら、原爆の威力やまちの悲 惨な姿が目に浮かぶようになり、私たちが今歩いているこの道を当時の人々が歩いて いる姿を想像してみた。時々涙を見せる参加者もいた。

ガイドが自ら調査し、どこでも公開されていない写真や解説を聞くことができ、とて も有意義だった。平和さるくの内容とは別に、最初から案内が終了するまで、参加者 全員がほとんど声を出さなかったことがまず印象的だった。質問はしてもよかったの かもしれないが、参加者が何かを発言するタイミングはなく、ガイドの説明をひたす ら聞くことになっていた。私自身も特に話すべきことはなかったし、ガイドの邪魔に なるかもしれないと思ったので、終わるまで一言も話さなかった。

参加者間においても交流しようという雰囲気が形成されていなかった。2時間の間に 誰とも会話をしなかったし、どんな人が参加したかのかも知らない。そういう雰囲気 だった。後半になってから後ろで大きな声で二人だけの会話をしている女性二人が若 干うるさく感じるくらいだった。決まったテーマに沿ったもの以外の話は、「ノイズ」

のように感じた。そうしてみんなが静かにガイドの話を聞いた。しかしそれで退屈だ ったとか、つまらないとは思わなかった。知らなかったことを整理して教えてくれた し、面白い授業を受けたような気分になり、色々学んで帰ることができたという充実 感もあった。(2018年2月3日、「ピースバトンの平和さるく」調査日誌の中から)

このように平和学習としてのさるくにおいては、長崎の原爆投下の歴史的事実について 学ぶという明確な目的が設定されている。そこで参加者はガイドの話を聞き、ガイドから 知らなかった情報を教えてもらう。講師と生徒のような「教える側/教えてもらう側」と しての関係が形成されるのである。暗黙的に参加者がガイドに発言するのは質問の機会の みであり、ガイドの話に反論をしたり、ガイドが知らないような話を教えるという行動は

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基本的にしない11。そもそもガイドより知識が豊富であり、教えてもらうことがないと思 う人は参加しないはずである。また参加者同士で雑談をしないことや笑わない、真剣な姿 勢で応じる等の参加者のパフォーマンスは、観光や遊びとして参加していないことを示し ている。同時にガイドから参加者へと情報を伝達する構図は最後まで崩れずに維持されて いくため、参加者はガイドの話を聞くこと以外の平和学習とつながりのない話や行動はノ イズとして捉えられてしまう。

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