第 4 章 来日前日本語学習教材の設計と開発
4.2 来日前日本語学習教材におけるインストラクショナルデザイン
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コンテンツを作り上げる半年間は上記のようなチームで活動し、その後は、インストラ クショナルデザイナー兼インストラクターである筆者とシステム管理者の2名で運用を続 ける。
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例示がある ・学習目的に合致した例示方法を採択する(モデルを示す)
・ガイダンスを学習者に与える(関連する情報に学習者を導く)
可 可 4)応用
Application 応用するチャ ンスがある
・新しく学んだ知識やスキルを使うような問題解決を学習者にさ せる
・応用(練習)をあらかじめ記述(暗示)された学習目標に合致 させる
・学習者の問題解決を導くために、誤りを発見して訂正したり、
徐々に援助の手を少なくしていくことを含めて、適切なフィー ドバックとコーチングを実施する
・学習者に異なる問題を連続的に解くことを要求する
可 可 課題
可 5)統合
Integration 現場で活用し、
振り返るチャン スがある
・学習者が新しい知識やスキルを日常生活の中に統合(転移)す ることを推奨する
・学習者が新しい知識やスキルについて振り返り、話し合うよに 仕向ける
・学習者が新しい知識やスキルの使い方について、自分なりのア イデアを考え、探索し、創出するように仕向ける
可 可 可
1)~5)の項目に対しそれぞれ具体的に示されたものが作成しようとする教材の中に織り 込むことが可能であるか、課題として残ってしまうかを個々に検討した。その結果、19項目 において 17 項目が実現可能であると分かった。しかし、「1)問題同士で何が違うのかを明 らかにする」「4)学習者の問題解決を導くために誤りを発見して訂正したり、徐々に援助の 手を少なくしていくことを含めて、適切なフィードバックとコーチングを実施する」の2点 について「課題」が残った。後件については、学習者が学習の途中経過を見て徐々に援助の 手を減らすことは一度に提供している教材にとっては難しい。さらに、これは適切なフィー ドバックやコーチングができるかどうかという課題としても残っている。以上が今後検討す べき点である。
次にADDIEモデルに対応させながら、分析―設計―開発―評価の流れに沿って検討す
る。まず分析を表4-3に示した。左のADDIEモデルのチェック項目に沿って一つ一つ「来 日前日本語学習教材」について確認を行った結果を右に示している。
表4- 3 ADDIE モデル(分析)でみた「来日前日本語学習教材」
分析(Analysis)
チェック項目 「来日前日本語学習教材」における確認事項 1)ニーズの決定
①このコースの学習者の教育における目 的
②このコースの社会的なニーズ
1)ニーズの決定
①留学生の来日前不安を少しでも軽減すること で、来日後の学習をスムーズにさせる。異文化 へスムーズな適応をすることで社会言語能力の強 化、実践的コミュニケーション能力の強化を図 る。
②来日前の留学生への情報提供及び日本語学習機 会の提供(広義)。情報の少ない地方の情報提供
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③このコースはどのような目的のコース なのか
④このコースは学習者の人間成長にどれ だけ役に立つのか
⑤このコースで学んだスキルは後のコー スで必要となってくるのか
⑥このコースの開発にかける時間と労力 は
⑦このコースの基盤となったもの
⑧このコースの現実的な文脈への応用
(狭義)
③佐賀大学への留学生対象の短期教育コース
④留学という機会が人間成長に役立つものである ため、それを支援するという副次的意味合いで役 立つ。
⑤オーセンティックな会話場面の映像は、今後の 教室内の学習や実践の場で大いに役立つ。
⑥研究予算内の作成は半年。その間にビデオ撮影 とアニメーションの作成を行う。その他の追加・
修正等にかける時間と労力は個人レベルで実施す る。
⑦ほとんどオリジナルであるが、様々な日本語学 習教材が参考となっている。
⑧すべてが現実的文脈への応用が可能である。
2)学習目標の決定
①学習者がこのコース終了後に、どのよ うな知識、スキル、態度を身に付けて いるべきか
②このコースを受講する際の前提条件は 満たされているか
2)学習目標の決定
①基本的な日常生活を送るのに困らないような日 本語コミュニケーション能力を身に付ける。
②前提条件は非常に限定的だが、焦点を絞った教 材であるためその条件には当てはまる。
3)前提スキルと動機づけ
①学習者が関連スキルを既に持っているか
②何が学習者の動機づけを高めるか
3)前提スキルと動機づけ
①対象は、日本語能力初級後半レベルの学習者か ら。しかし英語が理解できる学習者であれば理解 可能。
②来日直前という時期、これから留学する大学か らの学習教材であるため動機づけは高い。来日直 後に遭遇するであろう内容でもあり興味深いもの である。
4)条件と制約
①コースにはどんなリソースが必要か
②このコースの学習目的を達成するために は、特殊な装置や学習経験が必要か
③与えられた時間内で、どれだけの学習成 果が期待できるか
4)条件と制約
①インターネット環境、パソコン
(Webプラウザ、日本語表示が可能か、バージョ ンは)
②特殊な装置は必要ない。Moodleの表示が理解で きるだけのパソコン経験と、日本語か英語の理解 力が必要である。
③内容を一通り見ただけで、概要は理解できる。
学習者の学習レベルと学習量に比例する。
以上のように、チェック項目に照らし合した結果、確認事項を記すことができたとい うことで、分析がある程度十分であると言える。
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教育システム設計として、ガニェ(2002)60の「9教授事象」を使って学習の組み立て を行った。ガニェは学習者がどのようにして新しい知識や技能を習得するかという内的プ ロセスを支援するために、9項目の教授事象を整えながら教授すべきだと述べている。
ガニェの9教授事象を用いて、「来日前日本語学習教材」の構造を分析したのが、以下 の表4-4である。
表4- 4 ガニェの9教授事象を用いた「来日前日本語学習教材」分析
9教授事象 「来日前日本語学習教材」の構造
導 入
事象1:
学習者の注意を喚起する
来日前の留学生にメール送付し、教材内容の概要を日本 語と英語で紹介する。
事象2:
講座の目標を知らせる
メールの案内文にて教材の特徴と目標を提示する。
URL、ログインIDとPWを送付する。
事象3:
前提条件を思い出させる
最初にアクセスするWebページに、イラストで教材内 容を分かりやすく説明する。
プレースメントテストで今の力を把握する。
情 報 提 示
事象4:
新しい事項を提示する
Moodleの使い方の説明をする。(日本語と英語)
Moodleの学習コースに、学習内容を写真入りで表示
し、学習の流れを図示する。
事象5:
学習の指針をあたる
レベル別に学習内容を選択させる。
映像教材の中に学習ポイントを指示する。
学 習 活 動
事象6:
練習の機会を作る
映像教材作成。
映像教材から重要表現を取り出し、リピーティングと会 話練習を行う。
映像教材学習後に演習問題を解かせる。
事象7:
フィードバックを与える
演習問題実施後に、答え合わせとフィードバックを行う う。
ま と め
事象8:
学習の成果を評価する
演習問題を解くことで、学習がどれだけ理解できたかを 評価する。
事象9:
保持と転移を高める
来日後、学習した状況に遭遇した場合に、使えるかどう かで保持が分かる。実生活に即応した場面で応用ができ たことで長期記憶への転移となる。
次にADDIEモデルを参考に「来日前日本語学習教材」の設計、開発、実施、評価を検
討すると以下の表4-5のようになる。
60 ロバート・ガニェ(Robert Gagne, 1916-2002)は、B.F.スキナーの下で学んだが、行 動主義者ではなく、認知主義の研究者であると言われている。学習成果のタイプと対象と なる学習者の特徴に合わせて教授事象を設計することが必要だと述べている。
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表4- 5 ADDIEモデル(設計、開発、実施、評価)でみた「来日前日本語学習教材」
設計(Design)
チェック項目 「来日前日本語学習教材」における確認事項
①コースのもっとも高次の学 習成果
②コースの主要単元のトピッ クと学習成果、及び各単元に かける時間を決定する。
③単元における学習目的と成 果。
④単元のレッスン
⑤学習者の評価方法
①来日後に遭遇するいくつかの場面で、その状況に応じたコミ ュニケーションが可能になる。また、事前に異文化理解をした ことで、不安を軽減して新しい生活適応が容易になる。
②トピックは調査の分析結果を基に10課を設定する。学習成 果を測るための演習問題を作成する。学習時間は課ごとに1時 間~1時間半程度とする。
③学習目的は、課ごとのトピックを理解し、日本文化の理解と 来日後の生活に役立てること。また、その課で使われる日本語 表現をマスターして実際の場面で使えるようになること。
④リスニング(写真とともに)→文字教材(日本語・英語)で 内容確認。ビデオ視聴(映像教材を視聴し内容理解)。リピー ティング(ビデオ教材の重要表現のリピート)。会話練習(会 話のモデルを聞く→会話練習する)。
⑤演習問題(基礎編、応用編)による評価。
開発(Development)
チェック項目 「来日前日本語学習教材」における確認事項
①新規コースの構築 ①既存のものではなく、目的に合致した、新たなコースの構築 を目指す。
来日前の不安軽減を目的としたものである。情報提供としても 地域性のあるものを中心とする。その中には汎用性のある内容 のものもあるが、生活圏内の場面での撮影をする。
実施(Implementation)
チェック項目 「来日前日本語学習教材」における確認事項
①状況に応じた学習管理シス テム(LMS)の開発
②学習者のガイダンスと支援
③実施環境計画
④システムの保守
①佐賀大学eラーニングスタジオのLMSを利用する。
②このコースの目的は明確である。遠隔地にいる学習者が対象 であるため、案内はメールのみ、そのメールを見てパソコンを 開いた学生のみ学習を開始することが可能となる。ガイダンス は日本語と英語表記をする。分からないときには、メールでの 支援を受けられるように、学習面のインストラクターと操作面 のアドバイザーが待機している。
③技術面は、eラーニングスタジオ(現在クリエイティブ・ラ ーニングセンター)のスタッフがシステム管理者となってい る。学習面でのサポートは筆者がインストラクターとして自宅 で随時対応する。
④同上のスタッフで対応