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マンモグラフィ検診であり,視触診はその精度を補完するものと位置づけられている.2002 年の USPSTF の recommendation でも,推奨はマンモグラフィ検診で,視触診は,“with or without clinical breast examination”であり,併用は必要とされていない.日本乳癌学会の診療ガイドライ ン(2013 年)でも,“50 歳以上の女性に対して行われるマンモグラフィによる乳がん検診は強く勧 められる(推奨グレード A)”となっており,視触診の併用は問うていない.

 2009 年 11 月に USPSTF の recommendation が改訂され3),マンモグラフィ検診が推奨(グレー ド B)されるのは,従来の 40 歳以上の女性から,50~74 歳とされた.75 歳以上の女性がはずされ たのは,早期に発見して早期に治療することが死亡率減少効果にはつながらず,不必要な治療を加えて しまう過剰診断の不利益を重くみた結果であり,わが国では議論のあるところである.この USPSTF の recommendation 改訂は,死亡率減少効果という利益だけでなく,偽陽性による精神的苦痛や,不 必要な検査を受けることになる不利益とのバランスを考慮して検診の有用性を決めるという新しい考え 方を示し,多くの議論を巻き起こしている.2015 年 4 月 USPSTF は draft recommendation を発 表しているが内容に変更はない.

 わが国でも,USPSTF の考え方に基づいたガイドラインとして,厚生労働省研究班(斉藤班)の「有 効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン 2013 年度版」が発表されている9).それによると 40~74 歳のマンモグラフィ単独検診および 40~64 歳のマンモグラフィ・視触診併用検診がそれぞれ推奨グ レード B となった.これらを受けて日本乳癌学会の診療ガイドライン(2015 年)でも,“50 歳以上 の女性に対して行われるマンモグラフィによる乳がん検診は勧められるが,benefit(利益)と harm

(不利益)に関して情報を提供する必要がある.”として推奨グレードをそれまでの A から B に変更して いる.

 40 歳代においても,マンモグラフィ検診による有意な死亡率減少効果が認められている(15%)4). 40 歳の女性のみを 10 年間フォローした RCT も行われており,統計学的な有意差は認められなかった ものの(p=0.11),それまでの報告とほぼ一致する 17% の死亡率減少効果が示唆された10).これら の成績から,「有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン 2013 年度版」および日本乳癌学会の診療 ガイドライン(2015 年)のいずれにおいても推奨グレード B となっている.ただし,50 歳以上と比 較して,利益である死亡率減少効果も小さく,偽陽性も増えることから,日本乳癌学会の診療ガイドラ インのコメントは“40 歳代の女性に対して行われるマンモグラフィ検診も勧められるが,benefit と 特にさまざまな harm に関してより詳細な情報を提供する必要がある.”と,50 歳以上のコメントに比 べ推奨のトーンを少し落としている.

 改訂された USPSTF の recommendation では,50 歳未満の推奨グレードが C(ルーチン検査と しては勧めず,個々に判断する)とされた3).その理由は,死亡率減少効果が否定されたためではなく,

閉経前乳がん患者の頻度が低いこと,ならびに偽陽性率が高いことから,不利益が,総合的な利益を上 回ると判断されたことによる.これに対し米国対がん協会(American Cancer Society,ACS)や米 国放射線学会(American College of Radiology,ACR)は反対を表明しており,米国保健福祉省

(Department of Health and Human Services,HHS),米国産婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologist,ACOG)なども従来の推奨を変更していない.ACS は,2015 年 10 月に新しいガイドラインを発表し,マンモグラフィ検診の推奨年齢を 45 歳以上に引き上げ,40

~44 歳は利益と不利益を考慮したうえで決定するとした11).しかし年齢の上限は設けていない.わが 国では,欧米に比べて閉経前乳がんの頻度が高く,また乳癌検診学会が行った 5 県での検討で,偽陽性 による検診の不利益も小さいことが示されており12),USPSTF のデータはそのまま当てはまらないと 考えられる.これらのことから,乳癌検診学会および厚生労働省は従来の検診方法に変更はないとの見

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解を出している.

 2.マンモグラフィの検出感度は乳腺濃度に依存している.Kolb らの検討では,脂肪性および乳腺散 在での感度 98% および 83% に対し,不均一高濃度および高濃度では 64% および 48% と感度が低 い一方,超音波ではいずれも 80% 前後の検出率を示し,両者の併用により,乳腺散在例では 100%,

高濃度乳房でも 94% と高い検出率を示している13).その他,被曝のないこと,痛みのないこと,手軽 で何回でも検査を繰り返せること,マンモグラフィ撮影装置に比べ機器が安価であることなどの利点も 多い.閉経後乳がんが多い欧米と異なり,わが国では閉経前乳がんが多く,乳がん罹患のピークが 40 代後半であり,閉経前乳がんの頻度が高い.そのため乳腺濃度の高い 40 歳代,30 歳代への対策が課 題であり,超音波検診の有用性が注目されている.実際超音波検診でマンモグラフィと同等以上の感度,

早期がん発見率が示されており,さらにマンモグラフィでは検出できない小さな浸潤がんや従来不得手 とされていた非浸潤がんも高率に発見できるとする多くの報告がある14)~17).超音波検診の問題点とし て,精度管理が難しいこと,有所見率が高いこと,乳がんの重要な所見の 1 つである微細石灰化の検出 能力が劣ること,などがあげられる.しかし平成 16 年には「日本乳腺甲状腺超音波診断会議」のガイ ドライン(平成 20 年改訂)に沿って,検査方法や診断基準が標準化され,同時に講習会と試験による 検査者の知識・技術の向上が図られるなど,マンモグラフィと同様の精度管理が試みられている.また 検査機器の技術革新も進み,先にあげた問題点は解消されつつある.

 以上述べたように超音波を用いた乳がん検診は,マンモグラフィに劣らない有効性があると考えられ,

任意型検診ではマンモグラフィに替わるモダリティーとして用いられてきている.しかし,現在まで死 亡率減少効果を示す乳腺超音波検診に関する RCT 成績は報告されておらず,久道班報告8)や日本乳癌学 会の診療ガイドライン(2015 年)でも,“超音波による乳がん検診を勧められる十分な根拠は現時点 ではまだない”とされている.すなわちエビデンスが求められる対策型検診においては超音波を代用す る乳がん検診はまだ勧められない.

 2015 年 4 月厚生労働省による「乳がん検診における乳腺超音波の有効性を検証するための比較試 験」(Japan Strategic anti-Cancer randomized trial,J-START)の成績が発表された18).それに よると 40 歳代におけるマンモグラフィ・超音波併用検診によるがん発見率は 0.50%,感度は 91.1%

とマンモグラフィ単独検診の,それぞれ 0.33%,77.0% に比し有意に良好な結果である.一方,要 精査率は 12.6%(単独群 8.8%)と高く,特異度も 87.7% と,単独群の 91.4% に比べ明らかに悪 い.この試験では独立判定方式で判定しているため,例えば,マンモグラフィでは境界明瞭平滑な腫瘤,

併用した超音波検査で囊胞あるいは線維腺腫であった場合,マンモの所見からカテゴリー 3 として要精 査とせざるを得ない.しかし総合的に判定すると,この場合超音波を優先することによりカテゴリー 2 とすることができる.すなわち感度の上昇を損なうことなく特異度も上げるためには総合判定が必須で あり,日本乳癌検診学会が作成した「マンモグラフィと超音波の総合判定マニュアル」をもとに併用検 診での判定基準として導入されることになると考える.

 厚労省の「がん検診のあり方に関する検討会」の中間報告では,乳腺超音波検査について将来的に対 策型検診として導入される可能性があり,死亡率減少効果の検証を行うと共に,評価体制や実施体制に ついて引き続き検討していくとしている.すでに日本乳癌検診学会からは,「超音波による乳がん検診の 手引き(-精度管理マニュアル-)」もまとめられている.

 3.特に高濃度乳腺症例や,マンモグラフィのエビデンスがない 40 歳未満の若年者では,超音波に よるスクリーニングは有用であると考えられる14)~17).しかし微細石灰化の検出能力が劣るという超音 波の特性を考慮すると,理想的にはマンモグラフィとの併用が望まれる.但し,40 歳未満の女性に対 する乳がん検診は対策型検診としては認められない.

 4.検診間隔について,わが国では,40 歳以上隔年検診となっている.これは,国際癌検診ネット ワーク(International Cancer Screening network:ICSN)に加盟するヨーロッパを中心とした諸 国の多くが隔年検診であること,および費用効果分析による19).現在 USPSTF の推奨は 2 年である3). 2 年ごとの検診により,毎年の検診に比べ,偽陽性による危害は半減するのに対し,死亡率減少効果は 81% 達成できるとしている.しかし米国では,この推奨間隔に対しても反対が多く,国立がん研究所

(National Cancer Institute)は 1~2 年ごとを推奨し,ACOG をはじめ,医師会(American Medi-cal Association),ACR および HHS は 1 年ごとの検診を推奨している.ACS は新しいガイドライ ンで,45~54 歳は 1 年ごと,55 歳以上は 2 年ごとを推奨している11)

文 献

1) Ota J, Horino T, Taguchi T, et al.: Mass screening for breast cancer: comparison of the clinical stage and prognosis of breast cancer detected by mass screening and in out-patient clinics. Jpn J Cancer Res 1989; 80: 1028―1034 PMID: 2514163 (II)

2) Barton MB, Harris R, Fletcher SW: The national clinical examination. Does this patient have breast cancer? The screening clinical breast examination: should it be done? How?

JAMA 1999; 282: 1270―1280 PMID: 10517431 (II)

3) U.S. Preventive Service Task Force. Screening for breast cancer. Released Date: November 2009 http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Document/UpdateSummaryFinal/

breast-cancer-screening(Guideline)(最終アクセス日 2015/7/18)

4) Smith RA, Duffy SW, Gabe R, et al.: The randomized trials of breast cancer screening: what have we learned? Radiol Clin North Am 2004; 42: 793―806 PMID: 15337416 (I)

5) Warwick J, Tabàr L, Vitak B, et al.: Time-dependent effects on survival in breast carcinoma:

results of 20 years of follow-up from Swedish Two-County Study. Cancer 2004; 100:

1331―1336 PMID: 1504264 (I)

6) Ohuchi N, Yoshida K, Kimura M, et al.: Comparison of false negative rates among breast cancer screening modalities with or without mammography. Jpn J Cancer Res 1995; 86:

501―506 PMID: 7790323 (II)

7) Morimoto T, Sasa M, Yamaguchi T, et al.: Breast cancer screening by mammography in women aged under 50 years in Japan. Anticancer Res 2000; 20: 3689―3694 PMID:

11268440 (II)

8) 久道 茂(主任研究者):新たながん検診手法の有効性の評価報告書.東京:日本公衆衛生協会,2001

(Guideline)

9) 斉藤 博(主任研究者):有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン 2013 年度版.東京:独立行政 法人国立がん研究センター,がん予防・検診研究センター,2014 (Guideline)

10) Moss SM, Cuckle H, Evans A, et al.: Trial management group: Effect of mammographic screening from age 40 years on breast cancer mortality at 10 years’ follow-up: a random-ized controlled trial. Lancet 2006; 368: 2053―2060 PMID: 17161727 (I)

11) Oeffinger KC, et al.: Breast cancer screening for women at average risk, 2015 guidline update from ACS. JAMA 2015; 314: 1599―1614 PMID: 26501536 (Guideline)

12) 笠原善郎,他:乳癌検診の不利益:マンモグラフィ検診偽陽性症例の実態調査.日乳癌検診学会誌  2010;19:279 (III)

13) Kolb TM, Lichy J, Newhouse JH: Comparison of the performance of screening mammogra-phy, physical examination, and breast US and evaluation of factors that influence them:

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