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学修観アンケートによる比較-調査 3.b-

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第 5 章 来日前日本語学習教材の実施と評価

5.4 評価:不安の軽減と学習意欲の測定

5.4.2 学修観アンケートによる比較-調査 3.b-

「学修観」とは 3章 5節で述べたように、学習者個人のもつ学習全般に対する考え方・

学習習慣・態度であるが、それを学習者自身及び指導者が把握することで、学生の学びの支 援をするものである。

3章5節で実施した、学修観アンケート「調査3」の中の、2016年の留学生を参考に、

学習者の特徴を検証してみる。学習者の特徴を把握することで、来日後の支援や授業方法の 検討にも繋がるものだが、本研究においては、「来日前日本語学習教材」の評価と修正に大 きな効果がある。

5.4.2.1 上級学習者を対象とした学修観アンケート「調査 3.b」について

来日後、筆者が指導をしている「日本語聴解上級」2016年後期の授業を選択した14名の 学生を対象とした取った学習観アンケートを「調査3.b」とする。2016年に「来日前日本語 学習教材」を配信して全課学習した学習者と、一部学習者と、配信をされなかった学生とに 分類をした。全課学習者というのは、教材が配信されてそれをすべて学習した学生で、一部 学習者というのは配信をしたが、自身の判断で学習をしなかったあるいは一部分のみを学 習した学生である。

A群:「来日前日本語学習教材」を全課受講した学生

L群:「来日前日本語学習教材」を一部受講あるいは受講しなかった学生 N群:「来日前日本語学習教材」の配信がされなかった学生

以上のように、3つのカテゴリーに分類した。

5.4.2.2 全課学習者 A 群と一部学習者 L 群の比較

その中でまず、全課受講者A群と一部受講者L群に所属する学生の個別データを比較し たものを、図5-26に示す。

179

両者を比較すると全課受講者の特徴的な傾向が表れている。

全課学習者は、「学びの欲求」としては、実用志向・訓練志向・充実志向が高い、つまり、

学習内容や勉強することの意義を十分見出して努力し、自分の知力を鍛えるために学習し、

それを将来の仕事や生活に活かそうと思って学習している傾向が強い。しかし、自尊志向と 関係志向が一様に低いポイントであることが特徴的である。これは、学習方法に問題はない のだが、自分に対する自信が低く、人との関係もあまり重視せず繋がろうとする力がやや弱 い傾向なので、精神面で不安定さがみられる。

反対に、一部受講者は、大きな開きがありそれぞれ個性的なのだが、自尊志向が高い学生 が多いのが特徴で、訓練志向であり、実用志向も充実志向も高い学生が多い。報酬志向は低 い傾向にある。全般的に非常に高いポイントを有しているのに、一部が欠けていたり、一部 の志向が突出していたりと様々である。

5.4.2.3 A 群、L 群、N 群の比較

また、3つのカテゴリーに分類した全受講者A群と一部受講者L群と配信のなかった N群の、「学びの欲求」の平均値を出して比較したものが図5-27である。

0 20 40 60 80 100訓練志向

実用志向

関係志向

自尊志向 報酬志向

充実志向

全課受講者A群

0 20 40 60 80 100訓練志向

実用志向

関係志向

自尊志向 報酬志向

充実志向

一部受講者L群

①訓練志向

②実用志向

③関係志向

④自尊志向

⑤報酬志向

⑥充実志向

A平均 L平均 N平均

図5- 26 学習者の特徴「学びの欲求」から受講状況別比較

図5- 27 学びの欲求のA群L群N群の平均値

180

さらに、学習群別の「学ぶ目的」3分類についての比較を行ったのが表5-18である。

表5- 18 学習群による比較(A群、L群、N群)

「学びの欲求」の比較

「学習の基にある考え」の比較

⑦失敗への柔軟性 ⑧思考過程重視 ⑨方略志向 ⑩意味理解志向

A 70.0 74.2 65.8 72.5

L 71.1 80.0 70.0 75.6

N 65.7 63.8 70.0 67.6

全体平均 68.1 70.2 68.8 70.7

「立ち直る力」の比較

⑪新奇性追求 ⑫感情調整 ⑬肯定的未来志向

A 68.6 57.8 75.0

L 78.1 57.8 82.7

N 78.4 66.0 86.3

全体平均 75.5 61.9 82.3

これらの結果から、「学びの欲求」に関しては、前述したように、全課学習者 A 群の特 徴がよく表れている。自尊志向と関係志向が他と比べて低いという特徴がみられる。この二 つは学習内容の重要性に関しては低いレベルのものであるため学習に関して大きな影響は ないのだが、自分に対する自信度が低く、人間関係をあまり重視していない傾向である。ま た、訓練志向と充実志向の値も低いため、自分自身の知力を鍛えようとか、勉強することの 意義を理解し日々努力をしているという学習ではなく、実用志向や報酬志向のように、将来 の仕事や生活に活かすため、また、将来の生活を豊かにするために学習するというように、

現実的な生活を考えた学習の功利性を求める志向であることが分かる。また、逆にL群は、

訓練志向や充実志向が高いことから、将来のことよりも今の充実を求め自身の知力を鍛え るために学習する傾向が強いことが分かる。

「学習の基にある考え」に関しては、何れの群も大きな違いはみられない。特にA群は、

L群よりもすべてにおいて若干低めの値になってはいるが、バランス的には問題なく、L群

①訓練志向 ②実用志向 ③関係志向 ④自尊志向 ⑤報酬志向 ⑥充実志向

A 74.2 82.5 44.2 53.3 64.2 75.8

L 92.2 75.6 56.7 67.8 48.9 86.7

N 76.2 78.6 55.7 69.5 61.0 79.5

全体平均 79.0 79.0 52.6 64.5 59.3 80.0

181

ほどではないがN群よりも上回っている。A群の個別分布である図5-28を見ても分かるよ うに、⑧思考過程を重視する傾向があり、⑦失敗したときの自分の感情をうまくコントロー ルできる学生もいることから、全体的にみると大きな問題点はみられない。

「立ち直る力」に関しても、A群は⑪新奇性追求と⑬肯定的な未来志向が他よりも低く、

新しい分野にやや抵抗感があり、将来に対する明確な目的も他と比較するとやや低い値と なっている。感情調整に関してはL群と同様の値であった。

ただし、A群の学生も、将来に対する明確な目的はしっかりと持っている。

5.4.2.4 個別データによる学生の特徴

さらに、次ページからは個別のデータで学生の特徴を考えてみる。学修観の「学ぶ目的」

の「○A学びの欲求」「○B学習方法の基にある考え」「○C立ち直る力」の調査結果と、『来日 前日本語学習』の学習後「○D来日前不安の軽減」がどの程度であったかを示したグラフより、

個々について検証を行う。学習群A群、L群、N群から6名の学生を取り上げた。

⑦失敗に対する柔軟性

⑧思考過程の重視

⑨方略志向

⑩意味理解

志向 A1

A2 A3 A4 A平均

図5- 28 「学習の基にある考え」A群の個別分布

182

① A1(A群:全課学習者)

学生A1の来日前の不安度数は58と平均値よりも高い方で、学習後の不安軽減は7ポイ ントと低かった。学習歴は長いのだが、日本語能力に関する不安度数が2項目、ポイントで 4 を付けるほど高く、それに関連して手続きができるかどうかの不安もポイント 4 であっ た。日本語教材学習の方法は、集中学習をしている。その中の1日は200分という長時間 継続学習をし、最後までやり遂げている。相当集中力がある。情報収集としては5の評価を し、バスの乗り方や図書館の使い方、銀行の課などが効果的だという回答だった。日本語学 習としては、生活に役立つ会話の学習ができてよかったが、もう少し深い内容も勉強したか ったという。Moodle上での先生や留学生との交流は、本当によかった、との回答であった。

来日後に困ったこととして、ゴミの出し方が分からなかったと答えている。追加希望の教材 は特になかった。

①訓練志

②実用志

③関係志

④自尊志

⑤報酬志

⑥充実志

A1 全体平均

⑦失敗に対 する柔軟性

⑧思考過程 の重視

⑨方略志向

⑩意味理解 志向

⑪新奇性 追求

⑫感情調

⑬肯定的 未来志向

学生A1は、ほぼ全体の平均値と同じである。

⑤報酬志向はやや高めなので、将来のことを考 えて学習していると考えられる。

BBAタイプである。コメントは以下である。

「いままで、あなたは教職員やまわりの大人の言うこと をよく聞いて一生懸命がんばってきました。これから は、異なる価値観を持っている人との関わりや、あなた が理解できにくい分野を学習する機会が増えてきます。

学習の中身に興味を持ち、学習の仕方を工夫したり、学 習の先にある将来も考えていきましょう。つまずきそう になった時は、早めに相談しましょう。」

1 2

4

3 3 3

1 3

2 2 3

2 3

2 3

2 2 3

2 2 3

0 1 2 3 4

来日前不安の変化

学習前 学習後

A 学びの欲求

B

学習の基に ある考え

C 立ち直る力

D

図5- 29 個別学修観&不安軽減グラフ(A1)

183

② A2(A群:全課学習者)

学生A2の来日前不安度数は47で、全体平均よりもやや低いくらいである。最も高い不 安ポイントであった「9ルールの違いが分からない」は、日本語教材を学習することで大き く軽減したことが分かる。また、「8習慣の違いの不安」についても情報を得ることで2ポ イント軽減している。合計12ポイントの軽減となった。日本語レベルは上級クラスという 非常に高い学生であるが、「自分の日本語が通じるか」「授業についていけるか」という不安 を抱いていたようで、教材の効果についても情報収集だけでなく日本語学習としても効果 的だと回答している。真面目に学習する姿勢がよくみられた。先生や学生同士の交流も同じ 状況の仲間の様子を知ることができ安心したと評価している。

①訓練志

②実用志

③関係志

④自尊志

⑤報酬志

⑥充実志

⑦失敗に対する柔 軟性

⑧思考過程の重視

⑨方略志向

⑩意味理解 志向

⑪新奇性追

⑫感情調整

⑬肯定的な 未来志向

学生A2は、④自尊志向が平均よりやや低く、反 面実用志向と充実志向が高い。⑨方略志向も思考 過程の重視も平均よりやや上回っている。

BABタイプである。

「学習内容や勉強することの意義を十分見いだして日々努 力ができています。新しいものを取り入れて将来設計も良 くできているのですが、人と一緒に何かをしたりするとき の躓きや、自分で理解できない自分の気持ちなどをコント ロールすることを練習するようにしましょう。また、とき に学習の内容だけではなく、勉強のやり方を工夫して、効 率的に学ぶ分野もあることも理解しましょう。」というコ メントになる。

1 1 2 2

3 2

1 2

1 2

1 2

1 2 2

1 1 3

2 1

2

0 1 2 3 4

来日前不安の変化

学習前 学習後

D

A 学びの欲求

B

学習の基に ある考え

C 立ち直る力

図5- 30 個別学修観&不安軽減グラフ(A2)

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 189-200)