第 3 章 来日前不安
3.4 来日前不安と自己効力感
3.4.1 自己効力感の調査・分析 ―調査 2.d―
第二言語環境下に置かれたばかりの留学生がどのような自己効力感を持っているか、さ らに、自己効力感と来日前不安、第二言語不安、動機づけの関係について、実証的な検討を 行うために「調査2.d」を実施した。これは、「調査 2.b」、「調査2.c」と同様に、自己効力 感に関するアンケートを実施した元田(2005)53の「全体的な自尊感情尺度」を参考にした。
対象者や実施時期及び方法等は、3.1.4の「調査2.a」同様である。質問項目は10項目、回 答は4件法である。自己効力感はプラスとマイナスの項目が含まれている。
3.4.1.1 「自己効力感」の度数分布
自己効力感についての調査結果を表3-13に示す。
表3- 13 自己効力感についての度数分布
SD:全くあてはまらない D:あまりあてはまらない A:あてはまる SA:とてもあてはまる
SD D A SA 平均値 標準偏差 01. 私は、少なくとも他の学生と同じくらい価値があると思っている。
4 34 135 51 3.04 0.672 02. 私は、よいところがたくさんあると思っている。
7 51 123 43 2.90 0.733 03. 全体的に、私はダメだなあと思う傾向がある。
72 91 52 8 1.98 0.838 04. 私は、他の人と同じくらい物事がうまくできると思う。
7 54 121 41 2.88 0.734 05. 私には、あまり誇れることろがないと思う。
59 94 57 12 2.10 0.856 06. 私は自分自身を前向きにとらえている。
5 25 122 72 3.17 0.705 07. 大体、自分に満足している。
20 70 100 34 2.66 0.842 08. もっと自分を尊重できたらよいと思う。
19 66 107 30 2.67 0.816 09. ときどき、自分は本当に役に立たないと思う。
52 86 70 16 2.22 0.885 10. ときどき、自分は全くだめだと思う。
75 80 54 15 2.04 0.920
プラス 3.84% 20.91% 53.71% 21.52% 2.93
(01.02.04.06.07)
マイナス 24.84% 37.40% 30.49% 7.26% 2.20
(03.05.08.09.10)
マイナス反転値7.26% 30.49% 37.40% 24.84% 2.79
( 〃 )
53 元田は、「自己効力感」ではなく、「自尊感情」としている。
75 ※プラスの自己効力感……01. 02. 04. 06. 07.
マイナスの自己効力感…03. 05. 08. 09. 10.
表 3-13及び図3-8から分かるように、自己効力感のプラス要因は2.93と高い値であっ た。マイナス要因についてはその数値を反転させて求めた値は2.79となった。概ね自己効 力感は高いという評価が出た。ただし、「08. もっと自分を尊重できたらよい」という感情 が高い結果が出たが、これは、現時点の自分を尊重していない、という否定とイコールには ならないためあまり問題視しなくてもよいと考える。
3.4.1.2 「自己効力感」の性差
次に、自己効力感の性差が生じるかどうかを調査したものが表3-14である。
表3- 14 自己効力感の男女差
自効1 自効2 自効4 自効6 自効7 自効3 自効5 自効8 自効9 自効10
男性 3.08 3.04 2.83 3.19 2.64 1.83 2.06 2.58 2.10 1.95
女性 3.04 2.85 2.94 3.18 2.70 2.10 2.17 2.71 2.34 2.15
差 0.04 0.19 -0.11 0.01 -0.06 -0.27 -0.11 -0.13 -0.24 -0.20 度数 男性80、女性125 (「自効」は「自己効力感」を表す)
自己効力感のプラスの要因に関しては、「04. 自分は他の人と同じくらい物事がうまくで きる」、「07. 大体自分に満足している」の2点は女性の値が高い結果となったが、「02. 自 分にはよいところがたくさんある」については男性の値が高くその差が大きい。また、わず かな差であるが、「01. 自分には価値がある」、「06. 自分を前向きにとらえている」なども 男性の値が高い。
マイナス要因については、男性の数値の方がすべて低いため、男性の方が自己効力感が高 いと言える。特に、t検定を行った結果、「03. 全体的に自分はダメだと思う」については、
t=-2.304、df=203、p<.05 (.022)と有意差が出たため、反転させると男性の方が自分に自
信を持っていることが分かる。全般的に見ると、自己効力感は男性の方が高いという結果に なった。
0.00%
10.00%
20.00%
30.00%
40.00%
50.00%
60.00%
SD D A SA
プラス
マイナス反転値
図3- 8 自己効力感のプラスとマイナス要因の分布
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3.4.2 自己効力感と来日前不安等の関係
「自己効力感」と「日本語不安」の相関関係をピアソンの積率相関分析によって求めた。
その結果は、表3-15に一部を示したように、「マイナスの自己効力感」については、「09. 自 分は本当に役に立たないと思う」や「10. 自分はまったくダメだと思う」のように自身を大 きく否定する項目と日本語不安とに低い相関関係があることが分かった。自己効力感が低 い場合、自分に自信が持てず不安感情が高くなる、ということが考えられる。
「プラスの自己効力感」と「日本語不安」との相関関係はみられなかった。
表3- 15 日本語不安とマイナスの自己効力感の相関係数 不安
01 不安
02 不安 03
不安 04
不安 05
不安 06
不安 07
不安 08
不安 10
不安 11
不安 12
不安 13
不安 14 自
09 .264 .268 .258 .270 .258 .342 .242 .241 .235 .319 .251 .210 自
10 .310 .333 .338 .304 .309 .307 .222 .280 .278 .278 .296 .295 .277
数字はPearson の相関係数で、表示されているものの相関係数は、すべて1%で有意(両側)である。
縦の「自」は「自己効力感」のこと、横の「不安」は「日本語不安」のことである。
次に、「自己効力感」と「来日前不安」についてピアソンの積率相関分析によって求めて みると、「マイナスの自己効力感」5 項目に「来日前不安」との低い相関関係がみられた。
(「自己効力感」は「自効」、「来日前不安」は「前不安」と表記する)
・「自効05. 私にはあまり誇れるところがない」は、第1因子「前不安18. 様々な手続 きができるか」(r=.290)、第2因子「前不安05. 友だちができるか」(r=.235)、第 3因子「前不安15. トラブルが起きたらどうしたらよいか」(r=.273)、第4因子「前 不安04. 授業についていけるか」(r=.288)などとの低い相関関係がみられた。
・非常にネガティブな感情である「自効10. ときどき自分はまったくだめだと思う」と 第3因子「前不安15.トラブル」(r=.312)、第1因子「前不安18.手続き」(r=.287)
第2因子「前不安05.友だち」(r=.287)にそれぞれ低い相関関係がみられた。
・プラスの自己効力感5項目に関しては、来日前不安との相関関係はみられなかった。
さらに、「自己効力感」と「動機づけ」についても相関関係を求めたが、相関関係はみら れなかった。
以上の結果から、第4節の「自己効力感」と「来日前不安」は次のようにまとめることが できる。
自己効力感の5つのプラス要因に関しては、平均2.95と高い数値であり、概ね自己効力 感は高いという結果が出た。自己効力感の 5 つのマイナス要因に関しては、その数値を反 転させて求めた平均値は2.79となり、こちらもある程度高い結果となった。
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男女差においては、プラス要因に関しては、「04. 自分は他の人と同じくらい物事がうま くできる」と「07. 大体自分に満足している」の 2 点は女性の値の方が高い結果となった が、「02. 自分にはよいところがたくさんある」については男性の値が高くその差が大きい。
マイナス要因について、反転前は男性の数値の方がすべて低いため、男性の方が自分に自信 を持っていることが分かる。特に、「03. 全体的に自分はダメだと思う」については有意差 が出た。
「自己効力感」と「日本語不安」との相関関係を求めたところ、「09. 自分は本当に役に 立たないと思う」や「10. 自分はまったくダメだと思う」のように自身を強く否定する項目 と「日本語不安」とに低いけれども相関関係がみられた。自己効力感が低い場合、自分に自 信が持てず不安感情が高くなる、ということが考えられる。プラスの自己効力感と日本語不 安との相関関係はみられなかった。
また、「自己効力感」と「来日前不安」についても「マイナスの自己効力感」5項目に「来 日前不安」との低い相関関係がみられた。
自己効力感の高い学生は、あまり不安を感じないという傾向にあることが調査結果から 分かった。また、プラスの自己効力感が高い学生は、学習への動機づけも高いという結果が みられたが、「08. もっと自分が尊重できたらよい」とマイナスの感情を持っている学生も、
学習の動機づけが高い傾向にあることが分かった。