第 5 章 来日前日本語学習教材の実施と評価
5.3 アンケート及びモニタリングによる検証
5.3.3 初級学習者への有効性-調査 8-
さらに、来日後の日本語クラス「日本語初級前半総合1」の授業の会話の宿題として、初 級前半の学生16名を対象に、「来日前日本語学習教材」の2、3、4、6、8課を課した結果
を示す。「調査8」とした。教材の初級学習者への有効性を検証するために実施した。
1)対象者:佐賀大学日本語初級Ⅰクラス受講生 16名
2)実施期間:2015年11月~2016年1月の間の 授業の宿題として実施。
3)実施内容:質問紙配布 それぞれ、2~5件法
・オープニングについて ・単語について
・ビデオ教材について、 ・リピーティングについて
・会話練習について ・演習問題(練習1、練習2)について
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授業は週6時間、宿題としてはこの他に毎時文法のプリントが1~2枚あるため、負担は 大きかったと想像できる。宿題として1週間に1回程度1課学習するようにし、学習内容 としては、語彙学習、ビデオ視聴、リピーティングや会話練習を行った後、演習問題も受け るように指示をした。その結果、学習者AとBに分類することができた。学習者Aは宿題 のほとんどをしてきた学生で、学習者Bは2課以下の学習者に分類したものである。重要 表現は、初級前半で学習するものを選んでいるが、ビデオの会話については、未習の文型も 多く出てくるため、すべてを理解するには難しい内容であると推察する。
調査をした結果を以下にまとめる。
(1)初級学習者:来日前の日本語学習経験について
日本語学習経験がある2、日本で勉強しようと思った4、時間がなかった7 ゼロ初級のクラスに所属している学生の中にも、母国で日本語学習をしてきた学生が 存在するのであるが、このクラスは、ほとんどの学生がゼロの状態であった。
(2)初級学習者:来日前の学習について
来日前に勉強しておいた方がよかった…とてもそう思う10、そう思わない4、
事前に勉強しておけばよかったと後悔している学生が多いが、その内容については、「日 常会話・スピーキングなど生活に必要な会話の基礎」や「ひらがな・カタカナの文字だけで も学習してくればよかった」と答えるなど差がみられた。
反対に、「日本に来て日本人の先生に習った方がきれいな発音を覚えるから」、「日本に来 てからの方がすぐに覚えることができるから」、「独学は大変だから」、「大学院では英語を話 す先生がいるのであまり日本語は必要ないから」、などと「そうは思わない」という回答も あった。
(3)初級学習者:項目別評価
評価の結果を表5-17に示す。学習者Aは宿題5課全学習者、学習者Bは宿題2課以下 の学習者である。
表5- 17 初級学習者の項目別評価
学習者A 学習者B 合計 1.オープニング
内容理解 1全然~5よく分かる 情報としての有用性 1~5
日本語学習の効果 1~5
4.00 4.50 4.38
3.75 4.00 4.25
3.88 4.25 4.31 2.ビデオ
内容理解 1~5 情報としての有用性 1~5 日本語学習の効果 1~5
4.38 4.50 4.75
3.75 4.25 4.25
4.06 4.38 4.50 3.リピーティング
4.38 3.88 4.13
169 内容理解 1~5
日本語学習の効果 1~5
音声スピード 1速い-3よい5遅い
4.38 3.75
4.50 3.25
4.44 3.50 4.会話練習
内容理解 1~5 日本語学習の効果 1~5
音声スピード 1速い-3よい5遅い
4.13 4.38 3.88
3.75 4.00 3.25
3.94 4.19 3.56 演習問題:練習[1]
問題の難易度 1難-3まあ-5易 問題の量 1多い-3よい5少ない 学習効果 1全然- 5 とてもよい
3.88 3.13 4.38
3.00 2.75 3.63
3.44 2.94 4.00 演習問題:練習[2]
問題の難易度 1難-3まあ-5易 問題の量 1多い-3よい5少ない 学習効果 1全然- 5 とてもよい
3.38 3.13 4.25
2.75 2.63 4.00
3.06 2.88 4.13
(第4章6節に教材の詳しい内容を掲載。)
以上の結果から、次のようにまとめることができる。
① 全課を学習した学生の方がすべてのポイントが高い結果が出た。これは授業参加度、他 の宿題提出率など学習意欲の高さに繋がる。
② 授業で学習した内容と関連するものを宿題としたこと、また、授業の教材にはビデオ教 材がないため、やや内容は難しいと感じながらも、「様々な場面で役に立つ」、「佐賀の生 活が分かる」、「日本に着いたばかりの人に役に立つ」という回答がみられた。
③ 「この教材を来日前に学習したかった」という質問もしたのだが、「はい」14、「いいえ」
2という回答であった。来日前か来日後に見たらとても役立ったと思う、と授業時の宿題 とした見た学生は回答していた。「いいえ」を選択したのは、内容が難しくて来日前の自 分では理解できないという理由であった。
これらを総合すると、この教材は、初級前半の学生に対しては、日本語学習3か月目以降 から少しずつ英訳がなくても学習が可能であることが分かった。少し修正を加えると、来日 前のゼロ初級の学生にも十分学習可能な教材になると考える。
また、上記の学習者Aに属する学生の中で、「来日前日本語学習教材」を学習している学 生を取り上げ、この「来日前日本語学習教材」が、初級学習者にどのような学習を可能にす るのか、具体的例を挙げて検討してみたい。次の図5-17、5-18は、二人の初級前半学習者
の「調査2.a」の来日前不安度数と「来日前日本語学習教材」へのアクセス状況を示してい
る。
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学習者A1は初級前半の学生で不安度数はほぼ平均より低い39ポイントである。初級前 半レベルの学習者であるため、教材内容は難しく、すべてを行うことは厳しい状況であるの だが、来日前アンケートに答え、プレースメントテストを受け、第1課と第2課の学習を している。第1課はビデオ編(オープニング・語彙・ビデオ)練習編(リピーティング・会 話練習)をすべて行い、演習問題も受験している。また、メールを受け取るたびに、eラー ニングにアクセスし掲示板と「談話室」を閲覧している。総学習時間は285分となっている。
学習者A2も、不安度数は平均値に近い52ポイントである。学習内容は、来日前アンケ ートに答え、プレースメントテストを受け、0課である「Hiragana practice」や「数字練 習」を行い、第1課と第2課、そして5課の学習をしている。第1課はビデオ編(オープ ニング・語彙・ビデオ)練習編(リピーティング・会話練習)をすべて行い、演習問題も 受験している。また、「談話室」の閲覧もしている。総学習時間は288分となっている。
不安度数は違っているが、何れの学生も、学習経験がなく教材の内容としてはレベルの 高いものを一生懸命学習しようとする姿勢がみられた。一人はひらがなや数字練習といっ た基本事項を押さえようとし、両者とも1課2課の学習に挑戦し演習問題まで受験してい る。この熱心な姿勢が、来日後の授業参加へと繋がっている。ゼロ初級の学生に応じた教材 を準備していれば、負担感なく学習を進めることができたと考える。
0 1 2 3 4
192018171610 5 6 8 7 11141215 9 1321 3 2 1 4 0 20 40 60 80 100 120
8/13 8/23 9/2 9/12 9/22
時間
日付
0 1 2 3 4
192018171610 5 6 8 7 11141215 9 1321 3 2 1 4 0 20 40 60 80 100 120
8/13 8/23 9/2 9/12 9/22 学習者A1
学習者A2
不安度数 アクセス状況
不安度数 アクセス状況
図5- 17 初級レベルの学生の不安とアクセス状況(学習者A1)
図5- 18 初級レベルの学生の不安とアクセス状況(学習者A2)
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これらのアンケート結果やインタビュー結果より、ARCSモデルを基に検証を行うと、以 下のようになった。
A注意:知覚的喚起、探求心の喚起、変化性に関して
来日前は生活環境の変化等で実際以上に多忙と感じる時期であるため、興味を喚起で きるものでなければ学習の動機づけにならないということで、教材の真価が問われる。
①来日前直前の留学先の情報を最も入手したい時期である、②留学先の大学からの個別 のメールを受信する、③留学先の大学のオリジナル教材である、④学習内容や学習方法が イラスト入りで分かりやすく説明されている、⑤オーセンティックな場面でのビデオが 探求心の喚起となった、などが挙げられる。
R関連性:目的指向性、動機との一致、親しみやすさに関して
①ニーズ調査をして作成したものであるため、学習者のニーズの中の重要部分は押さ えた内容になっているため目的指向性は合致している。ただし、来日後に困ったと挙げら れた内容に関し(特に時代に即応したもの)、事前に情報提供できるものは追加掲載を検 討する必要がある、②学習動機としては、教材の項目が学習者のニーズに即応していれば 学習をまず開始することができる、③学習開始後の動機の刺激としては、プレースメント テストの結果を個別回答すること、「談話室」での質疑応答などで、インタラクティブな交 流ができること等である、④留学先の動画や写真などで構成されているため、既修者も実 践のシミュレーションができることで親しみやすさに繋がり効果的だった、⑤学習者の レベルに合わせ学習内容を選択できる幅がある、などが挙げられる。
ただし、学習者のレベルによって、負担の度合が大きく違うため、個々に即応した対応 がより重要であると考える。
C自信:学習要求、成功への機会、個人的コントロールに関して
①不安を抱いている要因を分析し、その中から教材を配信することで解消できる項目 を選定した。情報不足による不安や新しい環境への生活適応不安に対しては、情報を提供 することで、日本語能力に対する不安は、実際の場面を再現することでそこでの会話練習 をすることで軽減をすることができる、②ここで学習したことが来日後の実際の体験の 際に役だったという回答が多くあったため、成功の機会を多く与えることができた、③遠 隔地での学習は常に個人でコントロールしなければならないものであるため、支援する 目的で、インストラクターが定期的に掲示板に投稿する、あるいは、「談話室」で質問を出 し学習者に回答を求める、等のようなインタラクティブな交流の機会を作った。
S満足度:自然な結果、肯定的な結果、公平さに関して
①学習したスキルが、来日後の実際の場で実現できるため、それが成功したかは、自身