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観光客向けのさるく――「龍馬が見上げた長崎の空」を事例に

第3章 住民同士の「ホスト-ゲスト」としての役割分担

1 まち歩き観光の種類

1.1 観光客向けのさるく――「龍馬が見上げた長崎の空」を事例に

まず一つ目は、県外からの観光客を対象に、長崎を代表する観光名所を効率よく回るこ

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とが目的となるツアーである。いわゆる定番の観光地をめぐりながら、長崎の歴史や文化 について紹介するものである。メディアで取り上げられた話題の場所や観光名所が対象と なる。具体的なコースの例を挙げると「長崎は今日も異国だった」、「龍馬が見上げた長崎 の空」、「世界遺産さるく」等がある。そこで長崎の近代の歴史は魅力的なテーマとなるの だが、教科書的な解説よりも、多少歴史的事実とかけ離れても参加者の想像力を発揮させ、

関心を引くような解説が行われるのが特徴である。

観光客向けのさるくの事例として、「龍馬が見上げた長崎の空」を取り上げよう。これに 着目する理由は、2010年に放送されたNHK大河ドラマ「龍馬伝」の放送とともに、県外か らの観光客に人気を博したツアーだからである。坂本龍馬のゆかりの場所を訪れるこのコ ースにおいては、住民が日常生活を営む場所を披露するというまち歩きの初期の趣旨とは 異なり、長崎市が整備した観光施設やモニュメントを軸にガイドの案内がなされている。

以下の事例では、さるくガイド研究で配布される案内マニュアルを基に、フィールドワー クの際に体験した内容も加えながら、どういったところが案内のポイントとされているの かについて説明する。案内マニュアルには集合場所やルート、各立ち寄りスポットにおけ るポイントを含め、注意事項、トイレ使用可能場所、お客様への特典、写真スポットが記 されている。

【事例3-1-1】「龍馬が見上げた長崎の空」のガイドマニュアル

①長崎市民会館のロビーで集合し、バスに乗って風頭山の上まで移動する。逆に山を 登りながらスタートすることも可能ではあるが、参加者が疲れてしまうため、まずバ スで山の天辺まで移動し、街まで歩いて降りてくるように構成されている。バス停か ら最初に長崎さるく見聞館である「小川凧店」に立ち寄る。長崎の伝統的なハタ(ハ タ揚げは長崎の春の風物詩とも言われる)を見物し、ミニサイズのハタをお土産に提 供してもらう。マニュアルには「お客様への特典」という項目があり、必ず指定され たお店に立ち寄ってお土産品をもらうことが記載されており、施設の入場料込みが特 典になっていることもある。

②風頭公園の方に向かって5分ほど歩くと、「上野家墓地」が現れる。有名な坂本龍馬 の一人立ち写真を撮ってくれた写真家の上野彦馬が眠っている墓地である。そこでガ イドは、坂本龍馬と上野彦馬の関係を説明するのだが、上野彦馬は女性に人気のある 人物であったとか、お金の使い方が荒かった等のゴシップ的な話題も提供される。

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③そこから5分ほど歩き、「坂本龍馬之像・司馬遼太郎文学碑」8に着く。ここは一つ目 の「写真スポット」でもある。坂本龍馬之像自体も立派であるが、建てられている場 所からの景色が素晴らしく、長崎市内の全景を見下ろすことができる。ガイドは銅像 が建てられた経緯を簡単に説明し、参加者たちは自由に写真を撮ったり、景色を鑑賞 する。ここでは写真撮影が多くなされるため、時間も15分ほど多めに配分されている

(写真3-1-1)。

④そこから5分ほど歩くと、「亀山焼窯跡」に着く。ここも写真スポットになっており、

「坂本龍馬之像・司馬遼太郎文学碑」ほどの景色は見られないため、ガイドは具体的 にどこで写真を撮ればきれいに撮れるのかを教えてくれる。

⑤そこから5分ほど歩き、「若宮稲荷神社」に立ち寄る。森の中に建てられた神社で、

神秘的な雰囲気が漂う。ここも写真スポットである。お参りをする人もいるが、ここ は雰囲気を見るだけで通りすぎることが多い。

⑥そのすぐ近くに「亀山社中資料展示場」がある。そこには亀山社中関連の資料や写 真が回覧でき、観光客が衣装を着て写真を撮る場所も用意されている。そこで、ガイ ドは坂本龍馬の写真の前で、刀をもってポーズを撮る参加者を写真撮影する光景がよ く見られる。このコースの二つ目の特典である絵葉書もお土産としてもらえる(写真 3-1-2)。

⑦その次にすぐ近くにある「亀山社中記念館」に立ち寄るのだが、参加者が靴を履い たままでも足を入れることのできる大きいサイズのブーツ像が設置されている。そこ も写真スポットとなっており、参加者はブーツ像に立って、坂本龍馬のようなポーズ をとりながら、写真撮影をする。亀山社中記念館に中に入ると、ガイドは坂本龍馬や 亀山社中で活動していた同僚たちの話をするのだが、歴史に詳しい参加者には丁寧に 説明をし、そうでない参加者には施設を自由にみたり写真を撮るように誘導する(写 真3-1-3)。

8 坂本龍馬之像は、「龍馬の銅像建つうで会(現長崎龍馬会)(「建つうで」とは長崎弁で「建 てよう」の意)の活動により、1989年5月21日に建てられた。長崎出身の彫刻家、山崎和國氏 が約7ヶ月の期間をかけて作った作品である。長崎の代表的な観光名所になっており、特に 全国の坂本龍馬のファンにとっては聖地のような名所でもあると言う。(2020年9月27日取得, http://www.city.nagasaki.lg.jp/nagazine/ryoma/1008_ryoma15/index.html)

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⑧亀山社中記念館から5分ほど傾斜の道を降りていき、「龍馬通りの入口」9で解散する。

そこは、観光名所である眼鏡橋まで歩いていける距離であるため、参加者が観光客で あれば、眼鏡橋や電停に行く道を説明するか、そこまで案内をするガイドもいる(写 真3-1-4)。

9 2009年に長崎市は風頭公園から街中につながる道に看板を立て、「龍馬通り」と名付けた。

このコースと逆ルートで街から登っていく観光客もおり、案内板が立っているため、ガイド なしでも歩くことはできる。

【写真3-1-1】坂本龍馬之像 【写真3-1-2】亀山社中資料 展示場で記念撮影をする参加者

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以上「龍馬が見上げた長崎の空」のコースの概要について述べたが、観光客向けのさ るくの特徴としてみられるのは、ガイドの道案内人としての役割の重要性である。バス乗 り場から解散するまで時間配分を顧慮しながら道案内をし、解散をした後も観光客の要望 に応じて案内をする。また、どこでどのように写真を撮ることがおすすめなのかを伝える など、参加者の写真撮影をサポートすることも重要な役割である。ガイドの解説において も、もちろん歴史的な事実に基づいた解説も行われるが、同時にゴシップ的な話や事実関 係が確認されていない観光客の関心を引くような解説も行われる。一方でこのコースの場 合は、さるくガイドたちの証言によると、特に2010年から2011年の間は全国からの「龍 馬通」や福山雅治のファンが多く参加していたと言う。そのため、道案内はもちろんだ が、参加者に解説について指摘されることや、予想外の質問をされることも多く、坂本龍 馬と関わる歴史について真剣に勉強をし、かつ福山雅治に関する情報(通った幼稚園や学 校の位置など)も集めていたという。

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