新 規 事 例
9. 小惑星探査機「はやぶさ2」
小惑星「リュウグウ」の軌道
現在は地球軌道からリュウグウ軌道を目指して順調に飛行を続けており、2018 年 7 月頃の到着を予定していま す。到着後はカメラや分光計などの機器による撮影や観測、小型ローバ/着陸機による直接観測、小惑星表面へ のタッチダウンなど、はやぶさと同様のミッションを実施。加えて今回は、2kg ほどの銅の塊をリュウグウ表面に打 ち込み、人工クレーターの作成も試みます。さらには、この人工クレーター付近にタッチダウンして地下物質をサン プリングし、2020 年末頃に地球へと帰還する予定です。
このように新しい挑戦もいろいろと行われるはやぶさ 2 ですが、基本的にははやぶさで培った技術がベースと なっており、そこにいくつかの改良を加えて設計されています。
その中で SINET はどのように活用されているのでしょうか。
山田氏:人工衛星や探査機を運用する際には、巨大なパラボラアンテナを使って地上との交信を行います。はやぶ さ/はやぶさ 2 では、長野県・臼田の 64m アンテナ、鹿児島県・内之浦の 34m アンテナなどが用いられています。
ただし、地球は自転していますので、1 つの地上局が交信できる時間は 1 日 1 回・8 時間程度しかありません。24 時間運用を行うとなると、経度の異なる3 つの地上局が必要になるのです。そこで、はやぶさ2 では、欧州宇宙機関
(ESA)が所有するオーストラリア、スペイン、アルゼンチンのアンテナを借りています。このように世界中のアンテナ を利用することで、24 時間交信を続けられるというわけです。
もっとも、このように世界中の地上局を利用するとなると、ここ(JAXA 相模原キャンパス)と各地の地上局とを 結ぶ通信手段も必要になります。そのインフラとして、はやぶさ 2 では SINET を利用しているのです。具体的には SINETと欧州の学術ネットワーク「GEANT」を経由し、ドイツにある欧州宇宙センター(ESOC)と通信を行って います。
SINET を通信手段として利用することになった経緯を教えて頂けますか。
山田氏:この分野ではネットワークの信頼性が強く求められるため、これまでは伝統的に専用線を利用してきま した。当研究所でも、臼田/内之浦アンテナとの通信に専用線を使っています。しかし、近年ESAでは、コスト削減 などを目的として、人工衛星や探査機の運用にも学術ネットワークを利用する取り組みを進めています。そこで今 回から、我々も SINET を使ってみることにしたのです。観測データの送受信などだけでなく、探査機そのものの 運用にも SINET を用いるのは今回が初の試みです。
アンテナ(左上から、臼田 64m /内之浦 34m /ニューノーシア 35m /セブレロス 35m /マラルグエ 35m)
具体的には、どのようなデータが、はやぶさ 2 との間でやりとりされるのですか。
山田氏:まず地上側から送るデータは、大きく分けて 2 つあります。一つは探査機に指令を行うためのコマンドで すね。「この機器の電源オン/オフを行え」、「カメラのシャッターを切れ」、「何時何分にこの手続きを実行しろ」と いった具合です。もう一つは様々な処理を行う際のパラメータで、カメラで言えば絞りやシャッタースピードなどに あたります。また、はやぶさ 2 側からは、画像をはじめとする各種観測データの他、搭載されている機器のステータ ス情報などが定期的に送信されてきます。こうしたデータ通信の仕組みは、インターネットと似たような形になって おり、パケット単位に分けて送受信や優先度制御を行うと共に、データの内容に応じてそれぞれのサブシステムに 送られるようになっています。
ネットワーク構成
実際に SINET を宇宙探査機の運用に利用してみた感想はいかがでしょう。
山田氏:全く問題は感じていませんね。先に信頼性の高さが求められると述べましたが、ネットワークの品質はも ちろんのこと、メンテナンス情報の提供やサポートなどの面でも、十分満足のいく対応を行ってもらえています。
元々はやぶさ2では、宇宙との遠距離通信を行う関係上、無線部分は 32kbps 程度の帯域しか使わないのですが、
それでも遅延などは少ないに越したことはありません。将来的には、現在専用線を利用している臼田/内之浦との 通信回線を、SINET に置き換えるといったことも十分に考えられます。
その他の探査機等でも SINET が利用される予定はあるのですか。
山田氏:2017 年の打ち上げを目標としている水星探査計画「BepiColombo」(ベピコロンボ)でも、水星磁気探査 機(MMO)との通信に SINET を用いる予定です。この計画では、日本と欧州がそれぞれ別々の探査機を送って 観測を行うため、日本と欧州のアンテナを双方で使うことになります。欧州側では通信回線の冗長化を行うのが 一般的なので、こちらでも現在 SINET の二重化試験を行っているところです。このように、今後は宇宙分野でも 学術ネットワークを活用するケースが増えてくるでしょうから、SINET の発展にも大いに期待しています。
水星探査計画「BepiColombo」( 提供:池下章裕 )