第9章 ストック・オプションに関する税法上の問題
第3節 ストック・オプション課税の現状
平成7年11月の新規事業法改正以前は、日本国内においてストック・オプション制度が 一般的に認知されていなかったので、ストック・オブンヨン課税のあり方を定めた法令上 の規定や通達上の定めは存在しなかった。しかし、この当時においても、白杜の従業員等 に対して、株主総会決議後6ヶ月間に限って有利な発行価額による新株引受権を付与する ことは可能であり、この権利が付与された場合における課税について、平成10年10月の 所得税法施行令改正以前の第84条では、新株引受権の付与に関わる収入金額の価額は、当 該権利に基づいて払込が行われた期目における新株等の価額から当該新株の発行価額を控 除した金額によることが原則とされていた。仮に、新株の価額が、払込の行われた期目の 翌日以降1ヶ月以内に下落した時には、その下落した最低価額を当該新株の価額として差 額を計算することになっていた。
また、平成8年6月の所得税基本通達改正以前は、従業員等が発行法人から有利な発行 価額で新株等を取得する権利を付与された場合には、それを行使して新株等を取得した時 に、その付与された権利に基づく発行価額と権利行使時の株価との差額に対し、一時所得 として課税することを原則としていた。しかし、当該権利が従業員等に支給すべきであっ た給与等または退職手当等に代えて与えたと認められる場合には、給与所得または退職所 得として課税することが定められていた395。
これ以外のストック・オプションについては、何ら定めがないため統一的な取扱いはさ
394 坙{経済新聞、2004年1月21目。名古屋高等裁判所昭和43年2月28日の判決である。
395
ル判所HP,2003年12月2目。
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れていない状況であったが、税務当局は、平成8年6月の所得税基本通達改正以前の定め に従って、ストック・オプションの権利を行使した時点において、権利行使価格と権利行 使時点における株式価格との差額である権利行使利益に対し、一時所得としての課税をす
るという取扱いをしていた396。
平成7年11月の新規事業法改正によって、株式未公開企業でストック・オプション制度 が導入され、ストック・オプションの権利付与時や権利行使時には所得税課税を行わず、
権利行使によって取得した株式を譲渡した時点で、譲渡価格と権利行使価格との差額であ る経済的利益に対し、譲渡所得としての課税を行うことになった。
また、通達においても、平成8年6月の所得税基本通達改正によって、「新株等を取得す る権利を与えられた場合の所得は、一時所得とする。ただし、当該発行法人の役員または 使用人に対し、その地位または職務等に関して当該新株等を取得する権利を与えたと認め られる場合には給与所得とし、これらのものの退職に起因して当該新株等を取得する権利 を与えたと認められる場合には退職所得とする397」と改正された。この改正により、給与 所得または退職所得として課税される場合の要件が、給与等または退職手当等に代えて与 えたと認められる場合から、従業員等の地位または職務等に関して与えたと認められる場 合や退職に起因して与えたと認められる場合に改められたものの、課税実務上は従来通り の取扱いがされる例が多かった398。
平成9年5月の商法改正により、ストック・オプション制度が一般的に導入されたこと に伴い、租税特別措置法29条2も改正され、新規事業法に基づくストック・オプションに ついても、ストック・オプションの権利付与時や権利行使時には所得税課税を行わず、権 利の行使により取得した株式を譲渡した時点で、譲渡価格と権利行使価格との差額に対し、
譲渡所得としての課税を行うことになった。また、平成10年10月の所得税法施行令改正 以後の所得税施行令84条により、ストック・オプションにかかわる収入金額の価額は、ス
トック・オプションにかかわる権利行使日の当該株式の価額から、権利行使価格を控除し た差額である権利行使利益とすることが定められた。
また、通達上も、平成10年10月の所得税基本通達改正により、平成9年5月の商法改 正後の租税特別措置法29条の2、所得税法施行令84条に対応する課税を行うことになっ たものの、それ以外のストック・オプションの課税についての定めはなかった。しかし、
課税実務上では、租税特別措置法29条の2の対象とはならないストック・オプションにつ いては、ストック・オプションの権利行使時における当該株式価格から権利行使価格を控 除した差額である権利行使利益に対し給与所得課税をするという方針が定められた。
平成13年11月の商法改正により、新株予約権の発行合杜の従業員等が有利発行という 形式でストック・オプションの権利を行使することによって得る経済的利益は、権利行使
396
ル判所HP,2003年12月2目。
397
ル判所HP,2003年12月2目。
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時と取得した株式の売却時において発生することになる。したがって、新株予約権が無償 発行等の有利な状況で発行された場合には税制適格399に該当しない限り、権利行使時に株 式時価と権利行使価額との差額である権利行使利益に対して、給与所得課税がなされるこ
とになっている(図表9−1参照)。また、株式売却時には譲渡価額と権利行使時の時価と の差額について、譲渡所得の課税が行われる。
図表9−1 税制非適格ストック・オプション 株式の時価
売却時時価 譲渡所得課税
給与所得課税
行イ東日寺日寺イ面
付与時時価
付与 行使時 売却時 時間
(出所:塚本[20041,6頁、図1を加筆修正)
しかし、実際にこのような原則的な課税が行われると、ストック・オプションの権利を 行使しただけで給与所得が発生するので、税制適格に該当するものについては権利行使時 の課税を非課税として株式を売却するまで課税を繰延べ、ストック・オプションによる利 益をすべて譲渡所得とするという優遇措置が講じられている(図表9−1参照)。この非課 税措置を受けて取得した株式を売却した場合の譲渡所得については、源泉分離課税の適用 は認められず、譲渡所得の金額に対して申告分離課税を適用することとされている400。
399 增m2003】、109頁。税務上の優遇措置を受けるためには、税制適格の適用対象者でかつ税 制適格要件に該当することが条件となる。税制適格要件は以下の6つである。①権利行使 可能期間が発行決議から2年超、10年以内であること。②権利行使による新株の譲渡価額 または発行価額の年間合計額が1,200万円以下であること。③権利行使価額が権利付与時の 株式時価以上であること。④新株予約権が譲渡禁止であること。⑤新株予約権の行使によ
る株式の譲渡または新株の発行が株主総会の付与決議で定められた事項に反しないで行わ れること。⑥行使により取得した株式が証券会社等の営業所等に保管の委託または管理等 信託がされていること。
400 逞t[2002]、199頁。
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図表9−2 税制適格ストック・オプション
株式の時価
売却時時価
付与時時価
、の時価
譲渡所得課税
1,200万円以下
付与時 行使時 売却時 時間
(出所:塚本[20041,7頁、図1を加筆修正)