第2章 国際会計基準におけるストック・オプション会計の変遷
第3節 IASBにおける株式報酬取引の会計処理の概要
3−1 岨SBによるIFRS2の公表
2002年11月7目、IASBはストック・オプション等の費用計上を義務付ける公開草案第 2号「株式報酬」(Exposure Dra丑No.2,鋤舳θ丑∂8θ♂乃y㎜θ〃:以下、ED2)を公表した。
従来、ストック・オプションの費用計上については、米国を中心に多くの議論が展開さ
れた。2001年末のユンロンの破綻を契機に、米国でのストック・オプションの自主的な費 用計上が話題を集めた。しかし、当時米国では費用計上を義務付けるまでには至っていな い。このことから、費用計上をいち早く義務付けたED2は今後のストック・オプション会
計をリードすることとなるものであった。そして、2004年2月19目、1ASBはIFRS2と
して公表した。これは、上場合杜については、2005年1月1目から適用し、非上場合杜に ついては1年間の猶予を設けて2006年から適用することとなっていた。最近の事件により、利用者が経済的意思決定を行うのに役立つような、中立かつ透明で、
比較可能な情報を提供する高品質な財務諸表の重要性が強調されている。しかし、IFRS2 公表以前には、近年その利用が増加している株式報酬の認識および測定を扱う国際会計基 準はなかった。特に、従業員に対する株式報酬取引から生じる費用が認識されないことが、
経済的歪みやコーポレート・ガバナンスにおける懸念の発生原因となっているものとして、
投資家や財務諸表利用者等から強調されている。IFRS2の公表は、国際会計基準における このような空白を埋めるものである。
IFRS2の目的は、企業が株式報酬取引を行っている場合の当該企業の財務報告を規定す ることである。特に、従業員に対して付与されたストック・オプション取引に関連した費 用を含む株式報酬取引の影響を、企業の損益および財政状態に反映させることを求めてい
る。
そこで、以下、ストック・オプションの費用計上について義務付けられたIFRS2の内容 を整理することにする。
3−2 IFRS2の概要
IFRS2によれば、ストック・オプションは付与目に公正価値で測定し、権利が確定する までの期間にわたって費用配分する必要がある。また、ストック・オプションだけでなく、
株式に基づいた報酬はすべて対象となる。なお、未公開企業に対する例外規定は設けられ ていない。IFRS2における費用認識の特徴は、ストック・オプションの公正価値を参照し て労働サービスの単価を見積もり、実際に提供されたサービスの数量を掛けることで毎期 の費用額を決定する点である。
IFRS2のポイントをまとめると以下のようになる。
3−2−1 対象となる取引の範囲
①適用される範囲
IFRS2は、株式その他持分金融商品を従業員に付与する取引に適用される。これには、
従業員に割引価格、つまり株式の公正価値より低い金額で一定の株式数の株式を購入する 機会を与える従業員株式購入制度も含まれる。
また、上記以外に企業が株式その他の持分金融商品を発行して財貨またはサービスを受 け取る株式報酬取引にも適用される。これには財貨やサービスの調達先への株式、ストッ ク・オプションの発行などが含まれる。
②適用が除外される取引
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a)持分金融商品の所有者として取引する場合
従業員との取引であっても、当該従業員が企業の持分金融商品の所有者として取引する 場合がある。例えば、企業の特定の分類の持分金融商品の保有者すべてに有利な価格、す なわち当該持分金融商品の公正価値より低い価格で追加購入する権利を与える場合に、従 業員持分金融商品所有者であっても同一の権利を受け取ることになりうるが、そのような 権利の付与または行使はIFRS2の対象とはならない。95
b)企業結合において財貨を取得した場合
企業が自社の株式と交換に財貨を取得する場合であっても、企業結合において取得した 純資産の一部として財貨を取得する場合は適用範囲から除かれる。このように非取得企業 の支配と交換に持分金融商品が発行される場合には、国際会計基準第3号「企業結合」
(IFRS3,仇曲θ船0g血わ血∂血。凶が適用される96.
C)コモディティ・デリバティブ
国際会計基準第32号「金融商品:表示及び開示」(Intemationa1A㏄ounting Standard No.32,〃刀舳幽ノ加飾u〃θ〃8〃おd08㎜θ刎♂〃θ8θ批油。〃)、同第39号r金融商品:認 識及び測定」(1AS No.39,乃加〃〃ル鮒α〃θ〃赦五θco騨拙。〃舳♂M6∂舳 θ血θ劫が適用
される、いわゆるコモディティ・デリバティブ契約に従って、財貨またはサービスを受領、
取得する場合は、IFRS2の対象外である97.
3−2−2 適用される取引の類型
IFRS2は株式報酬取引を以下の3種類に類型化し、この類型に従って会計処理を規定し ている(図表2−1参照)。
①企業が自らの持分金融商品の対価として財貨・サービスを受け取る持分決済型制度98。
②企業の株式その他の持分金融商品の価格を基礎とする金額で、財貨・サービスの供給者 に対する負債を負うことにより財貨・サービスを取得する現金決済型制度99。
③企業が財貨・サービスを受け取るかまたは取得し、企業と当該財貨・サービスの供給者 のいずれかが、企業の株式その他の持分金融商品の価格を基礎とする金額で現金により 決済するか、持分金融商品の発行により決済するかを選択できる複合決済型制度100。
95 hAsB[20041,Par孔4.なお、以下1AsB[20041の翻訳は財務会計基準機構[20051参照。
96 IASB[20041,Para.5.
97 IASB[2004],para.6.
98 IASB[2004],para.2(a).
99 hASB[2004],pa胤2(b).
100
図表2−1 IFRS2による株式報酬取引の類型
決済方法 例
持分決済型 持分金融商品による ストック・オプション ファントム株式スキーム 現金その他資産による 株式増加受益権(Stock 現金決済型
Appreciation Rights:SAR)
101
企業、財貨またはサービスの
複合決済型 提供者が上記のいずれかを 複合金融商品 選択可能
(出所)凪SB[20041,paras2(a),(b),(c)より作成。
3−2−3 株式報酬の認識の考え方
企業は株式報酬で受け取るかまたは取得した財貨またはサービスを、当該財貨またはサ ービスを受け取った時点で認識しなければならない。
企業は財貨またはサービスを持分決済型の株式報酬取引で受け取った時に資本に、現金 決済型の株式報酬取引で受け取った時に負債に、それぞれ以下のように認識(仕訳)する102。
・持分決済型 (借)資産 ×X× (貸)資本 ×X×
・現金決済型 (借)資産 ××X (貸)負債 ×X X
しかし、企業が受け取るかまたは取得した財貨またはサービスが資産として適格でない 場合、費用として認識しなければならないI03。例えば、従業員の勤務サービス、弁護士業務 などのサービスは貯蔵することはできず、受領と同時に費消される。それらの費消は、企 業のその他の資産を生成したり、価値を付加したりするが、企業はそれらを受領し直ちに 使用するために当該サービスは瞬間的にしか企業の資産とならない。そのため、このよう なサービスが受領されたときには以下のように仕訳されることになる。
・持分決済型 (借)費用 ××× (貸)資本 X×X ・現金決済型 (借)費用 X×X (貸)負債 X××
例えば、従業員に労働の対価としてストック・オプションを提供する場合は、このよう
101 PFRS2の用語集では「株式報酬取引」を「企業の持分金融商品(株式またはストック・
オプションを含む。)に対する対価として財貨サービスを取得するか、または企業の株式ま たはその他持分金融商品の価格を基礎とする金額で財貨サービスの供給者に負債を負うこ
とにより財貨サービスを取得する取引」と定義している。したがって、従業員等にインセ ンティブ報酬として付与されるストック・オプションのみならず、株式等の価格を基礎と して算定される金額、つまり行使価格に相当する基準となる株価からの値上がり相当額に 見合う現金が支払われるSARに係る取引、従業員以外のものから財貨サービスを取得する 場合に持分金融商品が発行される取引も対象とされる。
IASB[20041,par孔7,102
IASB[2004],par孔8.103
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な株式報酬取引の認識の原則にしたがって、従業員の勤務サービスを費用認識するととも に、それに対応する増加額を資本で認識する。
以下では、IFRS2におけるストック・オプションに代表される持分決済型制度について の会計処理方法を述べる