第 3 章 来日前不安
3.1 来日前不安
3.1.5 来日前不安尺度を使用した来日前不安の調査・分析-調査 2.a-
来日前不安についての、第1回の「予備調査」、第2回の「調査1」より得られたデー タを基に作成した「来日前不安尺度(JALPAS )」を使って、不安調査「調査2.a」を実施 した。この調査を実施する目的は、来日前の学生が実際に「来日前不安尺度」の中のどの項 目に不安を抱いているのか、またどのような因子が検出されるかを分析するためである52。 調査は以下のように実施した。
1)対象者:佐賀大学、九州大学、福岡大学、その他福岡県・山口県の来日直後の留学 生225名。
2)日本語学習歴: 0年 38名、 0~半年 19名、 半年~1年 17名、
1年~2年 46名、 2年以上 105名
3)実施期間:2016年9月~10月、2017年4月 授業内(後)に実施し即時回収。
(佐賀大学においては、来日前の学生に対しMoodle上で実施)
4)質問紙の構成:「来日の目的」は上位3位までを順位をつけて選択
「a. 来日前不安」は「来日前不安尺度」を使用し、選択肢は「全くあて はまならない、あまりあてはまならない、あてはまる、とてもあてはま る」の4件法とした。
「b. 日本語不安」尺度を使用し、選択肢は5件法 「c. 動機づけ」尺度を使用し、選択肢は4件法
「d. 自己効力感」尺度を使用し、選択肢は4件法
「b. 日本語不安」「c. 動機づけ」「d. 自己効力感」については、元田(2005)の尺度を 使い、同時実施した。その結果については後述する。
今回のアンケートにおいて特徴的なことは、実際に来日前の状況下にいる学生に対して
もMoodle上で「来日前不安」の調査をしたことである。ただし、対象者が少ないこともあ
り、全体としては、来日直後の学生を合わせた225名を対象に、来日前の学生へのMoodle 上での個別調査と、大多数は来日後の学生へのアンケート調査票を配布した集合調査法で の実施であった。日本語版と共に、英語版と中国語版を作成した(付録参照)。留学目的は 大学院進学、交換留学等様々で、国はアジア地域が中心であるが様々な国から来日している 学生で、日本語レベルも学習歴から分かるように、初級から上級まで多様である。ここでの
「調査 2.a」は「来日前不安尺度」を使ってアンケートを実施した後、因子分析を行った。
3.1.5.1 「来日前不安」因子分析
表3-3に、来日前不安21項目を因子分析した結果を示す。因子抽出法は最尤法、回転法
はKaiserのプロマックス法で行った。各質問の最初の番号は、質問用紙の番号である。
52 これらに関するものは、早瀬(2017)「学習意欲を高めるためのeラーニング教材-不安 の分析から来日前日本語学習の有効性を探る-」の論文に一部掲載済みである。
52
表3- 3 来日前不安の因子分析結果(プロマックス回転後)
因子分析により、4因子を検出したが、以下にそれぞれの因子の特徴を述べる。
1)第1因子:情報不足による不安
第1因子は「19. 留学先の地域情報が入手できない」「20. 大学の情報があまり入手で きない」「18. 日本で様々な手続きができるかどうか」「17. 住居がどんな所かわからな い」「16. 生活環境がどんな所かわからない」といった情報不足による不安で構成されて いたため「情報不足による不安」とした。「05. 安全かどうかの不安」のように、情報不 足だけではなく他の要因も含まれているものもある。情報を入手することで、不安軽減を 図ることが可能な因子と考える。
1 2 3 4 第1因子 情報不足による不安 α=.857 19. 留学先の地域情報が入手できなくて心配だ .859 .442 .606 .205 20. 大学の情報があまり入手できなくて心配だ .773 .379 .459 .063 18. 日本で様々な手続きができるかどうか心配だ .678 .509 .444 .230 17. 住居がどんな所かわからないので不安だ .675 .641 .491 .000 16. 留学先の生活環境がどんな所かわからなくて心配だ .643 .626 .523 -.016 10. 安全かどうか不安だ .533 .484 .500 .110 第 2 因子 精神面での不安 α=.766
05. 友だちができるかどうか不安だ .442 .760 .329 .326 06. 一人暮らしができるかどうか不安だ .426 .690 .472 .153 08. 習慣が違うため困ることがあるかもしれないので不安だ .356 .622 .427 .116 07. 家族と離れるので不安だ .383 .580 .493 .086 第 3 因子 新しい環境への生活適応不安 α=.744
11. 日本は物価が高いので生活できるかどうか不安だ .494 .388 .695 .282 14. 病気になったらどうしようかと不安だ .450 .407 .652 .024 12. アルバイトなどが見つかるかどうか経済的に心配だ .424 .363 .612 .219 15. トラブルが起きたときどうしたらよいか心配だ .564 .494 .604 .320 09. どんなルールの違いがあるかわからないから心配だ .367 .440 .486 .173 13. 食事が合うかどうか心配だ .326 .386 .481 .190 21. 気候などがよくわからないので心配だ .447 .374 .459 .066 第4因子 日本語能力に対する不安 α=.746
03. 自分の日本語が通じるかどうか不安だ .114 .244 .097 .794 02. 日本人の言うことが分かるかどうか不安だ .099 .130 .207 .740 01. 日本語がわからないので不安だ .193 .146 .263 .625 04. 授業についていけるかどうか不安だ .388 .450 .245 .460 累積寄与率(%) 30.73 38.96 43.40 46.59
53 2)第2因子:精神面での不安
第2因子内では、「05. 友達ができるか不安」「06. 一人暮らしができるか不安」「08.
習慣が違うので困ることがあるかもしれないので不安」「07. 家族と離れるので不安」と いう、精神的な不安で構成されていたため「精神面での不安」とした。「08. 習慣が違う ので困る」に関しては生活適応不安として分類することも考えられるが、精神面での不安 も含まれていると考えられるため、この因子とした。精神面での不安の軽減はカウンセリ ングなどの心理学的アプローチが必要で、短期で軽減が難しい因子であると考えられる。
3)第3因子:新しい環境への生活適応不安
第3因子は、「11. 物価が高い日本での生活」「14. 病気になったとき」「15. トラブ ルが起きたとき」「09. どんなルールの違いがあるかわからない」「13. 食事が合うか」
「21. 気候などがよくわからない」などのように、新しい環境で生活ができるかどうかを 心配している内容で構成されているため、「新しい環境への生活適応不安」とした。「09.
ルールの違い」や「15. トラブル」「21. 気候」などは「情報不足による不安」とも重な る。したがって、情報の提供とともに人的支援の必要性も考慮しなければならない。
4)第4因子:日本語能力に対する不安
第4因子は、「03. 日本語が通じるか(日本語会話力)」「02. 日本人の言うことが分 かるか(日本語聴解力)」「01. 日本語がわからない(日本語未習)」「04. 授業につい ていけるか」と日本語力についての不安を抱いているため「日本語能力に対する不安」と した。実践的コミュニケーション能力向上のための日本語支援が必要である。
また、各々の因子の信頼性を確認するため、因子ごとに α係数を求めたところ、第1因 子α=.857、第2因子α=.766、第3因子α=.744、第4因子α=.746とそれぞれに整合性が認 められた。また、4因子の相関関係を求めると、第1因子と第2因子は相関係数がr=.621 であり、第1因子と第3因子はr=.649、第2因子と第3因子はr=.559と、相関関係が高い ことが分かった。第4因子は、第1因子との相関係数はr=.183、第2因子との相関係数は
r=.236、第3因子との相関係数はr=.210となっており、いずれの因子とも有意な相関関係
はみられなかった。
3.1.5.2 「来日前不安」因子の相関関係
さらに、来日前不安の各項目間の相関関係をピアソンの積率相関分析によって求めてみ た。その結果として、以下の4点を挙げる。
① 同一因子において相関関係について以下に記述する。
第1因子内は、6項目それぞれに正の相関関係がみられた。
・「20.」-「19.」(r=.698, p<.001)、「20.」-「18.」(r=.485, p<.001)地域情報
・「18.」-「16.」(r=.504, p<.001)手続きと生活環境
54
「17.」-「16.」(r=.695, p<.001)住居情報と生活環境
・「10.」-「19.」(r=.472, p<.001)安全と地域情報
「10.」-「17.」(r=.421, p<.001)安全と住居情報 第2因子内は、以下の結果がみられた。
・「05. 友だち」-「06. 一人暮らし」 (r=.519, p<.001)
・「05. 友だち」-「08. 習慣の違い」 (r=.483, p<.001)
・「06. 一人暮らし」-「08. 習慣の違い」 (r=.441, p<.001)
・「06. 一人暮らし」-「07. 家族との別れ」(r=.472, p<.001)
・「07. 家族との別れ」と「05. 友だち」には相関関係がない。
第3因子内は、以下の結果がみられた。
・「11. 日本の物価」-「12. 経済面」(r=.532, p<.001)、
・「11. 日本の物価」-「14. 病気」 (r=.415, p<.001)、
・「11. 日本の物価」-「15. トラブル」(r=.400, p<.001)
「日本の物価」は「経済面、病気、トラブル」などと相関関係がみられる。
・「14. 病気」 -「15. トラブル」 (r=.460, p<.001)
「病気」と「トラブル」も相関関係がみられる。
第4因子内は、以下のようになった。
・「03. 日本語会話」-「02. 日本語聴解」(r=.595, p<.001)
・「03. 日本語会話」-「01. 日本語未習」(r=.461, p<.001)
・「02. 日本語聴解」-「01. 日本語未習」 (r=.513, p<.001)
「01. 日本語が分からない」、「02. 日本人の言うことがわからない」、「03. 通じない」
などは相互に有意な相関関係があるが、「04. 授業について行けるか」は他よりも若干 弱い相関関係である。
② 特に第 1 因子である「情報不足による不安」は同一因子内で相互に相関関係がみられ たものが多かった。また、「情報不足による不安:17.住居の不安」については、「精神 面での不安:05.(r=.418)06.(r=.441)07.(r=.401)」との相関関係もあり、「情報不 足による不安:19.18.16. の地域情報や生活環境と手続き」は、「生活適応不安:11. 物 価の高さ、14.15. の病気やトラブル等の不安」と、他因子との相関関係もみられた。
③ 「精神面での不安:08. 習慣の違いの不安」と「生活適応不安:09. ルールの違いの不 安」は精神面での不安と生活適応不安とに因子分析されてはいるが、相互に関連性のある ものであるため、相関関係があることが分かった。(r=.452, p<.001)
④ 4因子に分類はしたが、②③の結果のように相互に関連性のあり、数値からも分かるよ うに、それぞれの項目がいくつかの因子を含んでいることが考えられる。例えば「生活適 応不安:15.トラブルが起きる不安」については、「情報不足による不安」や「精神面で の不安」も含まれていると考えられる。