第 4 章 来日前日本語学習教材の設計と開発
4.5 来日前日本語学習教材の開発
4.5.3 来日前日本語学習教材作成の流れ
教材作成に当たり、筆者の担当した役割を中心にどのような流れで作成をしたかを説明 する。
図4- 9 来日前日本語学習教材の各課の構成
117
メイン教材は上述の③映像による会話スキットである。これは、まずどのような場面を設 定するか全体の構想を考えた。それから各課のテーマを決定した。教材を作成するにあたっ て最も重要視したのは、オーセンティックな会話場面を作ることである。各課すべてで、現 場の実際の会話を聴き取る事前作業を行い、それから、日常使われている自然な会話を念頭 に置きながらも、それぞれの場面で必要な重要表現を入れてシナリオ作りをした。その大ま かな流れが図4-10である。
項目場面設定 ⇒ 課ごとのテーマ決め ⇒ 現場での聞き取り作業 ⇒ シナリオ作成
図4- 10 ③映像による会話スキット 作成の流れ
例えば第6課の「食堂で」を例にとると、まず、コンテンツスペシャリストとしての筆者 が事前に食堂での流れをチェックし、食堂の人との会話を聴き取り、シナリオ作りをした。
シナリオ作りのポイントは、オーセンティックであることを重視したので、食堂の人の発話 は日常通りとし、それに応対できるように、留学生に覚えてほしいポイントとなる会話表現 を織り込んでいった。さらに、日本の文化やマナーを理解するために、まず手を洗うこと、
順番に並ぶこと、食堂の人との挨拶や、食事前後の挨拶など、細かな部分にもこだわった。
主要な登場人物である佐賀大学の日本人学生と留学生には事前にシナリオを渡し、各自練 習をしてもらった。応対をしてくれる食堂の人は、実際にそこで働いている日常の会話のま まにしたかったため、特別にシナリオ等は渡さず、逆に打ち合わせの際は、いつも通りでや ってほしいと依頼した。
撮影当日は、筆者が立ち会い、出演者に動きや話し方などの指示を与えた。撮影に関して は、コンテンツクリエーターであるeラーニングスタジオスタッフの協力を得、映像に関す る音響やカメラアングル等を担当してもらった。事前にシナリオを作成してはいたが、学生 の自然な会話を尊重したり、逆に学生の自然な会話を留学生が理解できない場合は修正し 再度撮り直しを指示したりした。最終的には、会話が自然で、重要表現が押さえられていた ら完成とした。
その後は、eラーニングスタジオスタッフに編集を依頼し、出来上がった映像は、教材制 作者全員で視聴し確認を行った。画面構成や音声の修正作業を繰り返し、再収録再編集を行 い作り上げていった。撮り直し、再収録、再編集、再確認と繰り返しの作業をして完成させ た。映像を撮るスタッフ、eラーニング化するeラーニングスタジオのスタッフ、演じる学 生、そこで働いている職員の方の協力、収録したものを編集する学生スタッフ63など、多く の人の力を得て一つの課のビデオ教材を完成させていった。これが教材構成の中の③映像 による会話スキット(メイン教材)作成の大まかな流れである。このような流れをすべての 課で行った(第6課の詳細は付録に掲載)。
63 佐賀大学の講座「デジタル表現技術養成プログラム」を修了した学生たち
118
撮影 … 会話や動きの修正 … 撮り直し ⇒ 収録 ⇒ 編集 ⇒ 視聴(確認)⇒ 完成
撮り直し 再収録 再編集 再確認
図4- 11 ③映像による会話スキット 編集の流れ
また、①のオープニングは、メイン教材に関連した内容を紹介するのであるが、そのた めに、現場を見たり生協のH.P.を参考にしたりして原稿を作成した。佐賀大学の食堂の場 所を地図の中で示し、特色であるTFT(Table For Two)64 ヘルシーメニューやセルフバ ーコーナー、ミールカードなど大学生活に必要な情報を提供している。その際、内容と量 は中級レベルの学習者の聴解力に照準を合わせて、必要な情報のみに削ぎ落とし1分程度 にまとめる作業を行った。このナレーションも筆者が担当した。②の新出語彙では、メイ ン教材に出てくる語彙の中から重要語彙の選定を行い、原稿を作成した。さらに、③の会 話のすべてと重要表現が分かるような印刷用のプリントも作成した。⑤の会話練習のため に、重要表現を選定した。この課での重要表現は、以下の4点を選んだ。
1) N をおねがいします。
2) N でお願いします。
3)どうしたらいいですか。
4)何が入っていますか。・・・ああ、 N ですか。/ああ、そうですか。
(宗教上食べられない食材がある人のための重要表現として選択)
eラーニングスタッフ及び学生スタッフには、①のナレーション(筆者)に合わせて建物 やメニューの写真などの挿入を依頼し、②の新出語彙は、写真やイラストと文字の挿入、及 び音声担当の学生にも依頼した。音声のスピードは筆者がチェックをした。④のリピーティ ングも、どのように作り上げたいのかをeラーニングスタッフに伝え、映像と文字と音声を 挿入してもらった後に、スピードや文字の出し方など、細かい調整や重なり具合を筆者がチ ェックしたりするなど、日本語指導に関わる部分は、筆者の要望を随時eラーニングスタッ フに伝えながら共同で作業をしていった。
オープニングと語彙表、および会話スキットは、プリントアウトできる紙教材を作成した。
オープニングや会話のスキットは、オープニングの紙教材には写真を挿入し、日本語ととも に全文英語訳も併記した。また、会話スキットには、映像と同様の写真を挿入し、重要な表 現や、場面の説明などには英語訳をつけた。これは主に初級レベルの学習者が学習しやすい ようにするための工夫である。
64 TFTメニューを利用すると、1回ごとに20円が寄付になり発展途上国の子どもたちが
食べる学校給食1食分になる。自分が食事を1食とるたびに、途上国の1人が同じ食卓 を囲むことから、Table For Two(2人の食卓)と名づけられた。
119