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質的データの分析方法:Grounded Theory Approach (GTA)

ドキュメント内 成長ベンチャー企業の (ページ 117-121)

第 3 章 研究方法

第 4 節 データ分析

2. 質的データの分析方法:Grounded Theory Approach (GTA)

本研究は、プロセスの解明、理論構築を主眼とするため、ミックス法とはいえ、質的アプロ ーチに主体がおかれる。本章第1節3.にて、理論的サンプリングによる複数ケースのデータを GTAによる分析によって、汎用的なプロセス理論を構築する研究デザインを採用することを述 べた。GTAは、1967年にGlaserとStraussによって、”The Deiscovery to Grounded Theory”

(以下、「オリジナル版」という。)として発表された。その後1990年代にGlaserとStrauss は、分析手法をめぐり対立、決着しないままStraussが死去したため、分析手法の対立は残っ たままである。その後GTAは、オリジナル版、Glaser (1992)、Corbin & Strauss (2008) に 枝分かれしていく(木下, 2003)。GTAは、このような経緯において、過去の研究においても、

コーディング法やサンプリングを含めた具体的な分析手法や品質管理法について、研究者が明 確にしていないケースも多いという課題が提示されている (Neergaard & Ulhoi, 2007)。確か に、GTA は、歴史的に分析方法として研究者によってその利用方法が異なっている。そこで、

本研究で採用したGTAの利用方法を整理する。

GTA は、データに密着した (Grounded) 分析から独自の理論 (Theory) を生成する質的研 究方法であり、これまで全く知見のない事象やプロセスを説明・解釈・予測するための理論を

構築するために利用される。その特徴は、データを収集し、データを切片に分け、オープンコ ーディング、軸足コーディング、選択的コーディングによってコーディングし(コーディング)、 カテゴリー化し、カテゴリーを関連付ける仮説を作り、仮説の蓄積によって理論的枠組みを作 る。出来上がった理論的枠組みが、理論的に飽和(理論的飽和)するまでサンプリング(理論 的サンプリング)を繰り返し、理論の妥当性、信頼性を担保する。理論的飽和のためには、各 カテゴリーに適用できる出来事の比較、カテゴリーとその諸特性との統合、理論の限界設定、

理論の定式化という4段階の各段階において絶えざる比較(継続的比較分析)を実行する。デ ータと継続的に向き合い反復して理論構築する。理論構築にあたり、Glaserは、先行研究の成 果や理論を利用することを禁じ、Straussは、先行研究調査の成果や理論の利用を薦める。

国内においても、質的データの分析方法としてGTAは大きく発展してきた(木下, 2003; 西 條, 2007, 2010; 戈木, 2008; 佐藤, 2008)。木下は、GTAは、現象がプロセス的性格をもつ研 究に適切であり、人間の行動、他者との相互作用の変化を動態的に説明するとした。木下(2003)

は、「データを切片化しない」かわりに、「具体的な系統的な分析手法」として、修正版グラウ ンデッド・セオリー・アプローチ(以下、「M-GTA」という。)を提唱した。具体的なコーディ ングの方法として、分析ワークシートの生成から概念生成、カテゴリー生成、そして全体のプ ロセス生成というやり方を提示しており、研究者に利用しやすい形式である。以下、M-GTA の考え方を示す。

[M-GTAの考え方(木下, 2003)]

①「研究する人間」を中心に据える。社会においては「応用者」による実践的活用を促す。

②「データの不確実性」を認める。

③「データを切片化」しない。

④ そのかわり、「具体的な系統的な分析手法」として、分析ワークシートの生成から概念生 成、カテゴリー生成、そして全体のプロセス生成という手法を利用する。

⑤「データ収集(サンプル数)の現実的な制約」を考慮する。方法論的な限定を行う。

⑥「インタビュー調査」に有効活用できる。

木下は、少なくても人間をめぐる現象の複雑さを考慮し、データも分析も共に自然科学的基 準で確実になるという期待自体が現実性に乏しいものであるとする。社会的背景として、「研究 する人間」の視点を重視し、研究評価として、どのようにデータが収集され分析されたかとい う分析方法の評価に偏ることなく、「問い」と「結果」を総合的に評価する必要性、社会におけ る実践的な活用を明確に意図すべきであるという立場をとる(木下, 2003)。

本研究では、インターナルコミュニケーション研究の量的先行研究成果を利用するため、

Strauss の立場をとることとした。データの切片化については、本研究の中心であるインタビ

ューデータは、その発言の一つひとつの言葉(データ)を細かく切片化すると、一つひとつの 言葉が、発言者の意識レベルにおける思いや文脈性の意味から離れてしまい、逆に発言者の内 面の深い部分で意識している内容を見逃す可能性があるため、データの切片化は行わないこと とした。

そこで、データの分析は、以下の GTA の基本的なコーディング手順に従って行うが、コー ディング技術としては、木下(2003)の提唱する分析ワークシートは研究者に利用しやすい形 式であるため、コーディングは分析ワークシートをうまく活用して実施することとした。

[GTAの基本的なコーディング手順]

① オープンコーディング(データから一般的に得られる概念の抽出)

② 軸足コーディング(得られた概念を関係性の点からカテゴリーに集約)

③ 選択コーディング(得られたカテゴリーから、カテゴリー間の関係性をモデル化)

勿論、Qualitative Data Analysis (QDA) ソフトウェアを利用して機械的にコーディングして 分析することも一つの選択肢である。しかし、本研究では、敢えて使用しなかった。QDA ソ フトウェアは、インタビューの内容をセグメント化し、それを自動的にカウントすることでコ ーディングする。語彙の使用頻度や関連性といった機械的作業を研究者の代わりにパソコンが 行う。その意味で、大量の質的データの処理に適している。本ケースの場合、調査協力企業は 12ケースである。自動化しなくても、十分手作業で対応できる。更に、そもそも、一つ一つの インタビューデータは非常に情報量が多いデータである。本研究では、12ケースを行きつ戻り つ何度も何度も読み返し、それぞれのインタビューの内容を、発言者の根底にある考えを想像 しながら、言葉使いに囚われず、本当に言いたいことを読み解く分析が重要である。分析ワー クシートによる分析はこのようにじっくり作業するのに適している。一方、QDA ソフトウェ アを利用した結果は、単純化されたコーディング結果が出てくる可能性があり、かえって研究 者を本質から惑わせる可能性があると考えた。本研究の価値、オリジナリティは、そのような 機械的な、ある意味で定量的なコーディング方法を利用した分析ではない。先に述べたように、

筆者の長年のビジネス経験、ベンチャー企業の役員としての現場感覚、リアリティを最大限利 用した定性的コーディング(Richards, 2005; 佐藤, 2011)による分析に価値がある。このよう な点からQDAソフトウェアは敢えて使用しなかった。

以下、GTAによる分析手順を整理する。分析ワークシートは、第12章第5節に例を示す。

[GTAによる分析手順]

(1) 概念の生成(オープンコーディング):分析ワークシートを用いて、データから概念を生成 する。

① 1つのH群の事例(データ)からバリエーションをそのまま抜き出して記入する。誰のデ ータであるか識別できるようにしておく。他の事例からの類似例をバリエーション欄に追 加していく。類似例が豊富に出てこなければ、当該概念は有効でないと判断する。

② バリエーションを検討し、採用することとした解釈を定義欄に記入する。

③ 当該概念に関して、類似例と対極例もバリエーションに記入する。記入は、H群とL群の 比較検討が行えるように分けて記入する。H群の類似例、対極例、L群の類似例、対極例 を比較しながら解釈を行う。事例を類似例や対極例と比較することにより、解釈が恣意的 に偏る危険が防止できる。

④ 定義を凝縮表現したコトバ(単語かそれに近い短い表現)を概念欄に記入する。

(2) カテゴリーの生成(軸足コーディング):概念間の関係付けを行い、カテゴリーを作る。

① 個々の概念について、他の概念との関係をひとつずつ検討し、ひとつの概念を基点にそれ と関係のあるもうひとつの概念を見出す作業を繰り返す。

② 概念間の関係をインターナルコミュニケーションの効果性の観点から検証し、H群とL群 の比較検討を行いながら、複数の概念をまとめるカテゴリーを生成する。

(3) プロセス図の生成(選択コーディング):全体としての分析により明らかになるプロセスはど のようなものかを考えながら、カテゴリー間の関係をプロセス図にまとめる。

① 現象として、どのような動きが明らかになりそうかを判断しながら、インターナルコミュ ニケーションの流れを考え、カテゴリー相互の関係を推測する。

② 試行錯誤しながら、H群とL群の比較を繰り返し、検討の結果を丁寧に図に描いてみる。

③ カテゴリーやそれを構成する概念をただ並列的におくのではなく、図全体が一定の方向性

(左から右への流れ)を示すように作成する。

12ケースの調査の過程で、データ分析とデータ収集を同時に繰り返し行う手法により、理論 的に質問すべき内容が明確になり、効率的に理論的飽和を導くことが出来た。特に、経営者の 思いや、考えの深い部分を聞き出すために、他の経営者が述べていた内容を参考として説明し、

それぞれの経営者が、どう感じるか、賛成か反対か、自分としての意見はどうなのか、経営者 独自のインターナルコミュニケーション行動やプロセスについて、その内容と理由を確認した。

類似例、対極例の観点から、それぞれの企業ケースの理論的位置づけを念頭におきながら、理 論的に飽和するまでインタビューを繰り返した。また、一部の経営者とは 2 度会い、得られた 概念やカテゴリーについて意見交換することで、追加の類似例、対極例を引き出し、概念やカ テゴリーの理論的飽和をより堅いものとした。

ドキュメント内 成長ベンチャー企業の (ページ 117-121)

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