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長崎さるくの新たな方針をめぐる行政とガイド間の葛藤

第 4 章 住民主体観光の裏面

3 長崎さるくの新たな方針をめぐる行政とガイド間の葛藤

2006年の盛況を取り戻すための行政の対策は、効果的に作動せず、行政側とガイドの間 の葛藤はさらに深刻化していった。

第2節で述べている内容に加えて、長崎さるく博’06 から12年目となる2018年度より、

長崎さるくにおける行政側の体制に大きな変化があった。「通さるく」の定時出発を廃止し、

完全オーダー制にすること以外にも、観光施設に常駐しながら来客の希望に応じて案内す る「常駐ガイド」を、各施設が運営することになった。そして、さるくガイドから「長崎 平和ガイド」を分離した。それと同時に、長崎さるく業務を担当する部署の「国内誘致・

さるく推進部」において、修学旅行を担当する「長崎平和ガイドサポート事務局」が新設 された21

21 さるくガイドに、さるくガイドから平和ガイドを分離して運営することに対する説明と、

平和ガイドを並行するか、どちらだけをするかという意思を聞くアンケートが届いた。その 結果は、213名からの回答のうち、さるくガイドのみ活動を希望するガイドは135名、平和案 内人のみ活動を希望するガイドは17名、兼任者は61名であったと言う(2018年2月5日基準)。

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これらの新しい方針は、通さるくや常駐ガイドに対するガイド業務を最低限に減らし、

需要の多い修学旅行業務により力を入れることである。こういった変化の背景には、参加 規模の違いがあろう。2017年度の修学旅行生への案内実績は、416校35,510人であった のに対し、2017年度の通さるくと学さるくを合わせた参加者数は9,582人で、修学旅行生 による参加者数の方が 3 倍以上を上回る。実際にこういった事情を踏まえ、『長崎市観光

振興計画2020』でも、「修学旅行の誘致強化」が効果的な情報発信の具体的な施策として

挙げられている(長崎市 2016)。

施設常住ガイド業務は、出島、グラバー園、軍艦島、亀山社中この4か所を長崎国際観 光コンベンション協会がまとめてガイドの振り分けを行ってきたが、出島は「長崎市出島 復元整備室」が、グラバー園は「長崎市観光政策課」が、軍艦島は「やまさ海運株式会社」

が運営を担当することになった。亀山社記念館は休止となった。

こうしたな長崎さるくの運営方針の変化について、2017年度から長崎さるくガイド全体 会議で論議がなされた。事業を縮小していくという方針に対し、200 人近くのさるくガイ ドが集まる全体会議では、行政側に対する不満をぶつけるような発言が多く見られた。そ こで長崎市が長崎さるくの今後の方針について発表をした 2017年 9 月 29 日の全体会議 において、さるくガイドの「再登録の要件」をめぐる論争が起きた。

「修学旅行ガイド、常駐ガイド、まち歩き専門のガイド」とガイドを3つに分け、組織 を再編するために、ガイドの希望に応じた再登録を要請することが要旨であったが、その 再登録の要件に書いてあった、①体力に自信がある方、②「おもてなし」の心を持ってい る方、③携帯電話で連絡が取れる方、この3つの条件に対する不満を表すガイドがいた。

以下の事例は、さるくガイドや長崎市観光政策関係者、長崎国際コンベンション協会の長 崎さるく関係者が参加する全体会議で行われた行政とさるくガイドのやり取りであり、長 崎市による長崎さるくの新しい方針に対するさるくガイドの不満や不安が伺える。

【事例4-3-1】長崎さるくの方針変更を巡ったガイドと行政の葛藤

①2017 年 9 月 29 日 長崎さるくガイド全体会議議事録22

ガイド 再登録の要件について「体力に自信がある方」とはどこまでか。「携帯電話で

22 長崎国際観光コンベンション協会が作成し、各さるくガイドの自宅へ配布したものであ る。

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連絡が取れる方」とあるがプライバシーも関わるので困る。公的なものに使うのは疑 問がある。

事務局 体力については、お客様にストレスを与えず、お客様のペースで一緒に歩い て頂けるのであれば大丈夫。携帯電話については、緊急の際に必要。普及率も伸び、

お客様も持っているのが当然と思っている。切にお願いしたい。

ガイド さるくガイドは、市民が参加できるようにというところからスタートしてい る。登録の条件について運営側の希望はわかるが、制限しすぎではないか。それぞれ が自由に参加できる形をとってはどうか。

②2017 年 11 月 20 日 長崎さるくガイド全体会議議事録

ガイド さるくガイドの再登録にある3つの絶対条件だが、「携帯電話がないとでき ない」というのはおかしい。次善の策を考えるべき。排除の論理みたいな受け取り方 を私はしてしまう。現に今の形でもできている。ガイドに「協力してほしい」と言っ ているがガイド側の協力もしてほしい。事務局は緊急の場合だけを設定している。

99%緊急の場合はない。もう一度考えてほしい。

事務局 10 年さるくを続ける中で、今色々な見直しや改善を行っている。この1つが 緊急時の対応である。想定される事態にはできるだけ対応できるようにするというの が基本的な考え方。さるくに参加するお客様の緊急時には、ガイドの皆さんに対応を お願いせざるを得ない。次善の策となると、長崎市や事務局で携帯を用意すべきじゃ ないかということかもしれないが、幸いにもガイドのほとんどの方が所有されている。

そのため、ぜひガイドの皆さんにご理解とご協力をいただいて、緊急時の対応をより 万全にしたいという趣旨である。

ガイド 学さるくで排除される人をカバーする仕組みを考えてほしい。

長崎国際観光コンベンション協会によると、さるくガイドのうち、携帯電話の登録がな いガイドは20名程度であるという。その中には携帯電話は持っていても、「電話をしない でほしい」という人もいるようであり、そういうガイドには自宅へ電話することになって おり、必要時に素早く連絡を取れないこともあったようである。大半のガイドは携帯電話 を持っており、それについて不満をぶつけるガイドを批判するガイドも多くいた。ただし、

問題は一部のさるくガイドたちは、自分たちが排除されていると感じており、そういった ことに非常に敏感であることである。「体力に自信がある」基準は何かを聞くことには、高

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齢でガイドができないのかもしれないという不安からの質問であろう。

また、学さるくの手数料をガイド料金10%から 1人当たり300 円に値上げする方針に ついて、学さるくを実施していたガイドたちは、不満や失望を現わしていた。多くの人々 が手軽に参加することを願って500円に設定した参加費を継続できないか、ガイドが負担 することになる23

一方で、自ら学さるくを企画して実施したいけどできないという認識を持ったガイドた ちもいた。「専門的なガイドを養成する」ことや、「学さるくに力を入れる」という行政の 方針に対しても、学さるくで活躍している一部のガイドたちは、ガイド研修を通じたわけ ではなく、個人の努力や持ち前の個性によって参加者たちを継続して集め、ガイド活動を 継続している。そこで、一部のさるくガイドは通さるくは実質中止になりガイド活動の継 続が難しくなった一方、自ら新しいコースを企画・実施する自信や一緒に活動する仲間が ないと考えていた。そういった複雑な気持ちはガイドとして活躍できる場を継続させてく れないという風に行政に対する不満として表現された。行政が自分たちの足切りをしてい るという認識であった。以下の事例では、さるくガイドたちの失望感を表す会話を取り上 げる。

【事例4-3-2】通さるくの縮小に対するガイドたちの声

18 時から始まった常駐ガイド説明会には、200 人くらいのガイドが集まり、会場がい っぱいになった。グラバー園、亀山社中記念館、出島、軍艦島の施設ごとの方針の説 明が行われた。出島の担当者は、2018 年 4 月からは、「定点ガイド」確立と「有料ツ アーガイド」試行、2019 年から定点ガイド英語研修と有料ガイド確立、2020 年は、

NPO 組織など、ガイド運営組織の自立と外国人のおもてなし実践を今後の方針として 説明した。今後 3 年をかけて、出島のガイド業務を担当する新しい組織の立ち上げを

23 長崎さるくに対する新しい方針が発表された全体会議の後、さるくガイドKさん(70代男性)

とLさん(70代男性)は、長崎市や長崎国際観光コンベンション協会に対し、「貧乏人を意地悪」

「我々をなめている」「涙が出そう、泣けそうになった」「こんな風に(さるくガイドを)つぶ していっちゃだめ」「俺はあの場(全体会議)では話にならないから、手紙を書くつもりだ」と 悔しそうに述べた。(2018年1月20日、「さるくガイド全体会議の後の飲み会」調査日誌の中か ら)

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