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会社法施行後におけるストック・オプション発行手続の実態

第8章  ストック・オプションに関する会社法上の問題

第5節  会社法施行後におけるストック・オプション発行手続の実態

 上述したように、会社法施行後の公開会杜が発行するストック・オプションは、基本的 に取締役会決議により発行する。しかし、会社法施行直後の平成17年6月に行われた3月 決算企業の定時株主総会においては、多数の上場企業は、旧商法同様、ストック・オプシ

ョンを有利発行決議により発行していた379。また、翌年には、日経平均株価採用企業225 社のうち、平成19年11月23目までにストック・オプションの発行に関するリリースを公 表した企業70社中48社は、ストック・オプションの有利発行決議を行っていた380。

 このように、役員・従業員が提供する労働サービスの対価としてストック・オプション を有利発行する上場企業が多い。これに関して、ブルータス・コンサルティングの調査報 告において、有利発行決議によりストック・オプションを発行した上場企業の実務担当者 の説明がある381。主なものとして、「①会社法施行後、公正発行として取締役会決議で発行 することになったことを知らなかった、②社長が、正々堂々と株主の承認を得て、ストッ ク・オプションを発行したいとの考えから、株主総会で有利発行を行った、③ストック・

377 ラ川・郡谷[20061,5頁。

378 ラ川・郡谷[20061,5頁。

379 V口・石井[20061を参照されたい。

380 ??E野口[20081,241頁。これはブルータス・コンサルティングの調査結果である。

381 ??E野口[20081,242頁を参照されたい。

オプションのすべてが、報酬と言えるわけではない。積極的に報酬として説明できない限 り、有利発行として決議すべきである」382、との3点の説明がある。①は会社法の実務対 応を理解していなかっただけであり、また②は法的な論理ではないので、検討の余地はな い。③は、毎年ストック・オプションを発行しているわけではなく、報酬として整理する ことが妥当であろうかとの論拠に基づくものである。確かに、報酬に該当しないものを公 正発行と主張することには問題があるが、有利発行すること自体、役員・従業員に対して、

対価性のない経済的利益を付与することを意味することになるのではないだろうか。

 ③の文言は、ストック・オプションは報酬として積極的に説明できない限り、有利発行 として考えるとの立場である。しかし、会計基準を見ると、ストック・オプションは報酬 として積極的に否定できない限り、公正発行として考えるとの立場を採っているのである。

なぜなら、会計基準は、「自社株式オプション(又は自社の株式)に対価性がない場合には、

そのように判断した根拠383」を注記事項として求めており、費用計上を原則としているか らである。「論点整理に対するコメントや公聴会における公述意見の中にはストック・オプ ションの対価性自体に疑問を呈するものもあった。そのため、本会計基準の導入に際して は、企業が白杜株式オプションや自社の株式を付与又は交付する取引であっても、対価性 の存在しないことを立証できる場合には、本会計基準の適用対象外とした。ただし、対価 性がないと判断するためには、対価性の推定を覆すに足りるだけの明確な反証が必要と考 えられ、その反証の内容につい開示を求めることとした。384」とあるように、対価性の有 無については、会計基準の検討段階でも意見が分かれていたのである。

 このように、会社法と会計基準において対価一性に対する解釈が対立しており、よって、

有利発行決議によりストック・オプションを発行する例は今後も続くと考えられる。

第6節おわりに

 会社法が施行された平成17年度にストック・オプションの付与を発表した企業は533社 で、前年度より118社(約18%)減少した385。ストック・オプショの付与が減少した主た る原因として、新たに会社法が施行され、株主総会手続に関して実務が混乱したこと、ま た会計基準によりストック・オプションの費用計上が義務化されたことが考えられる。

 ストック・オプションの会計において大幅に制度が変更されたことにより、短期的な会 計上の影響を懸念し、ストック・オプションの付与が減少したのは事実であるが、この新 たな制度により、ストック・オプション制度をより機動的な仕組みとしたことを評価すべ きだと考える。これらの制度変更を中長期的な視点から見た場合、ストック・オプション

382 ??E野口[2008]、242頁。

383 驪ニ会計基準委員会[2005c]、16項(7)。

384 驪ニ会計基準委員会[2005c1,29項。

385 匤サコーディアル証券の調査を参照されたい。

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を含む、企業業績に連動する報酬制度に対して、政策的な後ろ盾ができたと理解できる。

経済環境の変化による人材確保を有効に行うために、より有効な報酬体系の構築がますま す重大な課題となるであろう。

 会社法施行時にはストック・オプション付与企業は減少したが、経済環境の変化、また より公平な企業側からの情報提供を望む投資家の理解が高まることにより、今後さらに日 本においてストック・オプション制度が浸透するであろう。