第5章 ストック・オプションに関する費用計上の問題
第3節 SFAS123・SFAS123(R)におけるストック・オプション
3−1 費用認識問題
財務会計基準第123号(Statement of Financia1A㏄ounting Standards No.123:
λ㏄oαM〃8危rS加 θ丑a8θ♂乃ツ㎜θ〃:以下、SFAS123)では、価値を有する持分証券と 交換して受領された従業員労働用役に関連する報酬費用は、当該用役が企業の営業活動に 費消されるに従って認識されるべきであるとしている。ここで、SFAS123での費用認識の 論拠は、ストック・オプションと交換される従業員労働用役という資産の受領と費消にあ
る241。受領される資産の種類およびその資産の取得に際して支払われる対価がいかなるも のであろうと、認識された資産が費消されるなら、当然に費用は発生すると考えるのであ る。企業は用役を保持することができないため、ストック・オプションと交換に受領され た労働用役は、他の資産の一部分として資本化されない限り、一時的にしか資産の要件を 満たすことができない。この場合、労働用役という資産は、会計上、受領した瞬間に費用
として処理される。
SFAS123の会計目的は、会計原貝1」審議会意見書第25号「従業員に発行した株式の会計」
(A㏄ounting Princip1es Board−Opinion No.25,∠oooα〃6血8危r胱。c女店舳θゴ6o亙㎜μψ.
θθ8:以下、APB025)の適用では費用認識されないストック・オプションについて報酬費 用を認識することである242。費用認識されなければ、上述したような受領された資産の費 消という経済的実態が財務諸表上で反映されないことになる。このような点からSFAS123
(R)ではSFAS123において容認していた本源的価値法と公正価値法の選択適用を改め、
241 eASB[1995]、p肌30,
242 ̀PB025で費用認識されないストック・オプションの主なものは、固定型ストック・オ プションである。これは本源的価値法の適用を受ける場合、付与目の株価以上の行使価格 が設定されているため、費用計上されないのである。
非上場企業を除き公正価値法を原則適用とした243。この点から、SFAS123およびSFAS123
(R)の会計目的は、ストック・オプションに関連する報酬費用を認識し、労働用役の費消 という経済的実態を反映した、適正な期間損益計算を行おうとするものであるといえる。
次に、報酬費用の認識の必要性が確認されたのであれぱ、当該費用の測定金額の決定と それがどのように期間帰属するのかを検討しなければならない。SFAS123(R)では、報酬 費用の測定金額について、ストック・オプションと交換された労働用役に関連する報酬費 用は、ストック・オプションの付与目における公正価値に基づいて測定されるべきである としている244。ここで注目すべきは、①ストック・オプションの公正価値を労働用役の費 消部分であるとみなし、②付与目において見積もられる公正価値に基づき、当該報酬費用 が測定される、という点である。
ストック・オプションの公正価値を労働用役の費消部分とする考え方は、ストック・オ プションが労働用役の取得に際して支払われた対価であるとの考えに基づくものである。
ストック・オプションは労働用役と交換された報酬であり、その公正な価値が労働用役の 費消した金額を示す値である。これは、ストック・オプション以外の現金などの支払い手 段でも一貫した考え方である。この考えの根底には、受領された労働用役そのものの価値 が信頼性ある測定値として算定されることはないという前提がある。用役は無形のもので あり、しかも提供されたと同時に費消されるものなので、その正確な価値を測定すること は困難である。したがって、提供された労働用役の価値が、直接的に信頼性ある測定値と して把握できない場合、その対価であるストック・オプションの価値を基に当該測定値を 把握することになるのである。SFAS123(R)でもこのような立場がとられており、労働用 役の価値が測定可能であり、その測定値がストック・オプションの公正価値よりもより信 頼性が高いものであれば、測定値としては労働用役そのものの価値が、費用の金額として 採用されるとしている245。
報酬費用の金額が決定すると、次はそれがいつ帰属するのかが問題となる。SFAS123で はストック・オプションの公正価値は付与目に見積もられ、その金額を基礎として労働用 役が提供される各会計期間に配分される246。労働用役の費消は労働用役が提供されるにつ れて発生するものであり、SFAS123では、このような過程のものとで費用認識を行ってい
く。つまり、付与日においては、期間配分の対象となる公正価値の総額が見積もられ、ス トック・オプション契約において要請される必要な労働用役が必要な労働用役提供期間に 提供されるにつれ、各会計期間において報酬費用が認識される。またストック・オプショ
ンを持分証券と定めていることから、報酬費用の相手勘定は資本となる247。
このように、SFAS123では費用認識の論拠をストック・オプションと交換される労働用
243 eASB[1995]、para.8−12,
244FAsB[20041,Par.16,
245 eASB[2004]、par19,
246 eASB[1995]、paL17,
247 eAsB[19951,Par孔88−91.
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役の費消という経済的実態の把握に求め、その測定金額を付与目におけるストック・オプ ションの公正価値により見積もり、権利確定目まで必要な労働用役が提供される各会計期 間において費用認識するように規定されている。なお、付与されたストック・オプション は払込資本として処理されるので、公正価値の見積もりの後、価値変動があったとしても その変動分が認識されることはない248。
しかし、ストック・オプションの価値は契約における条件および経済環境の変化等に基 づき変化する。ストック・オプションの公正価値を報酬費用の金額として見なすことがで きるとしても、どの時点における価値がもっとも適切な費用額であるかについは重要であ
る。
3−2 測定目に関する問題
SFAS123(R)ではストック・オプションの測定目としていくつか挙げており、特に付与 目と権利確定目という二つの測定目について多くの議論が展開されている。
測定日を付与日とする考え方は、付与日においてストック・オプション契約における条 件が合意されたという点を強調している。つまり、ストック・オプションの付与日とはス
トック・オプションが実際に従業員等に付与された時点ではなく、契約当事者間において 契約に対する相互理解が得られた時点をいう249。この考え方によれば、ストック・オプシ
ョンの付与と付与数に関する意思決定に際して、測定目の株価が契約上考慮されており、
付与目におけるストック・オプションの公正価値は、付与目の株価に基づいて見積もられ るべきである250。またSFAS123において、ストック・オプションは持分証券とされている ので、付与目を測定目とする考え方では、付与日において持分証券が発行されたと仮定し ており、発行後、ストック・オプションの価値変動は認識されない251。しかし、付与目に おいて見積もられたストック・オプションの公正価値が一括して全額費用認識されると、
将来の労働用役に対する出資が行われたと考えられ252、企業側で受領された労働用役は、
前払費用として処理されることになる。ストック・オプションはインセンティブ報酬なの で、企業側が労働を強制するということが想定されないので、前払費用として計上するこ とはできない253。付与目を測定目とする考え方は、ストック・オプション契約における当 事者間の合意とその時点の株価を強調するが、公正価値が付与目に一括して全額費用認識 されると、ストック・オプションの特徴であるインセンティブ報酬との性格と相反するこ
ととなる254。
測定目を権利確定日とする考え方では、ストック・オプションを付与された従業員等は、
FASB[1995]、par.30,248
FASB[1995]、par.121,249
250FASB[1995]、par.122,
251 FASB[1995]、par.122,
252 蜥ヒ[2004]、54−55頁。
253 サ三野[20021,106−107頁。
254
権利確定目までストック・オプションを行使する権利を有していなかったという点を強調 する255。つまり、権利確定日になって初めて持分証券が発行されたと仮定するのである。
この場合、ストック・オプションを付与した企業は、従業員等が権利確定に必要な用役を 提供するなどの権利確定条件を満たしたのであれば、従業員等に対して、持分証券を発行 する。この考えによれば、従業員等は権利確定目までは条件付きの権利を有しているのみ であり、持分証券は権利確定目までは実際に発行されていないことになるので、ストック・
オプションが履行されるまでは最終的に測定されるべきではないということになる256。付 与された時点でストック・オプションは、権利不確定となる可能性があり、権利確定目の 測定は、権利確定日までにおけるそれらの実績をストック・オプションの公正価値に反映
させることができる257。
この付与目と権利確定目に関する測定目決定の問題では、権利確定目を測定目とする考 え方のほうが妥当と思える。付与目において見積もられる公正価値には、権利不確定およ び権利不行使となる可能性についての見積もりが反映されており、ストック・オプション を払込資本として計上する以上、たとえ見積もりが実際の値と乖離したとしても、事後的 に当該公正価値が修正されることはない。権利確定目において見積もられる公正価値には、
権利不行使により生じるストック・オプションの見積失効数が反映されることになるが、
権利確定目時点におけるストック・オプションの実績値としての権利確定数を公正価値に 反映させることができる。しかし、SFAS123は完全な形で権利確定目を測定目として採用
していない。SFAS123は付与目における契約当事者間の合意を尊重し、当該時点における 株価および当該時点において見積もられる様々な要素をストック・オプションー単位当た
りの公正価値の算定要素として採用している258。また、それに乗じるストック・オプショ ン数は権利確定数を用いている。したがって、SFAS123では付与目と権利確定目の両時点 における様々な要素をストック・オプションの公正価値の算定要素とし、折衷案を採用し
ている259.
SFAS123ではこの折衷案は付与目測定の一形態としてSFAS123(R)において修正付与 目測定と称されている260。これは、権利確定条件が満たされた否かという点を考慮し、ス トック・オプションの失効部分に関しては、その費用を取り消すという考え方である。つ まり、ストック・オプションの失効部分は、報酬が支払われなかったと解され、従業員等 はその部分に関して無償で労働用役を提供しだということになる。修正付与目測定とは、
提供されると期待された労働用役に関連するストック・オプションの権利確定数を見積も る形で、報酬費用を付与目に算定し、次にストック・オプションの実績数が見積もられた
255 eASB[1995]、par.124,
256 eASB[1995]、paL124,
257FASB[20041,pa肌124−125,
258 eASB[2004]、par.19,
259 eASB[1995]、par孔21−22,
260 eASB[2004]、parB2.
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