• 検索結果がありません。

ガイドと参加者間の役割の揺らぎと偶然性

第3章 住民同士の「ホスト-ゲスト」としての役割分担

3 まち歩きの楽しさの源泉

3.3 ガイドと参加者間の役割の揺らぎと偶然性

これまでの記述を通じて、長崎さるくにおいてまち歩きの楽しみ方といったものを住民 の参加者たちが共有しながら、継続している様子がうかがえる。もちろん住民の参加者と 言っても、参加する頻度や関心のあるコース・ガイドはさまざまである。長く参加してい る人は、長崎さるく博’06から10数年にもなるが、数年参加を継続した参加者同士であって も「○○さんのさるくで一緒に歩いた人」であり、名前や肩書きについてはお互い聞くこ とも話し合うこともなかなかない。「顔は知っているが、名前は知らない」関係性で数年を 継続している。ゆるい関係性を保っているガイドと参加者たちは、まち歩きに参加すると 同時に、「会話する態勢」をとるわけであるが、お互い知らない関係であるにも関わらず、

会話が生まれやすい理由の一つは、ツアー参加者の中にすでにガイドが複数いるからであ る。以下では、2つの学さるくの現場を取り上げる。【事例3-3-5】の①では実際にさ るくガイドとして活動している人々が他のガイドのまち歩きにも参加している様子、そし て事例②ではガイドではない参加者がガイドのように振る舞うことについて記述していく。

【事例3-3-5】ガイドが複数いるまち歩き

①ガイドは黒田さん。参加者は50人でそのうち男性は5人。ほとんどが常連の参加者。

さるくガイドさんも混ざっている。後ろの方で歩いていたら、帽子をかぶった参加者

(60代女性・さるくガイド)が隣の参加者(60代女性)と話していた。そして私に向 かって「この人もさるくガイドさんだよ。だから、さるくの中にはガイドさんがたく さんいるから、後ろで説明を聞きながら行く。」と話す。彼女が紹介したガイドさんは、

138

さるくガイド歴11年で、夜景ナビゲーター16もやっているという。退職をして、体調 崩した時にさるくガイドというのを知って、やってみたという。現在ホテルの洗い場 でお仕事をしているという。さるくが終わった後ビールを飲むのが楽しいと言う。ガ イドはずっと前で歩いており、我々はそういう話をしながら、後ろからついて歩いた。

道路沿いを歩く時に、さるくで数回会ったことのある常連の参加者(70代男性)が私 に声をかけてきた。「あのビルあるでしょ。あそこが、僕が結婚式を挙げた場所です。」

と、いきなり私に自分の結婚式場の跡を教えてくれる参加者。現在は結婚式場は残っ ておらず、他の店になっていた。「そうなんですね」と私は話を聞いた。(2018年3月 17日、「大塚製薬シニアさるく」調査日誌の中から)

②ガイドは黒田さん、参加者は37名、そのうち男性は3名。黒田さんは「今日は大人の 修学旅行です。みなさんここによく来られますか?」と言いながら、挨拶を始める。

参加者の間では「10年ぶり」「いやー」「新しくなる前にきた」という声から聞こえる。

そして「今日はさるくガイドさんがたくさんいらっしゃいます。なんかしゃべり出し てきたらさるくガイドさんだと思っていいです」という。今日は長崎の風のメンバー が何人か見える。そして3年間一緒に関わってきた大塚製薬の担当者が福岡に転勤す るらしく、今日最後の挨拶をした。「黒田さんと一緒にみなさんを喜ばせようと考えな がら、自分も成長させていただきました」と挨拶をし、参加者の皆は拍手をした。5-6歳くらいの息子さんも連れてきて、おばあちゃんたちに大人気。

黒田さんは「まず、黙礼をしてから始めようと思います!お願いします!」と黒田さ んが言い、「向かい側の山が約400mで、8月9日に落ちた原爆はあの山より高い上空 500mで炸裂しました」とイメージさせながら説明した。そのあとは原爆資料館に入っ て、自由に見学し、その後民俗博物館でも自由に見学をした。原爆資料館を見学した 後他の参加者たちは民俗博物館に移動していたが、遅れていた参加者がいて、一緒に 移動しようと思い、待っていた。遅れていたのは、二人の男性(70代1名と80代1名)

だった。私と三人で民俗博物館に向かいながら、二人の参加者は私に自分の体験を語

16 長崎市は夜景観光活性化プロジェクトの一貫として2011年から「長崎夜景観光バス」

の運行を開始したが、夜景ナビゲーターは、夜景案内をするボランティアバスガイドであ る。2012年には長崎の夜景が、モナコ、香港とともに世界新三大夜景として指定され た。

139

りだした。「昔懐かしい、昔見た写真がたくさんあってね。」と、昔のことを考えなが ら時間が経つことも忘れたみたいだった。「当時姉が三菱工場に働きに行ってね、その 前の三日は危ないから行かなかったけど、何もなかったから、9日に行ったわけさ。俺 は母と姉を探しに行って、これが姉だって、母が言って、でも当時はみんな自分たち の骨だっていうわけさ」と、被爆当時の記憶を話してくれた。原爆を経験した当事者 がこんなにも近くにいると思いながら、今戦争や原爆のことは忘れられているように 思ったけど、実は長崎にはまだ経験者が大勢いるんだと改めて実感した。(2017年11 月11日、「大塚製薬シニアさるく」調査日誌の中から)

この2つの事例において、長崎さるくで活動している複数のガイドたちが、黒田さんの さるくに参加者として参加していた。そして常連の参加者たちは彼ら・彼女らがガイドで あることを知っている。とくに40-50名程の大勢の参加者が参加しているシニアさるくに おいては、さるくガイドの参加者としての参加は、ガイドの解説を補完する役割にもなり、

ガイドの黒田さんが全体的な運営をし、他のさるくガイドたちはサポーターのような役割 を果たしていく。例えば、後ろの方から歩きながら、ガイドの話に加えて情報を伝えたり、

後ろから車や歩行者が来ると、注意を促す。一方でそういった役割を、常連の参加者たち も行っているのが見える。常連の参加者たちは、自分の経験、過去の思い出をさりげなく 他の参加者に語る。そこで聞き手は、必要ない情報やノイズとして捉えるのではなく、「こ ういう人がいるんだ」「こういうことを考えているんだ」という風に会話を受け入れる。そ ういった他の参加者からの会話の試みと受け入れを通じて成立するのが、第3章3節1項で 述べた「非日常的な会話」である。

このような参加者たちの会話の実践は、ガイドの役割を補完し、参加者同士の会話を促 進させていく。ガイドが果たすべき一部の役割を、参加者たちが担っているのである。そ のため、参加者の発言にガイドや他の参加者が共感したり、感動することはまち歩きにお いて頻繁に生じる。すなわち、ガイドが企画したコースの内容や構成、ガイド個人の人柄 に加えて、参加者が他の参加者と会話をする態勢に入っているのがどうかということが、

まち歩きにおいては重要であり、どのような参加者が参加するのかによって、その時の雰 囲気や盛り上がり方が変わるのである。

こうした参加者の役割の重要性について認識し、フィールドワークの時に実験を行った ことがある。以下の事例では、個々の参加者の性格によって、まち歩きの現場の雰囲気は

140

変わるのではないかという問題意識から、筆者が意図的に行った観察結果である。いわば

「ノリが良い」参加者の働きを中心に、ガイドと参加者、参加者同士、参加者とまちの人 の関係性を描いている。

【事例3-3-6】ノリノリの参加者の重要性

フィールドワークをしながら、長崎さるくとは直接関係はないが、「グリーンバード」

というゴミ拾いのボランティアをやっている20代から40代の人々と付き合う機会が あった。仕事をしながら、ボランティア活動や地域イベントに参加している活発的な 人々であり、そこで私は仲良くなったゆきね(30代女性・長崎出身)とてらちゃん(20 代女性・関東出身)をさるくに誘うことにした。なぜならば、二人は新しい人間関係 を作ることにとても興味があり、明るい性格でおしゃべりだからである。年配の人々 との楽しくコミュニケーションできると思い、まち歩きを盛り上げてくれるのではな いかと考えたからであった。きっと黒田さんとも仲良くなれると思った。

黒田さんと平山さんがガイドをする「鍋冠山夜景さるく」に参加。参加者10名。集合 場所に向かう途中、斜面エレベーターの前の広場に20代後半に見える男性がベンチに 座っていたが、1匹の猫が男性の膝の上で良い顔しながら寝て、もう一匹は彼のカバン の上に座っていた。私は「持ち主ですか?」って聞き、その男性は「いいえ」と答え る。そこでみんなが爆笑し、「何てなれなれしいねこなんだ!」「絶対めすだわ!」と ゆきねとてらちゃんと私は、さるくを出発する前からハイテンションになっていた。

17:00 レストハウスで集合、出発。10人の参加者と黒田さん、平山さんガイド二人、

12人がグラバー園まで行くエレベーターに乗った。ぎゅうぎゅうになって、エレベー ターが混雑していますという案内に、黒田さんは「上から見てますよ」と言い、てら ちゃんは「セクハラ防止だわ」という。

17:10 グラバー園の入り口。冬イルミネーションで夜間運営をしている。下から入る こともいいけど、エレベーターに乗って、下に降りていく方が、いい景色が見えると。

「なるほど」「確かに!」と黒田さんの話(大した話ではないかもしれないけれど)に 参加者たちがあいづちをした。

そして、鍋冠山に向かう。今日は太陽がとても赤くてきれいに見えた。ゆきねがめっ ちゃいい!もう満足!十分十分!!」と大きく反応した。すると、黒田さんは嬉しそ うで驚いたそうで笑顔で「今日は太陽がいいですよ!満足しましたか。じゃあお客さ

関連したドキュメント