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組織のインターナルコミュニケーションプロセス

ドキュメント内 成長ベンチャー企業の (ページ 81-84)

第 2 章 先行研究調査

第 4 節 組織のインターナルコミュニケーションプロセス

1. インターナルコミュニケーションを組織のプロセスとして研究する必要性

インターナルコミュニケーションは、企業内における複雑なプロセスである。本章第1節1.

で定義したように、組織における縦方向と横方向のプロセスである。縦のコミュニケーション は、社長からのビジョン、会社の方向性、未来、計画についてのメッセージや、日々の業務に おける上司からの指示といったフォーマルなコミュニケーションである。横のコミュニケーシ ョンは、社長主催の或は部門内における社内行事や具体的な活動を通じて、従業員同士が感じ 合うインフォーマルなコミュニケーションである。縦と横のコミュニケーションの相乗効果に より、従業員の価値観は共有化され、社長が望む行動をとるようになる。縦のコミュニケーシ ョンは、会社としての価値観の共有を促進し、横のコミュニケーションは、共有された価値観 を通じて、一体感、連帯感を醸成する。縦、横のコミュニケーションの結果として、従業員に 価値観の共有、姿勢・行動の変化をもたらす。

そもそもコミュニケーションとは、発し手が伝えたいメッセージを受け手に伝え、行動を促 す行為であり、どのようなメッセージを、誰に、いつ、どのような形で伝え影響を及ぼしてい くかといったプロセスなのであるから、本来、このような視点で研究すべきである。

発し手は、自分がメッセージを発信したいと考えたとき、誰あてのメッセージか、その場の 状況はどのようであるかといった観点から、適切なメッセージ、メディアを選び、発信する。

そして、メッセージを発信した後、受け手の反応により、きちんと伝達されたか、メッセージ

の効果を評価する。これら一連のプロセスに対し、先行研究では、プロセスというよりも、コ ミュニケーション発信者のスキルの問題として扱われてきた。

古来、世の中には、自分のメッセージを強烈な形で人に伝えるというコミュニケーション能 力を天賦の才として持ち合わせているカリスマリーダーが存在してきたために、同じようなス キルを身につければ効果的なコミュニケーションは実現できると単純に考えてしまうのも事実 である。では、誰もが、Apple創業者のスティーブ・ジョブズになれるのか、驚異のプレゼン が出来るのか(Gallo, 2010)。仮になれたとしても、それだけで十分なのか。筆者は、ここに、

インターナルコミュニケーション実践上の大きな誤解があると考える。コミュニケーションは プロセスであり、スキルだけでは片付けられない。特に、インターナルコミュニケーションは、

組織的なプロセスであり、企業内でシステム化されて初めて本来の意図を達成できる。

2. 組織のインターナルコミュニケーションプロセスの研究例

本章第1節5.で述べたように、本研究で提示するような成長ベンチャー企業のインターナル

コミュニケーションプロセスに関する研究ではないが、英国の2つの金融機関を調査して組織 のプロセス全体を記述した質的研究例として、Asif & Sargeant (2000) がある。Asif &

Sargeantは、質的調査(理論的サンプリングによるシニアマネージャー、ミドルマネージャー、

ジュニア層スタッフ31名に対する6ヶ月間にわたるインタビュー調査)を行い、GTAにてイ ンターナルコミュニケーションプロセスモデルを構築した。コミュニケーションの伝達変数や 結果指標を定義し、それらを関係づけて組織的なプロセスをモデル化した点で、本研究の参考 になる研究である。モデルは、計画プロセス(事前調査、キーファクター、目的、プログラム、

予算等)、フォーマルコミュニケーション、インフォーマルコミュニケーション、コミュニケ ー シ ョ ン の 結 果 指 標 (Shared vision, Service focus, Empowerment, Commitment, Satisfaction, Loyalty)、伝達における変数(従業員の属性、コミュニケーションの量、スタイ ル、発し手の状況等)から構成される。Asif & Sargeantは、研究を通じて、インターナルコ ミュニケーションは、むしろ横のコミュニケーションにより注力すべきであり、組織のアイデ ンティティとチームスピリッツの強化のために行われるべきとする。一方、コミュニケーショ ンは、未だ情報共有の機会の場として企業内でとらえられている面が大きいとしており、関係 性構築の手段としてとらえられているケースは少ないとする。この点は新しい着眼点である。

しかし、結果指標間の関係性については明確ではなく、どのようにコミュニケーションを行え ば、関係性構築が効果的に行われるかについても答えを出していない。そして何よりもサンプ ルも金融機関2ケースのみであり、限定的な研究である。

成長ベンチャー企業の研究例としては、組織的なプロセスの全体解明は行っていないが、オ ーストラリアの成長ベンチャー企業(成長率20%以上の中小規模の企業)に対する量的研究と して、Nelson, Brunetto, Farr-Wharton & Ramsay (2007) の研究がある。Nelson et al.は、

コミュニケーションプロセスの変数(頻度、モード、コンテンツ、フロー)と、顧客への従業 員の役割感、仕事の満足、組織コミットメントとの関係性を調査し、コミュニケーションのプ ロセス変数が従業員の満足度に影響を与え、企業成長に影響することを示唆した。本研究で定 義する成長ベンチャー企業に近い企業を対象にした量的研究であるが、コミュニケーションプ ロセスの変数が限定的であり、帰納的な方法による組織プロセス全体の構造解明には至ってい ない。

成長ベンチャー企業におけるミドルリーダーと部下とのコミュニケーションについて、関係 性の観点から調査した研究報告もある。Farr-Wharton & Brunetto (2007) は、人事部の機能 が確立している大企業ではなく、オーストラリアの中小企業、成長企業(従業員数十名から150 名程度)においても、コミュニケーション上の満足が、企業の成長戦略を促進することを実証 した。Farr-Wharton & Brunetto (2007) は、従業員と経営層の相互理解に基づく社会関係性 が従業員と企業の双方のベネフィットになるという視点から、高品質の上司・部下間の情報交 換・信頼関係 (Leader-Member Exchange) が実現されれば、部下のインターナルコミュニケ ーション満足度があがり、成長途上における変革を受け入れやすいことを実証した。また、同 時に、部下の生産性も向上する点も指摘した。但し、どのように上司・部下間の信頼関係を構 築し、インターナルコミュニケーション満足度を高めるかについて、その組織的なプロセスは 述べられていない。

Saini(2001)は、Pre-IPOの会社を例に取り、創業からPre-IPO、Post-IPOのステージに 成長する段階で発生する、インターナルコミュニケーション上の課題(変化)をモデル化した。

企業成長と組織の拡大に伴うインターナルコミュニケーションの変化の研究である。Saini

(2001)は、企業の発展に伴い、人事部の機能として、従業員がコミュニケーション上の満足 を得られるような仕組み(専門部門による組織的な対応)の必要性を指摘した。ソフトウェア の開発会社をケースとして、Pre-IPO(200名程度、ローカル市場のみ)、Post-IPO(700名程 度、グローバル市場への進出)の比較を、IPO前後、会社規模の拡大、組織の発達により、ど のようにインターナルコミュニケーションが変化したか、或いは変化すべきと、経営層、従業 員は考えたかをインタビュー調査して整理した。Saini は、成長企業に必要なインターナルコ ミュニケーションのモデルとして、7つの変数(従業員コミュニケーション、組織構造と風土、

パブリックリレーション、リーダーシップスタイル、意思決定方法、従業員モチベーション、

人事部の役割)を定義した。また、情報流通の観点から、コミュニケーションメディア(対面、

電話、メール、ウェブサイト、会議 )、雰囲気(オープン、形式的)、情報の流れ(ボトムアッ プ、トップダウン、双方向、一方向、対象、非対称)、組織のあり方(フラットな組織、機能型 ピラミッド組織)、意思決定スタイル (エンパワーメント、社内ルール、即決、時間がかかる決 定)、計画性(計画立案、システマチック)、従業員の構成(古参の従業員、新入の従業員)、コ ミュニケーションの内容について、上場前に実現していた良好な状態から、上場後の組織の肥 大化により、どのような問題点を含むことになったかを分析した。Saini は、ケースとしては

失敗事例から理想のモデルを作るという手法を用いたため、得られたモデルの有効性は、更な る事例研究による検証を必要とするものの、企業が成長する過程においてインターナルコミュ ニケーション全体の変化のダイナミズムを表現しようという試みには価値があり、本研究に示 唆を与える。

ベンチャー企業が成長し、組織が拡大していくことにより、インターナルコミュニケーショ ン上の課題が増大することは想像に難くない。では、成功している成長ベンチャー企業は、ど のような課題にぶち当たり、その課題をどうやって克服してきたのか。これらの疑問に答える ためには、成長ベンチャー企業のインターナルコミュニケーションを組織のプロセスとして構 造解明する必要がある。上記の先行研究の例は、大企業の金融機関における GTA による組織 プロセスの質的調査 (Asif & Sargeant)、成長ベンチャー企業における組織発達プロセスの質 的調査 (Saini)、成長ベンチャー企業における上司・部下の関係性の質的調査 (Farr-Wharton

& Brunetto)、成長ベンチャー企業におけるプロセス変数の量的調査(Nelson et al.)と整理で きる。これらの限定的な先行研究のギャップを明確にした上で、次節にてリサーチクエスチョ ンを定義する。

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