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変革型リーダーシップとインターナルコミュニケーション

ドキュメント内 成長ベンチャー企業の (ページ 70-73)

第 2 章 先行研究調査

第 3 節 リーダーのインターナルコミュニケーション

1. 変革型リーダーシップとインターナルコミュニケーション

カリスマリーダーシップから発展した変革型リーダーシップ(Bass& Riggio, 2006)は、従 業員に魅力的な未来のビジョンや価値観を与え、目的や戦略を伝え、コミュニケーションを通 じて、従業員の信頼を得るリーダーシップスタイルである。インターナルコミュニケーション を重視し、従業員を変革に導くリーダーシップである。このようなリーダーシップ行動は、企 業の競争優位性や長期の組織発展に本質的であるとする(Bass & Riggio, 2006)。Bassは、企 業の状態が変革を必要としているのか、或は安定しているのかによって、必要とれるリーダー の 行 動 や 性 格 が 異 な る と い う リ ー ダ ー シ ッ プ モ デ ル ( 変 革 型 リ ー ダ ー シ ッ プ

(Transformational Leadership)と取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)を提 唱した(Avolio & Bass, 2002)。以下に、その特徴を示す。

(1) 変革型リーダーシップ(Transformational Leadership)

カリスマ性をもって、企業のミッションを唱導し、従業員に共通の目的意識を芽生えさ せる。従業員に現状打破を訴え、innovative、creativeなアイディアを出させる。個々の 従業員をコーチング、或はメンターリングし、達成や成功に導く。

(2) 取引型リーダーシップ(Transactional Leadership)

従業員のパフォーマンスの向上を鼓舞し、達成に対して報酬を提供する。従業員に仕事 を任せ、従業員が期待とはずれた結果を出した場合のみ、積極的に関与する。

変革型リーダーシップかどうかは、フォロワーであるミドルや従業員が、リーダーの行動を どう捉えるかによって決まり、フォロワーがどう捉えるかは、そのときの企業の状況、企業文 化によって左右される(Felfe, Tartler & Liepmann, 2004)。どのように企業の状況を従業員に 伝え、成長に導き、或は難局を乗り越えていくようにリードしていくか、また従業員に企業文 化の大事さを伝え、どのように企業文化を維持していくかは、まさに社長のインターナルコミ ュニケーションそのものである。変革型リーダーシップは、従業員の役割モデルになり、従業 員への動機付けを行い、知的な刺激を与え、個人の成長に配慮するリーダーシップスタイルと される (Bass & Riggio, 2006)。そのためには、インターナルコミュニケーションをうまく活 用することが必要であり、変革型リーダーシップの成功は、インターナルコミュニケーション の成否にかかっていると言える。

Avolio & Bass は、変革型リーダーシップの考え方を普遍化するために、Multifactor Leadership Questionnaire (MLQ) の測定尺度を開発し、自分のリーダーシップスタイルが変 革型かどうかをテストできる仕組みを提唱し、妥当性、信頼性を検証した (Avolio, Bass &

Dong, 1999)。MLQは、その後の実証的な多くの研究によって、測定尺度の妥当性、信頼性が

検証されている。変革型リーダーシップは、米国だけでなく、ドイツ(Felfe et al., 2004)や アジアにおける研究例もある。

アジアの研究例として、Ismail, Al-Banna, Zaidi, Hamran & Hanim (2011) は、MLQを利 用して、マレーシアにある米国企業の従業員 28 名によるアンケート調査によって、変革型リ ーダーシップを独立変数、エンパワーメントを媒介変数、組織コミットメントを従属変数とし て、変革型リーダーシップ→エンパワーメント→組織コミットメントの関係性を実証している。

変革型リーダーシップがエンパワーメントに影響を与えることは、従業員を尊重して、動機付 け、その成長に配慮するリーダーシップスタイルからも頷ける。ここで、本章第2節1.で述べ たように、インターナルコミュニケーション満足度が、組織コミットメントやエンパワーメン トに影響を与えることを考慮すると、以下のように、変革型リーダーシップが起点となり、イ ンターナルコミュニケーション満足度を媒介して、エンパワーメントや組織コミットメントに 影響を与えるモデルが推測される。

図 13 : 変革型リーダーシップとインターナルコミュニケーション満足度との関係 (筆者作成) (実線は直接的影響、点線は間接的影響を示す)

このように、変革型リーダーシップは、インターナルコミュニケーションを通じて、従業員 に影響を与え、従業員を組織(或は変革)にコミットさせるリーダーシップであることが分か る。つまり、リーダーが向かわせたい方向に従業員を向かわせるという「組織化」を行うリー ダーシップとも言える。金井(1999)は、組織化の本質を捉えるひとつとして、Sense-making

(Weick, 1995)の考え方を紹介する。Sense-making(意味生成)とは、従業員がある組織に 入って、組織人としての行動が「わかってくること」、「腑に落ちる」ことである(金井, 1999)。 それは、毎年のように多くの新入社員が入社する成長ベンチャー企業を想起すれば、入社した 社員が組織になじむことであり、離職せずにリーダーの考える方向に価値観を共有して納得し て進んでいくということである。

Kouzes & Posner (1998) は、変革型リーダーシップを発展させて、従業員にSense-making させて、変革に向かわせるために効果的なリーダーシップの発現に必要な要素として、①仕事 の進め方への挑戦、②ビジョンの共有、③従業員を出来るようにする、④モデルを示す、⑤心

変革型 リーダ ーシッ

インターナル コミュニケー ション満足度

エンパワ ーメント

組織コ ミット メント

に訴える、を提唱した13。更に、Aitken & Higgs (2010) は、Kouzes & Posner (1998) の5つ の要素を、スキル面と個性面でいくつかの要素に分解し14、変革期における効果的なリーダー シップとは、従来のヒーロー的なリーダー中心の視点から、従業員をして実際に組織における 挑戦を担わせるEngaging的な視点(巻き込み)で捉えるべきであると唱える。特に、スキル 面では、Inquire というスキルを紹介し、従業員とのオープンコミュニケーションの重要性を 明示し、リーダーのインターナルコミュニケーションのやり方にまで踏み込んだ議論を行って いる。

ところで、Aitken & Higgs (2010)が唱えるスキルや個性を、リーダーは生まれながらにして 全て持ちあわせているであろうか。Higgs & Rowland (2000) は、このようなリーダーシップ の実践のためには、長期間にわたるトレーニングプログラム(コーチング、モニタリング、業 務を通じた活動等)によって、必要な要素を身につけることの重要性を訴える。リーダーのス キルや個性は磨かれるという立場に立つ。そして、リーダーは、リーダーシップの結果として の組織風土の変化、従業員からのフィードバック、従業員の能力開発といった視点から評価さ れるべきと提唱する。

組織風土の変化や組織文化の研究では、Schein (2010) が有名であるが、組織文化は、リー ダーによって創られ、育まれ、操作されるとする。変革型リーダーシップは、Scheinの述べる 組織文化の創造、維持を行う。また、Schein(1999)は、「文化変革の本質は、組織が成長の どの段階にいるかによって変わってくる」とし、成長ベンチャー企業においては、文化にそっ た行動と検証を繰り返し、文化が強くなっていくとする。成長ベンチャー企業の組織が発達す るに従い、様々な危機を乗り越え、変革、変容する必要が発生するが、Schein (1999)は、変容 を成功させる2つの原則を提示する。

[変容における2つの原則(Schein, 1999)]

原則その1 : 生き残りの不安あるいは罪悪感が、学習することへの不安よりも大きくなけれ ばならない。

原則その2: 生き残りの不安を増大させるよりはむしろ学習することへの不安を減らさなけ ればならない。

13 それぞれ、①仕事の進め方への挑戦(継続的に、仕事の進め方に対して、オープンに疑問を投げかける。)、②ビジョン の共有(どうすれば達成できるか、進歩するかについて従業員とビジョンを共有する。)、③従業員を出来るようにする

(従業員のポテンシャルを信じて、彼らが潜在的な力を発揮できるような環境をつくる。)、④モデルを示す(リーダー 自らの言葉と行動でやって見せる。)、⑤心に訴える(個々の従業員の性格や仕事の達成上困っていることをリーダーが きちんと認識していることを示す。)である。

14 スキル面としての要素は、Envision(明らかな将来に対する絵を描き、従業員に方向性を示せる能力)Engage(個々 の従業員がビジョンを理解できる方法を見つける能力)、Enable(個々の従業員の能力とポテンシャルを信じ、発揮でき る環境を作る)、Inquire(従業員との個々のオープンな対話を通じて、すべての課題に対して自由でフランクな議論を 促す。)、Develop(従業員の能力形成と彼らが考える企業への貢献を実現できように一緒に汗をかく。)である。個性面 としての要素は、Authenticity(純粋さ、わざとらしい行動をとらない。)、Integrity(言動と一致した行動をとる。)

Will(ゴールに向けてこだわりをもって行動する。)、Self-belief(ゴールを達成できるという信念をもつ一方、自分の能

力を現実的に評価する。)、Self-awareness(自分が何であり、何を感じ、従業員が自分をどのように見ているかに対し、

現実的に理解する。)である。

変革型リーダーシップは、インターナルコミュニケーションを通じて、「生き残りの不安」が「学 習することへの不安」より大きくなるように従業員を誘導し、変革を実行する。

さて、ここで上記の先行研究調査によって明らかになった変革型リーダーシップとインター ナルコミュニケーションの関係を踏まえて、変革型リーダーシップのインターナルコミュニケ ーションを整理する。

[変革型リーダーシップのインターナルコミュニケーション]

① Envision(ビジョンの提示)し、従業員と価値観を共有し、従業員をEngage(巻き込み)

するコミュニケーションを行う。

② 新たに組織に入る従業員に対しては、先に述べたSense-making(意味生成)による組織 化のためのコミュニケーションを行う。

③ 業務の面では、従業員にエンパワーメント(権限委譲)して自由にやらせ、組織コミッ トメントを高めるコミュニケーションを行う。

④ 従業員の挑戦を推奨し、従業員の成長を促すオープンなコミュニケーションを行う。

⑤ トレーニングプログラムを実施しリーダーのコミュニケーション能力を開発する。

⑥ コミュニケーションを通じて、生き残りの不安が学習することへの不安より大きくなる ようにする。

成長ベンチャー企業は、社長がビジョンを創り、企業を急速に成長させるために価値観を同 じくする人達を集め、急増する従業員をコントロールしながら、組織としての体制を保ち、成 長発展させていくという過程をたどる。この過程を成功させるには、変革型リーダーシップの インターナルコミュニケーションは効果的な方法であり、必要な要素であると考えられる。そ こで、本研究では、この点も念頭におき、成長ベンチャー企業社長は、変革型リーダーシップ のインターナルコミュニケーションのやり方を行っているかについても調査し議論することと した。

ドキュメント内 成長ベンチャー企業の (ページ 70-73)

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