インターネットの普及を始めとしたIT革命は、新たな産業創出への活力として大きな期待を担っている。しかし、他方では、そうした時代の 変化に大幅に立ち遅れ、ネットワーク上の取引を想定せずに制定された規制が、IT革命の実効性を阻害する要因となっている。すなわち企業と 消費者との取引では、消費者の保護、取引の安全性確保、相手方の確定等を目的として、書面の交付や署名押印、対面での販売、一定の事業所の 設置や責任者の配置等の義務付けを課している法制度が多い。国内外のインターネットを通じた取引を更に発展させていくためには、個人情報の 保護、改ざん防止等のセキュリティ上の問題や相手方の特定などの問題を早急に解決するとともに、電子商取引の特性に合致した法制度の整備や ルールづくりが急務となっている。
なお、消費者保護の観点から、消費者に送達する手法が書面から電子的なものになったとしても、消費者に正しく商品内容を伝え、その理解を 得ることは重要であり、消費者に送達される情報は取引に関し、適切な内容となっている必要があることは言うまでもない。
事業者と消費者との間の取引においては、取引される商品やサービス等によって、適用される規制は異なっているが、その見直しの基準につい ては、おおむね以下のような類型に分けて整理できるのではないか。
1 書面要件の見直し
インターネット上の取引における書面要件は、主に取引の際の契約書・説明書類等に課せられている。既に政府において、「各省庁は所管法令 などに係る申請・届出等手続のオンライン化を計画的かつ着実に推進するため、平成12年早期に、15年までの具体的なタイムスケジュール を示したアクションプランを策定し、公表する」との方針が定められており、インターネット上の取引における書面交付義務の「書面」の定義 については、企業と消費者との間の取引においても早急に見直しがなされるべきである。
書面による交付は、例えば、通信販売における承諾通知や、割賦販売、旅行取引等の重要事項の説明等において義務付けられているが、これ らについては、書類の原本性の確保、本人確認、消費者保護等の措置、また、通信途中での改ざん、盗聴等の防止をするためのセキュリティの 確保等を考慮した上で検討する必要がある。その上で、受け手の了解があるならば、電子的な代替手段によることを認めてよいのではないかと 考えられる。
なお、取引における書面要件ではないが、例えば、株式会社の公告は、官報又は日刊新聞紙に掲げてすることとされている。これについても、
インターネットが急速に普及してきている現状においては、インターネットの利用環境が整備されていない者の利益の保護をも考慮した上で、
ホームページによる公告の可否について検討をする必要がある。
2 インターネット取引において、それ以外の取引と同様の規制を課すことの合理性の検討
例えば職業紹介事業の許可に当たっては事業所について一定の要件を課しているなど、各種の事業許可に当たり事業所について一定の要件を
課しているものが多い。あるいは、医薬品等の販売に当たっては、対面による販売が原則であるとされている。しかしながら、このような対面 交渉を前提とした規制等を、コンピュータ等により双方向で情報を受発信できるインターネットを通した事業にも機械的に適用することの合理 性については、改めて検討する必要がある。
3 通信販売(インターネット上での取引を含む。)における販売品目の制限
通信販売において、医薬品一般販売業者の医薬品等のように、販売可能品目が限定されている例があるが、遠隔地の消費者や店舗に出かける ことが不可能な消費者のために、消費者とのトラブル、問合せ等に対する適切な対処方法を確立させた上で、更に販売可能品目の範囲を拡大す ることを検討する必要がある。
この分野においては、上記のような類型の分類を仮定しつつ、インターネットを通じた各種商取引についてはそれぞれの個別項目ごとに各分野 において具体的に検討していくこととし、特に、通信販売、割賦販売、医薬品販売における消費者への通知・説明に関する項目について論点とし て検討する。しかしながら、取引の際の書面の交付や署名押印、対面での説明や一定の事業所や責任者の配置の義務付けなど、インターネット上 での取引を前提としていない各種の法制度については、今年度当委員会が具体的に取り上げた項目以外にも少なからずあると考えられるところか ら、個別項目の具体的な検討を通じて浮かび上がってきた類型ごとの共通的な考え方を整理し、政府として統一的にこの問題に取り組んでいくこ とが重要である。
いずれにしても、当委員会としては、先般、内閣の情報通信技術(IT)戦略本部に設けられた民間有識者で構成するIT戦略会議とも緊密な 連携を取りつつ、関連の諸課題の検討に取り組むこととする。また、この分野においては改革のスピードが何より重要な要素であることを念頭に 置いてこの問題に取り組んでいくこととし、迅速に改革を進めていく観点から、必要とあれば、年末の見解を待たず中間的な整理を取りまとめて 提言を行うことを含めて、検討していくこととしたい。
<参考> 消費者向け電子商取引(BtoC)に関する売上金額・店舗数の状況
<売上金額> 680億円/1998年 → 2,500億円/1999年 → 5兆5,400億円(予測)/2004年
<店舗数> 約240店/1995年9月 → 約27,000店/2000年5月
出典 売上金額:電子商取引実証推進協議会、アンダーセンコンサルティング
店舗数:NRIサイバービジネス・ケースバンク、サイバー社会基盤研究推進センター
1−1 通信販売における消費者への通知の電子化
1 規制の現状と進捗状況 制度の概要
【通信販売における承諾等の通知】(例示)
・通信販売では、販売業者又は役務提供事業者は申込者から申込みを受け、かつ、その対価の全部又は一部を受領した ときは、遅滞なく、申込者に対して書面にて、当該申込内容を承諾するか否か等に関して通知を行わなければならな い。(訪問販売等に関する法律第9条、訪問販売等に関する法律施行規則第10条、第11条)
政府の対応(規制緩和 推進3か年計画)
記載なし。
2 論点整理
(注)・◇は当委員会の規制改革の意見・考え方であり、◆は◇に対する所管省庁等の説明や意見・考え方を示す。
・(IT関連)は、IT化関連の論点を含むことを示す。
【電子的手段による消費者への通知】(IT関連)
論点:消費者との意思疎通を迅速に行うため、販売業者がすぐに商品を発送できない場合の申込内容の承諾の可否について、電子的手段によっ て消費者に通知することを可能とするべきではないか。
◇販売業者が、顧客からの申込み及び代金の前払いを受けて、遅滞なく(1週間以内)商品の配送を行えない場合には、遅滞なく(1週間以内)
書面にて通知しなければならないとされている。しかしながら、インターネットによる販売は、消費者と販売業者間の迅速な意思の疎通が大き な利点であり、例えば、希少価値の高い製品等で、販売業者が1週間以内に配送できない場合に電子的手段で迅速に通知を行えば、次の販売業 者を探すなど消費者にも大きなメリットがある。したがって、現行法のように消費者への通知の手段を書面に限定することは、インターネット を利用する価値が減退してしまうことから、販売業者が商品をすぐに発送できない場合における申込内容の承諾の可否を、電子的手段で消費者 に通知することを可能とするべきではないか。
◆本論点に関して、通産省では、昨年12月に産業構造審議会消費経済部会にインターネット通販小委員会を設置し、近年の電子商取引の急速な 進展を踏まえて、消費者の信頼構築のための方策について審議を行っており、同小委の「中間報告書(案)」(平成12年7月13日同小委にて 配布)では、関連検討課題の一つとして、電子的な書面の問題を取り上げている。
◆ただし、日本弁護士連合会は、99年3月、「電子商取引における消費者保護に関する提言」を公表し、各種業法における書面交付義務に関して、
「書面交付義務を課している趣旨には、消費者への書面による情報提供にとどまらず、書面を利用することにより消費者への注意喚起を促し、
契約判断の適正を確保することも含まれているのであって、この点に関しては書面を交付すること自体に特別の意味があること、また後日のト ラブルへの対処に当たり消費者に提供される情報に関しても、現在の技術水準では電子情報の改ざんの容易さから電子情報での情報に証拠とし ての価値が低い等の事情にかんがみれば、現時点では電子メール等電子情報での書面交付への代用には慎重であるべき」としており、このよう な意見に対して整理が必要である。