2−2−1 IFRS2
第3節 表示区分の異同
3−1 各基準における貸方区分表示
3−1−1 SFAS123(R)およびIFRS2
SFAS123(R)およびIFRS2が計上した報酬費用の相手勘定を株主持分として認識する のは、会計基準設定において概念フレームワークとの整合性を図っているためである。会 計基準の設定における考え方の基礎となる基本目的や原理を明らかにし、既存の会計基準 の改訂や新しく会計基準を設定する場合に、首尾一貫した会計基準の体系を築くことを図 っているのである。
たとえば、SFAS123(R)では株式報酬の認識における原則として、企業が取得した財ま たはサービスを受けた時点で報酬費用の認識をしなけ、としばならず、その際の相手勘定が負
327 アの討議資料は2006年に第2版が公表されている。
328 驪ニ会計基準委員会[2005c1,46項。
債が株主持分かのどちらかに分類しなければならないとしている329。そして、その分類に あたって判断基準とされるのが概念フレームワークである。
ストック・オプションの表示区分に関係する、負債および株主持分に関する概念的な定 義については、財務会計概念基準第6号「財務諸表の構成要素」において明らかにされて いる。その中で、「負債とは過去の取引または過去の事象の結果として、ある特定の実体が ほかの実体に対して、将来、資産の譲渡または役務の提供を行わなければならない現在の 債務から生じる、発生可能性の高い将来の経済的便益の犠牲である」としている330。負債 の相殺については資産の譲渡を伴うことが多いので、この負債の定義をそのまま解釈すれ ば、企業が過去の取引の結果として、将来、自己が所有する資産の譲渡により返済する義 務を負うものが負債とされる331。
また、2000年10月に負債と株主持分双方の性格を有する金融商品に関する会計処理に ついて、上記負債の定義を修正すべきか否かの議論が行われた。その結果、既述のように SFAS150が公表されているが、ここでは株式報酬取引としてストック・オプションを適用 範囲から除くものの、現金決済型ストック・オプションである場合は、企業の返済義務が 生じることから負債と処理すべきものとしている332。持分決済型の場合には、この義務を 負わないことから、これまで通り株主持分として分類されることとされた。
これらから、SFAS123(R)によりストック・オプション取引において公正価値による測 定を行った場合の報酬費用計上における相手勘定は、負債か株主持分のいずれかであり、
負債と株主持分の間との中間的な区分という考えはなく、つまりSFAS123(R)には負債 あるいは株主持分いずれかの仮勘定という概念は存在しないのである。
IASBの概念フレームワークもFASBとほぼ同様の考え方の立っており、最近の動向とし て、FASBと皿SBは、共通の概念フレームワーク構築に向けた共同作業が行われており、
今後、世界的な会計のアドプションに向け、財務報告の根底となる基礎や概念を整理し、
さらなる効果的な指針の制定を目指している333.
3−1−2 新基準
日本の新基準では、従業員等にストック・オプションを付与した時点で、公正価値によ り測定を行い、報酬費用を計上する点でSFAS123(R)やIFRS2と同様である。そして、
その相手勘定も負債ではなく、純資産の一部として表示する点もある意味でSFAS123(R)
やIFRS2と近いものといえよう。しかし、前述のように、ストック・オプションの失効の 考え方が異なるので、その取り扱いについてはSFAS123(R)やIFRS2と大きく異なるの
である。
新基準では、公正価値による測定により計上する報酬費用の相手勘定は初めから株主持
329 eASB[2004]、par孔34,
330 eASB[19841、平松・広瀬訳[20021,301頁。
331 纉c[2003]、6−9頁。
332 eASB[2004]、paras29−30.
333 Q006年7月、FASBとlASBは共同概念フレームワークの第一草案を公表している。
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分とするというSFAS123(R)やIFRS2の考え方を採っていない。これは、権利が確定し たストック・オプションでも権利行使期間における自社株式の市場での株価の低迷などに より未行使のまま失効してしまう可能性があるからである。したがって、新基準では、最 終的に権利が未行使のまま権利行使期間の後に失効してしまったものについては、それま で純資産の一部として表示されていたストック・オプションを、利益と考えて戻入処理を 行うように指示している334。
ここで、日本がこれまでの貸借対照表での負債、資本から新たに資本ではなく純資産と いう概念を導入したことにはどのような意図があったのであるかについて整理する。そも そも、日本が討議資料を設定した経緯は、会計基準設定に係る国際的な調和を図るため、
海外の主要な会計基準主体と同様の検討過程をたどることの必要性が指摘されている335。
このため、討議資料の役割は、現行の企業会計の基礎となっている前提や概念を整理する ことで、将来の会計基準設定の指針となり、これにより会計基準の体系的安定性が得られ ることを期待するものである336.
3−2 ASBJにおける純資産概念
討議資料では、まず資産および負債の定義が明らかにされている。資産とは、「過去の取 引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源、またはその同等物」と
し337、負債については、「過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している資 源を放棄もしくは引き渡す義務、またはその同等物」338と定義している。そのうえで、純 資産は資産と負債の定義の差額として導かれるものであり、ここには報告主体の所有者で ある株主に帰属する資本と、その他の要素に分けられるとしている339。
ここでいう報告主体の所有者である株主に帰属する資本とは、株主資本を示しており、
その他の要素とは、討議資料の定義に照らして負債とはならないが、株主資本としても帰 属しないものを指している340。そして、新基準においてストック・オプションが含まれる のは、純資産のうちのその他の要素とされる部分である。
討議資料がこれまでの資本と異なる純資産という概念を導入したのは、会計基準設定に 係る国際的な調和を目指すうえで、財務諸表における表示区分に関しても調和を図るべき であるとの考えがあったことは、討議資料の「財務会計の概念フレームワークの公表の経 緯」からも読み取れる。ただし、討議資料で定義された純資産の概念は、株主資本とは異 なる点に注意しなければならない。
討議資料に関するもう一つの特徴は、会計情報として純利益の有用性を高く評価してい
334 驪ニ会計基準委員会[2005c1,46項。
335 {川[2006]、144頁。
336 {川[2006]、145頁。
337 驪ニ会計基準委員会[2004c1,r財務諸表の構成要素」、4項。
338 驪ニ会計基準委員会[2004c]、「財務諸表の構成要素」、5項。
339 驪ニ会計基準委員会[2004c]、「財務諸表の構成要素」、6−7項。
340 驪ニ会計基準委員会[2004c1,r財務諸表の構成要素」、6項。
る点である341。討議資料には利益概念として大きく分けて包括利益と純利益の二つが取り 上げられている。包括利益は、期首と期末の純資産の差額(配当などの資本取引の影響を 除く)から導かれる。したがって、貸借対照表が取得原価主義で統一的に作成されていれ ば包括利益と純利益は一致するのである。しかし、包括利益には、貸借対照表の一部が時 価評価されることにより生じた未実現損益が含まれているので、実際には包括利益と純利 益は一致しない。つまり、純利益にはそのような時価評価から生じた未実現損益が除かれ
るということである。
このように純資産の内訳に、株主資本とその他の要素を設けた理由は、純利益を生み出 す源泉としての正味株主資本を明示するためであると考えられる342.ASBJがFASBや IASBにように包括利益を積極的に取り入れようとしない理由としては、会計情報が開示さ れる目的が、投資家等を中心とする情報利用者にとっての有用性の有無であるのに対し、
包括利益はその有用性に必ずしも十分ではないと判断されるためである343。むしろ、包括 利益とは別に純利益の有用性を評価するのは、企業活動における収益性あるいは効率性と
いった情報が、正味株主資本を明らかにすることで、会計情報から得られやすくすると判 断し、それが企業価値評価にとって不可欠な情報であると考えていたからである344。
新基準において、株式報酬として従業員等ヘストック・オプションを付与した際に、公 正価値により測定されたものをもとにして報酬費用を計上する会計処理は、SFAS123(R)
とIFRS2とほぼ同様であることは何度も確認したが、その相手勘定は「負債以外のもの」
として同質であるといえるものではなく、純利益の源泉となる正味株主資本の概念に当て はまらないため、株主資本とは別に扱われることとなる。したがって、純資産におけるそ の他の要素として処理されたストック・オプションが、権利行使されて正味株主資本とし ての性格が確定した場合、代用の払込部分として振替処理が行われる。逆に、権利未行使 のまま失効したストック・オプションは、すでに従業員等から役務の提供があったにもか かわらず、これに係る一切の対価性が放棄されたとし、利益として戻入処理が行われるの
である。
しかし、新基準は依然として法的な形式から影響を受けている。純資産の一部として表 示されたストック・オプションは、従業員等へ付与された時点で未だ既存株主との直接取 引と見なされていない345。つまり、FASBや岨SBのようにストック・オプションの保有者 が潜在的な株主であり、既存株主と概念的には同じであるという考え方は日本では法的な 部分から受け入れられないのである346。その意味で、日本の純資産区分は、法的な形式に 基づく株主資本とは一致しない。新基準において、純資産の一部として計上されたストッ
341 驪ニ会計基準委員会[2004c]、「財務諸表の構成要素」、20−21項。
342 驪ニ会計基準委員会[2004c]、「財務諸表の構成要素」、18項。
343 ヨ藤[2005]、36頁。
344 レしくは大目方[2002]を参照されたい。
345 {川[2006]、146頁。
346 {川[20061,146頁。
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