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裁判例についての考察

第9章  ストック・オプションに関する税法上の問題

第4節  裁判例についての考察

図表9−2 税制適格ストック・オプション

株式の時価

売却時時価

付与時時価

、の時価

譲渡所得課税

1,200万円以下

付与時   行使時     売却時       時間

(出所:塚本[20041,7頁、図1を加筆修正)

 Xは、平成8年から同10年までに、本件ストック・オプションを行使し、それぞれの権 利行使時点におけるB杜の株価と所定の権利行使価格との差額に相当する経済的利益とし て、同8年中に4,059万円余、同9年中に1億5,522万円余及び同10年中に1億6,372万 円余の権利行使益(以下、本件権利行使益)を得た。

 Xは、本件権利行使益が一時所得に当たるとして、平成8年分から同10年分までの所得 税について、確定申告をした。これに対し、Y(被告、控訴人、被上告人)は、本件権利行 使益が給与所得に当たるなどとして、各年度分の更正処分(以下、本件各更正)等をした402。

このようにして、Xは本件各更正の取り消しを求めて、本訴訟を提起した。

 一審判決(平成15年8月26目判決)は、本件権利行使益が一時所得に当たるとして、

本件各更正を取り消した。これに対し、控訴審判決(平成16年2月19目判決)は、本件 権利行使益は給与所得に当たるとして、原判決を取り消した。

 このようにして、最高裁平成17年1月25日第三小法廷判決は次のように判示して、X の上告を棄却した。

 「前記事実関係によれば、本件ストックオプション制度に基づき付与されたストックオ プションについては、被付与者の生存中は、その者のみがこれを行使することができ、そ の権利を譲渡し、または移転することはできないものとされているというものであり、被 付与者は、これを行使することによって、初めて経済的な利益を受けることができるもの とされているということができる。そうであるとすれば、B杜は、上告人に対し、本件付与 契約により本件ストックオプションを付与し、その約定に従って所定の権利行使価格で株 式を取得させたことによって、本件権利行使益を取得させたものであるということができ るから、本件権利行使益は、B杜から上告人に与えられた給付に当たるものというべきであ る。本件権利行使益の発生及びその金額がB杜の株価の動向と権利行使時期に関する上告 人の判断に左右されたものであるとしても、そのことを理由として、本件権利行使益がB 杜から上告人に与えられた給付に当たることを否定することはできない。

 ところで、本件権利行使益は、上告人が代表取締役であったA杜からではなく、B杜か ら与えられたものである。しかしながら、前記事実関係によれば、B杜は、A杜の発行済株 式の100%を有している親会社であるというのであるから、B杜はA杜の役員の人事権等 の実権を握ってこれを支配しているものとみることができるのであって、上告人は、B杜の 統括の下にA杜の代表取締役としての職務を遂行しているものということができる。そし て、前記事実関係によれば、本件ストックオプション制度は、B杜グループの一定の執行役 員及び主要な従業員に対する精勤の動機付けとすることなどを企図して設けられているも のであり、B杜は、上告人が上記のとおり職務を遂行しているからこそ、本件ストックオプ ション制度の基づき上告人との間で本件付与契約を締結して上告人に対して本件ストック オプションを付与したものであって、本件権利行使益が上告人が上記のとおり職務を遂行 したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきで

402 i川[2005]、43頁。本件各更正のうち、平成8年分は異議決定で一部取り消された。

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ある。そうであるとすれば、本件権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき 提供された非独立的な労働の対価として給付されたものとして、所得税法28条1項所定の 給与所得に当たるというべきである403。」

4−2 給与所得の意義とストック・オプション

 それでは、この判決はいかに受け止めるべきであろうか。まずは肯定論、否定論を述べ る前に、給与所得の意義について考察する。

 前述したが、給与所得は所得税法28条において、「俸給、給料、賃金、歳費および賞与 ならびにこれらの性質を有する給与にかかわる所得をいう」と定義されている。この場合、

「これらの性質を有する給与」の解釈が問題となる。

 これに関しては、最高裁昭和37年8月10日第二小法廷判決は、「勤労者が勤労者たる地 位に基づいて使用者から受ける給付は全て右9条5号404にいう給与所得を構成する405」と

している。また、最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決は、弁護士の顧問料収入が給 与所得に当たるか事業所得に当たるかが争われた案件に対して、「事業所得とは、自己の計 算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する 意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与 所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労 務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ給与 支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労 務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなけ ればならない406」との判決を下している。

 ここ数年、ストック・オプションの権利行使益の所得区分を争う訴訟は100件を超える といわれているが、本件を含めてその全てが外国法人である親会社から付与されたストッ ク・オプションに係るものである407。そのため、これらの訴訟においては、被付与者であ る子会杜の役員又は従業員と親会社との間に、最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決 にいう「雇用契約又はこれに類する原因」の有無及び「給与支給者との関係において何ら かの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし継続的な労務又は役務の提供」の有無が 問題とされ、また、r労務又は役務の対価性」が問題となった。

 これらの問題について、本件の最高裁判決は、A杜とB社との間の資本的及び人的の支 配関係を設定した上で、XがA杜の職務を遂行することによりB杜に対して貢献している からこそ、本件ストック・オプションが付与されたものであり、それから生じた経済的利 益がその職務遂行の対価であることは明らかであることを示し、前述の「これに類する原 因」、「労務又は役務の提供」及び「対価性」をそれぞれ容認して、本件権利行使益が給与

403 ル判所「裁判半11例情報」h廿p:〃。ouれdomino2.courts.gojp/home.ns㌔

404 i川[20051,44頁。現行法28条1項を指す。

405 ル判所「裁半11判例情報」h廿p:〃。ouれdomino2.courts.gojp/home.nst

406 ル判所「裁判判例情報」h廿p:〃。ouれdomino2.couれs.gojp/home.ns㌔

407

所得に当たるとの判決を下した。

 この考え方は、最高裁昭和56年4月24目の判決を前提とし、本件権利行使益が当該判 決にいう「給与所得」の意義の範囲に入ることを明らかにしたものであるといえる。これ については、本件のような親会社から付与されるストノク・オプションに関しては、被付 与者と当該親会社との関係が「これに類する原因」に含まれるか否かが鍵となり408、また 本件のようなXとB社との関係においても「これに類する原因」に含めるべきである。ま た、「労務又は役務の提供」及びそれらに対する「対価性」に関する問題についても、本件 の最高裁判決は妥当な判決を下したと考えられよう。

4−3 一時所得・雑所得の意義とストック・オプション

 本件及び関連する訴訟においては、本件のようなストック・オプションの権利行使益が かつては一時所得として課税されたが、その後のストック・オプションの充実に伴い、給 与所得課税が行われ409、その取扱いの変更が必ずしも明確でなかったことが問題とされて いた。そのため、本件権利行使益の所定の種類についても、一時所得に該当するか否かが 大きな争点となっていた。

 前述したように、一時所得は所得税法第34条においてr利子所得、配当所得、不動産所 得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得および譲渡所得以外の所得のうち営利を目 的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務または資産の 譲渡の対価としての性質を有しないものをいう」と定義されているが、一時的、偶発的に 生じた所得で、しかも、営利を目的とする継続性や役務等の対価性がなく、他の所得分類 に該当しない所得であることにその特質がある。

 この場合、「一時的、偶発的」のみを強調すると、ストック・オプションにおいて実際に 権利行使益が享受できるのは、多大に株価上昇という外的要因に影響を受けることになる から、当該権利行使益が一時所得に該当するという判断に傾くことにもなる4−0。

 しかし、一時所得の定義においては、r給与所得」に該当すれば一時所得に該当する余地 がなくなるほか、そうでなくても、「労務その他の役務または資産の譲渡の対価」である場 合には、一時所得に該当する余地はないことになる。特に、この「労務又は役務の対価性」

については、係争の対象となったストック・オプションに全てが関係する会社に一定期間 勤務することが条件となっているのであるから、それを否定することは困難であると考え

られる。

 このように対価性を考察してみると、雑所得との関係が問題となる。雑所得については 所得税法第35条で「利子所得、及び一時所得のいずれにも該当しない所得」とされている。

 つまり、所得税法では、雑所得について特に定義を設けず、他の所得分類に該当しない

408 i川[2003b]、56頁。

409 i川[2003b]、64頁。

410 ル判所「裁判判例情報」h廿p:〃。o耐domino2.couれs.gojp/home.ns二東京地裁平成14年11 月26目判決参照。

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