第 2 章 先行研究調査
第 1 節 先行研究調査に基づく本研究のオリジナリティ
1. インターナルコミュニケーションの定義
社会的存在である人間のコミュニケーションは、本質的に他者を志向し、他者との相互作用 として成立している(林, 1988)。コミュニケーション研究は、古くは、1949年のSchannon &
Weaver の有名な「コミュニケーションの数学的理論」に遡り、コミュニケーションの数学的
モデルは、その後形を変えコミュニケーションを表現するモデルとして汎用化された(Rogers,
1986)。大田(1994)は、コミュニケーションのモデルとして4要素(発し手、受け手、メッ
セージ、メディア)を提示する。「発し手」は、意図を「メッセージ」の形で表現し、伝達する ための道具である「メディア」(或いは「媒体」という)に乗せて、メッセージ伝達のルートで ある「チャネル」を通じて、「受け手」に伝達する。受け手は、発し手の意図を読み取り、受け 手に何らかの変化が生じる。この変化が「コミュニケーション効果」である。Hattersley &
McJannet (1997) は、コミュニケーションの7要素(発信者、目標、受信者、コンテクスト、
メッセージ、メディア、フィードバック)を提示する。コンテクストとは、状況や背景であり、
フィードバックとは、受け手の反応である。Hattersley & McJannet (1997) は、コミュニケ ーションは行為ではなく期待している結果に導くためのプロセスであるとする。筆者は、大田 のモデルとHattersley & McJannetのプロセスの考え方を組合せ、図4に示すコミュニケーショ ンのモデルを考えた。5 番目の要素として「ウェイ(目標、コンテクストに応じた伝達の仕方、
話し方)」とフィードバックとして「発し手と受け手の相互作用」を追加した。
図 4: コミュニケーションのモデル (大田 (1994) に筆者一部加筆)
5 要素の中で、メディアは、期待するコミュニケーション効果を実現するために非常に重要 な要素である。近年のインターネットやメールの発達により相手と直接会う必要がなくなる時 代になる中で、これまで以上に、メディアとしての対面のコミュニケーションの重要性が訴え られている (Harvard Management Update, 2004)。対話が戦略的なコミュニケーションツー ルとして使われなくなってきているのは危険な傾向であり、人と人が対面して、情報を伝達す るのに優るコミュニケーションツールは他にはないと指摘される (Holtz, 2004)。なぜ対話が重 要かというと、対話には2つの側面があるからである。「音声」を利用する「音声言語(言葉)」 によるコミュニケーションであるということと、もう1つは、相手の反応を見ながら身振りや 表情、音声の抑揚を交えてメッセージを伝達できるということである。つまり、対話では、「音 声言語」以外にも様々なメッセージ「非音声言語」の伝達が行われており、非音声言語が大き な役割を果たしている(中森, 1998)。Rogers (1992) は、対話はフィードバック性が豊富かつ 即時的、非言語的通信機能がきわめて高いメディアであるとする。
図4のモデルをインターナルコミュニケーションにおける社長のコミュニケーションの例で 説明する。発し手である社長は、自らの意図を自らの表現方法やスタイルを用いて、対話(対 面の役員会、幹部会や全社集会、少人数の従業員との昼食会)というメディアを通じて、受け 手である従業員にメッセージを伝える。従業員は、メッセージを解読し、自らの行動を起こす。
従業員の行動が、社長の意図した内容と一致していれば、コミュニケーションの効果があった ことになる。このように、発し手は、コミュニケーションの目的、メッセージの内容、背景や 状況を考え、対面の会議か電話連絡かメール発信かといったメディアを選択して、受け手にお けるコミュニケーションの効果が最大になるような方法(ウェイ)で実施することが望ましい。
さて、次に、組織の話に移る。企業の組織構造は、一般的には、社長、ミドル、一般従業員 の階層構造で定義できる。そしてインターナルコミュニケーションは、組織内部の階層間、階
発し手 意図
受け手 コミュニケーショ ン効果(満足)
チャネル メッセージ メディア
コード 解読
発し手と受け手の相互作用 ウェイ
層内の縦、横の情報伝達における発し手、受け手の関係から図5のように表現できる。
図 5: インターナルコミュニケーションのフロー (筆者作成)
企業によっては、社内のコミュニケーションを専門に職掌する社長直轄の部門、社長室、経 営企画室、人事部等もあり、これらを専門部門と呼ぶ。
ここで、発し手から受け手へのコミュニケーションの流れをコミュニケーションフローと定 義する。コミュニケーションフローは、発し手(From)と受け手(To)の組合せで定義でき る。コミュニケーションフローとしては、社長、ミドル、一般従業員、専門部門間で、図5の 矢印(①から⑦)のパターンが存在する。そこで、コミュニケーションフローごとに、企業で 実施されている代表的なコミュニケーションを想起し、コミュニケーションパターンとして整 理すると表2のようになる。このように、組織のインターナルコミュニケーションパターンは、
5要素のモデルで表現できる。コミュニケーションフロー、コミュニケーションパターンの考 え方は、インターナルコミュニケーションプロセスを議論する時に重要な考え方となる。
コミュニケーションフロー
① 社長とミドル(縦)
② 社長と一般従業員(縦)
③ 社長と専門部門(縦)
④ ミドルと一般従業員(縦)
⑤ ミドル同士(横)
⑥ 一般従業員同士(横)
⑦ ミドル、一般従業員と専門部門(縦)
一般従業員
③
②
①
⑦ 社長
ミドル
専門 部門
⑤
④
⑥
表 2: 組織のインターナルコミュニケーションパターン (筆者作成)
コミュニケーションパターン
フロー チャネル ウェイ
図5 の番号
発し手 受け手 メッセージ メディア
① 社長 ミドル 業務上の指示 対面での話し合い 全社会議
ミーティング 電話、電話会議 テレビ会議 メール
ビデオメッセージ 社内文書、通達 社内報、Web イベント、パーティ 食事会
分かりやすく 具体的に 説得的に タイムリーに 繰り返し
② 一般従業員 理念、会社の方向性
③ 専門部門 コミュニケーションの指示
③ 専門 部門
社長 コミュニケーションの相談
⑦ 一般従業員 世間話、日常会話
① ミドル 社長 業務上の相談
⑤ ミドル 業務上の情報交換
④ 一般従業員 業務上の情報伝達
② 一般 従業員
社長 悩み、質問
④ ミドル 業務上の相談
⑥ 一般従業員 業務上の情報交換、
おしゃべり
インターナルコミュニケーションは、このように様々なコミュニケーションパターンで実行 されるが、特に、社長のコミュニケーションは重要である。社長は、「価値観の共有」、「社長が 期待する姿勢・行動の実践」(Shuler, 1979) を期待してコミュニケーションを行っている。筆 者は、インターナルコミュニケーションとは、社長が目的や意図をもって行われる意識的行動 であると考える。つまり、社長が、正確に情報を伝達し、従業員との良好な関係を構築し、従 業員と価値観を共有し、従業員に期待する行動を実践するよう働きかけることが、インターナ ルコミュニケーションである。これらの関係を示すと、図6のようになる。
図 6: インターナルコミュニケーションの意識、パターン、期待効果の関係(筆者作成)
社長のインターナルコミュニケーション意識が、社長のインターナルコミュニケーションに
社長のインターナル コミュニケーション
意識
組織のインターナル コミュニケーションパターン
組織における期待効果
良好な関係の構築 正確な情報伝達
受け手
メッセージ
ウェイ ビジョン・価値観の共有 期待する行動の実践 発し手
メディア
おける行動をコントロールし、どんなメッセージを、どのメディアを使ってどういうやり方で 行うかという組織内部のインターナルコミュニケーションのパターンを決める。そして、社長 のコミュニケーションによって、組織内で、社長、ミドル、一般従業員の間の相互作用が生ま れ、組織としてのインターナルコミュニケーションの期待効果を実現する。これら一連の組織 的な現象がインターナルコミュにレーションプロセスであり、それぞれの要素が因果関係を持 つ。
ここで、意識とは、心理学においては、次のように言い表される。
「意識は、2つの面をもつ。意識を持つという意味では、認知、感情、動機といった精神的 な状態への内省的な接触を獲得する、それらは、自分で行っているように我々を行動せしめる 原因である。意識をコントロールとするという意味では、我々は再び自ら、それらの状態(そ して結果としての我々の行動も同様に)を生む精神的なプロセスを自発的にコントロールする ことを獲得する。」(John, Robins & Pervin, 2008)
そこで、本研究では、社長のインターナルコミュニケーション上の意識を以下のように定 義する。
[社長のインターナルコミュニケーション意識]
「インターナルコミュニケーションに対する社長のマインドセット。社長が、自分の伝えた いメッセージを、ミドルや従業員に如何に効果的に伝達するかに対する考え方。社長のインタ ーナルコミュニケーションに対する姿勢や行動の原因であり、動機付けであり、組織における インターナルコミュニケーションプロセスをコントロールするものである。意識の違いは、社 長のインターナルコミュニケーションに対する姿勢や行動に差を生み、結果的に組織的なコミ ュニケーションプロセスや運営方法に差をもたらす。」
Drucker & Maciariello (2006) は、「コミュニケーションは、下方への関係において行われ るかぎり、事実上不可能である。」とした上で、「コミュニケーションを成立させるのは受け手 であり、組織及び上司は、部下に対しいかなる貢献を要求すべきか、部下に期待すべきことは 何か、部下の知識や能力を最もよく活用できる道は何かを聞くことによって、コミュニケーシ ョンは初めて可能となり、容易となる。」と説く。発し手による一方通行のコミュニケーショ ンではなく、図4に示したような発し手と受け手の相互作用によるコミュニケーションの重要 性を示唆する。社長は、受け手である従業員が期待しているものも知らなくては、インターナ ルコミュニケーションは成功しない。だからこそ、社長は、どうしたら、ミドルや従業員に効 果的なコミュニケーションを実現できるかを意識することが大切なのである。