第 5 章 来日前日本語学習教材の実施と評価
5.3 アンケート及びモニタリングによる検証
5.3.1 来日前日本語学習教材本配信後アンケート-調査 6-
153
Moodle 上の学習の手順を写真やイラストを使って表記したことで、何を学習するのか、
どういった流れで学習していけばよいのかが容易に理解できるようになった。これは、
やり方が分からずにドロップアウトする学生を減らす効果があった。
② 学習意欲の維持:配信直後はアクセスも多いのだが、しばらくすると学習者が減少する のは、どの自習教材でも起こることである。しかし、学習意欲を維持するための手立てと して、途中配信の教材の追加、そこに「談話室」を活用したメールの送信をすることで、再 度学習意欲が高まることが分かった。
③ 動機づけ:学習状況の可視化として、プレースメントでの個別のメール送付、演習問題 の即時回答と得点表示、さらに課ごとに、どの程度学習をしたか教師のフィードバックと してスタンプを送るなど、定期的に学習者が学習状況を可視化できることは動機づけに おいても効果的であった。また、わずかな評価も自己効力感に繋がっていく。
④ インタラクティブな交流:「談話室」に投稿し、教師が学生に質問を投げかけ、それに学 生が答えるといった会話があったり、学生同士が会話をしたり、また、ただ他の人の投稿 を見るだけでも人との繋がりは感じることができるため、遠距離にありながらインタラ クティブな交流ができることは、eラーニングの利点の一つだが、有効であることが分か った。
154 4)実施内容:質問紙配布
・メールを見たか
・最後までしたか はい、いいえ の2件法
・内容は理解できたか、
・学習のしかたは分かったか
・情報を得るのに役立ったか
・日本語学習に役立ったか 以上、全然~とても の5件法
・来日後に困ったことはあるか はい、いいえ の2件法 これらの結果を以下に示す。
5.3.1.1 学習教材配信について
まず、教材が送付されて学習までにいたる操作方法について調査を行った。
表5- 7 来日前日本語学習教材配信に関する評価
A初級前半 B初級後半 C初中級 D中級 E上級 平均
①メールの受信
はい の割合 78.9% 80% 90% 90.9% 90.5% 94.2%
②学習を最後までしたか
はい の割合 6.7% 11.1% 33.3% 50% 89.5% 50.4%
③学習の仕方の理解
1全然~5とても 5件法 4.33 3.44 3.88 4.30 4.53 4.10
※初級前半の①②のアンケートの度数は19である。
表5-7のように教材受信に関しては、初級前半レベルのみ、「メールの内容が理解できな かった」という場合があり、受信できない学生数いたが、「メールを見落とした」という理 由に関してはどのレベルも存在した。②この教材を最後まで学習しましたか、という問いに は、当然ながら初級前半レベルの学生には難易度が高く厳しいため、途中で学習を終わって いるケースが多い。レベルが上がるにつれて、日本語学習の負担が少ない分だけ継続率が高 くなる。③学習の仕方の理解という点では、パソコン操作という技術面とある程度日本語力 も影響するが、総合的には4.10ポイントあるため、理解は十分だと考えられる。
5.3.1.2 教材内容の情報及び日本語学習としての有効性
全体的な内容についての評価として、①この教材は佐賀の情報を得るのに役立ちました か、②この教材は日本語学習に役立ちましたか、という質問をし、レベル別に平均値を算出 した(度数56)。
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表5- 8 情報と日本語学習としての有効性
A初級前半 B初級後半 C初中級 D中級 E上級 合計
教材内容理解 3.33 3.11 4.00 4.80 4.84 4.02
①情報 平均値 標準偏差
3.67
1.528 3.64
.924 4.00
.816 3.92
1.165 4.60
.754 4.11
.985
②日本語 平均値 標準偏差
3.67
1.528 4.00
.816 4.30
.949 4.17
1.267 3.95
.999 4.02
1.087
表 5-8 から分かるように、日本語学習として有効性の平均値が高いのは、初中級レベル
4.30pであり、次に中級レベル4.17p、初級後半レベル4.00pとなり、これは、IDデザイン
作成の際の対象者目標と一致する。また、初級前半レベルや上級レベルの学習者にも3.67p、
3.95pという平均値が出ており、想定していたよりも高い数値となっている。
また、情報としての有効性だが、これは予想以上に上級レベルの平均値が高く4.60pもあ った。これは、日本語力が高い故に、日本語教材の多くの情報を得ることができたと考えら れる。
総合的に見ると、初級前半レベルの学習者に対応できるように英訳も入れてはいるが、や はり日本語学習という前提があるため、いずれもポイントが低くなるのは当然である。上級 レベルの学習者については、予想以上にポイントが高かったのは、オーセンティックな会話 が実践的で聴解や会話練習になったこと、情報としての有効性を実感したためだと考えら れる。
5.3.1.3 教材の学習項目別有効性の検証
それぞれの学習内容がどの程度有効であったかを分析するため、実際に「来日前日本語学 習教材」を配信した「調査6.a」の学生の中から抽出した28名の学生を対象に調査を行っ た。これを「調査6.b」とする。
1)対象者:「来日前日本語学習教材」を来日前に学習した佐賀大学SPACE留学生
2)現在の日本語クラス(日本語レベル)
A:初級前半7(4)、 B:初級後半6(3)、 C:初中級5(3)、
D:中級2(0)、 E:上級8(5)、 合計28名(15)
大きい数字は2014年と2015年の合計で、( )の数字は2015年に実施したもので ある。
3)実施期間:2014年~2015年のそれぞれ11月 の授業後に実施。
4)実施内容:質問紙配布
・オープニングについて、 ・単語について
・ビデオ教材について、 ・リピーティングについて
・会話練習について ・演習問題(練習1、練習2)について
156
2015年の学生には以下の内容についても実施
・Moodle表示について ・プレースメントテストについて
・掲示板・談話室について ・プラスα動画について 以上、2~5件法
どういった内容だったかを思い出して正確に答えてもらうために、再度教材を見ながら 回答をしてもらった。第3課の教材を再度見た後での回答である。そのため、この回答は来 日前の学習者の状況を正確に表したものではない。ただし、来日前に自身が見たことを思い 出して、来日前学習をイメージして回答するようにと伝えた。特に初級前半・後半レベルの 学習者は日本語力の伸びが顕著であるため、来日前と実施時点とではその差が大きい。また、
初級の学生は来日前にはメールを受け取ったが学習をしなかった学生も含まれるため、今 回が初めての学習になった学生もいる。この調査は、学生が実際にどのように学習を進めて いくのかを実際に検証する意味もあった。その分析結果を表5-9、図5-16に示す。
表5- 9 来日前日本語学習教材についての項目別評価
質問項目 平均値 全体
標準偏差
日本語レベル
A B C D E
オープニングについて 1)内容は理解できたか
1全然 2あまり3まあまあ4よく分かった
度数28 3.68
.612
3.14 3.50 4.00 4.00 4.00 2)レベル
1難しすぎ/2/3ちょうどよい/4/5易しすぎ
2.93
.594 2.25 3.00 3.00 - 3.40
3)情報としての有効性
1全然 2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.68
.548 3.86 3.67 3.60 4.00 3.50 4)日本語学習としての有効性
1全然 2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.32 .905
3.71 3.17 3.20 4.00 3.00 5)量
1少なすぎ/2/3ちょうどよい/4/5多すぎる
3.27
.594 3.25 3.33 3.00 - 3.60 6)音声のスピード
1遅すぎる/2/3ちょうどよい/4/5速すぎる
3.00
.535 3.50 3.00 2.67 - 2.80 単語について
1)知っている単語はどのくらい
1全然 2あまり3だいたい4ほぼ知っている
度数15 3.07 .799
2.00 3.67 3.33 -
3.40 2)語彙の量
1少なすぎ/2/3ちょうどよい/4/5多すぎる
3.27
.594 3.50 3.33 2.67 - 3.40 3)日本語学習に役立った
1全然2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.20
.775 3.50 3.33 2.67 - 3.20 4)音声のスピード
1遅すぎる/2/3ちょうどよい/4/5速すぎる 3.00
.655 3.50 3.00 2.67 - 3.20 ビデオについて
1)内容理解
1全然 2あまり3まあまあ4よく分かった
度数28 3.75 .585
3.14 3.85 4.00 4.00 4.00 2)情報として役立った
1全然 2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.54
.793 3.57 3.67 3.60 4.00 3.25 3)日本語学習に役立った
1全然 2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.39
.832
3.71 3.50 3.40 4.00 2.88 4) 量
1少なすぎ/2/3ちょうどよい/4/5多すぎる 3.13
.748 2.75 3.00 3.00 - 3.60
157 5) 音声のスピード
1遅すぎる/2/3ちょうどよい/4/5速すぎる 3.07 .458
3.50 3.00 2.67 - 3.00 リピーティングについて
1)内容理解
1全然 2あまり3まあまあ4よく分かった 度数28
3.82 .476
3.43 3.85 4.00 4.00 4.00 2)あなたの日本語レベルに
1全然2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.00
1.000 3.50 3.33 2.33 - 2.80 3)日本語学習に役立った
1全然 2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.32
.819 3.57 3.67 3.20 3.50 2.88 4)量
1少なすぎ/2/3ちょうどよい/4/5多すぎる 3.40
.828 3.00 3.33 3.67 - 3.60 5)音声のスピードは?
1遅すぎる/2/3ちょうどよい/4/5速すぎる 2.82 .612
3.14 3.00 2.60 2.50 2.63 会話練習について
1)内容理解
1全然 2あまり3まあまあ4よく分かった 度数28
3.89 .416
3.57 4.00 4.00 4.00 4.00 2)あなたの日本語レベルに
1全然2あまり3まあまあ4とても役立つ 2.80
.775 2.75 3.00 2.67 - 2.80 3)日本語学習に役立った
1全然 2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.43
.690 3.86 3.67 3.60 3.50 2.75 4)量
1少なすぎ/2/3ちょうどよい/4/5多すぎる 3.27
1.033 3.50 3.00 2.67 - 3.60 5)音声のスピードは?
1遅すぎる/2/3ちょうどよい/4/5速すぎる 2.89
.416 3.00 3.00 2.80 2.50 2.88 演習問題:練習[1]について
1)問題のレベルは
1難しすぎ/2/3ちょうどよい/4/5易しすぎ 度数23
3.30 .765
2.83 4.00 3.25 4.00 3.14 2)この問題はビデオ内容を理解するのに
1全然2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.39
.583 3.33 3.40 3.25 4.00 3.43 3)量
1少なすぎ/2/3ちょうどよい/4/5多すぎる 3.19
.680 2.83 3.20 3.00 3.00 3.80 4)音声のスピードは?
1遅すぎる/2/3ちょうどよい/4/5速すぎる 3.00 .378
3.25 3.00 2.67 - 3.00 演習問題:練習[2]について
1)問題のレベルは
1難しすぎ/2/3ちょうどよい/4/5易しすぎ 度数23
3.43 .728
3.00 3.80 3.50 4.00 3.43 2)この問題は日本語学習に
1全然2あまり3まあまあ4とても役立つ 3.43
.737 3.25 3.67 3.00 - 3.60 3)量
1少なすぎ/2/3ちょうどよい/4/5多すぎる 3.17
.834 2.83 3.40 3.00 4.00 3.29 4)音声のスピードは?
1遅すぎる/2/3ちょうどよい/4/5速すぎる 3.20
.561 3.50 3.33 3.00 - 3.20
158
(第4章6節、付録に教材の詳しい内容を掲載。)
度数が小さいため妥当性に欠ける部分もあるが、ある程度の傾向と評価は可能であると 考える。以下にその結果をまとめる。
① オープニング:
・初級レベルの学習者には、難易度としては、設定どおり難しく(2.25p)、音声スピード も速いと感じ(3.50p/5)ているが、情報入手や日本語学習に役立つと感じている。
・レベルとしては、初級後半の学習者も3.00p(ちょうどよい)としているが、
・全体としては、情報として役立つ(3.68p)と考えており、日本語学習としても役立つ
(3.32p)の評価があった。情報としての有効性はレベルに関係なくあった。
・量としては若干多い(3.27p)となっているが、上級レベルの学習者ではちょうどよい
(3.00p)であった。
② 単語:
・知っている単語数は、初級前半レベルの学習者が少ないのは当然(2.00p)だが、上級レ ベルの学習者もすべての単語を知っているわけではない。つまり、語彙表示も日本語学 習に初級レベルは勿論(3.50p)上級レベルの学習者にも役立つ(3.20p)ことが分かっ た。
・ただし、1課における新出単語の量としてはやや多過ぎる(3.27p)と感じており、初級 レベルでは3.50p、初中級レベルでは2.67pだったのだが、上級レベルでは3.40pとな っている。
③ ビデオ教材:
・内容理解について、初級レベルの学習者はオーセンティックな場面での自然な会話を再 現しているため難しいのは当然であるのだが、映像を見て理解できること、一つ一つの 映像が短く区切ってあって見やすいことなどで、3.14p と思ったよりも高かった。初級
0 1 2 3 4
1.1
2.1
3.1
4.1
1.2 2.2
1.3 2.3 3.3
4.3
A B C D E 1.1 オープニング 内容理解
2.1 ビデオ 〃 3.1 リピーティング 〃 4.1 会話練習 〃 1.2 オープニング 情報有効性 2.2 ビデオ 〃 1.3 オープニング 日本語有効性 2.3 ビデオ有効性 〃 3.3 リピーティング 〃 4.3 会話練習 〃
図5- 16 「来日前日本語学習教材」についての項目別評価 度数