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ストック・オプションの特徴と問題点

第5章  ストック・オプションに関する費用計上の問題

第2節  ストック・オプションの特徴と問題点

2−1 ストック・オプションの特徴

 ストック・オプションとは、オプション保有者に対し、一定期間内に権利行使価格で一 定数の株式を購入する権利を与える契約である233。ストック・オプションの保有者は、一 定条件のもとでストック・オプションを付与した企業に対し、オプションを行使する権利 を持ち、一方、ストック・オプションを付与した企業は、それに対し株式を発行する義務 を負う。また、一定の条件が満たされなかった場合、付与されたストック・オプションは 失効し、ストック・オプション保有者は利益を得ることができない。この一定条件には、

一定の労働役務の提供や一定の業績達成などが含まれる。

 ストック・オプションの起源は1920年代の米国である。1950年代に税制上の優遇措置 が採られるようになってからは急速に普及し、1990年代では米国におけるほとんどの株式 会社がストック・オプション制度を採用していた234。

 この普及の背景のひとつには、ストック・オプションにはインセンティブ効果が期待さ れることが挙げられる。ストック・オプションは権利行使が可能となった特定期間内に株 価が権利行使価格を上回っていれば、ストック・オプションの保有者は権利を行使するこ とでその上回った分の利益を得ることができる。また、株価が権利行使価格を下回ってい れば、権利を行使する必要がないので、ストック・オプションの保有者は損をすることも

ない。つまり、業績を表す株価に連動した形で利益を得ることができるのである。これは ストック・オプションの大きな利点であり、これがストック・オプションをインセンティ ブ報酬と言う理由である。企業価値を高めた分だけストック・オプション保有者が得る報 酬は高まるので、企業はストック・オプション制度を採用することにより、従業員や役員

(以下、従業員等)と株主および投資者の利益を一致させることができるのである。

 また、ストック・オプション制度は、いかなる会社財産の流出も生じないとの特徴があ る。この特徴から、資金的に余裕のない企業が優秀な人材を確保するための手段として、

ストック・オプション制度が採用されることが多く、賃金の流出を抑える効果が期待され

る。

232 鮪桙フASBJの調査によると、日本ではストック・オプションを費用計上した場合、上 場企業の税引後利益は約2.4%減少すると試算されており、企業の会計上の利益が圧迫され、

株価にも影響する懸念があるとされていた。

233 ト[19991,77頁。

234 ?禔m2004]、103頁。

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 以上のように、ストック・オプション制度はインセンティブ報酬および賃金の抑制効果 という点から多くの企業に採用されてきたと考えられる。しかし、ストック・オプション 制度は、メリットばかりのものではなく、デメリットもある。

 ストック・オプションを行使すると、発行済株式数が増加し、一株当たりの利益(以下、

E P S)を減少させる。E P Sは、株主および投資家が用いる重要な財務指標である。E P S減少に対する策としては、自社株を買い、発行済株式数を減少させることが考えられ るが、大量の自社株を買う場合、相当量の現金が流出する235。したがって、企業における 未行使のストック・オプションは、将来生じうる潜在的な現金流出額を示しているとも考

えられよう。

 また、ストック・オプションの行使は、権利行使価格に相当する金額のみが企業に払い 込まれるので、株式の時価以下発行が生じる。権利行使価格と権利行使時点の株価の差額 が大きい場合、会社による資金調達額は、通常の時価発行増資であれば得られたはずの金 額よりも相当に少なくなる。したがって、ストック・オプションの権利行使にともなる時 価以下発行は、既存の株主持分に価値の希薄化を生じさせることになる。

 このように、ストック・オプションはメリットぱかりのものではない。ストック・オプ ションを費用認識に反対する声は、このようなデメリットに関連したものもおおくあった。

以下、費用認識の要否についての議論をまとめる。

2−2 ストック・オプション費用認識の要否

 ストック・オプションの会計基準を設定するにおいて多くの会計上の問題点があった。

その中でも最大の論点は、ストック・オプションの費用認識をめぐる問題であったといえ

よう。

 ストック・オプションを付与した場合に会計上費用を認識するか否かについては見解が 分かれていた。まず、費用認識を不要と考える見解の主な理由は、①ストック・オプショ ンを付与しても会社には現金その他の会社財産の流出が生じない、②ストック・オプショ ンの付与は付与された従業員等と既存株主とが将来の会社の株式価値の増加を分け合うこ とに同意するものであり、新旧株主間の富の移転に過ぎない、③ストック・オプションの 価値は合理的に測定することができない、というものである。また、この他に、④財務諸 表上で費用認識をしなくても、注記による開示で十分であるとの意見もあった。しかし、

この意見は、ディスクロージャーはある項目に対する財務諸表上での認識に代わりうるも のではないという財務会計概念書第5号(Statement of Financia1A㏄ounting Concepts No.5,κθco8加血。〃2刀♂M6θ舳〃〃θ〃血乃b伽。油ノ3佃6θ皿θ〃80〆万鵬加θ88励6θη血8θ8:

以下、SFAC5)の考え方に反するものである236。

235 蜥ヒ[2004]、14−15頁参照。

236 eASB[1984]、平松・広瀬訳[20021,215頁。

「認識とは、ある項目を文字と数値の両方を用いて表現し、かつ、その項目の数値が財務 諸表の合計数値の一部に含められることをいうので、財務諸表以外の他の財務報告の手段 によって開示される情報は、認識とはいわない。したがって、注記もしくは財務諸表に挿

 また逆に、費用認識を必要と考える見解の主な理由としては、①ストック・オプション にはそれ自体に価値がある237、②ストック・オプションは給与である238、③ストック・オ プションの価値は合理的な範囲で測定可能である、といったものが挙げられる。

 以下、費用認識を必要とする見解の具体的な理由について述べる。

①ストック・オプションにはそれ自体に価値がある。

企業の株式を将来の一定期間に特定の価格で購入することが出来る権利としてのオプショ ンやワラントは、それ自体に価値がある。役員や従業員等に付与されるストック・オプシ ョンは第三者に譲渡できないとの制約があるため、一般の投資家が市場で売買するオプシ ョンよりも価値は相対的に低くなるが、価値が無くなるわけではない。役員や従業員がス トック・オプションを行使して利益を得たときに、初めて当該ストック・オプションの価 値を把握するべきではないかとの意見もある。しかし、市場で取引されているオプション

には、行使されずに無価値となるケースが多くある。ただし、そのことはオプションの価 値が権利付与時点から失効直前まで無価値であることを意味するのではなく、権利付与時 点でオプションの価値は存在するはずであり、役員又は従業員が取得するストック・オプ ションについても、役員又は従業員がそれを行使して最終的に利益を得たかどうかにかか わらず、権利付与時点にはオプション自体に価値があるといえる。だからこそ、投資家は 現金を払ってでもオプションを購入するのである。一般投資家がオプションを買うことと 異なるのは、一般投資家が現金を払ってオプションを取得するのに対し、ストック・オプ ションの場合は、役員又は従業員は役務提供によりそフ)権利を取得する点のみである。

②ストック・オプションは給与である。

 役員又は従業員等に付与されるストック・オプションは、現金で支給される報酬と同様 に給与の一構成要素であり、役員又は従業員等への給与パッケージには現金給与、健康保 険負担、ストック・オプション等が含まれるが、その構成比率は、各企業により異なる。

設立後間もない企業で急成長している企業や株式公開を控えている企業では、広くストッ ク・オプションを利用していることが多く、ストック・オプションが無ければ優秀な人材 も得られなかったであろうし、また現在の成功もなかったであろうと考えられる。しかし、

ストック・オプションは将来の一定期間優秀な人材を企業に引き止めておくためのインセ ンティブであり、現金給与と同じ直接的な報酬ではないため、通常の現金給与とは異なる 性格を持つ。ところが、従来の米国基準である、財務会計基準書第123号「株式を基礎と した報酬の会計」(StatementofFinancia1A㏄ountingStandardsNo.123:ん。oαM〃8加 胱。〇五協8θaα岬θ〃8地。〃:以下、SFAS123)では、同じような目的で会社が負担する健 康保険や生命保険が費用計上されていることから、現金で支払われる直接的報酬でないか 火する方法、補足情報またはその他の財務報告の手段によって提供されることがある財務 諸表項目およびそれらの測定値に関する情報が開示されても、それは認識基準を満足する 諸項目として財務諸表において認識することの代わりにはならない。」

237 eASB[19951,para.76−78,

238 eASB[1995],para.79−80.

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