Answer
1.がん種,組織型,分化度,進行期,年齢,合併症などを勘案したうえで施行を決定 する. (B)
2.再発子宮体がん,低悪性度子宮内膜間質肉腫では行わない. (B)
3.子宮体がんでも,根治の可能性が高いと判断された場合には行うことができる. (C)
Key words
:婦人科悪性腫瘍,ホルモン補充療法(HRT),ET,EPT▷解 説
1.閉経前に治療により人工的に閉経状態となった場合,急激な女性ホルモン欠落症状や,長期的に は骨粗鬆症,脂質異常症,動脈硬化症などにより生活の質の低下をきたす可能性があり,45 歳未満の 予防的卵巣摘除が死亡率を上げる1)との報告もある.また手術操作による突然の閉経では,更年期障害 や精神的障害は自然閉経より重症度が高いことが知られており1)~4),40 代前半までに人工的に閉経した 患者の更年期症状への対応は,生活の質の改善と維持に極めて重要である.婦人科悪性腫瘍の治療後は,
悪性腫瘍の種類や組織型,臨床進行期,閉経状態になった年齢,既往歴・家族歴,更年期障害の症状と 重症度,乳がん検診結果,成人病スクリーニング結果を総合的に評価する.そのうえで,十分な説明と 同意を得てホルモン補充療法(HRT)施行を決定する.特に,再発リスクが低い早期子宮体がん,上皮 性卵巣がん,子宮頸がん,腟・外陰扁平上皮がん治療後の卵巣欠落症状には,HRT を施行するメリット があると考えられている2)~4).HRT において子宮内膜がん発症のリスクはエストロゲン製剤+黄体ホル モン製剤投与により低下する5)とされており,子宮摘出後の患者はエストロゲン製剤単独療法(ET),子 宮温存患者は放射線治療後であってもわずかに内膜組織が残る可能性があるため6)エストロゲン製剤+
黄体ホルモン製剤併用療法(EPT)を行う.HRT の開始時期については,報告により初回治療終了直 後から 2 か月以内から 6 か月以内と差があり,個々の患者の状態により判断すべきである.婦人科悪性 腫瘍治療後に HRT を行うべきではないとされている状態は限られており3)4)7),わが国のホルモン補充 療法ガイドライン 2012 年版では,子宮内膜がんと卵巣がんの既往は「慎重投与ないしは条件付きで投 与が可能な症例」に分類されている8).また,各々の疾患に対する国内治療ガイドラインの最新版の記 載も参照すべきである.
子宮頸がんでは,手術や放射線治療に起因した卵巣機能消失による骨粗鬆症予防や,腟・膀胱症状の 改善を含めた QOL の維持のために HRT は有効であると報告されている9)10).ET で頸部腺がんの発生 リスク増加(オッズ比 2.7,95% 信頼区間:1.1~6.8)を指摘した報告11)があるものの,頸がん治療 後の HRT については扁平上皮がんも腺がんも HRT が予後に影響するという証拠はない2)~4).
上皮性卵巣がんでは,発生のリスクについてはホルモン補充投与期間依存的にわずかにリスクが上昇 する可能性がある12)とされている一方で,治療後の ET はランダム化比較試験において,無病生存期間,
全生存期間に影響を与えなかった13)と報告されている.また,その他の観察研究でも同様の結果が示さ
れており14)15),コホート研究で境界悪性腫瘍の予後に HRT の有無は影響がなかったが,診断後に HRT
を施行された上皮性卵巣がんの群では有意に 5 年生存率が良好であったとの報告もある(ハザード比
CQ225 婦人科悪性腫瘍(境界・低悪性度を含む)の治療後に卵巣機能
0.57,95% 信頼区間:0.42~0.78)16).以上のように,現状では上皮性卵巣がん治療後の HRT が 予後に悪影響を及ぼすというデータはないといえる.その他の卵巣腫瘍で,胚細胞性腫瘍はしばしば若 年者で妊孕性温存手術が行われることからも HRT を否定するデータはない.一方,顆粒膜細胞腫はエ ストロゲン産生性かつ依存性腫瘍としての性質から,HRT の予後への影響についてのエビデンスはない が,現状では HRT は避けた方がよいと考えられている2)4).また,遺伝性乳癌卵巣癌(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)が懸念される症例への対応について(CQ228 参照),BRCA1 変異を有する閉経後女性の症例対照試験では,予防的付属器摘出術後の短期間の HRT は乳がん発症の リスクを上昇させなかったとしている17)18).
子宮体がんの多くはエストロゲン依存性の高分化型類内膜腺がんであり,若年者であっても卵巣温存 には慎重な対応が必要であるため,原則として子宮全摘出術と両側付属器摘出術を含む手術が行われて いる.しかし近年さまざまな研究報告から,予後良好である早期体がんの根治手術後の更年期症状には HRT が治療の重要な選択肢の一つとなっている2)~4).Gynecologic Oncology Group study として 行われた子宮体がん術後の ET の安全性を検討したランダム化比較試験19)は,2002 年の Women’s Health Initiative(WHI)study の中間報告20)の影響で参加募集が途中で中止となったが,ET 群の 618 名中再発は 14 名(2.3%),対照群では 618 名中再発は 12 名(1.9%)であり,再発/死亡の ET 群での相対リスクは 1.27(95% 信頼区間:0.916~1.77)で有意差がなかった.試験は完遂さ れなかったものの,少なくとも再発率を増加させないことが確認された19).もう一つの I 期,II 期症例の 前方視的症例対照研究でも HRT は予後に影響を与えなかった21).また,複数の後方視的報告でも術後 の ET 群と未施行群では再発のリスクに有意な差は認められていない22)23).後方視的研究で,I 期症例へ の ET は有意に無病生存率が高かったとの報告がある24).さらに,フランスの 2011 年の子宮体がん治 療に関するガイドラインでは,治療後の 50 歳未満の女性には ET は禁忌ではなく,術後の卵巣欠落症 状の治療となり得ること,50 歳以上では一般健常人における適応と禁忌に従うこととしている25).以 上のように,早期体がん根治手術後に残存腫瘍のない症例の HRT は再発の危険性を高めないと考えら れるが,実際の施行にあたっては十分な説明を行ったうえで同意を得ることが重要である.子宮体がん 術後の EPT の報告は HRT 非施行群との比較21)26)なので,現状では黄体ホルモン製剤を加える意義は示 されていない2)4).
比較的まれな婦人科腫瘍である外陰と腟の扁平上皮がんについて,HRT 法は予後に影響がないと考え られているが,若年に発生する明細胞腺がんなどの腟腺がんは母体の DES(diethylstilbestrol)曝露 との関連が明らかになっていることから,ホルモン依存性腫瘍の可能性を考慮し HRT については慎重 な対応が望まれる2)4).
2.現在,結合型エストロゲン製剤の添付文書27)上で投与禁忌とされているのは,エストロゲン依存 性腫瘍(例えば乳がん,子宮内膜がん)については[腫瘍の悪性化あるいは顕性化を促すことがある]
およびその疑いのある患者,乳がんの既往歴がある患者,血栓性静脈炎や肺塞栓のある患者またはその 既往歴がある患者,動脈性の血栓塞栓疾患またはその既往歴がある患者に対しては[エストロゲンは凝 固因子を増加させ,血栓形成を促進するとの報告がある]などである.したがって,エストロゲン依存 性の再発子宮体がんと寛解に至らない進行体がんでは HRT は行うべきではない.子宮肉腫全体として 治療後の HRT が再発に与える影響に関する大規模な研究はないが,5 年以上の EPT が子宮肉腫発生の リスクを有意に上昇させたというフィンランドのコホート研究が公表されている28).また,低悪性度子 宮内膜間質肉腫ではエストロゲンレセプター陽性のものが多く,エストロゲン依存性腫瘍と考えられて いる.さらに,転移病巣の発見時 10 例中 5 例がエストロゲン補充療法を受けていた7)との報告もある ことから,本疾患でのエストロゲン補充は禁忌と考えられている.乳がん術後の患者にホルモン補充療
120 ガイドライン婦人科外来編
法を行うと乳がんの再発を増加させる(ハザード比 2.4,95% 信頼区間:1.3~4.2)というランダム 化比較試験の結果29)があることから,わが国の乳癌診療ガイドラインでも乳がん術後にはエストロゲン の補充は行うべきではないとしている30).
3.I 期から III 期の子宮体がん治療後にエストロゲンと黄体ホルモン製剤の併用療法例も含む HRT 施 行群と未施行群を比べた後方視的症例対照研究では,黄体ホルモン製剤投与の有無にかかわらず,エス トロゲンを含むホルモン補充療法施行群で有意に無病生存率が長かった(p=0.006)26).しかし,III 期 以上の進行体がんを対象とした単独の臨床試験はない.子宮体がんの予後は,日本産科婦人科学会婦人 科腫瘍委員会治療年報(2007 年に治療した子宮体がんの 5 年治療成績)によれば,I 期 95.3%,II 期 89.8%,III 期 75.6%,IV 期 29.1% と IV 期以外は良好である31)ため,進行例であっても一定の寛解 期間があり根治の可能性が高いと判断された場合には,患者への十分な説明と同意を得たうえで HRT を行うことは許容できると考えられる.
文 献
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