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来日前不安の軽減の測定-調査 2.a+-

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 183-189)

第 5 章 来日前日本語学習教材の実施と評価

5.4 評価:不安の軽減と学習意欲の測定

5.4.1 来日前不安の軽減の測定-調査 2.a+-

eラーニングによる「来日前日本語学習教材」を学習した学生に対して、学習前にMoodle 上で(あるいは一部来日後に質問紙にて)「来日前不安アンケート」(調査 2.a)を実施し た。そして、来日後再度同じアンケートに回答してもらうようにした。学習者が「来日前 日本語学習教材」を学習したことで、どの程度不安の軽減させることができたかを明らか にするためである。2016年に教材配信をし、学習をした学生の中の15名に対し、来日直 後の時期に「調査 2」を実施するのと同時に、受講後どの不安が軽減したかのインタビュ ー調査を行った。これを「調査2.a+」とする。

5.4.1.1 学習前後の不安ポイントの変化

図5-19に、学習前と学習後の不安ポイントの変化を示した。因子分析をして 4つに分 類した項目順に掲載している。「第1因子:情報不足による不安」は19~10の6項目、「第 2因子:精神面での不安」は05~07の4項目、「第3因子:新しい環境への生活適応不安」

は11~21の 7項目、「第4因子:日本語能力に対する不安」は 03~04の 4項目である

(第3章参照)。

173

次に、『来日前日本語学習教材』を学習したことで、どの程度不安が軽減されたか、軽減 されたポイントを図5-20の折れ線グラフで示す。

不安 19 20 18 17 16 10 05 06 08 07 11 14 12 15 09 13 21 03 02 01 04

軽減 0.80 0.73 0.53 0.33 0.47 0.33 0.53 0.40 o.47 0.33 0.33 0.40 0.27 0.47 0.80 0.27 0.33 0.40 0.40 0.27 0.40

因子別 1因子 0.52 2因子 0.43 3因子 0.42 4因子 0.38

全課学習者の21項目の不安ポイントの合計の平均値は51.67pであったが、学習後の不 安合計ポイントの平均値は42.33pになったため、9.33p不安が軽減されたことになる。ま た、学習後の不安の軽減ポイントの平均値は1項目当たり0.44pであった。

また、因子別に軽減ポイントをまとめたものを比較すると、第1因子は0.52ポイントと 平均値が一番高く、次に第2因子の0.43、第 3因子の0.42、そして第4因子の0.38と続 く。ただ、第4因子については、「01.日本語がわからない」を除けば、平均して0.4と高い。

図5- 20 学習前後の不安ポイントの変化

19

20 18 17 16 10 05 06 08 07 11 14 12 15 09 13 21 03 02 01 04 学習前 2.4 2.4 2.8 2.3 2.5 2.1 2.4 2.0 2.5 2.1 2.7 2.4 2.5 2.6 2.9 1.8 2.0 2.8 2.7 2.3 2.8 学習後 1.6 1.7 2.3 2.0 2.0 1.8 1.9 1.6 2.0 1.8 2.4 2.0 2.2 2.1 2.0 1.5 1.7 2.4 2.3 2.0 2.4

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50

ポイント

学習前後の不安ポイントの変化

0.00 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90

19 20 18 17 16 10 05 06 08 07 11 14 12 15 09 13 21 03 02 01 04

ポイント

軽減ポイント

図5- 19 学習前後の不安ポイントの変化(棒グラフ)

174

日本語学習にも効果があったことが分かる。その他の因子においては、軽減幅があるが、4 因子はそれぞれ総合的軽減していることが分かる。

因子別にその変化をみてみると以下のような軽減がみられた。

1)第1因子について

第 1 因子で、元々不安レベルが高かったものは、「18. 様々な手続きができるか不安」

「16. 留学先の生活環境が分からない不安」「19. 留学先の地域情報が入手できない不安」

「20. 大学情報が入手できない不安」が挙げられる。その中で、特に軽減されたものが、

「19.地域情報」0.8p、「20.大学の情報」0.73pで、本教材が情報不足の不安軽減に役立っ たと考えられる。「18.様々な手続きの仕方」0.53p、「16.生活環境」0.47p等は、情報を入 手してある程度は軽減できるものの、実際にできたという結果を得るまでは不安は消えな いので軽減度数は低い。「10.安全かどうか」といった元々低いものは軽減も少ないのは当 然である。

2)第2因子について

第 2因子では、「08. 習慣の違いによる不安」「05. 友だちができるかの不安」の不安レ ベルが高かったが、「08.習慣の違い」が0.47p、「05.友だち」が0.53p下がった。これは、

「08.習慣の違い」に関しては、第3因子も含んでいるので情報提供によって軽減は可能で ある。「05.友だち」に関しては、本教材を配信し、「談話室」等で自分と同じように来日し てくる学生と知り合えたことが不安軽減に繋がったとモニタリングからも明らかになっ た。しかし、「07.家族と離れる不安」など軽減できないものもある。

3)第3因子について

第3因子の不安のレベルが高いものとして「09. ルールの違いが分からない」「11. 物価 が高く生活できるか」「15. トラブルの対処法」「12. アルバイトなどの経済的な心配」な どが挙げられるが、「09.ルールの違い」0.8pなどが大きく軽減していることが分かる。本 教材の配信で情報を得たことの効果である。しかしながら、「11.物価の高さ」0.33p、「12.

経済的な心配」0.27pの2項目は、軽減されていないことが分かる。情報を得ただけでは 不安が解消されるものではないが、経済面での問題は重要であるため、何らかの情報提供 は必要である。今後の課題である。

4)第4因子について

第 4因子で不安ポイントが高いのは、「03. 自分の日本語が通じるか」「02. 日本人の言 うことが分かるか」「04.授業について行けるか」である。これについては、「03.日本語が 通じるか」0.40p、「02.日本人の言うことが分かるか」0.40p、「04.授業について行けるか」

0.40p、なども不安が軽減していることが分かる。「01.日本語がわからない」というのは、

ほとんど日本語を学習していない初級レベルの学生の回答であるが、これについては本教 材を短期間学習することでは解決できない。

175 5.4.1.2 受講者の特徴:全課学習者について

2016年教材配信をした32名中、インタビューに答えてくれた23名の分析を行った。

全課を受講した学習者は12名いるのだが、どのような学生が全課学習したのか、その特 徴を掴むために比較を試みた。まず、佐賀大学のアンケートに回答してくれた63名全体 と全課学習をした学生を比較してみたのが、図5-21である。学習者の来日前不安と日本 語不安、動機づけ及び自己効力感を比較し検討をした。

全課学習者は、レベル的には初中級以上の学生が多いのだが、全体の平均値と比較して みると、来日前不安や日本語不安が少し高いことが分かる。日本語レベルの高い学生が不 安がないわけではないことは第3章でも論じたが、ここでもそれが表れる結果となった。

また、日本語学習の動機づけの強さ、すなわち学習意欲も高く、それが継続学習へと繋が ったと考えられる。自己効力感としてはポジティブな感情はやや低くネガティブな感情が やや高い結果となった。冷静に自分を見つめる真面目な学生像がイメージできる。

次に、不安の中でも、どの因子が高いかを、図5-22に示す。

0.00 1.00 2.00 3.00因子1

因子2

因子3 因子4

佐大全体 全学習 一部学習 来日前不安 日本語不安 動機 自尊+ 自尊-

全体 2.40 2.90 3.18 3.06 1.81 全学習者 2.55 3.02 3.34 2.76 2.07

0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00

不安ポイント

図5- 21 全課受講者の特性

図5- 22 全課学習者の特徴 来日前不安因子分析分布

176

この結果から分かるように、一部学習者と比較してみると、その違いが顕著である。第4 因子の日本語力の不安に関しては同様の数値で高いが、大きな違いは、精神面での不安の違 いであることが分かった。第2因子と第 3因子は相関関係があるため、ここでも精神面で の不安の高さが新しい環境への生活適応不安に繋がっているようだ。つまり、ケラー(2010)

も「不安と恐怖心は制御できるもの」であり、「成果を最大限にするために人を刺激する要 因の一つである」(p. 144)と述べているように、来日前不安が高いということが、学習に マイナスに働くばかりではなく、それが学習意欲に繋がって学習成果として表れることが この調査から分かった。第 2 因子の精神面での不安が高い学生などは、学生の特性を見極 めながら、支援することが重要である。

5.4.1.3 個々の学生の分析

次に、いくつかの具体例を示す。学習者E1、E2、D1は全課学習した学生である。

図5-23の学習者E1は上級レベルの学習者であるが、不安度数は平均よりも高い64pで あった。「来日前日本語学習教材」をすべて学習し、アクセス回数は40回で学習時間は426 分であった。「談話室」に投稿するために色々と調べているであろうからそれ以上の時間を 費やしているだろう。学習後は15ポイント不安が軽減している。

0 20 40 60 80 100 120 140

9/12 9/17 9/22 9/27 時間 アクセス状況

0 20 40 60 80 100 120

8/13 8/23 9/2 9/12 9/22 10/2 アクセス状況

2 2 3

2 2 2 3

2 2 3

2 3

1 3

4

1 2 2

3 2

3

0 1 2 3 4

不安 20 18 17 16 10 5 6 8 7 11 14 12 15 9 13 21 3 2 1 4

学習前 学習後

1 1 1 1 1 1 1 2 2 2

3 2 2

1 1 1

2 2 2 2 2

0 1 2 3 4

不安19 20 18 17 16 10 5 6 8 7 11 14 12 15 9 13 21 3 2 1 4

不安の変化 不安の変化

学習者E1

学習者E2

図5- 23 学習者資料1 不安の軽減とアクセス状況(学習者E1)

図5- 24 学習者資料2 不安の軽減とアクセス状況(学習者E2)

177

図5-24の学習者E2も上級レベルであるが、不安度数は56pでやや高かったのだが、学 習はビデオ視聴と演習問題を実施し、スピーディーな学習をしている。後半は「談話室」に よくアクセスしプラスαを見て投稿もしている。学習の総数は264分と長くはないが不安 度数は22ポイントも軽減している。

図5-25の学習者D1は中級レベルで、不安度数は48で平均よりも低かったが、9月の中 旬には毎日のようにアクセスをし、学習状況を見て自己管理し、すべての学習を終えた。学 習後の不安度数は10ポイント軽減したと自己評価した。総学習時間は344分であった。

前述した学習者 A1、A2(p. 165)は、初級前半であるため全課学習は出来なかったが、

学習時間だけを見ると285時間、288時間をかけている。これは、上級レベルの学生であっ たら全体を見渡すことができる時間をかけ少しずつ学習しているため学習意欲はみられる。

上述した具体例などを総合させて考えると、以下のようにまとめられる。

この教材を学習したことで、一人平均9.33p不安が軽減している。概ね6p~12pの範囲 であるが、多い学生は23pも軽減し、少ない学生は2pと学生によって差が生じた。

軽減ポイントの高いものは、情報を入手することで不安が解消される第1因子で平均

0.52p 軽減されている。しかし、その中でも実際に行かないとやはり不安が解消されない、

「17. 自分の住居」や「10. 安全について」はあまり軽減されなかった。

次に平均値として高かったのは、第2因子の精神面での不安であるが、「08. 習慣の違い」

はある程度情報提供で軽減が可能であり、特徴的なのは「05. 友だちができるかどうか」と いう不安が軽減したのは、Moodle上の「談話室」等での交流がよかったものと考える。

第3因子の生活適応の不安で最も軽減されたものは、「09. ルールの違い」の0.87pで、

これも情報提供をすることである程度解消されたようだ。「15. トラブルが起きたときの対 処法」については、日常生活の中で起きる些細なことでも不安解消になったようだ。情報と 共に表現を身に付けることで対処の自信がついたのだと思う。

第4因子の日本語能力に対する不安については、この対象がレベル的にある程度高い学 0

10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

8/3 8/13 8/23 9/2 9/12 9/22

アクセス状況

2 2 2 2 2 2 1 1

2 1

2 3

2 2 1

2 1

3 2

1 2

0 1 2 3 4

不安19 20 18 17 16 10 5 6 8 7 11 14 12 15 9 13 21 3 2 1 4

不安の変化

学習者D1

図5- 25 学習者資料3 不安の軽減とアクセス状況(学習者D1)

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 183-189)