第 2 章 先行研究調査
第 1 節 先行研究調査に基づく本研究のオリジナリティ
3. 先行研究分野 A:従業員のインターナルコミュニケーション満足度
インターナルコミュニケーション満足度に関する研究は、1980年代から、米欧を中心として インターナルコミュニケ
ーションプロセス に関する研究
結果変数 に関する研究 説明変数
に関する研究
始まった。従業員のインターナルコミュニケーション満足度を測定する尺度(満足度サーベイ 調査票)を開発し、測定尺度の妥当性、信頼性を検証しながら、インターナルコミュニケーシ ョン満足度と、仕事の満足度等の他の変数との関係に関する実証的な量的研究がほとんどであ る。これまで米欧の多くの企業、政府機関、大学等の様々な組織で実施された。
多くの研究者による貢献によって、インターナルコミュニケーション満足度は、様々な変数 と直接的な正の関係性があることが分かった。変数別に先行研究を列挙すると、仕事の満足度 (Downs & Hazen, 1977; Kongchan, 1985; Pincus, 1986; Gregson, 1987; Goris, 2007;
Farr-Wharton & Brunetto, 2007; Carriere & Bourque, 2009)、生産性 (Clampitt & Downs, 1993; Farr-Wharton & Brunetto, 2007)、組織コミットメント (Putti, Aryee & Phua, 1990;
Varona, 1996; Carriere & Bourque, 2009)、信頼 (Zeffane, Tipu & Ryan, 2011; Amine, Chakor & Alaoui, 2012)、エンパワーメント (Loughman, Snipes & Pitts, 2009)、仕事のパフ ォーマンス (Pincus, 1986; Goris, 2007) である。一つの研究で、インターナルコミュニケーシ ョン満足度と複数の変数との関係性を報告する例が多い。
この中で、筆者は最も研究例が多いインターナルコミュニケーション満足度と仕事の満足度 との関係性に着目して、より深い先行研究調査を実施した。結果として、第2章第2節で詳述 するように、先行研究によって仕事の満足度とインターナルコミュニケーション満足度はケー スによっては強い相関関係にあることがわかった(古屋, 2010)。
有名な Herzberg (1959) の理論では、仕事の満足度を高める要因として会社の方針、管理、
対人関係、職場環境、給料といった衛生要因と達成、表彰、仕事の内容、責任、成長などの内 的報酬が提唱されている。Herzberg (1959) が提唱する衛生要因と内的報酬を、インターナル コミュニケーションに関係する変数と、関係しない或は関係性が薄い変数に分類すると、以下 のように4つの象限に整理される。なお、分類にあたり職場環境は、インターナルコミュニケ ーションに関係しないオフィス環境等のハード面と、インターナルコミュニケーションに関係 する職場の雰囲気といったソフト面の2つ分けて記載した。
表 3: Herzberg (1959) の理論とインターナルコミュニケーションの関係 (筆者作成)
衛生要因 内的報酬
インターナルコミュニケーションに 関係する変数
会社の方針、管理、対人関係、
職場環境(ソフト面:雰囲気)
達成、表彰、成長、責任
インターナルコミュニケーションに 関係しない、或は関係が薄い変数
職場環境(ハード面:オフィ ス環境等)、給料
仕事の内容
Herzberg (1959) の理論から、インターナルコミュニケーションには関係しない或は関係の
薄い因子として、職場環境(ハード面)と給料、仕事の内容が存在することがわかる。どんな にインターナルコミュニケーション満足度が高くても、給料が安かったり、仕事の内容がつま らなかったりすれば、仕事の満足度は上がらないことになる。
逆に、インターナルコミュニケーションを活用することで、仕事の満足度を効果的に上昇さ せることも可能となる。Robbins (1997) は、従業員は、衛生要因が十分でも不満は抱かないが 満足させることにならず、満足度を高めたければ内的報酬を重視すべきであると提唱した。表 3に示すように、内的報酬は、インターナルコミュニケーションに関係する変数が多い。Robbins の主張を借りれば、内的報酬である達成、表彰、成長、責任(表3で、編みかけした部分)を 意識してインターナルコミュニケーションを行い、それらの満足度を高めることで、仕事の満 足度を効果的に高めることができることが分かる。
さて、このように、仕事の満足度と強い関係があるインターナルコミュニケーション満足度 は、企業成長そのものとは関係があるのであろうか。調査の結果、両者を直接的、或は間接的 に結びつける実証的研究は見当たらなかった。そこで、仕事の満足度(又は従業員満足度)と 企業成長の間には、直接的な関係性があるかを調査した。結果として、仕事の満足度について も企業成長との直接的な関係性を示す実証的研究は見当たらなかった。しかし、間接的には、
仕事の満足度はいくつかの媒介変数を通じて、企業成長に影響を与えることは多くの実証的研 究で証明されていることが分かった。媒介変数としては、顧客満足度 (Van der Wiele, Boselie
& Hesselink, 2002; Fazlzadeh, Faryabi, Darabi & Zahedi, 2012)、組織コミットメント (Rashid, Sambasivan & Johari, 2003; Amine, Chakor & Alaoui, 2012)、従業員ロイヤルティ (Eskildsen & Nuessler, 2000) である。
これらの先行研究を整理すると、インターナルコミュニケーション満足度(第一先行変数)
が増すと、仕事の満足度(第二先行変数)が増し、仕事の満足度は、組織コミットメント、従 業員ロイヤルティ、顧客満足度(総称して、「媒介変数」という。)に影響を与え、これらの媒 介変数を通して、最終的には企業成長(結果変数)に影響を与えるというモデルが出来上がる。
簡単に書くと、図9に示すように、インターナルコミュニケーション満足度→仕事の満足度→
媒介変数→企業成長である。点線は間接的な影響、実線は直接的な影響を示す。
図 9: 先行研究によるインターナルコミュニケーション満足度と企業成長の関係性モデル (筆者作成)
従業員の仕
従業員のインターナ 媒介変数 企業成長
実際に、海外では、インターナルコミュニケーション満足度→仕事の満足度の関係性を企業 成長戦略の一つとして利用している。その一例が、内部の専門家や外部のコンサルタントによ る定期的なインターナルコミュニケーション監査(従業員へのアンケート調査、及び幹部従業 員へのインタビュー調査に基づく総合的調査)である。社長は、監査結果や助言に基づき、従 業員の仕事の満足度を高めるようなコミュニケーション上の施策を実施する。図 9 からインタ ーナルコミュニケーション満足度は、企業の成長を実現する上での出発点と言える。