第 6 章 成長ベンチャー企業社長のインターナルコミュニケーション意識
第 2 節 社長のインターナルコミュニケーション意識
1. 強烈なメッセージを繰り返し送る
初めに、社長のメッセージを確認する。3ケースのホームページに記載されている、理念、
或いはビジョンを調べると、共通して以下の言葉が含まれることが分かる。3ケースともに、
「新しい」サービスや製品、「革新的」なビジネス、「世界」を目指し、「成長」する、働きた い会社という企業イメージ、企業ブランドを明確にメッセージとして打ち出し、積極的な採用 活動を展開している。
共通キーワード ホームページ上の言葉
①「新しい」 :「新しいビジネス、サービス、技術を創造し続ける」
「新しい当たり前」「新しい価値の創造」
②「イノベーション」:「社会にインパクトを与える」「イノベーター(革新者)」
③「世界」 :「世界No.1になる」
「世界市場でリーディングカンパニーを目指す」
「世界のトップレベル」「日本発のグローバルスタンダード」
④「成長」 :「成長し続ける」「活躍の場を与える」「働きたいと思える企業」
成長ベンチャー企業は、強烈な社長のメッセージを持っている。そもそも、伝えるメッセー ジがなくては、コミュニケーションが始まらない。成長ベンチャー企業に入社する社員は、社 長の強烈なメッセージにインパクトを受けて、魅力を感じて、引き寄せられる。採用応募者は、
成長ベンチャー企業、そしてその社長に、将来に対する可能性、挑戦、会社の成長、自分の成 長を重ね合わせて志願する。
社長は、入社後も繰り返し、繰り返し、ダイレクトに社員にメッセージを送り続ける。
ケースJのS社長のインタビュー:
『ビジョンの提示というのは、しつこく、しつこくやりますね。こうあるべきだ、こうなろ うという提示は、しつこくやりますね。』
社長は、とにかくしつこい、かつ、真剣である。
ケースKのM社長のインタビュー:
『(行動規範について、誤解されないようにするために、)それは、まさに、全社集会で、(自 分が直接社員に言います。)後は、研修で、(自分が直接社員に言います)。(中略)毎回毎回、
僕らは、結構、(社員から出て来る質問に)真剣に答えていて(誤解のないようにします。)
(中略)同じ話、100回しないと駄目なことは、100 回しないと駄目ですもんね。(中略)
ただ、それ、繰り返されている間は、いつのまにか、腹に落ちて来るので。』
2. 強力なリーダーシップを発揮する
社長は、強力なリーダーシップを意識して経営する。自らが、リーダーとして、拡大する組 織が分裂しないように、失速しないように、一体感を意識して、まとめていく。ケースLのT 社長は、温厚な人柄な方であるが、そのメッセージは非常に力強く、強いリーダーの存在、強 い、目に見える存在感ある社長の重要性を訴える。
ケースLのT社長のインタビュー:
『どこの企業をみても、強力なリーダーシップがなくなると崩壊するのですね。ですから、
そういった意味では、一体感があるとすれば、それは、強力なリーダーシップ。(中略)リ ーダーがいないところは、まず、組織としての一体感はないですよね。ここは、強いリーダ ーしかないと思います。(中略)組織的というよりは、本当に、強いリーダーがいるという ことが一番ですね。』
ケースKのM社長も、誰に対してもメッセージが堅牢で、力強いリーダーとして、圧倒的 な存在感を出している。
ケースKのM社長のインタビュー:
『我々(経営陣)が、(会社を)引っ張っていることは間違いないです。(中略)創業者だから というのはありますけれど、僕らは嘘をついていないというのが一つある。(中略)もとも とやりたいと言った人に、(中略)成長できないでしょ、だったら、そこをやるのが、あな たの仕事じゃないというのを言っている。矛盾はないのです。(中略)我々自身は嘘をつい ていないし、誤摩化さないし、だから、否定的な人が少ない。』
ケースKのミドルのインタビューでも、毎月の全社集会におけるM社長のプレゼンは、毎 回圧巻であるとの発言があった。
3. 場を設定する
社長は、コミュニケーションに対する意識が非常に強く、強制的にでも、コミュニケーショ ンを取る必要性を強調する。コミュニケーションの機会や、場の設定、飲み会に到るまで、自 ら細かく設定する。
ケースLのT社長のインタビュー:
『コミュニケーションって強制的に取らないと、難しいと思う。ほっといたら、取れないで すよ。ですから、そういった意味では、コミュニケーションが取れるような機会を設ける。
(中略)(会議の後に)飲みにケーションで、懇親会の場を設ける。強制的に人と人が触れ 合うような努力はしています。』
ケースJのS社長のインタビュー:
『社内で親友が出来る。正式な組織、部門以外に、話し相手がいることが、定着率を上げる ために、非常に有効である。(中略)何らかの理由をつけて、一同に集める場を、年に一回、
二回は作らないといけないという意識もあって。』
S社長は、年に1、2回と言っているが、これは、公式の全員参加のイベントであって、実際、
ケースJは、毎月のように、何らかのお祭りやイベントを実施して、社員同士の交流を図って いる。
4. 社員の理解度をチェックする
組織が急速に拡大すると、一般従業員との距離感ができる。社長は、現場から離れることで、
不安になる。現場のことが知りたいと思う。一方で、現場の意見ばかり聞きすぎると、日々の 業務が回らないというジレンマに陥る。社長は、それぞれの方法で、社員が何を考えているか、
会社をどう思っているか、何か変化は起きていないか、そして、自分の発したメッセージは、
きちんと伝わっているか、これらのことをタイムリーにフィードバックを受ける仕組みを工夫 することで、組織の拡大にも関わらず、社員をグリップする。
ケースKは、全社員から、社長あてに月報(A4、1枚)を送付させる。どんなことでも、好 きなことを書かせる。それを、専門部門のスタッフが内容を見て、分野別に仕分けして、社長 に渡す。社長や会社に対する悪口も書いてあると言うが、ケースKのM社長が重要視するの は、毎月の全社集会で自分の発したメッセージが、誤解されて伝わっていないか、みんながき ちんと理解しているかである。もし、月報の中で、誤解している、或は良く分からないといっ た意見があった場合は、個別対応ではなく、翌月の全社集会で、再度、同じメッセージを、言 い方を変えて全社員に伝えるというコミュニケーションを実践する。
ケースKのM社長のインタビュー:
『(全社員から送付される月報に触れて、経営の)舵取り用ですね。経営者の一番の問題点 は、現場の意見を気にしすぎることと、現場の意見を無視することですね。(中略)それを 見て、なんか俺の言ったこと、全然伝わってないではないかと。そうすると、個別に呼んで、
お前分かってないのかとやるのではなくて、全体の会議の時に、それを話したり、(中略)
部長クラス呼んで、ここを直さないといけないから全体的に話しろとかに使っているんで す。』
ケースJのS社長は、もう少し濃厚な形で、社員と向き合う。少人数のランチ会を順番に行 い、社員が何を考えているかを理解し、自分のメッセージも、その場で繰り返し伝える。
ケースJのS社長のインタビュー:
『(社員とのランチ会を始めるきっかけは、)段々こう、(社員数が急拡大して)、直接、社員 と接する機会が減ってきて、(社員の)考えていることがわかりづらくなって来て、という ことからですね。』
ケースLのT 社長は、自分のメッセージが、社員にきちんと伝わっていないことを発見し、
ミドルの解釈を加えずに、直接、自分のメッセージが社員全員に伝わることの重要性を訴える。
直接、社員に訴えかけることの大事さ、メッセージが曲がって伝わらないようにすることの大 事さを訴える点は、ケースKのM社長と全く同様である。
ケースLのT社長のインタビュー:
『(会議の議事録を見て、自分のメッセージが、店長の解釈で全く変わっているのを見て)
今のうちのレベルだと、私が思っていることが、人を介して伝わると、だいぶずれが生じて いることが多いですね。(中略)中間の解釈を入れない、伝え方の工夫をしないと難しいと
思うのですよ。通常で言えば、所謂ピラミッドで、階層式に、どんどん下に繋げていくとい うことが、一般的でしょうけど、それだと、ずれが生じるという事実があるのですよ。』
ケースJのS社長も、M社長、T社長と同様に、誤解のないように自分のメッセージを伝え ることの大事さの意識は強い。相手の立場を考えてという点を、特に強調していた。そして、
自分のメッセージであるので、自分の言葉でプレゼンする。そこにもこだわりをもっている。
ケースJのS社長のインタビュー:
『気をつけていることは、まずは、わかりやすいように、内容を噛み砕いて、誰にでも理解 できるように、ブレークダウンしてわかりやすく伝えるってことですよね。立場が違うと考 え方が違うので。(中略)自分の話し言葉で伝えることも、気をつけていることですかね。』
5. 企業文化を維持する
3人の社長は、全員、企業文化の重要性を認識する。企業文化の研究では、Schein (2010)の 研究が有名であるが、Scheinは、『企業文化は、究極的にリーダーが創り、浸透させ、巻き込 み、操作するものであり、企業文化の創造と管理はリーダーシップの本質である』とする。成 長ベンチャー企業が、ベンチャー本来の革新性、イノベーションの企業文化を維持するために は、社長の主体的な活動が必要である。社長は、自分の会社が、自社のベンチャー企業として の本来の存在価値を忘れて、大企業的になることを恐れる。3人の社長は、言葉は違うが、全 員明確な危機意識を持つ。
ケースJのS社長は、組織の急拡大、人員の増大に伴い企業文化が薄まることに対する危機 感を訴える。S社長は、例えは良くないが、革新的な技術会社として同社が創業当時に持って いた「ハッカー文化」をもう一度、呼び戻したいと考えている。
ケースJのS社長のインタビュー:
『どうしても社員の数が急激に増えると、文化が薄まって、消えてしまうので、創業時から もっていた雰囲気(ハッカー文化)、(中略)何とかそういうのを残す工夫をやらないといけ ないと思っていますね。』
ケースKのM社長は、企業文化が破壊されることに危機感を覚えている。特に恐れるのは、
ミドルが勝手に文化を作り、革新を忘れて大企業病(事なかれ主義、そんなことは出来ない意 識)に陥ることだと言う。そのために、M社長は、新入社員が30%以上入ってくることで、大 企業病にかかりそうなミドル層で文化の水が淀むのを防止するという具体的な手段を講じてい る。