第3章 日本におけるストック・オプション会計基準の変遷
第5節 会計処理例
以上で、従来のストック・オプション制度の概要を述べたが、ここではそれぞれの会計 処理例をあげることとする。
5−1 新株引受権付社債利用方式173
A杜は年限6年の新株引受権付社債を以下の条件で発行した。
・発行総額 額面100万円X10
・発行価額 100円につき105円(このうち社債の発行価額が95円、新株引受権の発行価額が10円とする。)
・1新株引受権当たりの割り当て金額 100万円
・権利行使価格 100万円(1株当たり発行時の株価100円)
・権利行使に発行価額中、半分を資本に組み入れない。
そして、当該ストック・オプションは3年後に株価が150円に上昇した時点で全10単位
(1単位10,000株)行使されたとする。
噺株引受権付社債の発行1
現金 1,050万円
社債発行差金 50万円
新株引受権付社債
新株引受権
(仮勘定としての負債)
1,000万円 100万円
噺株引受権の買い戻し1
新株引受権 100万円
理 金 100万円噺株引受権(ストック・オプション)の支給1
報酬費用 100万円 新株引受権
100万円173 サ三野[20021,35−36頁参照。
75
噺株引受権(ストック・オプション)の行使1
現金 1,000万円
新株引受権 100万円
(仮勘定としての負債)
資本金 資本準備金 資本準備金
500万円 500万円 100万円
以上のように、新株引受権付社債利用方式によると、市場における他の類似条件の公募 価格を参考として決定された新株引受権の価額、つまりストック・オプションの権利付与
目のストック・オプション(新株引受権)の公正価値で報酬費用が測定され、それが権利 付与目に即時費用化されることとなる。
5−2 自己株式方式
A杜は年限10年の自己株式方式のストック・オプションを以下の条件で発行した174。
・発行総数 10単位
・1単位の割当株式数 10,000株
・権利行使価格 100万円(1株当たり発行時の株価100円)
・権利行使停止期間 2年
そして、A杜は3ヶ月後のa.株価98円、b.株価105円のときにストック・オプションの 行使に供えて自社株を100,000株取得した。そして当該ストック・オプションは3年後に 株価が150円に上昇した時点で全10単位行使されたとする。
[権禾1」付与時1
仕訳なし
[a.3ヶ月後の白杜株取得時(株価98円)1
自己株式 980万円
(固定資産)
現 金 980万円
[b.3ヵ月後の自社株取得時(株価105円)1
自己株式 1,050万円
(固定資産)
現 金
1,050万円174サ三野[20021,37−41頁参照。
[a.3ヵ月後の権利行使による自社株譲渡時(株価98円)1
現 金 1,000万円 自己株式
自己株式売却益 (営業外収益)
980万円 20万円
[b.3ヵ月後の権利行使による自社株譲渡時(株価105円)1
現 金 1,000万円 自己株式
自己株式売却損 50万円
1,050万円
2001年改正前の「株式会杜の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び付属明細書に関 する規貝■」」では、借方項目であるストック・オプション目的のために取得した自己株式に ついては、投資等の部に計上することを定めていた。しかし、法的な見地からも、1997年 の商法改正において、ストック・オプション目的による自己株式に対する配当は明文で排 除されている等、従来の日本の自己株式を資産とする論拠の説得力には疑問があったと同 時に、「会計学的見地からは、自己株式を資産と見るのは論理的ではない。すでに米国では 20世紀の初頭にそうした『資産説』は淘汰された。株式の発行が資本金を含む払込資本を 増加させるのに対し、その反対取引である自己株式の取得が資産をもたらすとするのは、
非対称的であり、論理的に一貫しないからである」175。よって、借方項目である自己株式 を資産とするのはよくないが、当該自己株式を払込資本の減少としたとしても、それはあ くまでも将来のオプション行使に備えた自己株式の取得に関する会計処理が改善されたに 過ぎないといえる。なお、ここでは自己株式方式に基づく取締役・使用人への権利付与契 約は会計上何ら認識・測定されていないことに注意しなければならない。
5−3 新株引受権方式
A杜は年限10年の新株引受権方式のストック・オプションを以下の条件で発行した176。
・支給総数 10単位
・1単位の割当株式数 10,000株
・権利行使価格 100万円(1株当たり発行時の株価100円)
・権利行使停止期間 2年
・権利行使時に発行価額中、半分を資本に組み入れない。
そして当該ストック・オプションは3年後に株価が150円に上昇した時点で全10単位権 利行使の請求があったとする。
175 ノ藤[1997b1,22頁。
176 サ三野[20021,42頁参照。
77
[権禾1」付与時1
仕訳なし
[3年後の権利行使請求時1
現金 1,000万円 資本金 資本準備金
500万円 500万円
ここでは、新株引受権付社債利用方式と同様に、新株引受権の付与および権利行使が行 われているが、この新株引受権方式に基づく取締役・使用人への権利付与契約は会計上何
ら認識・測定されず、新株引受権付社債利用方式の会計処理とは対照的なものとなってい る。新株引受権方式では、権利付与時に何ら現金の動きを伴わない。しかし、ここでは将 来株価が上昇した時に市場価格より低い価格で自社株を発行する義務を伴うストック・オ プション付与契約は何ら会計処理されない結果となっており、財務諸表上にはその経済的 実態が反映されることはない。
図表3−1 自己株式方式と新株引受権方式の比較表
自己 式方式(正前商法210/22項3号) 新 引受 式(改正前商法280 /19 1項)
施行日 1997年6月1日 1997年10月1日
対念者 取、役または 用人
売行の
上限 配当可能利益の範囲内 ■
数量規制 発行; 式^ の10分の1以内
権利行使期間 絵。議 10以内
株主饗会法竈 定時株主総会の普通決議(公開企業) 株主総会の特別決議
手 定時株主総会の特別決議(未公開企業)
饗会決議内容 ①取締役・使用人の氏名
②株式の種類(新株引受権方式の場合は額面・無額面の別も)
続 ③株式数
④言婁渡価格(新株引受権方式の場合は発行価格)
⑤権利行使期間
き ⑥売主(自己株式方式の未公開企業)
⑦他の株主より売却請求が出された場合にはその諾否自己株式方式の未公開企業)
取締役会法竈 必要 必要
権利行対家 旧株 新株
実 権利付与期間 決議後最初の決算期に関する定時株主総会終結の 株主総会の特別決議かb1年以内 ときまで
行 自己株式処分 権利行使期間内に譲渡しなかった株式1こついては相
当の時蜘.処分 ■
商業登記 不要 必要
財への響 自己資本、発行済株式蜘変化なし 権利行使により自己資本および発行済株式数が増加 会社側費用 付与 かb行使 までの間の自社株式保有コスト 当初資金手当不要。行使時に新株発行費用
リスク ①行使されなかった場合、売却時に売却差損が出る 潜在株式による希薄化等がもたらす株価等への影響 可能性
保有株式の評価損
経理処理への影響 自己株式保有の会計処理 資本加、配当金増加
財務諸表 取得した自己株式は固定資産の投資等の創こ他の 貸借対照表の脚注表不 株式と区別して記載
株比卒 売買に参加した参加者だけが.株比率に影響がでる 権利行使により株式の希薄化 株式市調への影響 自己株式取得によりいったん流通株は減少。ただし 権利行使後の売却で流通株数が増加
オプション行使後の売却1.より、流通株式数は増加。
その他 自己株式取得の方法は市場買付または公開買付(公 新株引受権は譲渡不可。新株引受権は登記が必要 開会社)相対取引(未公開会社)
用よ不可
(出所)柴[19991,93頁を加筆修正。