第 5 章 来日前日本語学習教材の実施と評価
5.1 来日前日本語学習教材の配信
5.1.1 パイロットテストによる検証-調査 4-
131
132
ⅳ.学習後、全体について、各課についてのアンケートを実施。
それぞれの学習項目に分けて、有効な情報であったか、日本語学習として有効 であったか、教材の学習時期はいつが適当か、どのレベルの学生に適した教材で あるか、音声のスピードは適当か等、回答は5件法。
ⅴ.その後、アンケートを基に、インタビューを実施。
以上のような流れで、パイロットテストを実施した。
5.1.1.1 アンケートの実施結果
実施後、教材についての評価のアンケートを実施し、集計した結果を表5-1に示す。
表5- 1 「来日前日本語学習教材」レベル別の教材評価
A初級前 B初級後 C初中級 D中級 E中上級 F上級 平均値 1.オープニングについて
1-1内容理解
1-2情報としての有効性 1-3日本語学習としての有効性
3.3 4.3 4.5
4.5 4.2 4.4
4.6 3.9 3.7
4.3 4.8 4.6
4.9 4.4 3.6
4.3 4.4 3.6
4.32 4,32 4.06 2.ビデオ教材について
2-1内容理解
2-2情報としての有効性 2-3日本語学習としての有効性
4.0 4.0 4.5
4.7 4.6 4.7
4.6 4.5 3.8
4.5 4.8 4.5
4.8 4.2 3.6
4.8 4.1 3.2
4.52 4.37 4.05 3.リピーティング
3-1内容理解
3-3日本語学習としての有効性 3-4音声のスピードの適正
4.5 4.6 3.0
5.0 4.5 3.0
4.9 4.2 3.0
4.8 4.2 3.3
5.0 3.4 3.0
5.0 2.7 3.4
4.88 3.94 3.11 4.会話練習
4-1内容理解
4-3日本語学習としての有効性 4-4音声のスピードの適正
4.4 4.5 3.0
4.5 4.5 3.0
4.9 4.0 3.0
4.8 4.0 3.0
5.0 3.4 3.3
5.0 2.8 3.3
4.77 3.87 3.09 1-1,2-1,3-1,4-1 : 1. 全然分からなかった ~ 5. とてもよく分かった の5件法
1-2,2-2,1-3,2-3,3-3,4-3 : 1. 全然役に立たなかった~ 5. とても役に立った の5件法 3-4,4-4 : 1. とても速い ~ 3. ちょうどよい ~ 5. とても遅い の5件法
(第4章6節、付録に教材の詳しい内容を掲載。)
このパイロットテストの「来日前日本語学習教材」評価としては、以下のようになった。
① 内容理解に関しては、オープニングは初級前半レベルの学生は3.3であるため、想定通 りやや難しかったようだ。しかし、初級後半レベル以上の学生には4.3以上の評価が出て いるため、問題なく理解できたと考える。
② ビデオ教材に関する内容については、初級前半レベルの学生には未習事項があったた め、やや難しい所があったが、4.0と予想よりも理解できている。初級後半レベル以上の 学生は4.5以上の評価があるため、内容理解に関しては問題がない。
③ リピーティング・会話練習に関しては、初級レベルの学習者を対象としたものであり、
初級前半の学生の内容理解の4.4、4.5という結果は問題ないと考えられる。
133
④ オープニングとビデオ教材に関する情報としての有効性は、どのレベルの学生もほぼ 同等の評価で平均 4.32、4.52となっているため、情報提供としての有効性は高いことが 分かった。
⑤ 日本語学習としての有効性に関しては、初級前半レベルの学習者にとっては、オープニ ング・ビデオ教材・リピーティング・会話練習すべて4.5以上の評価があるため、オープ ニングやビデオ教材は、やや難しさは感じても日本語学習に有効であると感じたことが 分かった。メインターゲットである初級後半~中級レベルの学習者の評価としては、度数 が少ないため抽出した学生によって大きく左右されてしまうが、概ねオープニングとメ イン教材については評価が高かった。リピーティグや会話練習については、中上級レベル の学習者には、易しいため、任意に選択して学習する形でよいという結果になった。ただ し、その評価は、個人差があり、中上級レベルの学習者の間でも分かれ、実際の会話があ るので役立つと答えた学生と、すでに知っている内容であまり役立たなかったと回答し た学生がいたため、平均点で評価するには難しい。
⑥ リピーティングと会話練習のスピードについては、対象レベルの学習者にはちょうど よいスピードであることが分かった。
評価結果の例として第4課の「銀行」の課をみてみると、銀行口座の開設やATMの使い 方など、初級学習者は内容理解に苦慮はしているものの、日本語学習としては大変有効であ ったと回答し、上級レベルの学習者もオープニングやビデオなどが日本語学習としても有 効であったと回答している(図 5-1 参照)。今回の被験者の中に来日後の実際の場で苦労し た経験を持っていたことから、事前にこの教材があればよかったとの回答があった。
A.初級レベルの学生の評価 B.上級レベルの学生の評価
A:初級前半レベル B:初級後半レベル E:中上級レベル F:上級レベル
0 1 2 3 4 51-1
2-1
3-1
4-1
1-2 2-2
1-3 2-3 3-3
4-3
E F 0
1 2 3 4 51-1
2-1
3-1
4-1
1-2 2-2
1-3 2-3 3-3
4-3
A B
図5- 1 第4課におけるレベル別評価
134
次に、演習問題に関するアンケート結果について、表5-2に示す。
表5- 2 演習問題のレベル別有効性
A初級前 B初級後 C初中級 D中級 E中上級 F上級 平均値 練習[1] 基本問題
1-1問題の難易度
1-2ビデオ教材理解の有効性
2.3 3.3
4.5 4.5
4.6 4.3
4,6 4.3
4.7 2.8
5.0 2.8
4,25 3.78 練習[2] 応用問題
2-1問題の難易度
2-2日本語学習への有効性
1.5 3
4.3 4.5
4.5 3.5
4.5 3.5
4.6 2.6
4.7 1.4
4.03 3.24 1-1、2-1 : 1.全然分からなかった~5.とてもよく分かった の5件法
1-2、2-2 : 1.全然役に立たなかった~5.とても役に立った の5件法 (第4章6節に演習問題の内容を掲載。)
この結果をみると、問題[1](基本問題)はビデオ教材の内容確認であるため、初級前半 レベルの学生にはやや難しく、中上級や上級レベルの学習者には易しいという結果が顕著 に表れている。ただし照準を合わせた初級後半から中級レベルの学習者には、難易度的には 負担を感じることのないレベルで、ビデオ学習の内容理解のための有効性は十分高いもの になっている。問題[2]は応用編であるため、初級前半レベルの学生にはより難しいもの であった。逆に中上級レベル以上の学生にとっては簡単な内容であったようだ。しかし学習 のメインターゲットである初級後半から中級レベルの学生には、日本語学習に役立つとい う回答が得られた。
演習問題は、自学自習教材において、どの程度学習が身に付いたかを自己評価するために 有効であると考える。ただし、今回の結果をみると、様々な日本語レベルの学生に対して、
同一レベルの演習問題を提示するというのは、日本語学習の側面からすると大きな問題が あることを改めて知った。情報としての有効性などとの関連性を探りながら、今後の検討事 項となった。
また、その他の質問として、「この教材をいつ学習したらよいか」という質問の回答とし ては以下のようになった。
・「情報を得るためにいつ見たら役に立つか」には、「来日前・来日直後」の両方を選択
40%が今も役に立つと回答している。
・「日本語学習のために、いつ見れば役に立つか」には、「来日直後」の方がやや解答が多 かったが、70%近くが今も役に立つと回答している。
さらに総合評価としては以下のような回答となった。
・「情報を得るために役に立つか」は、とても役に立つが70%を占めていた。レベルによ る有意差はなかった。
・「日本語学習に役に立つか」は、80%がとても役に立ったという回答であったが、上級 レベルの学生の中にはあまり役立たなかったという回答もあったため、レベルによる 有意差があるのは想定通りであった。
135 5.1.1.2 モニタリングの実施結果
アンケートを実施した学生に、モニタリングも行った。その結果としては、以下のように まとめることができる。
① 内容については十分理解できた。
② 情報としての有効性はすべてのレベルの学生に同様に有効であった。
③ 日本語学習としては、レベルごとに活用の方法があることが分かった。オープニングは 中級レベル以上を想定して作成したが、英訳や写真等を見ることができるため、初級レベ ルの学生でも有効活用ができることが分かった。メインのビデオ教材については、すべて の学生に有効であることが分かった。上級レベルの学習者には、実際の会話場面が再現さ れているため、実践的でよかったとの評価があり、初級レベルの学生には、映像を見なが ら重要表現を押さえることができ、リピーティングや会話練習が効果的だったとの評価 であった。
④ 学習時期として、来日前の学習用として作成をしたのだが、来日直後に実際に体験する 直前にこの教材があったらとても役立ったというように回答した学生も多く、来日前に どのような内容か理解しておくとことで、来日後の実践の際に復習として見るという可 能性の指摘があった。また、初級の学生は今少しずつ日本語学習を進めているため、同時 進行で副教材としての活用もあるとの指摘があった。
⑤ 演習問題は、文型練習としては、初級後半から中級レベルの学生を対象としたものであ るため、対象としたレベルの学生には有効性が証明された。ただし、練習[2]には、ビ デオ教材とは違った場面での会話等もあり、情報としての有効性を理解した学生もいた。
問題点としては、次の4点が挙げられる。
① 来日直前直後は、転居や生活を整える準備で多忙で、大学の国際課が配布する「生活 ガイドブック」という細かな説明が記してある分厚い冊子を全く見ていない学生が多く いるのが現状である。どれだけ机に座ってこの教材を学習する時間を確保できるかは実 際に配信しないとわからない。
② 学生が入手したいと思う情報は、多種多様で、今回のモニタリングでも、「お祭りや観 光地を知りたい」「生活の中で気を付けなければならないルールやマナー」「その他の手続 きの仕方」「方言の説明」「敬語の使い方」「文法説明」「携帯やインターネットのこと」な ど、掲載した内容以外のものもたくさん上がった。
③ 日本語学習としての有効性は、レベルに関わらず予想以上に評価を得たが、演習問題に 関しては、レベル別の問題にする、あるいは難易度表記をするなど修正が必要である。
④ 海外への配信は初めてのため、試行配信の際は、海外でのパソコン環境の違いや、学習 者のオペレーション技術など様々な課題が残っている。