第 4 章 来日前日本語学習教材の設計と開発
4.3 来日前日本語学習教材における学習意欲デザイン
インストラショナルデザインの下位概念となる学習意欲デザインは、動機づけを中心に 不安などの情意面を検証するために有効であるため、Keller(2010)のARCSモデルの動 機づけ方策チェックリストを基に「来日前日本語学習教材」を検証する(表4-6参照)。
表4- 6 「来日前日本語学習教材」の動機づけ方策チェックリスト
作業質問 方略/方策
A
注 意
A1
知覚的喚起
興味を持たせるために何ができる か
・教材を手にした時に興味を喚起 させられるか。
・段階的な手続きや概念の関係 が、フローチャートや図表、イラ ストなどの視覚的補助手段を用い て、より具体的に示されている か。
・どのような教材であるかを日本語と英 語の表記で分かりやすく説明する。
・説明をできるだけ簡潔にする。
・イラストやビデオを使い、興味を引く ような構成にする。(知覚的好奇心の喚 起)
・客観的ではなく具体的に場所等を写真 などで表示する。
A2
探求心の喚 起
どのようにすれば、探求心を刺激 することができるか
・心の葛藤を引き起こさせること により好奇心を刺激しているか
(過去の経験と矛盾する事実・意 外な意見等)
・これから遭遇するであろう場面を提示 し、そこでのオーセンティックな会話を ビデオで提示する。
・プレースメントテストを実施し、現時 点での日本語レベルを客観的に判断す
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・視覚的要素が使われているか。 る。
・イラストと音声による会話形式の質問
(視覚と聴覚による刺激)に対し、答え を記述する方法を採用する。
・個別の対応で、レベルに応じた回答を 行い、よりよい解答を提示し、学習への 刺激を与える。
A3 変化性
どのようにすれば学習者の注意を 維持できるか
・フォーマットの変化があるか。
(情報の分割、レイアウト、素材 の種類)
・スタイルと流れの変化がある か。(教材の構成要素、調子の変 化、内容の提示と能動的な反応)
・写真と音声によるオープニング、ビデ オ視聴、会話練習、演習問題、と分割し て表示する。
・素材の種類は、写真、文字、音声、ビ デオ、アニメーションと変化をつける。
教材の構成要素は、導入・語彙提示・メ イン教材(ビデオ)・会話リピート・会話 練習・演習問題とする。
・大学のキャラクターを登場させて楽し い雰囲気を作る。
R
関 連 性
R1
目的指向性
どのようにすれば学習者の目的と 教材を関連づけられるか
・現在の価値として、教材の直接 的な利点についての説明がある か。
・将来の価値、この教材をすると 将来の目的を達成することに繋が るか。一般的な生活維持スキルを 向上させるかの説明がされている か。
・ニーズ調査を実施して得られたデータ から、学生が必要であろう内容を構成す る。
・目前に迫ってきた来日直前に、知りた い留学先の情報を提供する内容で、学習 者の目的に一致させる。
・直接的な利点としては、実際に行く場 所で実際に話すような内容を再現する。
生活維持スキルの向上に直接繋がる内容 であることが分かるように見出しを書 く。
・興味深い内容が、そのまま映像で見る ことができ、練習をすることができるた め、学習者にとって利点となりうる。
R2
動機との一 致
いつどのようにすれば学習者の学 習スタイルや興味と教材とを関連 づけられるか
・基本的な動機の刺激があるか。
・問題解決や達成への努力を活気 づけるパズル・ゲーム・シミュレ ーションがあるか。練習の中での 競争があるか。
・役割モデルがあるか。直面した 障害達成した業績や結末が述べら れているか。さらに進んだ目的が あるか。
・不安軽減を目指した、来日前2カ月の 短期集中講座として設定する。
・学習者に対し、インストラクターが個 別に回答を送ることや、学習者同士のデ ィスカッションをすることで相互交流が 可能となり、動機への刺激となる。
・課ごとに単語クイズや演習問題解答後 に、即座に得点と学習のヒントが提示さ れるため、再挑戦を行って満点を取りた くなるような難易度であり、学習後には 達成感を持たせるために、スタンプを送 るようにする。
・課題を行うことで、実践力を養うこと ができる。
98 R3
親しみやす さ
どのようにすれば学習者の経験と 教材を結びつけることができるか
・これまでの経験との繋がりがあ るか。教材に学習者の既存スキル や知識に積み上げるものか明示的 に述べているか。
・個別化のオプションが可能か。
学習者は課題の内容を選択できる か。課題のタイプを選択できる か。
・留学後は非常に身近な場面となるとこ ろから具体的な実例を挙げる。また、オ ーセンティックな会話がベースとなって いるため、既習者にとっては、テキスト で学んだものを実践するシミュレーショ ンとなる。未習事項に対しては、新たな 学びとなる。
・学習者の既存スキルを応用させるよう な内容もある。
・学習レベルに応じ、選択して受講する ような指示を出す。あくまで任意学習な ため、強制して学習するものはない。あ くまでも個人の選択で課題を選ぶことが 可能である。
C
自 信
C1 学習要求
どのようにすれば、学習者が前向 きな成功への期待感を持つように 支援できるか
・学習者への不安を減らし、現実 的な成功に対する期待感を持たせ られるか。
・学習が成功したことへの証拠を 述べているか。ゴールを明示して いるか。
・新しい環境がどのような所であるかと いう不安に対して、実際に行く場所の映 像を見たり、その場面での会話を見たり することで、シミュレーションをするこ とができるため軽減が可能である。ま た、来日後には成功体験を与える。
・ビデオ学習後の演習問題をすること で、自身の学びの成果を測ることが可能 である。
C2
成功の機会
どのような学習経験が学習者の能 力についての信念を支援または拡 張することができるのか
・チャレンジの難易度は学習者の レベルに適しているか。教材の内 容が明確で使いやすい流れになっ ているか。易しい課題から難しい 課題へとなっているか。
・不安の軽減として、回答に対す る確認的なフィードバックや矯正 的フィードバックがあるか。
・多くの、多様な、挑戦的な経験 を提供することで、自分の能力へ の信頼を高めることができるか
・難易度としては、学習者の日本語レベ ルに応じて、学習項目を選択できるよう に指示を与える。ただし、オーセンティ ックなビデオ教材を見た段階では、初級 レベルの学習者にとっては、難解だと感 じるだろう。重要表現の会話練習はは1 課から少しずつ難易度を上げるように配 慮する。
・演習問題回答後は、即座に評価得点を 閲覧することが可能である。何度も挑戦 することができるため、満点をとるまで 繰り返し学習することが可能である。
・ビデオ視聴・会話練習・演習問題など を確実にこなしていけば、自信に繋がる であろう。
C3
個人的コン トロール
どのようにすれば、学習者は自分 の成功が自分の努力と能力による ものであると確信するか
・学習者は、教材の流れを選択で きるか。
・自分のペースで学習を進めるこ とができるか。
・すべて学習することを強制する教材で はない。
・学習の成功体験は、来日後実際にその 場に置かれた時に感じる。対処できた体 験は自分の能力に確信を持つことができ る。
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・学習環境を選択できるか。
・自分の興味のある課を選んで学習する ことも可能であると表示している。
・各課の教材に関しては、上級レベルの 学習者に対しては、リピーティングや会 話練習を割愛するように指示を与える。
・学習環境としては、パソコンがあれ ば、どこでも学習が可能である。演習問 題はタブレット端末や携帯電話からでも 可能である。
S
満 足 度
S1
自然な結果
どのようにすれば、学習経験の本 来の楽しみを促進し支援できるか
・肯定的な称賛ができるか。獲得 したスキルを現実的な場面で使う 機会を与えているか。
・課題を達成した学習者がプライ ドを感じられるような言語的強化 はあるか。
・持続的な学習意欲に繋がる情報 が提供されているか。新しい応用 領域について知らされているか。
・学習したスキルが、来日後の実際の場 で実現できる。学習内容と同様な体験を して、自分の学習の成果を自分自身で評 価することができる。
(どの程度相手の会話を理解し発話でき たか、会話の連続性が保てたかなどは自 己評価できる。)
・教材を学習することで、実際の場を想 定した練習を行うことができ、その結果 実際の場で成功体験ができた学習者は、
プライドを高く持つことができる。成功 体験が多くなるような教材を選定する。
・来日直後の成功体験が、その後の学習 によい影響を与え学習意欲を高めること ができる。
S2
肯定的な結 果
学習者の成功に対し、どのような 報酬的結末を提供するのか
・演習問題などに対し採点システ ム付きゲームなどが含まれている か。
・学習者が課題達成に向けて学習 している間や課題達成の後で、個 別に着目しているか。
・一つの課が終了した段階で、達成シール を配布。
・演習問題には採点システムがあるため、
即座に得点が表示されるようになってい る。ジグソーパズルの単語クイズを作成す る。
・学習途中でディスカッショントピック を配信し、学習者とのコミュニケーション を図る工夫をする。
S3 公平さ
どのようにすれば学習者が公平に 扱われていると感じるか
・達成に関する肯定的な感情をつ なぎとめるには、どのように支援 することができるか。
・目標とテストの整合性
・学習者同士が遠隔地に点在している状 態であるため、他人との比較は来日前の 時点ではほぼ不可能であるため、他人の 存在が達成感に影響を及ぼすことは少な い。
・目標とテスト(演習問題)との整合性 は合致している。
以上のように、学習意欲デザインの項目ごとに、作業質問に対する方略や方策を述べた。
ここでそれぞれについての問題点も挙げて今後の検討事項とする。