第9章 ストック・オプションに関する税法上の問題
第2節 各章の要約と主要な結論
結 ストック・オプション会計を巡る課題と展望
第1節はじめに
かつてはストック・オプションは労働役務に対する対価として付与されるが現金等会社 財産の流出を伴わないという特徴から、費用計上をしないという状況にあった。しかし、
この費用計上をしなくてもいいという特徴を悪用し、米国においてストック・オプション に関して不正な会計処理が行われ、これらがユンロン、ワールドコムに代表される不正会 計問題によって明らかとなった。その後、2004年に匡;際会計基準審議会(Intemationa1 A㏄ountingStandardsBoard:以下、岨SB)が国際財務報告基準第2号「株式報酬」
(Intemationa1Financia1ReportingStanaara No.2,醐〃θ丑鎚θ♂地ア㎜θ〃:以下、
IFRS2)を、財務会計基準審議会(Financia1A㏄ountingStandardsBoard:以下、FASB)
が改言下財務会計基準書第123号(StatementofFinancia1A㏄ounting Standards No.123
(R):λooo〃〃肋8危r秘〃θガ船θ♂Cb㎜ρθ刀脳血。〃6θ㎡8θゴ2004:以下、SFAS123(R))
をそれぞれ公表し、また日本においても2005年に企業会計基準委員会(A㏄ounting Standards Board ofJapan、以下ASBJ)が企業会計基準第8号「ストック・オプション 等に関する会計基準」(以下、日本基準)を公表した。これらは原貝■」として公正価値に基づ
くストック・オプションの費用計上を求めており、ストック・オプションの会計基準につ いても、いわゆる国際的なコンバージェンスが図られたといえよう。
しかし、大枠において、公正価値に基づく費用計上という国際的なコンバージェンスが 図られることになったものの、3つの会計基準間には取扱いが異なる点が未だ存在しており、
会計基準上、引き続き検討すべき課題が残されている。これを受け、本論文では、費用計 上が義務付けられるに至るまでの3つの基準の経緯と概要、そして3つの基準間の異同を 整理し、その上で未だ残るストック・オプション会計の問題点を明らかにした。以下、各 章の要約と結論をまとめ、これらの考察に基づき新たな問題提起を行うこととする。
せ、アット・ザ・マネーのストック・オプションに見せかける処理が多く行われており、
この会計基準の存在白体が不正操作を生む土壌となっていたことを指摘した。しかし、不 正会計問題以降、ストック・オプションに関する様々な制度の見直しが行われた結果、今 後米国企業がストック・オプションに関する不正操作を行う余地は大幅に減少し、不正を 行うインセンティブも働かないであろうことが考えられる。また、日本の場合、米国より
もストック・オプションの付与に関して株主関与の度合いが強く、株主が監視しやすい仕 組みとなっていることに加えて、日本基準が公表されたことで、米国で多発した付与目の 不正操作等の余地はほぼないと考えられる。
(2)ストック・オプションに関する会計基準の国際的動向
第1章では米国におけるストック・オプション会計基準の変遷を整理した。ストック・
オプション制度は、米国において1920年代に誕生し、1950年代から広く利用されるよう になった。当時、ストック・オプション制度は企業に資金負担を生じさせないという特徴 を持つことから、損益計算において認識対象とはされなかった。しかし、ストック・オプ ション制度が企業において重要な報酬制度であるとの認識が高まり、また、近年の不正会 計事件を受け、その後、ストック・オプション制度も会計上認識すべきであると考えられ るようになった。米国での現行制度は、FASBが2004年12月に公表し、費用計上を義務 付けたSFAS123(R)であるが、この基準が公表されるまでは多くの紆余曲折があった。
本章ではこのSFAS123(R)が公表されるまでの経緯を整理し、現行制度であるSFAS123
(R)の概要を説明している。また、SFAS123(R)を適用した直後のIBMの開示を引用 することで、当時とのような開示がなされていたかを示した。
第2章では国際会計基準におけるストック・オプション会計基準の変遷を整理した。国
際会計基準における現行制度は2004年2月19日にIASBが公表したIFRS2である。本章 では、この基準設定に影響を与えたG4+1グループの討議資料「株式報酬の会計
(A㏄ounting危rShare・BasedPayment)」の内容とその背景をまとめ、その上で、公表さ れたIFRS2の概要を整理した。IFRS2はストック・オプションに関し、初めて費用計上を 義務付けた基準であり、このIFRS2の公表がきっかけとなり、ストック・オプションのあ り方が大きく変化した。現在のストック・オプションに関する会計基準の先駆けとなった IFRS2の公表は大きな意味があったといえよう。
第3章では日本におけるストック・オプション会計基準の変遷を整理した。日本基準が 設定されるまで、日本では、ストック・オプションについての特別な基準は存在しなかっ た。ストック・オプション制度自体は、1997年の商法改正により一般的に導入されたが、
制度としてはまだ始まったばかりで、ストック・オプション会計基準を開発する必要性は それほど高くはなかったからであると考えられる。
その後、2001年の商法改正によって規制緩和が進み、ストック・オプションの利用が容 易になった。このようなことから、ストック・オプションの会計基準の必要性が徐々に高 まり、また、米国の不正会計問題から生じた国際的なストック・オプション会計基準の見
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直しという動きも後押しし、これを契機に日本でもストック・オプションの会計基準およ び適用指針が公表されたのである。第3章ではこれらの経緯をまとめ、日本基準の概要を 整理した。
第4章では、第1章、第2章、第3章で整理したそれぞれの現行基準における相違点と して、①ストック・オプション会計基準の適用範囲、②公正価値の算定方法、③失効によ る新株予約権の戻入益、④未公開企業のストック・オプション、の4点を指摘した。①で は、日本基準ではSFAS123(R)およびIFRS2では会計基準の範囲に含められているファ ントム・ストック等負債が生じる取引を適用除外としていることに注目した。そして、日 木基準の公表が新株予約権のストック・オプションとしての利用が活発化していることを 踏まえたものであったことを確認し、新株予約権を利用したストック・オプションの会計 処理を明らかにすることが急務であったので、ファントム・ストック等は対象とせずに議 論した結果であることを明らかにした。今後目本においてもファントム・ストック等の株 式連動型報酬制度が増加した場合、これらを対象とした会計基準をいずれ制定する必要が あると考えられる。また④において、SFAS123(R)、IFRS2と異なり、日本基準では未公 開企業の場合、本源的価値の見積に基づく会計処理が認められている点を考察した。本源 的価値法を採用すると、株価が上昇することを想定すると、株価上昇額を考慮する分だけ 将来の費用計上額が大きくなるので、本源的価値による会計処理を選択することは、費用 負担が過大となり、不利な選択となる可能性も大いにあることを指摘した。このように考 えると、未公開企業についても公正価値法による評価を選択する方が賢明ではないかと思 われる。なお、②、③は影響が大きいであろう相違点と考え、後の章でそれぞれ改めて取
り上げて考察した。
(3)ストック・オプションに関する会計問題
第5章では、ストック・オプションに関する費用計上の問題を取り上げた。各国でスト ック・オプションはその付与時に費用計上することが義務づけられることとなったが、利 益に与える影響への懸念から、企業、特に資金源の少ないベンチャー企業からは費用計上 義務付けに反対する声が上がり、ストック・オプション制度導入そのものを見直す企業も 増加した。このように費用認識が義務付けられたストック・オプションであるが、これら の会計基準における費用認識において生ずる問題点はいかなるものであろうか。第5章で
は、FASBのSFAS123およびSFAS123(R)を中心に議論を進めている。
まず、ストック・オプションがインセンティブ報酬であり、賃金の抑制効果があるとい う特徴を挙げる一方、一株当たり利益を減少させ、また行使により株式の時価以下発行が 生じ、株主持分の希薄化がおこるというデメリットを指摘した。このデメリットに関連し、
費用認識を義務化する際に論じられた義務化反対の意見を整理した。
「費用として認識する」ことが義務付けられた際、次に問題となるのは、その費用をど の時点におけるストック・オプションの価値として認識し、計上するかという問題である。
この「どの時点」に焦点を当て、SFAS123およびSFAS123(R)の処理、考え方について