SFAS123
第5節 国際的な動向とSFAS123の改訂
SFAS123のもとでは、ストック・オプション権利付与時に、ブラック=ショールズ・モ デノレ等のオプション価格算定モデルを用いて適正に評価し、原則としてその金額である公 正価値を測定し、その決算期に費用計上することを求めている。しかし、APB025による 会計処理を適用し、その上で権利が確定したオプション数について、権利付与目の公正価 値を費用処理した場合の影響額を注記するという方法も認められている。ところが、この APB025による会計処理の場合、ストック・オプションの価値を本源的価値で測定するの で、その結果、費用認識すべき金額がゼロとなり、結局費用計上されないことになる。こ のように、SFAS123では選択適用が認めていることから、ほとんどの企業では費用計上が なされないAPB025による会計処理を行っていた。つまり、ストック・オプション制度は 費用計上を要しない有利な報酬制度として企業で導入されていたのである。
しかし、近年のユンロン、ワールド・コムなどに代表される不正会計事件を契機に、こ のようなストック・オプション制度が、付与された経営者に対して巨額の報酬を与える原 因となったと批判されるようになった。ストック・オプションは現金による報酬の代わり に従業員等に与えられることから、もともと人件費としての性格が強い。しかし、利益の 圧縮につながる費用計上に消極的な企業がほとんどであったため、それら巨額の報酬が財 務諸表に計上されることはなかった。そのためストック・オプションは「隠れ人件費」と
も呼ばれてきた。
また2002年7月15目、上院で可決された企業不正防止の関連法案において、一部議員 がストック・オプションの費用計上の義務を盛り込もうとしたが、採決前の段階で却下さ れることとなった62。ここからみても分かるように、当時米国政府や議会は費用計上の動き
にやや消極的であると思われる。
ところが、米ゼネラル・エレクトリック社(GE)は、2002年7月31日、ストック・オ プションの費用計上に関して、経営幹部や社員に報酬の一部として与えているストック・
オプションを人件費として位置づけ、7・9月期から費用として計上すると発表した。また、
米コカ・コーラ社も、同じく2002年10・12月期決算から費用計上すると発表した。コカ・
コーラ社のタフト会長兼経営責任者は「ストック・オプションは報酬であり、費用に反映 させれば企業の決算がより実態に沿ったものになる。」63とその変更理由を語っている。
前述したように、SFAS123において、ストック・オプションは本源的価値法と公正価値 法の2つの選択が可能であるが、ストック・オプションの会計処理に対する批判が持ち上
62 坙{経済新聞、2002年7月17目。
63 坙{経済新聞、2002年7月15目。
がる以前から公正価値法を採用していた大手企業はボーイング社などほんの一部だけであ った。しかしながら、当時、従業員等に与えているストック・オプションを費用として計 上する動きが米国金融機関の間で急速に広がっていた。経営の透明性を高めるには費用計 上が不可欠とのコンセンサスが、米国金融界で出来上がりつっあったといえる。
2002年10月にFASBは国際会計基準審議会(Intemationa1A㏄ountingStandards
Board:以下、岨SB)と会計基準の統一化に向けての合意をした。これはノーウォーク合 意として知られている。IASBが2004年2月にストック・オプションについて費用計上を 義務付け、米国は、この基準制定の動きに大きな関心を寄せた。FASBはED2とSFAS123 を比較したコメント募集資料を公表し、国内外の財務報告に対して高い品質の会計基準を 作成すべく、国際的な会計基準の統一を進めていく必要があるとして、2003年3月、SFAS123の見直しを議題に加えた。FASBのSFAS123の見直しは、こうした国際的統一
や上述した財務諸表の透明性等の確保といった理由に加え、ルールベースの基準からプリ ンシフルベースの基準へ改訂するということも理由にあったと考えられよう。つまり、本 源的価値法を認めていたことにより細かい規定が多く存在するSFAS123を単純化し、APB025の適用を廃止することが必要となったのである64。そして、2004年3月、FASB は株式報酬制度の費用計上を義務付ける公開草案を公表した。
しかし、これに対しハイテク業界が反対運動を起した。ハイテク業界はベンチャー段階 のものも多く、現金の少ないベンチャー企業は採用や人材確保にストック・オプションに 大きく依存しているからである65。もしストック・オプションを費用計上すれば、ベンチャ ー企業の利益は大きく圧縮されることになる。そしてハイテク業界は費用計上に反対する
よう下院議員に働きかけ、2004年6月に下院が「ストック・オプション会計改革法」を可 決した。これは、①最高経営責任者および報酬額上位4名の役員つまり上位5名に付与し たストック・オプションについて公正価値に基づき費用認識する、②年間売上高が2500万
ドル以下の企業は費用を認識しなくてもよい、③公正価値に基づく費用認識が雇用や経済 成長等に与える影響に関する調査が終了するまでは、SECはストック・オプションの費用 計上を義務付ける会計基準を、一般的に認められた会計基準としてはならないというもの であった。これは実質的に費用計上を批判する内容といえるものであった。
このような批判の中、FASBは2004年12月、費用計上を義務付けた改訂財務会計基準 書第123号(StatementofFinancia1A㏄ountingStandarasNo.123(R):ん。oα〃ぬ8伽 肋〃θ丑鎚θ♂Cb岬θ〃8地。〃6θ油θ♂2004:以下、SFAS123(R))を公表した。FASB がSFAS123(R)を公表した狙いは主に以下の3つである。
第一に、財務諸表利用者である投資家の要望に応えるためである。投資家などからは、
以前より、企業がストック・オプションという形態で報酬を与えることにより費用計上さ れる人件費を圧迫し、利益を多く見せかけているとの指摘があった。FASBは、投資家の投
64 FASB[2004],para.Bl l.
65 。田[20051,15頁。
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資判断を誤らせる可能性のある本源的価値法による費用計上を廃止し、より実勢に合った 財務情報を企業に提出させようと考えたのである。
第二に、財務情報の比較可能性を高めるためである。2002年夏以降、自主的に公正価値 法に切り換える企業が相次ぎ、約500の公開会杜が公正価値による費用計上を採用してい た。その結果、同じ業界に所属する企業の間でも、ストック・オプションの会計処理方法 が異なることで、財務指標の単純比較が困難となっていた。FASBとしては、同じ経済的事 象が複数の方法で処理しうるという状況をなるべく避けようと考えたのである。
第三に、国際的な会計基準の統一に足並みを揃えるためである。1ASBのストック・オプ ションの公正価値での費用計上の義務付けを受け、FASBは国際的な財務諸表の比較可能性 を重視したのである。
しかし、反対意見に対する対応などに時間がかかったため、SFAS123(R)は、公開草案 時の予定であった2004年12月15目より後に開始する事業年度からの適用66は困難とされ、
2005年6月15目以降に始まる期の財務諸表から適用されることとなった67。しかし、2005 年4月14日、SECはさらに適用目を遅らせる規則の改定を公表した。
SECがFASBの基準書に対して適用目を遅らせる規貝11を制定することは異例のことであ った。しかし、SECは、SFAS123(R)を支持するものの、その適用にあたっては十分な 準備期間が必要であると考えており、また、期の途中から適用するのではなく期首から適 用することが最良であると考えたとのことである。つまり、SECは、SFAS123(R)で規 定された適用目とは規定の仕方を変えており、期末日により延長される期間は異なってい る(図表1−5参照)。
図表1−5 SFAS123(R)の適用目
企業の種類 SFAS123(R)による適用日 SECによる適用目 小規模事業発行体の適用
2005年6月15目より後に開 2005年6月15目以降に開始
を受けない公開企業 始する期中もしくは年次報告 する最初の事業年度の最初の 期間の開始時 期中もしくは年次報告期間の
開始時
外国発行企業
2005年6月15日より後に開 2005年6月15目以降に開始
始する期中(四半期またはそ する最初の事業年度の20・Fと の他)もしくは年次報告期間 してファイルする年次報告書 の開始時 (もしくは、2005年6月15日以降に開始する最初の事業 年度の期中期間を含むことが 求められている目論見書もし
66 PFRS2と同じである。
67 スだし、小規模企業、非公開企業は除く。
くは登録書類)
小規模事業発行体の適用
2005年12月15日より後に 2005年12月15目以降に開始
を受ける公開企業 開始する期中もしくは年次報 する最初の事業年度の最初の告期間の開始時 期中もしくは年次報告期間の 開始時
非公開企業
2005年12月15目より後に
規定なし 開始する事業年度(出所)SECウェブサイト:http:〃www.sec.gov/news/press/2005−57.htmより作成