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ガイドの当事者性

第 2 章 長崎市におけるガイド事業の経緯とガイドにとってのガイド活動の

3 ガイド活動の精神的報酬について

3.1 参加者とのコミュニケーションを通じたやりがいの実感

3.1.2 ガイドの当事者性

他方で、平和学習を目的に長崎に訪問した日本の小学生に対し、筆者がガイドをすべき 理由や妥当性は説明しにくい。しかしガイドになるべき資格よりも、ガイド本人の意思や 努力、裁量を重視しているのがさるくガイドの特徴であり、筆者のガイド体験もそのよう な特徴をなぞる結果となった。

長崎においては「継承の会」という被爆者の組織があり、彼らは長年修学旅行のガイド や講話等を実施している。その他にも長崎平和推進協会が主催となった「平和案内人」と いう原爆遺構の案内を専門にするガイド組織も存在している。その中でさるくガイドは、

平和案内をすることに対する正統性が欠けているように見えるのも事実であり、特に被爆 者からの批判も受けてきたとも言われる。被爆者、すなわち当事者でなくても平和案内が できるのかどうかということはさるくガイドの間でも共通した問題意識であった。

実際に筆者は平和案内のガイド集合時間に現役時代に長崎大学病院で務めたことを明 かしたさるくガイドBさんに、次のような話を聞いたことがあった。Bさんは「永井先生チ ームで救護活動をした人の話を聞いてきたことは他のガイドは持ってない強味である。ま た山口仙二さん(長崎原爆の被爆者であり反核平和運動家)が隣に住んでいたお兄さんだ

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った。私は戦後生まれだけど、周りにそういう人がたくさんいた。大人が言わなくても、

彼らとはにこにこしながら接するというのが、子供の心にあった。私は被爆2世だけど、あ あいうふうに見て生活してきたわけで、そういう話もできる。しかしあなたはできない。」

と筆者に話した。しかし、原爆2世として間接的に原爆を体験したというBさんは、筆者よ りは原爆に関わるさまざまな体験をしたわけだが、原爆を直接経験した被爆者からすると、

Bさんのガイドとしての正統性も足りないだろう。

それではガイドの条件とは何だろうか。第2節で紹介したさるくガイドの井手さんは佐 賀県出身であり、原爆が落ちた当時、学校のグラウンドから原爆投下によるキノコ雲を目 撃したのだが、貧しい生活でお腹が空いている日が多く、キノコ雲がかぼちゃに見えて友 達と「かぼちゃを食べたいな」と会話をした記憶があると言う。井手さんは平和案内をす る際に、最初に被爆者ではないことを明らかにしたうえで、キノコ雲を見た幼い頃の記憶 を語ると子供たちはその話に納得し、最後まで一生懸命自分の話を聞いてくれたと証言し た。また東京出身であるさるくガイド黒田さんも被爆者ではないが、被爆を体験したから こそ話せることはあるが、そうではないからといってガイドができないわけではないと次 のように語った。

【事例2-3-2】被爆者じゃなくても平和案内ができる

黒田さん (筆者が)自信持ってもいいのが、ガイドを始めた時に、「黒田さん被爆者 やねん?」って聞かれたのさ。でも東京大空襲だって100万人死んでると。原爆は経験 してないけど、戦争の愚かさとか平和の大事さとかは、被爆者でないからと言って話 せないことはないよね。今の他の国では戦争が起きている。「原爆の犠牲者じゃないと 大丈夫か?」と子どもたちに考えさせる。そうすると「いや、違う」と言うわけ。人 間は被害を受けると自分が一番被害者だと思ってしまうから。とくに長崎や広島のガ イドさんたちはそうだよね。(2017年11月30日、「被爆者ではないガイドの平和案内に ついて黒田さんと会話」調査日誌の中から)

当事者であるからこそ語られる話は、当事者ではない人の話よりも説得力があり、感動 を与えられる力が強いかもしれない。しかし、上記の事例からわかるように、戦争の愚か さや平和の大事さというのは当事者のみ語られるものではない。黒田さんは多くのさるく ガイドや被爆者は、子どもたちにたくさん教えてやろうと思い、たくさん話すのだが、子

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どもたちが生きていくなかで、修学旅行が彼らにいかに役に立つのか、長崎での体験がい かに深く印象に残るのかが重要だと語った。井手さんや黒田さんは被爆者ではないものの、

それぞれ異なる体験から平和について語っていた。さらに黒田さんはさるくガイドの役割 は、子供たちに長崎の被爆について教えることではなく、修学旅行として訪れた長崎での 体験をいかに印象深くするのか工夫していた。

平和案内以外にも、ガイドの当事者性が問われがちな観光は、2018年に「長崎と天草地 方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産に登録されることによって話題になっている長 崎の教会に関するガイドツアーである。世界遺産登録に合わせ、観光客の増加を予想した 長崎国際観光コンベンション協会は、関連したさるくガイド研修を主催したことがあった。

その際の講師は外海(そとめ)地域の観光ボランティアガイド組織の会長(60代男性)が 務めたが、彼は外海出津町の隠れキリシタン帳方(ちょうかた・隠れキリシタンのリーダ ー的存在)の子孫であり、コミュニティのリーダー的な存在でもあった。外海観光ボラン ティア組織が運営するガイドツアーでは、隠れキリシタンの子孫やシスターから詳しい歴 史や教会の案内を受けることができる。そこでさるくガイドはどのような役割を果たせる のか。以下の事例では、ガイド研修を受けた後のさるくガイド島崎さん(70代女性)との 会話であり、当事者ではないさるくガイドがどのような役割ができるのかについて語って いる。

【事例2-3-3】隠れキリシタンではないさるくガイドができること 筆者 さるくガイドさんがここを案内することってありますかね?

島崎さん いやー、外海のガイドさんがいるからね。こうして話を聞くけど、自分が いざ本当にガイドになるとは思わなかったから、聞いても覚えきらんね。

筆者 今日来てみて、隠れキリシタンの子孫とかシスターさんに話を聞きたいなと思 いましたね。だから多分私とかさるくガイドさんの出番は少ないかなと思いましたね。

島崎さん そうだね。自分がカトリック信者であるとか、詳しい人ならね。でも世界 遺産になったからちょっと行ってみたいなと思う人にはね、私たちでも案内できると さね。(2018年8月3日、「さるくガイドスキルアップ研修外海編でのガイドの役割に関 する会話)調査日誌の中から)

近年長崎では聖地巡礼が盛んに行われている。当事者であるカトリック教徒や神父、シ

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スターの話を聞くために国内外からの聖地巡礼者が訪れている。それに対し、当事者では ないさるくガイドはまち歩きツアーの参加者に、どのような体験を提供し、どのような話 を伝えることができるのだろうか。ガイド研修を受けたさるくガイドは、聖地巡礼をする 信者を案内することはできないだろうが、観光客や地域住民は案内できると考えていた。

実際に島崎さんが所属しているNPO法人長崎の風(3.3.1を参照)では、長崎の教会をめぐ る学さるくを企画しており、そこで彼女は住民を案内している。

さるくガイドは当事者でも、専門家でもない。彼らがガイドをするべき理由や資格は、

客観的に説明しにくい。しかし、長崎さるくの参加者たちは、さるくガイドの非当事者性 や非専門性を認めており、その中で様々なコミュニケーションを実践している。長崎さる くにおいては、関係なさそうな人との関係なさそうな会話が行われており、そこから予想 しなかった新しいコミュニケーションが生まれているのである。

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