第 1 章 序論
第 6 節 論文の構成
ギュレーション戦略 (Creswell, 2003) なのか、その理由を説明する。そして、全体的な研究デ ザインとして、質的データの分析手法としてのGTAの採用、理論的サンプリング(条件、方 法、サンプル数の妥当性、信頼性)、調査対象企業、データ収集方法(インタビュー、質問票、
関連文書の入手)、量的データと質的データの分析方法、量的データと質的データの統合につい て説明する。最後に、調査の質の向上策についても敷衍する。
第4章から第8章までは、結果である。それぞれの章末に、第2章で定義した5つのリサー チクエスチョンに対する答えとして命題を構築していく。調査データは、2012年の調査(中小 オーナー企業7ケース)と2013年の調査(成長ベンチャー企業と中堅企業5ケース)で得ら れた合計12ケースのデータを利用する。
第4章は、CSQサーベイ結果の量的分析である。12ケースの調査データの量的分析によっ て、国内の成長ベンチャー企業でも、先行研究と同じように、インターナルコミュニケーショ ン満足度(ICS)が高いと、仕事の満足度(JS)、生産性(Pro)、やる気度(Ded)が高くなる という相関関係があることを検証し、CSQサーベイの有効性を確認する。また、成長ベンチャ ー企業のICSは高いことから、ICSと成長性との相関性について議論する。最後に、12ケー スは、ICSの高さからHigh群とLow群に分かれること、更にICS とJSの組合せから、H2 群(両者ともHighスコア)、H1群(ICSはHigh、JSはLow)、L群(両者ともにLow)の3 つのグループに分類できることを示す。分類は、次章以降の比較分析に利用する。
第5章は、質的データの分析による汎用プロセスモデルの生成である。12ケースの社長及び ミドルのインタビューデータ(質的データ)を GTA により分析することでインターナルコミ ュニケーションプロセスの汎用モデル(以下、「汎用プロセスモデル」という。)の生成を行う。
具体的には、ICSがHighである企業群とLowである企業群の社長及びミドルのインタビュー データ(質的データ)を GTA によって比較分析する。結果として、インターナルコミュニケ ーションプロセスを構成する24個の概念の生成、高次の概念として抽象化された6個のカテ ゴリーの生成、そして、カテゴリーをコミュニケーションの観点でプロセスとして連結するこ とで、成長ベンチャー企業の汎用プロセスモデルが生成される流れを示す。最終的に得られた 汎用プロセスモデルは、成長ベンチャー企業が、インターナルコミュニケーションに対する組 織的な取組みとして、どのようことを効果的、戦略的に行っているかをプロセスとして示す重 要なモデルである。
第 6 章は、成長ベンチャー企業社長のインターナルコミュニケーション意識の生成である。
社長のインターナルコミュニケーション意識を、成長ベンチャー企業である3ケースのインタ ビューデータから生成する。社長のインタビューデータから意識に関係する発言を抽出し、成 長ベンチャー企業社長に共通的な 12 個のインターナルコミュニケーション意識を生成する。
念のため、それらが、社長の発言や行動として実際に確認されているか、仕事上の付き合いの 深いミドルのインタビューにて、その信頼性を検証する。最後に、12個の意識のそれぞれが第 5 章で生成された汎用プロセスモデルとどのような関係にあるか、その因果関係について議論
する。
第 7章は、調査した12ケースにおいて、組織的なインターナルコミュニケーションの取り 組みが実際にどのように行われているか、クロスケース分析でその違いを明らかにする。CSQ サーベイによる分類を利用して、12ケースのそれぞれにおいて、実際に実践されているインタ ーナルコミュニケーション上の具体的なアクション(例えば、全社集会やイベントの開催等)
をケースごとに整理する。整理した上で、12ケースを企業規模(大規模/中規模/小規模)軸と、
CSQ サーベイ結果による分類(H2/H1/L 群)軸に基づき、企業規模におけるインターナルコ ミュニケーションの違い、CSQサーベイにおけるインターナルコミュニケーションの違いを比 較分析する。分析は、コミュニケーションの5要素(発し手、受け手、メッセージ、メディア、
ウェイ)を利用する。5要素に分解されたインターナルコミュニケーションを企業規模別、CSQ サーベイ結果別に基づき整理することで、その違いを浮き彫りにする。特に、H2 群ケースの 優れたインターナルコミュニケーションの組織的な取組みの特徴を明確にする。最後に、それ らの優れている点が、ICSの8つのディメンジョンの中で、どのディメンジョンに強く影響を 与えているかを議論する。
第8章は、CSQ統合プロセスモデルの構築である。CSQサーベイと第5章で生成した汎用 プロセスモデルを統合することで、ICSを高めるインターナルコミュニケーションプロセスと は何かについて、モデルを提示する。統合方法としては、CSQが想定するコミュニケーション パターンをコミュニケーションの 5 要素(発し手、受け手、メッセージ、メディア、ウェイ)
で記述し、それぞれのパターンで利用するメディアを、汎用プロセスモデルのコミュニケーシ ョンルートに紐付ける。その過程において、ICSの9つ目のディメンジョンとして成長ベンチ ャー企業に非常に重要な採用のコミュニケーションを発見したことを示す。更に、ICSの既存 の8つのディメンジョンについても、発し手、受け手の関係から細分化の提案を行う。最後に、
生成されたCSQ 統合プロセスモデルが、ICS スコアのトップ企業とその他のケースとのスコ アの差をプロセス的に説明するかを確認し、成長ベンチャー企業のインターナルコミュニケー ションの診断ツールとして実務的に有効かを検証する。
第9章は、議論である。初めに、リサーチクエスチョンに対する答えを、第4章から第8章 までで得られた命題に基づいて整理する。次に、リサーチクエスチョンでは直接問いの形にし なかったが、データから推測される追加的な事柄について議論する。1つ目のテーマとしては、
本研究で得られたデータによって、ベンチャー企業の組織拡大過程におけるインターナルコミ ュニケーションプロセスの発達が示唆されること、それらは組織の発達段階モデルを裏付ける 実証的データである点を議論する。2つ目のテーマとしては、社長のインターナルコミュニケ ーション意識のどのような特徴がICSのディメンジョンスコアに直接影響を与えるかについ て考察する。更に、ICSと企業成長とのスパイラル効果、ICSへの勤続年数、年齢、役職の影 響についても議論する。研究への示唆としては、先行研究調査で明らかになったリーダーのイ ンターナルコミュニケーションに関する理論や、測定尺度としてのCSQ、Engagementについ
ての示唆や、第8章までには言及しなかったがインターナルコミュニケーションとの関係にお いて研究余地のあるEntrepreneurial Orientation (EO)、Organizational Citizenship
Behavior (OCB) についても示唆を与える。実務への示唆としては、今回の調査で重要とわか
った成長戦略としてのインターナルコミュニケーションの活用の重要性、組織的な活動におけ るプロセスモデルの実務的有効性、コミュニケーション活性化における女性の役割、今回開発 したCSQ統合プロセスモデルの実務での利用方法について示唆を与える。
第10章は、結論である。研究のまとめを行い、本研究の限界について様々な観点から述べ る。インターナルコミュニケーション研究の重要性と将来性を提示し、日本における新しい研 究分野としての今後の発展可能性について述べる。今回明らかになった成長ベンチャー企業社 長のインターナルコミュニケーション意識、組織の汎用プロセスモデル、CSQサーベイ、CSQ 統合プロセスモデルの応用可能性についても、本研究の限界を踏まえつつ議論する。最後に、
結び、そして謝辞を記載する。
第11章に参考文献、第12章に付録(日本語版CSQの検証、CSQサーベイ調査票、インタ ビューガイド、分析ワークシート例、Engagement、EOの質問項目)を記載する。なお、本 研究の調査企業名は、調査協力企業及び情報提供者が特定されないように、十分配慮して匿名 を用いている。